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料理は苦手だよ

「真歌さんには調理補助でもしてもらいましょうか」


そう言って高男さんがニンジンとキュウリをわたしの目の前に置いた。その色鮮やかなオレンジ色とグリーン色に視線を落としたわたしはギクッとした。



「……真歌さん、どうしてニンジンとキュウリを繋げて切るんですか?」


わたしが切ったニンジンとキュウリをじっと見て高男さんが呆れた声を出す。


「だって、わたし料理苦手だから……」


わたしの声は小さくなる。


「てっきり料理上手かと思いましたよ。まさか料理したことないとか?」


わたしの切った繋がったままのキュウリやバラバラに切られたニンジンを眺め高男さんは盛大に溜め息をつく。


「いいえ、ありますよ。食べられたらいいやと思って適当に切ったり手でちぎれる野菜はちぎってるので……」


「ちぎるのもいいですが一応ここはカフェ食堂なんですよ。切り方は今度教えるので洗い物でもしてください」


「はい……」


わたしはしょぼんと返事をした。せっかくありつけた仕事なのにクビになったら大変だ。


「真歌ちゃん、ドンマイだよ」


洗い場に立つわたしの背中をぽんぽんと優しくムササビが叩いた。


「うわぁ~ん! ムササビちゃん慰めてくれてありがとう」


「わたしもいつも高男さんに怒られているんだよ~」


ムササビは歌を歌うように言った。


「ムササビちゃんも料理苦手なの?」


わたしはスポンジに食器洗剤をつけながら尋ねた。


「うん、わたしの得意技はこの可愛らしい笑顔と愛想のいい接客だけだもん」


ムササビは得意げに胸を張る。


「あはは、自分で可愛らしいって……まあ、ムササビの姿はもちろんのこと人間の姿も可愛いけどね」


「でしょう~可愛いからいいんだよ~」


ムササビはふふんと笑う。楽天家で羨ましい。きっと、あまり落ち込まないんだろうな。


「あ、ムササビちゃん味噌汁が沸騰し過ぎてるよ」


わたしはぽこぽこ沸騰している味噌汁を指差し言った。


「あ、また、やっちゃった」


ムササビは火を止めこっちを見てえへへと笑い「ドンマイドンマイ」と今度は自分を励ましている。


「ねえ、ムササビちゃん話は変わるけどこのカフェ食堂は洋食も和食もあるの?」


「うん、なんでもありな感じかな。お客さんの食べたいものを出すからね。それと高尾山ぽい料理もあるよ」


「へぇ~そうなんだね。高尾山ぽい料理はやっぱり蕎麦かな?」


わたしはスポンジで食器を洗いながらそういえばメニュー表をちゃんと見ないでアップルパイを注文したことを思い出した。


「うん、そうだよ。高尾山の名物はとろろ蕎麦だからね」


わっ、とろろ蕎麦が食べたくなるぞ。


「名物料理からパンまで多彩なメニューなんだね」


仕事で料理を作るより食べるのを専門にしたいなと思った。だって、食いしん坊なわたしはとろろ蕎麦もパンもそれから和食も洋食もなんだって好きなんだから。


「真歌ちゃんってば今、食べるの専門にしたいと思ったでしょ~」


「え! どうしてバレてるのかな……あ、まさかムササビちゃんは透視能力があるとかじゃないよね」


「透視能力! あるわけないよ。わたしはただのムササビだもんね。真歌ちゃんの顔が食べたいなって物語っているんだよ」


「そっか……」


わたしは、頬に手を当てて慌てて引き締まった表情をつくる。


「あ、でも、ムササビちゃんは人間に化けるムササビだから特殊なムササビだよ」


「え~! わたし特殊なムササビかな~」


なんて話をしながらわたしは洗い物をした。その時、


「お~い、真歌さんにムササビ賄い料理食べるか~い」と何やら調理をしていた高男さんがわたし達の方を向き言った。


「はい、食べます!」、「食べる~」とわたしとムササビの声は揃った。


「二人とも元気な返事だね」


高男さんは呆れたように笑った。


「だって、食べることは生きることだもんね」とわたしが言うとムササビは「そうだよ、生きるためには食べなきゃだよ」と言った。


そして、わたしとムササビは顔を見合わせ笑い合う。


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