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希望の暁

 

 合格発表の日。

 イディスは朝早くから学院の掲示板前で待っていた。他の受験者たちも続々と集まってくる。エリア、アルベルト、レックス、そして多くの顔見知りの受験者たち。皆、緊張した面持ちで掲示板を見つめている。


「発表まであと10分か…」

  アルベルトが学校の時計を確認しながらつぶやいた。


 午前10時。マグナス教授が現れ、合格者名簿を掲示板に貼り出した。

 受験者たちが一斉に前に押し寄せる。イディスは少し後ろで待つことにした。心臓が激しく鼓動している。


「やった!受かった!」


  「僕の名前もある!」

 喜びの声があちこちから上がる。一方で、肩を落として立ち去る者たちもいた。


「イディス、あなたの名前があったわよ」

 エリアが振り返って、淡々と告げた。彼女の表情は穏やかだが、まだ距離感がある。


 信じられない気持ちで掲示板に近づく。そこには確かに、自分の名前が記されていた。


 ”サークレア魔法学院 入学許可者名簿 アルベルト・シュナイダー イディス・ヴァルト  エリア・ルミナス  レックス・フォーマルハイト …”


「本当だ…」

 イディスは呟いた。ついに、ついに夢が叶った。


 アルベルトも合格していた。彼は冷静を装っているが、眼鏡の奥の目が輝いている。 レックスも合格者リストにあったが、複雑な表情をしていた。


「チッ、当然だ」

 レックスは吐き捨てるように言ったが、どこかほっとした様子も見える。


 合格発表が終わると、イディスは一人馬車に乗ってセロ村へと向かった。

 入学式まで一週間。その間に故郷で準備を整えなければならない。






 セロ村に着いたのは夕暮れ時だった。 小さな村は相変わらず静かで、温かい光が家々の窓から漏れている。


「イディス!」

 母が駆け寄ってきた。


「どうだった?試験は?」


「受かったよ!」

  イディスは弾むような声で答えた。


 母の目に涙が浮かんだ。


  「本当に?本当に受かったのね!」


 彼女は息子を抱きしめた。村中の人たちが集まってきて、イディスの合格を祝福してくれた。


「イディスー!」

  隣の家から元気な声が聞こえた。


 少女が駆け寄ってくる。


「ラウラ」

 イディスは幼馴染の少女に手を振った。


「本当に魔法学院に受かったの?すごいじゃない!」 ラウラは目を輝かせて言った。


「うん、ありがとう」


「でも寂しくなるなあ…」

 ラウラが少し沈んだ表情を見せた。


「大丈夫だよ。帰ってくるから」





 その夜、イディスは村の森へと足を向けた。 四年前、あの剣士と出会った場所。そして、自分の修行が始まった場所。


 月明かりの下で、イディスは木剣を抜いた。

 誰もいない森に向かって、深く頭を下げた。あの剣士に、この村に、そして自分を支えてくれたすべての人に。


 翌日から、イディスは入学の準備に取りかかった。 学院指定の制服、教科書、そして生活用品。母とラウラが丁寧に荷造りを手伝ってくれる。

 寂しくなるわね」

  母が制服を畳みながら言った。


「でも、誇らしいわ。あなたが夢を叶えて」


「私も手伝う!」

 ラウラが元気よく言いながら、教科書を丁寧に袋に入れた。






「帰ってくるからね」

 イディスは約束した。


「必ず、立派になって帰ってくる」


 村を出発する朝、多くの村人たちが見送りに来てくれた。ラウラは涙ぐんでいる。


「頑張れよ、イディス!」


「魔法学院で一番になるんだぞ!」


「イディス、絶対に帰ってきてよね!」

 ラウラが大声で叫んだ。


 温かい声援を背に、イディスは村を後にした。






 入学式当日。


 サークレア魔法学院の大講堂は、新入学生とその家族、そして教職員で満席だった。 天井には美しいステンドグラスがあり、色とりどりの光が会場を照らしている。


 イディスは指定された席に座り、周囲を見回した。 エリアは制服を着こなし、家族と共に前方の席にいる。 アルベルトは一人で来ているようだが、堂々とした様子だ。 レックスは豪華な服装で、明らかに高貴な家系の出身だと分かる。


