ムササビカフェ食堂に仲間入りをしたけれど
「では、真歌さんは窓拭きをお願いしますね。特にドアはお客さんが入って来るところなので念入りにお願いします」
高男さんは言いながら雑巾と水が入っているバケツを差し出した。
「はい、了解しました」
雑巾とバケツを受け取りバケツの水を使い雑巾を絞り窓拭きを始める。そうか、朝は掃除からなんだね。
わたしは高男さんに言われた通り『お客さんがたくさん来てくれますように』と心を込めて木製の引き戸の窓ガラスとサッシを念入りに拭いた。
その後も掃除や紙ナプキンの補充などをして準備完了だ。
「みなさん、改めましておはようございます。今日も笑顔でお客さんをお迎えしましょうね」
高男さんが満面の笑みを浮かべ両手を横に広げた。
「おはようございます。頑張りま~す」
「おはようございます。頑張ります」
「おはようございますにゃん。頑張りますにゃ~ん」
わたし達も挨拶をした。ムササビとミケは高男さんと同じように両手を横に広げている。わたしも真似たほうが良いのかなと考えてみるけれど恥ずかしくて出来ない。
「このムササビカフェ食堂でごゆっくりに真歌さんとミケちゃんが加わったので有難いです」
「有難いで~す」
高男さんとムササビは両手を広げながらわたしとミケの顔を交互に眺めた。なんかちょっと怖いのですが……。
「よろしくお願いしますにゃん」
「よ、よろしくお願いします」
ミケは笑顔で返事をしているけれどわたしはぎこちない笑顔になってしまった。
朝礼が終わりさあ、仕事だと気合いを入れたわたしだったのだけど。
「お客さんはまだでしょうかね……」
「真歌さん慌てることはありませんよ。ゆっくりじっくり待ちましょう」
高男さんは本をペラペラとめくりながら余裕の笑顔だ。
「そうそう慌てることなんてないよ。人生気楽にいこうよ」
ムササビも余裕の笑顔で同じく本をペラペラとめくっている。人生ってムササビちゃんは人間なのかな……。
「そ、そうですか……」
呑気な人達を見ていると不安になってくる。
「まったく高男さんもムササビちゃんも呑気だにゃん」
「だよね、もう少し危機感を持ってはしいよね」
ミケは話のわかる子だ。一人でも理解者がいて良かった。そう思い視線を隣のミケ向けると高男さんとムササビと同じように本をペラペラとめくっているではないか。しかもニマニマ笑っている。
ああ、なんて呑気な人達なんだ(しかもムササビとミケは人間ではないし)
「ん? 真歌ちゃんどうしたにゃん?」
ミケは不思議そうに小首を傾げわたしを見る。
「何でもないよ……わたしも読書しようかな~」
もういいやとわたしは匙を投げた。
それからしばらくお客さんは来なかった。わたしは呑気な人達の隣でぼーっとカウンターキッチンに肘をついていた。
「う~ん、本を読むのも飽きたな~」
ムササビはそう言いながら本をパタンと閉じた。その表紙を横目でチラッと盗み見ると『付喪神について』と書かれていた。
ムササビはきっと不思議なつくも神のミケのことが気になっているのだろう。
「う~ん、わたしも読書するの飽きたにゃん」
ミケも本を閉じ大きく伸びをした。そんなミケが閉じた本にチラッと目を向けると『ムササビ』とタイトルが書かれ空飛ぶムササビのイラストが描かれていた。
どうやらミケもムササビのことが気になっているようだ。
そんなムササビとミケの本を見ているとなんだかおかしくなってわたしはクスッと笑った。
「ん? 真歌ちゃんなんか面白いことがあったの?」
「真歌ちゃん面白いことがあったのにゃん?」
ムササビとミケはこちらに振り向きほぼ同時に言った。
「うふふ、ムササビちゃんもミケちゃんもお互いのことが気になっているんだな~って思ったらなんだかおかしくてそして可愛らしいな~って思ったんだよ」
わたしは口元に手を当ててムササビとミケの顔を交互に眺め笑った。わたしもムササビのこともミケのことも気になるもんね。
高男さんもこちらを見て笑っている




