高男さんの料理は懐かしい味
わたしは、キャベツを洗ったり高男さんが使った調理器具などの洗い物をした。それをムササビとミケが布巾で拭きあげる。
高男さんにちらりと視線を向けると手際よく調理をしている。そんな高男さんを眺めているとわたしも料理上手になりたいなと思った。
でも、当分食べる専門かな。煮物の香りに鼻をクンクンさせながらわたしはゴシゴシと食器を洗った。
「さて、出来上がりっと」
高男さんはお盆に緑色が美しい菜っ葉の煮物とジュウジュウと鉄板で焼いた美味しそうなお好み焼きを載せた。
「わたしお客さんに届けてくるね」
ムササビは言うよりも早くお盆を手に取りお客さんの席へと向かった。
「ムササビちゃんは意外と働き者なんですね」
わたしはムササビの揺れるポニーテールの後ろ姿を眺めながら言った。
「そうなんですよ。ムササビはあんな子だけどテキパキ仕事をしてくれるから助かっていますよ」
高男さんもムササビの後ろ姿に目を細め眺めている。
「わたしも頑張らなくてはですね」
ムササビカフェ食堂の従業員になったのだからわたしもムササビに負けないように仕事をしなくてはねと気合いを入れる。
「真歌さん、仕事は気楽にしてもらっても大丈夫ですよ。ここは癒しと安らぎの空間なのでね」
高男さんは柔らかいふわふわとした笑顔を浮かべた。
「はい」とわたしは素直に返事をした。
「お客さんに美味しい料理を届けてきたよ~」
ムササビがパタパタと歩きながらこちらに戻ってきた。
「あのお客さん菜っ葉を一口食べて懐かしいって言ったんだよ。それでね、お好み焼きにソースをたっぷり塗ってマヨネーズをかけてこれも口に運んで食べると、懐かしいって頬を緩めていたよ」
ムササビは頬を上気させちょっと興奮気味だ。
「そうか、それは嬉しい。俺の料理は成功かな?」
高男さんも満足げな表情を浮かべている。
そんな二人の顔を見るとわたしも嬉しくなる。
「ほら、見てください。あのお客さん幸せそうな表情で菜っ葉を食べていますよ」
わたしは窓際の席で高男さんの料理を楽しんでいるお客さんに視線を向けた。すると、遠目からだけど幸せそうだなとわかる。
「あのお客さんいい表情ですね」
「喜んでもらえたみたいで良かった。さあ、俺達も菜っ葉の煮物とお好み焼きを食べましょうか」
「わ~い! お好み焼きに菜っ葉の煮物だ~」
「にゃはは、待っていましたお食事タイムにゃん」
ムササビとミケはそれはもう嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。
「まったくこのカフェ食堂には食いしん坊が集まるのかな?」
高男さんは苦笑しながら作業台の片隅に菜っ葉の煮物とお好み焼きを四人分並べた。
わたし達の目はキラキラと輝いた。食いしん坊と言われてもこれは仕方がないな。
「お客さんがいるので厨房で食べましょうね」
高男さんが言いながら小さな椅子を四人分並べた。
「は~い」とわたし達三人は声を揃えて返事をしちょこんと小さな椅子に腰を下ろす。
「では、みんなお客さんと同じ料理をいただきま~す」と手を合わせる高男さんに続きわたし達も手を合わす。
そして、わたしは菜っ葉の煮物に箸を伸ばす。口に運んだ菜っ葉の煮物は小松菜がほんの少し苦味があり油揚げと良く合い素朴な味わいだった。
この味をわたしは知っているように感じた。そう思った。どこでこの味と出会ったのかなと考えると、あっ! そうだと気がついた。その時、
「すみませ~ん、温かいお茶をください」とお客さんから声が掛かった。
高男さんが湯呑みに緑茶を注ぎ「真歌さん、お客さんにお茶を運んでもらえますか?」と言った。
わたしは「は~い」と返事をしお盆に載せられた湯気の立った緑茶をお客さんの席へと運ぶ。
「お待たせしました。お茶です」
わたしは対面の接客は初めてなのでちょっとドキドキしながらお客さんの目の前に緑茶を注いだ湯呑みを置いた。
「ありがとう」
お客さんはわたしの顔をちゃんと見て挨拶をしてくれた。
「ごゆっくりお召し上がりくださいね」
「はい、ありがとうございます。この料理懐かしくてとっても美味しいですよ」
お客さんは懐かしそうに顔をほころばせた。
「あのこの料理お客様の思い出に残っている味なんですか?」
わたしがお客さんにそう尋ねると。




