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新しい仲間

 入学式から三日後、ついに本格的な授業が始まる日がやってきた。 イディスは手紙を確認した。 「スカイ・リーフクラス」—美しい名前だった。


 他にスチーム・ヴェール、ストーン・ハート、フリーズ・コーラスという名前のクラスがあると聞いていたが、どのクラスがどんな生徒たちで構成されているのかは分からない。


 教室に向かう途中リーネとサミルに出会った。


「イディス!おはよう!」

 リーネが元気よく手を振った。


「おはよう。2人のクラスは?」


「私たちはスチーム・ヴェールよ!」

  リーネが嬉しそうに答えた。


「素敵な名前でしょう?」


「俺たちは一緒だったが、お前は違うクラスか」 サミルが少し残念そうに言った。


「スカイ・リーフだよ」


「いい名前だな」


 三人は一緒に教室棟へ向かった。 廊下には他の新入生たちも歩いている。みんな緊張した面持ちで、手に持った手紙を何度も確認していた。 スカイ・リーフクラスの教室は三階にあった。ドアの前で一度深呼吸をして、イディスは扉を開けた。


 教室に入ると、既に何人かの生徒が席に着いていた。窓際の席には金髪の青年が座っている—カイル王子だった。彼は振り返ってイディスに軽く会釈した。


「おはよう」

 カイル王子が軽く会釈した。


 イディスは慌てて、深く頭を下げた。

「おはようございます、カイル殿下」


「そんなに堅くならなくても大丈夫だよ。同じクラスメイトだからね」 王子は穏やかに微笑んだが、やはり王族特有の気品が感じられる。


 イディスは適当な席を選んで座った。続々と他の生徒たちも教室に入ってくる。 教室の前方に座った少女が振り返った。肩までの茶色い髪に大きな瞳の、いかにも人懐っこそうな女の子だった。


「はじめまして!私、ミリア・セルキーよ。よろしくね!」


「イディス・ヴァルトです。よろしく!」


「イディスくんね!覚えたわ。ねえ、どこから来たの?」


「セロ村という小さな村から」


「村から来たのね!すごいじゃない。私は王都の市民区よ」


 その時、燃えるような赤い髪の少年が教室に入ってきた。筋肉質な体つきで、いかにも戦士といった風貌だが、よく見ると耳が少し尖っていて、獣人の特徴を持っているようだった。彼は教室を見回すと、イディスの近くの席に座った。


「ヴァン・クリムゾンだ。よろしく」 彼の声は低く、少し粗暴に聞こえたが、目は真面目だった。


「イディス・ヴァルトです」


 続いて、透き通るような白い肌に淡い水色の髪の少女が静かに入ってきた。耳が長く尖っていて、明らかにエルフの血を引いていることが分かる。彼女は一言も発することなく、教室の後方の席に座った。


「あの子、リリアナ・フロスティアよ」

  ミリアが小声で教えてくれた。


「なんだかクールな感じよね」


 次に入ってきたのは、明るいブロンドの髪をポニーテールにした、背の高い少女だった。颯爽とした歩き方で、すぐに教室の雰囲気を明るくした。


「みなさん、おはようございます!フィオナ・ウィンドミアです!」

 彼女の挨拶は元気で、誰に対しても分け隔てなく笑顔を向けた。


「フィオナさん、おはよう!」

 イディスが応えると、彼女はにっこりと笑った。


「イディスくんね!私のことはフィオナって呼んで。これからよろしく!」


 その後、深い緑色の髪の静かな少年—グレイ・シルヴァンと、無造作に跳ねた金髪に精悍な顔つきの少年—ガレス・ライディンも教室に入ってきた。 グレイは物静かに軽く会釈をして席に着き、ガレスは「よろしく」と短く挨拶をした。


 ちょうど鐘が鳴り響いた時、教室のドアが開いた。 見覚えのあるエルフの女性が入ってきた。長い銀髪に尖った耳、エメラルドグリーンの瞳。年齢は分からないが、エルフ特有の神秘的な雰囲気を纏っている。


