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化けムササビとお仕事ですか?

職を失い無職だったわたしは最短で仕事にありついた。ただ、雇われたのはめちゃくちゃ妖しげな化けムササビがいるカフェ食堂ではあるけれど。


それでも仕事がなく路頭に迷うよりはマシだ。良かったとほっとする。


「ふむふむ、花宮真歌さんは二十五歳なんですね」


わたしがパッパとメモ用紙に書いた履歴書に高男さんが目を通しながら言った。


「はい、そうですよ。何か?」

「いやいや、まだ高校を卒業したくらいの年齢かと思いましたよ」

「へっ! 高校はとっくの昔に卒業しましたよ……」

「そうなんですね。童顔ですね」

「あはは、よく言われます……」


黒目がちで丸い目と丸顔がどうやら幼く見えるらしい。それは良いことなのかわからないけれど……。


「あの高男さんはおいくつなんですか?」

「二十五歳ですけど」

「はい! 二十五歳!! ってタメじゃないですか」


わたしは目を大きく見開いた。


「そうですよ。だからびっくりしているんじゃないですか」

「びっくりしているのはわたしの方ですよ」

「それは何故?」

「あ、えっとそれは……三十歳、あ、いえ、二十七、八歳くらいに見えたので。大人っぽいですね」

「それは褒め言葉ですか?」

「はい、整ったお顔ですよ」

「う~ん? 褒められているのかよくわかりませんが同じ年ってことで仲良くしましょう」


高男さんはそう言って手を差し出した。


左右対称の整った顔立ちにくっきりした二重の瞳にじっと見つめられると、ちょっとドキドキした。そして、その手を握ろうとしたその時。


「あ、ずる~い! わたしが握手をするんだからね」


ムササビがそう言ってスチャッと真ん中に割り込んできた。そして、その可愛らしい手がこちらにニョキニョキと伸びてきたかと思うとわたしの手をムギュと掴んだ。


「きゃあ~可愛らしいお手手と握手をしちゃったよ~」


わたしは嬉しくてキュンとした。だって、ムササビと握手だよ。めちゃくちゃ嬉しいではないか。その時、「俺の手の行方は……」と言う声が聞こえてきた。振り向くと高男さんが自分の手のひらをじっと見ている。


「わっ、高男さんごめんなさい」

「えへへ、わたしが横取りしちゃったよ」


謝るわたし達に高男さんは、「もういいですよ……」と言ってちょっぴり頬を膨らませた。その表情はちょっと可愛らしくて大人っぽいと思っていたけれど、少年のようにも見えた。


「さあ、新しい仲間が増えたので頑張りましょうね。真歌さんもよろしくお願いします」


高男さんはそう言って腕まくりをした。


「あの、わたしも今からお仕事なんですか?」


「はい、そうですよ」


高男さんはこちらに振り向きニコッと笑った。


「まだ、高尾山に登っている続きなんですけど……」


わたしがそう呟くと高男さんとムササビが「高尾山はこれからいつでも登れるよ~」と声を合わせて言った。


そんなわけでわたしはめでたくムササビカフェ食堂の従業員になった。


「やったね! 仲間が増えて嬉しいよ~はい、エプロンどうぞ~」


ムササビが人間の女の子の姿に戻りエプロンを差し出した。(正確には人間の女の子に化けてかな)


「ムササビちゃんありがとう。わっ、可愛い~」


受け取った黒地のロングエプロンは胸元にムササビとティーカップのロゴが可愛らしかった。うふふ、化けムササビちゃんとそっくりだよ。わたしの頬は緩む。


「更衣室を案内するね」


ポニーテールの長い髪をゆらゆらと揺らし歩くムササビは人間の女の子にしか見えない。


ムササビはぴたっと立ち止まり店の奥にある『スタッフオンリー』とステッカーが貼られた扉を「ここだよ」と言いながら開けた。


更衣室はこじんまりした小部屋だった。ハンガーラックと小さなテーブルに椅子と棚があるだけだった。


「じゃあ、荷物は適当に置いてね~」


ムササビはそう言って部屋から出ていく。


わたしは、背負っていたリュックと小さなバックを棚に置きエプロンを付けようとしたその時、飾ってある猫のぬいぐるみと目が合った。



その猫のぬいぐるみは三毛猫だった。本物の猫のようなリアル感がありちょっとくすんでいてレトロだ。かなり古いぬいぐるみだろうな。いつからここにちょこんと座っているのだろうか。


「可愛い猫ちゃん」


わたしは、レトロな猫のぬいぐるみに手を伸ばし頭を撫でた。


ふわふわもふもふで柔らかくてまるで本物の猫を撫でているような感覚に陥る。なんだか癒されるな。


「猫ちゃん今日からよろしくね」


わたしはにっこりと微笑みを浮かべ猫のぬいぐるみに挨拶をした。


すると、猫のぬいぐるみがニマッと笑ったような気がした。え!? 今、この子笑った? うふふ、そんなわけないよねとわたしは笑う。


「さて、エプロンをつけてお仕事だ」


エプロンをつけるとこのムササビカフェ食堂の従業員になったんだなと実感する。飲食店の仕事なんて初めてでちょっと不安になるけれど、きっとなんとかなるだろう。


わたしは髪の毛を高い位置でポニーテールに結わえ全身鏡の前に立つ。


「あはは、人間バージョンのムササビちゃんと同じヘアスタイルじゃない」


わたしはそれが可笑しくて笑いそして、さあ、頑張ろうと拳をぎゅっと握り気合いを入れた。


そして、わたしはドアを開け更衣室から出る。背後の棚に飾られている三毛猫のぬいぐるみがニヤリと笑ったことなんてこの時のわたしはもちろん気づいていなかった。

果たして三毛猫のぬいぐるみは何者?

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