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リュックの中から


 最寄駅に着き空を見上げると夕方と夜の間の空になっていた。オレンジ色と青のグラデーションが息を呑むほど美しかった。


こんな空を見ることができただけで幸せな気持ちになる。


「さて、買い物でもしてから帰ろ」


わたしは、駅前のスーパーヘ向かって歩きだした。その時、背負っていたリュックからゴソゴソガサガサと音が聞こえてきたような気がした。


え? 何だろう?


わたしは不思議に思い背負っていたリュックを下ろしファスナーを開ける。すると、え!? 嘘でしょ。


「どうしているの!!」


わたしは思わず大きな声を出してしまった。だって……。


「ミケちゃん! どうしてリュックに入っているの?」


そうなのだ。三毛猫のぬいぐるみの姿に戻ったミケがにゃぱーんとリュックの中にいたのだ。


「にゃはは、ついて来ちゃたにゃん」


ミケはにゃぱにゃぱ笑った。


「ついて来ちゃたってそれはどうしてかな?」


「う~ん、どうしてかな? 真歌ちゃんがつくも神のぬいぐるみのわたしを目覚ましてくれたことに意味があるのかなと思っていたらリュックに入ってしまったにゃん」


ミケはそう言って肉球のある小さなその手で頭をぽりぽり掻いた。


「そ、そうなんだね。ああ、もうついて来ちゃたのは仕方ないね。じゃあ、家に来る?」


「はい、そのつもりですにゃん」


リュックの中でミケはぺこりとお辞儀をした。その姿があまりにも可愛らしくてわたしは、「もうミケちゃんってば」と言って頬を緩めてしまった。


「真歌ちゃんよろしくにゃんね」

「はいはい、ミケちゃんよろしくね」


わたしはリュックをカタカタ揺らし歩きだした。今日の夕飯は賑やかになるだろう。



スーパーで買い物をしているとリュックの中から、


「ねえ、真歌ちゃんお菓子を買ってよ。わたしビスケットが食べたいな。あ、あんぱんでもいいかな。う~ん、生クリームがたっぷりなパンも食べたいな」なんて声が聞こえてくる。


「ミケちゃん、シーッだよ。喋ると周りの人から不審に思われるでしょ」


わたしはリュックを背中から下ろし小声で言った。


「にゃはは、そうだよね。面目ない」

「わかってくれたらいいよ」

「は~い、了解しましたにゃん。あ、でも良かったら生クリームがたっぷりなパンを買ってくださいにゃん」

「仕方ないね……」


わたしはパン棚から生クリームがたっぷりなパンを手に取りカゴに放り込む。これで黙っていてくれるだろうとほっとした。


さて、買い物の続きをしよう。わたしはスーパーの店内を回り野菜類、お総菜類に飲料類などをカゴにぽーい、ぽーいと放り込む。


そして、レジに並ぼうとしたその時。


「ねえ、真歌ちゃんこの半額になっているマカロニグラタン美味しそうだにゃん」なんて声が聞こえてきた。


ち、ちょっと半額だなんて大きな声で言わないでよ。恥ずかしいよ。


「もう、ミケちゃんうるさいよ!」



背中に背負っていたリュックを下ろすといつの間にかミケがにょきんとその三毛猫のぬいぐるみの顔を出していた。


「ミケちゃん、ちょっと黙っていてよね。約束したのに……」


「えへへ、ごめんね」


三毛猫のぬいぐるみの姿で笑うミケのその無邪気な顔を見ているとあることに気がついた。


「ねえ、ミケちゃん人間の女の子の姿に化けたらいいんじゃないの?」


「う~ん、そうしたいのは山々なんだけど高尾山じゃないと人間に化けられないのかも」


ミケはそう答えにゃははと笑った。


「……そうなんだ。じゃあそのぬいぐるみの姿で喋らないでね。お願いだよ」


わたしはミケのイエローのキラキラ輝く大きな目を真っ直ぐ見つめ言った。


「は~い、了解しましたにゃん。任せていてね」


なんてミケは答えるけれどやっぱり不安だ。



わたしは「狭いしちょっと窮屈かもしれないけど我慢してね」と言いながらミケをリュックの中に押し込み再びファスナーを閉めた。


「は~い、了解しましたにゃん」


その声が周りに聞こえるような気もするけれど、よしとしよう。後はレジに並んでお会計するだけだもんね。


レジの店員さんがバーコードリーダーを商品にかざしスムーズにピッピッと打つ。わたしだったらモタモタしちゃうかなと感心しながら眺めていた。


すると、「マカロニグラタン半額になりま~す」と言いながらピッピッとスキャンした。ああ、もう半額だなんて声に出さないでほしいなと思っていたその時。


「にゃはは、マカロニグラタン半額で~す!   だって~」


リュックの中からとんでもない声が聞こえてきた。それはもう体がビクッと跳び上がるほどびっくりした。


レジの店員さんも一瞬手の動きが止まりわたしの顔をじっと見ている。ミケ恨むよ……。ああ、恥ずかしくて消えてしまいたい。


「あ、えっとその……」

「千二百円になります」


店員さんは何事もなかったかのようににっこり笑った。流石レジのプロだ。

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