 そして、推薦入学組の席を見ると―


「あ、イディス!」

 聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、黒髪の少女が手を振っていた。


「リーネ!」


 リーネは席から身を乗り出して、嬉しそうに笑っている。


「やっぱり受かったのね!すごいじゃない!」


「あ、サミルもいる」

 褐色の肌に短い黒髪の少年、サミルが軽く手を上げた。


「よお、イディス」

 イディスは村の二人と再会できて安心した。


「みんな魔法学院に入れるなんて、すごいね」

 イディスが感慨深そうに言った。


「そうね。村の自慢になりそう」

  リーネがくすくす笑った。


 式が始まると、マグナス教授が壇上に立った。


「新入学生諸君、サークレア魔法学院への入学、おめでとう」

 彼の声が大講堂に響く。


「君たちは厳しい試験を突破し、あるいは優秀な推薦を受けて、ここに集った。しかし、これはゴールではない。新たなスタートラインに立ったに過ぎない」

 マグナス教授の目がイディスの方を一瞬見た気がした。


「魔法とは何か。力とは何か。君たちはこれから四年間かけて、その答えを見つけることになる」


 式典は続き、各学科の紹介、寮の説明、そして学院の規則について説明された。


「それでは、新入学生代表挨拶を、カイル・ルメルディア殿下にお願いいたします」


 会場がざわめいた。第五王子が新入学生代表とは。


 金髪に青い瞳、整った顔立ちの青年が立ち上がった。カイル・ルメルディア第五王子。彼は温かい笑顔を浮かべながら壇上へと向かった。


「皆様、本日は誠におめでとうございます」

 カイルの声は会場全体に響き、親しみやすい雰囲気を醸し出していた。


「私たちは今日、新たな学び舎に足を踏み入れました。試験組の皆様、推薦組の皆様、それぞれ異なる道のりを歩んでこられたことでしょう」

 彼の表情は自然で、心から皆を歓迎しているように見えた。


「共に学び、共に成長し、お互いを支え合いながら、この王国の未来を担う人材となりましょう。私も皆様と同じ一人の学生として、精一杯頑張りたいと思います」


 謙虚で誠実な挨拶だった。会場からは感動の拍手が沸き起こった。


「王子様って、本当にかっこいいのね」

 リーネが目を輝かせて言った。


「優しそうな人だな」

 サミルも感心したように頷いた。


 式典の最後に、マグナス教授が再び壇上に立った。


「諸君、今日からサークレア魔法学院の学生だ。試験組、推薦組、王族、平民、様々な背景を持つ君たちが、ここで出会い、切磋琢磨し、成長していく」

 彼の視線が会場全体を見渡す。


「魔法の道は険しい。しかし、君たちならきっと、その困難を乗り越えていけるだろう。期待している」






 式典が終了すると、新入学生たちは寮へと向かった。 イディスは同じ村出身の二人と一緒に廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。


「イディス」

 振り返ると、エリアが静かに立っていた。


「改めて、入学おめでとう」

 彼女は穏やかに微笑んだ。


「ありがとう。エリアも」


 アルベルトも近づいてきた。


  「君たち、知り合いなのか」


「うん!同じセロ村なの」

 リーネが元気よく答えた。


「僕はアルベルト・シュナイダー。よろしく」


「私はリーネ!よろしくね!」


「サミルだ。よろしく」


「エリア・ルミナスです。よろしくお願いします」

 エリアも丁寧に挨拶した。


 五人は並んで廊下を歩いた。窓の外には美しい学院の庭園が広がっている。


 四年前、魔法の才能がないと知った日から始まった長い道のり。 今、ついにその夢の場所に立っている。村の仲間たちと、新しい友達と一緒に。


 これから始まる学院生活。新しい出会い。そして、まだ見ぬ困難と成長。

 イディスは腰の木剣に手を触れた。 この剣と共に歩んできた道のり。そして、これから歩む道のり。


「さあ、始まりだ」


 彼は静かにつぶやき、仲間たちと共に新たな人生の第一歩を踏み出した。


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