「皆さん、おはようございます。私はリリア・シルバーリーフ、基礎魔法科の教授です。これから一年間、皆さんのクラス担任を務めさせていただきます」

 教授の声は透き通るように美しく、教室全体に響いた。


「まず、簡単に自己紹介をしていただきましょう。お名前、出身、そして得意な魔法があれば教えてください。では、席順に前から」


 最初はカイルだった。彼は立ち上がると、いつもの温かい笑顔を浮かべた。


「カイル・ルメルディアです。王都出身です。魔法については、まだ特別得意なものはありませんが、皆さんと一緒に頑張りたいと思います」

 謙虚な挨拶だった。王子という立場を全く鼻にかけない姿勢に、クラスメイトたちは好感を抱いているようだった。


 次はヴァンだった。


「ヴァン・クリムゾンだ。クリムゾン男爵家の出身。炎の魔法を得意とする。よろしく頼む」 簡潔だが力強い自己紹介だった。


 ミリアの番になった。

  「ミリア・セルキーです!王都の市民区出身で、水の魔法が得意です!みんなと仲良くしたいので、よろしくお願いします!」 彼女の明るい声が教室を和ませた。


 リリアナは立ち上がると、静かに言った。


「リリアナ・フロスティア。フロスティア子爵家出身。氷の魔法を学んでいます」

  短い挨拶だったが、品格を感じさせる話し方だった。


 フィオナは元気よく立ち上がった。


「フィオナ・ウィンドミアです!ウィンドミア伯爵家から来ました。風の魔法が得意で、みんなで楽しく学べたらいいなと思います!」


 グレイは静かに立ち上がった。


「グレイ・シルヴァン。シルヴァン子爵家出身。森の魔法を学んでいます。よろしくお願いします」 落ち着いた口調で、森の静けさを思わせる話し方だった。


 ガレスは短く言った。


「ガレス・ライディン。ライディン男爵家出身。雷の魔法を扱う。よろしく」


 そして、イディスの番がやってきた。 彼は立ち上がると、クラスメイトたちを見回した。王子から平民まで、様々な背景を持つ仲間たち。


「イディス・ヴァルトです。セロ村という小さな村から来ました。魔法については、これから皆さんと一緒に学んでいきたいです。よろしくお願いします」

 自己紹介が終わると、リリア教授が微笑んだ。


「素晴らしい。皆さん、様々な背景をお持ちですが、ここでは同じスカイ・リーフクラスの仲間です。互いに助け合い、切磋琢磨してください」


 教授は黒板に向かった。

「それでは、最初の授業を始めましょう。今日は基礎魔法理論の復習から参りましょう」


 教授は振り返ると、少し申し訳なさそうに言った。

「すでに知っているであろう内容の確認になりますが、全員が同じ基礎に立っているか確認したいので、どうぞお付き合いください」


 教室がざわめいた。みんな「そんなの当たり前じゃん」という顔をしている。


「まず、『魔素の流れと制御』について。魔素とは何か、分からない方はいらっしゃいませんね?」


 クラス全体が「はい」と答えた。フィオナが少し手を挙げながら答えた。


  「私たちの体の中を流れるエネルギーで、それを外に放出することで魔法を使います」


「はい、その通りです。では魔素の制御方法は?」


 今度はヴァンが答えた。

「集中力と意志の力で制御する。基本中の基本だ」


 少し退屈そうな空気が漂い始めた。


「そうですね。皆さんよくご存知のようです。では念のため、魔素の感知練習を行いましょう。子供の頃からやっていることですが…」


 教授の言葉に、生徒たちは「そんなのできて当然でしょ」という表情を浮かべた。


「皆さん、目を閉じて、自分の体の中を流れる魔素を感じてみてください。深呼吸をして、心を落ち着けて…」


 教室が静まり返った。しかし生徒たちは皆、少し面倒くさそうに目を閉じている。幼い頃から何度も繰り返した練習だからだ。


 イディスも目を閉じた。

 数秒後、「はい、できました」という声がちらほらと上がった。みんな慣れたものだった。


「素晴らしい。では目を開けてください」


 生徒たちが目を開けると、教授が少し苦笑いを浮かべていた。


  「皆さん、さすがに慣れていらっしゃいますね。予想通りでした」


 教室から小さな笑い声が漏れた。


「では明日からは、もう少し実践的な魔法の授業を行います。今日は顔合わせということで、配布された校則を必ず読んで、学院生活に慣れてください」


 授業が終わると、生徒たちは思い思いに席を立った。


「当たり前のことばかりだったね」

 ミリアがイディスに声をかけてきた。


「そうだね。でも教授も分かってやってたみたいだし」

 フィオナも近づいてきた。


「初日だから仕方ないよね。一緒にお昼食べない?みんなで仲良くしましょう!」


 ヴァンは少し迷っているようだったが、グレイが静かに声をかけた。

「一緒に行こう。基礎の確認も悪くなかった」


 ガレスも短く「俺も行く」と言った。


 一方、カイル王子は他の生徒たちと共に教室を出て行くのが見えた。

 リリアナも一人で静かに教室を後にした。


「リリアナさんも誘ってみる?」

 ミリアが心配そうに言った。


「一人でいたそうだしな」ヴァンが答えた。


「無理に誘わない方がいいかも」


「そうね。また今度機会があったら」

 フィオナが答えた。


 こうして、新しい仲間たちと共に、イディスは食堂へ向かった。 食堂へ向かう廊下を歩きながら、イディスは思った。様々な背景を持つクラスメイトたち。


 これから三年間、彼らと共に学び、成長していくのだ。

 窓の外には学院の美しい庭園が広がっている。青い空と緑の木々—まさにスカイ・リーフクラスの名前通りの光景だった。


「さあ、始まりだ」 イディスは心の中でつぶやいた。


 新しい仲間たちと共に歩む、魔法学院での日々が。


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