今日も不思議なムササビカフェ食堂は存在していた
翌朝目を覚ますと筋肉痛になっていた。
「ヤバい~! 筋肉痛だよ。やっぱり運動不足だからかな」
わたしはベッドから起き上がり溜め息をつく。重い体を引きずり簡単な朝食を作る。
朝食はトーストに目玉焼きをのせケチャップをたっぷりかけたもの。飲み物は紅茶だ。
「うん、美味しい」と自画自賛しておく。
今日もあの高尾山でカフェ食堂のお仕事だ。わたしは、急いで歯を磨きバシャバシャと洗顔し鏡の前に座りぱっぱっとナチュラルメイクをする。それから髪の毛を高い位置でポニーテールに結わえ準備完了だ。
「服装はやっぱり白シャツに黒のパンツかな?」
急遽ムササビカフェ食堂で働くことになったので何も準備していない。幸いクローゼットに白シャツと黒のパンツがあったので白シャツを着て黒のパンツを穿き薄手の上着を着る。
「よし、これでオッケー」
わたしは鏡の前でにっこりと笑顔を作る。さあ、高尾山に行こうと気合いを入れた。
今日は仕事で高尾山に登るので高尾山口駅で電車を降りたわたしはケーブルカー乗り場の発券機で切符を買った。山腹まではケーブルカーだ。
ケーブルカーの清滝駅からケーブルカーに乗り込む。
うふふ、出勤するのも楽しいな。だって、車窓から見える景色は迫力があるのだからわくわくして楽しいよ。
高尾山のケーブルカーは日本一の急勾配でふもとの清滝駅から山腹の高尾山駅まで片道六分ほどで運行している。それと二人乗りのリフトもある。
気軽に登れる山ということもあり年間の登山客も世界一らしい。
わたしは、今から仕事だということも忘れ車窓から見える景色を頬を緩めうふふと楽しんでいた。緑の木々と赤く染まった紅葉にそれから窓から見下ろす線路はめちゃくちゃ迫力がある。
もうこのケーブルカーを降りるとお団子や蕎麦を食べたり猿園に行ってお猿さんを見たり薬王院を参拝しその後山頂まで登山をする気分になっている。
思わずお猿さん待っていてと叫びたくなったくらいだ。
なんてニマニマ笑っているとわたしを乗せたケーブルカーは高尾山駅に到着した。ケーブルカーから降りるとやっぱり澄んだ空気だ。
ああ、おもいっきり高尾山を満喫したいけれど、これから仕事だったのだ。
かすみ台展望台から八王子や新宿などの街並みを眺めている人やお団子を美味しそうに食べている人を尻目にわたしはムササビカフェ食堂に向かう。
ぐちぐち文句を言っているけれど、ムササビカフェ食堂で働くことも本当は楽しみではあるのだ。
さあ、頑張るか。わたしは笑顔で山道を歩きだした。今日はどんなことが待っているかな。
少しだけ山道を歩くとムササビカフェ食堂のピンク色の三角屋根が見えてきた。カフェの前にはチョークアートで『ムササビカフェ食堂でごゆっくり』と描かれた立て看板が置かれている。
「今日もたどり着いたよ」とわたしは声に出す。そして、深呼吸を二度してから木製の引き戸をがらがらと開けた。
すると、「真歌さん、おはようございます」、「真歌ちゃん、おはよう」、「真歌ちゃんおはようにゃん」と元気な挨拶が聞こえてきた。
高男さんもムササビもそれからミケも両手を横に広げている。これはこの人達流の挨拶の仕方のようだ。因みにムササビとミケは人間の女の子の姿に化けている。
「みなさん、おはようございま~す」とわたしも挨拶をした。もちろん両手は広げたりはしていない。
「待っていましたよ。ちゃんと来てくれて良かったですよ」
高男さんがにっこりと笑う。
「わたしはバックレたりなんてしませんよ」
わたしもにっこりと笑った。そして、「では、荷物を置いてきますね」と言って更衣室兼休憩室に向かった。
更衣室兼休憩室のロッカーにリュックをしまいわたしはムササビとティーカップが可愛らしいロゴ入りのエプロンを手に取りつける。
全身鏡の前で身だしなみチェックをしてにっこりと笑顔を作る。
「うん、これでよし」
エプロンをつけるだけでムササビカフェ食堂の店員に見える。
「いらっしゃいませ」と鏡の前で練習してみた。




