高尾山の天狗饅頭
いつの間にかその大きな四人掛けの木製のテーブルに三人分の料理と天狗饅頭が並べられていた。
「わ~い! ご飯だにゃん」
ミケはそう言ったのとほぼ同時に椅子に腰を下ろしていた。
「真歌さんもどうぞ」
「あ、はい」
わたしも椅子に腰を下ろした。
「さて、俺達も賄いってことで食べましょう」
高男さんも椅子に腰を下ろしながら言った。
目の前にある小皿に盛り付けられたトマトスープとフルーツヨーグルトにそれから天狗饅頭を見るとそれだけでもう幸せな気持ちになった。
あ、天狗の饅頭と目が合ったような気がした。
「高男さん、この天狗饅頭って高尾山の名物ですよね」
「はい、高尾山の御本堂様に従いお護りする随身として除災開運や魔除けなどのご利益の役割りとして天狗像を高尾山のあちらこちらで見ることができるらしいですよ。
それでこの天狗饅頭も高尾山名物になってますね」
高男さんは天狗饅頭を手に取りながら答えてくれた。
「へぇ~そうなんですね。そう思って食べるとご利益があったりして」
わたしも天狗饅頭を手に取った。
「そうですね、そう思って食べるとご利益があるかもですね」
高男さんはそう言ったかと思うと天狗饅頭にかじりついた。
「あ、高男さんもう食べてしまった~」
「真歌さん、天狗饅頭美味しいですよ。見てないで食べたらどうですか~」
天狗饅頭をすでに半分以上食べている高男さんがわたしの顔を見て言った。
「はい、じゃあ、いただきま~す」
わたしも天狗饅頭に大きな口を開けてがぶっとかぶり付いた。
すると、あんこがたっぷり入っていてほどよい甘さでとても美味しかった。ああ、幸せだ。
「美味しい~」
「美味しいですよね」
「美味しいにゃんね」
天狗饅頭をペロッと食べ終えた高男さんとミケは声を揃えて言った。
「あんこが優しい味でなんかほっこりほっとしました」
「わたしもほっこりほっとしたにゃんよ」
「俺もほっこりです」
わたし達三人は頬を緩め笑い合った。
そして、肝心のムササビとモモコは……。
天狗饅頭を美味しそうに食べているけれど会話がない。ムササビは山盛りご飯も口に運びガツガツ食べている。
「ムササビちゃんとモモコちゃん仲直りしてくれたらいいですね」
わたしは天狗饅頭を食べながらムササビとモモコに注目する。
「二人とも素直じゃないけどきっと、仲良くなれるはずですよ」
「そうそうにゃん。だって、高男さんは人の食べたいものを感じ取る能力があるんだもんねってムササビちゃんが言ってたんだからにゃん」
ミケはにゃはと笑い高男さんの顔をチラリと見た。
「あはは、まあ、何となくわかるかなって感じだけどね」
高男さんはちょっと照れたように笑っている。
「前回の菜っ葉の煮物とお好み焼きのお客さんも喜んでいたからモモコちゃんとムササビちゃんもきっと仲良くなれますよね」
わたしも高男さんの顔をチラリと見た。
「あはは、真歌さんまで……」
高男さんは褒められて照れている様子でちょっと赤くなっている。そんな高男さんがなんだか可愛く感じた。
「あ、真歌さん! 今、高男さん可愛いなって言いましたか?」
「えっ! あ、それはその……」
どうやらわたしは声に出してしまっていたらしい。
「もうどうして俺が可愛いんですか……」
「だって、褒められてちょっと嬉しそうでそれに赤くなっているんですもん。意外と照れ屋さんだな~と思って」
「そうそうにゃん、高男さんは照れ屋さ~ん!」
ミケまでそう言うと高男さんは益々顔が赤くなり「勘弁してくださいよ」と言ってうつ向いてしまった。
そんな高男さんをわたしとミケは顔を見合わせ笑った。
「ちょっと二人ともいい加減にしてくださいよ~!」
益々赤くなる高男さんに笑うわたしとミケ。その時。ムササビとモモコが。




