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『君に会えたら嬉しいなセット』を作ります

「さあ、みんな『君に会えたら嬉しいなセット』を作りますよ。ぼーっとしてないでくださいよ」


高男さんは腕まくりをしテキパキと動き出した。


「は~い、了解しました」

「は~い、了解~」

「は~い、了解だにゃん」


わたし達は元気よく返事をする。


「では、真歌さんはじゃがいもの皮を剥いてください。ミケちゃんはお魚を冷蔵庫から出して、ムササビはにんじんを切って」


高男さんはテキパキとわたし達に指示を出す。


じゃがいもやにんじん等の野菜にお魚とは変わった組み合わせだなと思いながらわたしは、食品戸棚からじゃがいもを取り出した。


その時。


「にゃはは、これは美味しそうなお魚だにゃん」


ミケの怪しげな声が聞こえてきた。これはちょっとマズイのではないかな。だって、ミケに視線を向けるとお魚をじーっと見ているのだから。


「高男さん、人選ミスじゃないですか? (猫だけどいやいやぬいぐるみか)」


「そ、そうみたいですね。こらこらミケちゃん何をしているんだ。お仕事の時間だぞ!」


「おい、ミケ聞いているのかい?」


高男さんが声を掛けるがミケは鼻をクンクンさせお魚に顔を近づけているではないか。これは、まさか食べるつもりなのかな?


「ミ、ミケちゃん」とわたしも声を掛けてみる。


そして、ムササビも「ミケちゃんおばあちゃんのお魚食べちゃダメだよ~」と声を掛けた。


「お、美味しそうだにゃん。わたしお魚大好きかもにゃん」


ミケはそう言ったかと思うと口を大きく開け魚をくわえた。姿は女の子だというのに呆れてしまうし何とも言えない光景だ。


「ああ、間に合わなかったよ……」


高男さんは額に手を当て溜め息をつく。


「困った子だね」


「びっくりしちゃうね」


「ん? みんなどうしたにゃん?」


魚をくわえた状態のままミケはわたし達の顔を見る。って言うか魚をくわえたまま話せるなんて凄いな。


「あのな、どうしたも何もおばあちゃんの魚勝手に食べたら駄目じゃないか」


「うにゃん?」


「ああ、もううにゃんって何だよ。仕方ない奴だよな。その魚はミケにあげるよ。調理するからまだ、食べるなよ」


高男さんは結局ミケに甘い。


「やった~わたしお魚食べていいんだね~」


ミケはバンザイをしてくわえていた魚をまな板の上に落っことすように置いた。


「まったく行儀の悪い奴だよな……」


高男さんは苦笑いをする。


「にゃはは、ごめんね」


「はいはい、ミケの担当は変更だ。海鮮巻き寿司を作るからお酢、砂糖、塩を棚から出して」


「は~い、了解にゃん。にゃはは海鮮巻き寿司だ~ヨダレ垂れちゃいそう」


ミケはにゃははと笑顔で調味料を戸棚から出している。そんな様子をわたしはじゃがいもの皮を剥きながら眺めた。


ミケを見ていると無邪気で笑えて飽きないな。ムササビもにんじんを切りながら笑っている。ムササビカフェ食堂で調理補助をしていると自然と笑みがこぼれる。


倒産した職場も居心地は良かったけれど、こことはくらべものにならない。


うふふ、きっとこれで良かったんだろうな。そんなことを考えながらわたしはじゃがいも切り水にさらす。


「真歌さん、よそ見しないで目の前のことに集中してくださいよ」


「あ、はい。ごめんなさい……」


ああ、もう高男さんに注意されてしまった。高男さんを見ると酢飯を作っていた。 



高男さんとムササビが海鮮巻き寿司の担当になり、わたしとミケでカレーライスを作る(途中で高男さんに手伝ってもらいながら)


「わたし、海鮮巻き寿司のお料理担当が良かったにゃん」


ミケはわたしがサラダ油を入れ豚肉を炒めている隣で名残惜しそうにブツブツ文句を言っている。


「あはは、ミケちゃんが海鮮巻きの担当になったら出来上がる前に食べちゃうでしょ?」


「……それもそうかもにゃん」

「ミケちゃん、にんじんとじゃがいもをお鍋に入れてね」

「はいにゃん」


ミケは元気よく返事をしてにんじんとじゃがいもをお鍋にザーッと入れる。そして、水を加えコトコト煮込む。アクが出てきたのでお玉でアクをすくい取る。


「あ、わたしもアクを取りたいにゃん」

「はい、どうぞ」


わたしが差し出したお玉を受け取ったミケはにゃんにゃんにゃんと鼻歌を歌いながら楽しそうにアクをすくい取っている。


お魚のことはすっかり忘れているようなのでわたしはほっとした。


「ミケちゃん楽しそうだね」


わたしの隣にやって来たムササビがにゃんにゃんにゃんとアクをすくい取るミケに目を向けニコニコ笑う。


「うん、お魚のことはすっかり忘れて楽しんでいるみたいだね」


わたしはムササビの耳に口を近づけ小声で言った。

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