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ミケが初めて食べるご飯


 菜っ葉の煮物もお好み焼きも懐かしい味がした。クールビューティなお客さんと一緒に各々の懐かしき思い出の中へとふんわりと包まれている気がした。


おばあちゃんの家の大きなテーブルにみんなの笑顔。夏休みも冬休みもおばあちゃんの家で過ごした。楽しい時間。


高男さんが作ってくれた料理を食べながらそんな懐かしい思い出の中に浸っていると、ミケが、


「わたしは初めて食べる料理が菜っ葉の煮物とお好み焼きだけどにゃんだか懐かしいにゃ~て感じるな」と言った。


ミケの顔に視線を向けるとにゃぱーと笑い大きな口を開けお好み焼きを頬張っていた。その口の周りはソースや青のりにマヨネーズなどがべったりくっついていた。


「ミケちゃん、お口の周りを拭いたら」


わたしは近くに置いてあったおしぼりをミケに渡した。


「え?」

わたしからおしぼりを受け取りきょとんとした顔のミケにみんなの視線が集まる。


「ミケちゃんってばソースやマヨネーズで口の周りが汚れているよ~」


ムササビがそう言うとようやく気がついたミケは「にゃんとまあ」と言って慌てておしぼりで口の周りを拭いた。


ソースやマヨネーズに青のりなどで汚れたおしぼりに視線を落としにゃははと照れたように笑う人間の姿に化けたつくも神のミケは可愛らしかった。


「あはは、ミケの奴」


高男さんもおかしそうに笑った。


「ミケちゃんってば」とわたしとムササビも声を揃えて言った。



わたし達四人はしばらくの間笑っていた。


そして、「ミケちゃんの初めて口にした料理はこの菜っ葉の煮物とお好み焼きなんだね」とわたしが言った。


「うん、でもね、わたしこの菜っ葉の煮物もお好み焼きの味も知っているような気がするんだにゃん」


ミケはそう答え菜っ葉の煮物をパクパク食べた。


「そっか、どうしてなんだろうね? 懐かしいんだよね? わたしもね田舎のおばあちゃんの懐かしい味を思い出したんだよ」


この菜っ葉の煮物やお好み焼きに何か秘密が隠されているのだろうか。わたしもお好み焼きを口に運ぶ。薄い生地のお好み焼きがやっぱり懐かしくてほっこりした。


うふふ、美味しいな。謎や秘密なんてないかもしれないけれど、このムササビカフェ食堂でごゆっくりを見つけることができたわたしは幸せだなと感じた。


「わたし真歌ちゃんに目を覚ませてもらえたことにはやっぱり何か意味があるにゃーって思うな」


「そうなのかな?」


「うん、だって、ムササビちゃんも高男さんもずっと、あの更衣室兼休憩室を利用していたのにわたしを目覚ましてくれなかったんだにゃん」


ミケは言いながらムササビと高男さんの顔を交互に見る。


「あ~それってわたし達が目覚ましてあげなかったみたいじゃな~い!」


「だよな~」


ムササビと高男さんは不満げに頬を膨らませた。


「だって、本当のことだにゃん」

「まあ、そうだけどな……」

「そうかもしれないけどさ……それはそうとやっぱり真歌ちゃんは何か不思議な力を持っているのかな?」


ムササビのその言葉にわたしが首を傾げミケと高男さんがそんなわたしの顔をじっと見る。


「真歌さんはこのムササビカフェ食堂に辿り着いたんだからきっとそうだよ」


高男さんが首を縦にうんうんと振り、「きっとそうだにゃん」とミケも言った。


「わたしはごく平凡な人間だよ」


わたしは手をぶんぶん振り回す。


「そっかな~?」

「う~ん、どうかにゃん?」

「まあ、普通の女性だと思うけど何かあるかもね」と三人が口々に言う。


特別な力どころかわたしは派遣先の倒産でいきなり職を失った悲しき女だよ。まあ、この怪しげなカフェ食堂の仕事にありつけたけどね。


「真歌ちゃん何をブツブツ呟いてるの?」

「ううん、何でもないよ」


わたしは声に出していたようだ。


「おっ、お客さんが食事を終えたみたいだよ」


店内に目をやるとお客さんは伝票を持ち椅子から立ち上がるところだった。


「では、みんなでお客さんをお見送りしましょうか」


高男さんはニカッと笑った。


「え? みんなでお客さんをお見送りするんですか?」


「にゃんとみんなでお見送りにゃ~ん!」


「よし、お客さんをお見送りするよ~」


わたし達は口々に言った。


そんなこんなでわたし達はぞろぞろとお客さんをお見送りすることになった。


「本日はムササビカフェ食堂でごゆっくりにご来店頂きありがとうございました~」


「ありがとうございました~」


高男さんとムササビが両手を大きく広げお客さんに挨拶をした。わたしをこのムササビカフェ食堂でごゆっくりに迎え入れてくれた時と同じポーズだ。


そのポーズにお客さんは目を丸くする。


「こちらこそ美味しくて懐かしい料理をありがとうございました」


お客さんは微笑みを浮かべた。


「そう言って頂けると嬉しいですよ。あ、僕は料理長の高男です」


高男さんは僕なんて言って頭を下げた。


「あなたがあの懐かしい味のする菜っ葉の煮物とお好み焼きを作ってくださったんですね」


お客さんは高男さんの顔を真っ直ぐ見て尋ねた。


「はい、お客さんが懐かしく感じられるだろうな~と思う料理をイメージして作りました。お口に合ったのならば良かったです」


「うふふ、母の料理を思い出しました。久しぶりに田舎に帰ってみようと思います」


お客さんは高男さんの顔をしっかり見つめそして、その向こうに見える懐かしい田舎を思い出しているのだろう。


ムササビが会計をし「これオマケですよ」と言ってムササビの柄の缶バッジをお客さんに渡した。


「わっ、可愛らしい。高尾山のムササビですね。ありがとう」


お客さんは頬を緩めムササビからムササビ柄の缶バッジを受け取った。


「では、また、来ますね」


お客さんはわたし達の顔を順番に見て微笑みを浮かべた。


「是非、また、ムササビカフェ食堂でごゆっくりにお越しくださいませ~」


「お越しくださいませ~」


高男さんとムササビの挨拶に続きわたしとミケも気がつくと両手を大きく横に広げ、「また、お越しくださいませ~」、「また、お越しくださいませにゃ~ん」と挨拶をしていた。


「うふふ、挨拶も楽しいムササビカフェ食堂さんですね。田舎から帰って来たらまたお邪魔しますね」


お客さんは爽やかな笑顔を浮かべそして店を後にする。そんなお客さんの背中に向かって「ありがとうございました」とわたし達は声を揃えて挨拶をした。


わたしは、すっかりここの従業員になったんだなと改めて実感した。


「さて、後片づけをしましょうか」


厨房に戻る高男さんのあとにわたし達も続いた。まあ、後片づけといってもお客さんのお皿やわたし達が食べたお皿などだけではあるけれど。


さあ、たらふく食べた後はお仕事です。

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