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ムササビカフェ食堂

おっ、そうでしたか。ムササビカフェ食堂でごゆっくり寛いでくださいませ~」


「くださいませ~」


高男さんとムササビは両手を横に大きく広げにぱにぱと満面の笑みを浮かべた。


「は、はい。寛がせていただきます……」と返事をしたものの果たしてこのカフェ食堂は大丈夫かなとチラリと感じた。


「では、お席へ案内しますね」


高男さんがそう言って案内してくれたのは大きな窓がある眺めの良い窓辺の二人掛けの席だった。座ると、木々が近くに見えて日常を忘れることができそうだ。


「メニュー表とお冷やです」


高男さんがそう言ってわたしの目の前にメニュー表とお冷やとそれからおしぼりを置いた。


メニュー表に目を落とすと手書きでなんだかレトロだった。


「あの、この店内に漂っている香ばしくて甘い香りは何ですか?」


わたしはメニュー表から顔を上げて尋ねた。


「この香りですか。今、アップルパイを焼いているんですよ」


わたしは窓の外へ目を向けた。広々とした窓から差し込む柔らかな光と木々がのんびりとした安らぎを与えてくれた。仕事のことなんて今は忘れられそうだ。


「お待たせしました~」


テーブルにアップルパイと湯気の立ったダージリンティーが置かれた。持ってきてくれたのはムササビだ。


「わっ、めちゃくちゃ良い香り~」


アップルパイの甘くて香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。


「高男さんの焼いたアップルパイは最高だよ~」

「もう食べる前から美味しいだろうなってことがわかるね」


わたしはニコニコと笑いながらもうアップルパイを頬張っているつもりになった。


「お客さんって顔に出るタイプなんですね」


ムササビは口元に手を当ててくふふと笑った。むむっ、ちょっとこの子ってば失礼だ。


「だって、わたしパンや甘いものが大好きなんだもん」


「そっか、それでこのカフェ食堂にお客さんは辿り着いたのかな?」


考えていても仕方がない。今はこの目の前にあるアップルパイを食べたい。


わたしは、「いただきま~す」と言ってアップルパイに手を伸ばす。口に運んだアップルパイは熱々で生地がサクッとしていて中身はゴロゴロとたっぷりのリンゴが甘酸っぱくて美味しい。


「うわぁ~口の中が甘酸っぱくて幸せいっぱいだよ~」


わたしは思わず感嘆の声を上げてしまう。


「お客さんありがとう。そんなに幸せそうな顔をして食べてくれると高男さんが喜ぶよ」


ムササビがうひひと笑いわたしの顔を見ている。


「こちらこそありがとう。このアップルパイを食べて元気が出たよ」


「アップルパイ美味しかったですか。ありがとうございます」


高男さんがニコニコと笑いながらこちらに向かってきた。


「はい、熱々サクッサクッでリンゴが甘酸っぱくてもうめちゃくちゃ美味しいですよ」


「それはアップルパイを焼いた甲斐がありますよ。これ、サービスです」と言って高男さんがわたしの目の前にバニラアイスを置いた。

「ちょっとムササビちゃん、わたしのほっぺたを引っ張らないでもらえますか」


わたしのほっぺたをぷにーっと引っ張るムササビの手を掴み抗議をする。


「だって、お姉ちゃんのほっぺたぽとりぽとりと落っこちてしまいそうなんだもん」


「……あのね、ほっぺたは地面に落っこちたりしないから。引っ張らないで痛いよ。それと、わたしの名前は真歌です」


わたしはほっぺたを撫でながらムササビの顔を見た。


「へぇ~真歌ちゃんって名前なんだね。うふふ、可愛らしいな。わたしなんてムササビなんてありきたりな名前で嫌になってしまうよ」


「はぁ? ムササビって変わった名前だと思うよ。聞いたことないもん」


「え!? 真歌ちゃんムササビを知らないの?」


ムササビは目を丸くした。そして、「モモンガは知ってるかな?」と訳のわからないことを聞いてきた。


「モモンガはムササビと似てる哺乳類でしょう。確かムササビの方が大きくて空飛ぶ座布団と呼ばれていてモモンガは空飛ぶハンカチと呼ばれているんだよね? それがどうしたの?」


「ちょっと、真歌ちゃんってばムササビもモモンガも知っているじゃない」


ムササビはわたしの肩をペシペシと叩きながら言った。


「だって、ムササビもモモンガも見たことはないけど高尾山に生息してる動物だよね」


「うん、そうだよ」


ムササビはわたしの目を真っ直ぐ見ている。何だろう? このちょっと妖しげな雰囲気は。

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