つくも神ミケ
「遠い昔?」
「うん、遠い昔だにゃん……」
ミケは納豆ご飯をもう一口ぱくっと食べ「うん、やっぱり懐かしい味がするにゃん」と言った。
その表情はほくほく顔でそれでいて切なげにも見えた。
「そっか、ミケちゃんは、三毛猫のぬいぐるみに宿ったつくも神って言ってたもんね。百年以上大切にされていたんだよね」
「うん、わたしには長い~長い~歴史があるんだにゃん。でもね、あんまり覚えていないんだ……思い出しそうでいて心の何処か深いところに隠されてしまったみたいにゃんだよね」
ミケはそう言って肉球のある可愛らしい手でここにだよという感じで胸にそっと触れた。
「ミケちゃんは誰に大切にされていたんだろうね?」
「うん、誰だろう? 優しい手がわたしを撫でてくれたことは覚えているんだにゃん……」
そう言ったミケは顔を綻ばせた。
「きっと、ミケちゃんはとても大切にされていたね」
ミケの表情を見ているとそのことがよくわかる。
「うん、そうだにゃん」
ただ、ムササビカフェ食堂の棚で眠りについていたことは不思議ではあるけれど……。
ミケはこの納豆ご飯を食べることにより遥か遠い昔の記憶を取り戻したのだろう。
わたしは、納豆ご飯に目を落としそれからミケの顔を見た。
「美味しいにゃんね」
「うん、美味しいね~」
わたしとミケはそう言い合い笑った。
その時、ふと壁に掛かっている時計が目に入った。
「わっ!! ミケちゃん呑気に納豆ご飯を食べている場合じゃないよ。遅刻しちゃうよ」
「ん? うにゃん?」
ミケはきょとんとした顔でわたしを見ている。そのミケの口の周りには納豆がべったりくっついている。何とも間抜けな姿にわたしはクスッと笑ってしまう。
なんて、笑っている場合ではなかった。
「ムササビカフェ食堂に出勤しなきゃ」
「あ、そっかにゃん」
「さあ、準備するよ」
わたしは、納豆ご飯をかき込み食器を急いで流しに持って行く。
準備が終わり「さあ、ミケちゃん行くよ」と声を掛けたがミケはまだ、呑気に納豆ご飯を食べている。しかもいつの間にか納豆をおかわりしているではないか。
「もう、何してるのよ」
わたしは言いながら納豆ご飯を食べているミケをリュックに仕舞おうとしたものの巨大過ぎた。
「ミケちゃん小さなぬいぐるみになってよ~」
「もうせっかく食べていたのにわかったにゃん」
ミケは手をぽんぽんと叩く。すると、巨大なぬいぐるみからみるみるうちに小型のぬいぐるみに戻った。
わたしは、まだ、食べ足りなそうなミケをリュックの中に詰め込み家を出る。
「ミケちゃん外では静かにしていてね」
エレベーターに乗り込みリュックの中のミケに声を掛けた。
「はいにゃん。了解しましたにゃん」
ミケは元気よく返事をする。
「そうだ、言い忘れてたけど高男さんとムササビちゃんがミケちゃんのことを心配してたんだからね。ムササビカフェ食堂に着いたら謝るんだよ」
「心配?」
「そうだよ、ミケちゃん。何も言わないでムササビカフェ食堂から出てきたでしょ? 高男さんからミケちゃんが居ないって電話があったんだよ」
「……そっかにゃん、わたし心配されていたのね」
リュックの中から聞こえてきたミケの声は申し訳なさそうだった。
「そうだよ。高男さんとムササビちゃんはミケちゃんのことを探し回っていたんだよ」
「全然知らなかったにゃん……」
なんて会話をしていると一階に着きエレベーターから降りる。エントランスを歩き外に出る。空を見上げると青空が広がっていた。
「さあ、ムササビカフェ食堂へ行くよ」
わたしはミケ入りのリュックをカタカタと揺らし元気よく歩きだした。




