モモコ
ムササビとお客さんの女の子はギロギロと睨み合う。ああ、もう喧嘩なんてしないでよとわたしは心の中で祈る。
きっと、高男さんとミケもわたしと同じ気持ちだろう。だがしかし、わたし達の気も知らずムササビとお客さんの女の子は。
「あの時の恨みを晴らさなくては」
「それはこっちのセリフだよ」
なんて二人は強い口調で言いギロギロと睨み合う。ああ、もう一体何の恨みがあるのだろうか。
「あなたはモモコだよね?」
「そうよ。あなたはムササビだよね」
「ピンポーン正解だよ」とムササビとモモコの声は揃う。
やっぱりこの二人の少女は顔見知りだったんだ。それに憎しみあっているなんて……。わたしはこの先どうなるのやらとハラハラした。
それなのに高男さんは「仕方ない。この状況を楽しみましょうか」なんて言って愉快げに笑う。
「高男さん、どうして楽しそうにしてるんですか?」
「心配していても仕方ないですよ。今、この瞬間を楽しまなくちゃ」
高男さんは呑気そうにあははと笑うんだから信じられない。なんて人なんだろう。
「そっか、今を楽しまなくちゃだにゃん」
なんてミケは納得しウンウンと首を縦に振り頷いている。高男さんなんてことをつくも神に教えるんですか!!
一方ムササビとモモコは今もギロギロと睨み合っている。二人とも可愛らしい顔をしているけれど、恐ろしい。
「ムササビって名前を呼ばないでよ。オチビ」
「だからオチビって呼ぶな」
「だって、体が小さくてオチビだよね~」
ムササビとモモコはふん! とお互いソッポを向く。
「失礼な子だね。体が大きいムササビよりわたしの方が可愛らしいもんね~だ」
「な、何ですって! この可愛らしいわたしに酷いこと言うよね。モモンガのくせして」
ムササビはそう言ってほっぺたをぷくっと膨らませる。怒っているけれど、可愛らしい。ってちょっと待って……。
「今、モモンガって言いましたか!?」
わたしは思わず大きな声を出してしまった。だって、モモンガってあの動物のモモンガだよね?
「モモンガのくせしてって失礼だね。ムササビ~!」
「だって、ムササビの方が迫力あるもんね~だ」
ムササビとモモコの言い合いは続いている。ソッポを向いていた二人はくるりと振り向きお互いの顔を睨んだ。
「あの女の子モモンガだったんですね……」
わたしはぽつりと呟いた。
「にゃはは、モモンガってムササビの小型バージョンみたいで可愛らしいんだよね」
ミケは楽しそうに笑った。
「なんと! あの女の子はモモンガだったのか」
高男さんも白い歯をのぞかせて笑っている。その笑顔は男性なのにとても美しい。なんて感動している場合ではない。
「ムササビとモモンガ対決ですか!?」
わたしは思わず大声を上げてしまった。
それにモモコちゃんもモモンガが人間に化けているということだよね。
ダメだ……目眩がしてきた。
「あなた達がこの状況を受け入れていることも含めて目眩がしているんですよ」
「ん? どうしてわたし達も含まれているにゃん?」
「はて? 何故ですかね?」
不思議そうに首を傾げきょとん顔の二人に呆れて言葉も出てこない。
それからムササビとモモンガのモモコのバトルも続いている。
「ふん! 可愛らしいってわたしにムササビパンチをしたよね?」
「ふん、そっちこそわたしにモモンガキックをしたよね? それにわたしがパンチをしたのはモモコがわたしの食べ物にばっちい俵型のうんこを落としたからだよ!」
ムササビは鼻息を荒くして怒っている。
「ふん、そっちこそわたしのご飯にまん丸なうんこを落っことしたよね」
モモコも鼻息を荒くした。
「先にうんこを落っことしたのはモモコでしょ」
「知らないよ。わざとじゃないもんね。それなのにムササビパンチをしてくるなんて酷いよね~」
「でも謝らなかったよね」
「それはムササビが強烈なムササビパンチをわたしの顔面にしてきたからだよ」
「モモコはモモンガキックをしてきたよね」
ムササビとモモコはまたまた睨み合う。
そんな二人の様子をどうしたものかとわたし達はじっと眺めた。可愛らしい女の子の姿に化けた二人が『うんこ』なんて言っているのだから……。なんだかな。




