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高男さんの能力

「いらっしゃいませ~」


わたし達四人は声を合わせてお客さんを迎え入れる。遂にお客さんが来店したんだと思うと胸がドキドキしてきた。


入って来たのは髪の毛がサラサラで切れ長の涼しげな目元が印象的な女性だった。


「わっ、クールビューティなお客さんだね」


ムササビはそう言ったかと思うとお盆にお冷やとおしぼりを載せお客さんの元へと向かう。


お客さんが腰を下ろしたのは先程わたしが座った大きな窓がある眺めの良い窓辺の二人掛けの席だった。


「あの席人気があるんですよ」

「窓から見える景色が素敵で落ち着きますもんね」

「へぇ~真歌ちゃんもあの席に座ったんだね。いいな~」


ミケが羨ましそうに言った。


「お客さんが帰ったらミケちゃんも座ってみたらいいよ」


なんて話をしていると、ムササビがポニーテールを揺らしながらこちらに戻ってきた。


「高男さん、懐かしい思い出の味定食をお願いしま~す」


ムササビはお客さんからオーダーを取ってきたようだ。


「おっ、懐かしい思い出の味定食だね」


高男さんは白い歯を見せてニッと笑う。


「懐かしい思い出の味定食かなんか良いネーミングですね。なんか気になる」


一体どんな料理なのかなと興味が湧く。


「お客さんが懐かしいなと思う料理をお出しするんですよ」


高男さんはフフッと笑い厨房の冷蔵庫を開けた。


「お客さんが懐かしいなと思う料理を出す? それってお客さんに聞いてきたんですか?」


わたしが疑問に思い首を傾げていると、ムササビが「高男さんは人の食べたいものを感じ取る能力があるみたいだよ」とムササビが言った。


「え!?」


それってめちゃくちゃ凄いよ。



高男さんに視線を向けると冷蔵庫から取り出した食材を厨房の作業台に並べている。それは、小松菜に油揚げに、卵、豚のバラ肉、薄力粉などだ。


果たして何を作ろうとしているのだろうか。


「何を作るのか楽しみだね」

「わたし食べたくなっちゃう」

「わたしもなんでもいいから食べたいにゃん」


わたし達三人がそう言い合っていると、高男さんが、「おいおい君達はさっき賄いのとろろ蕎麦を食べたばかりじゃないか」と呆れた声を出す。


「わたしは食べてないにゃん。お腹が空いたよ。棚の上からみんなの美味しそうに食べる姿を指をくわえて見ていたんだからね」


ミケが手をブンブン振り回しアピールする。


「そうだったね……」


「わたしもご飯食べたいにゃん。食べたいたら食べたいんだってばにゃん」


「おいおい、今はお客さんの料理を作らなければならないだよ。後で作ってあげるから大人しくしているんだぞ」


高男さんが優しい声で言ったけれどミケは我慢できないようだ。


「わたしは今ご飯が食べたいにゃん」


ミケの顔は泣きそうな表情になっている。


「もう、困った奴だな。じゃあ、今回は特別にミケの分も作ってあげるよ」


高男さんがそう言うとミケは「やった~嬉しいにゃん!」と言って高男さんに飛びつく。


「おい、ミケ離れてくれよ。料理ができないじゃないか」


「わかった~ご飯作ってもらわないと困るから離れてあげるにゃん」


ミケは高男さんから離れ「にゃははご飯のお時間だ」と言って満面の笑みを浮かべた。


「わたしもご飯食べたいな」


ムササビがぽつりと呟きお鍋で小松菜を茹でている高男さんの周りをウロウロする。


「あのね、ムササビはさっきとろろ蕎麦を食べたよね」

「うん、食べたよ。だけど、ミケちゃんの食べている姿をじーっと見ていられないよ。きっと食べたくなってヨダレを垂らしちゃうよ」


ムササビは必死になり訴えている。


「見てないで仕事を手伝えばいいじゃないか」

「あ、高男さんってばそんなことを言うんだ。ミケちゃんが食べている美味しそうな匂いが気になってきっと仕事なんてできないよ」


ムササビは頬をぷくぷくぷくりと膨らませて言った。もう駄々っ子にしか見えない。


「本当に困った奴だよな。どうして今日はそんなにワガママなんだよ。わかったよ、特別にムササビの分も作ってあげるよ」


高男さんはそれはもう呆れたような声で言った。


「わ~い! やった~嬉しいよ!」


ムササビはぴょんぴょん飛び跳ね嬉しそうだ。


「ムササビ、飛び跳ねてないで早く手伝ってくれよ」

「は~い! 了解しました」


ムササビはニコッと笑い敬礼する。その姿があまりにも可愛らしくてわたしはクスッと笑った。それと、同時にわたしも食べたいなと思ってしまった。



「真歌さんどうしたんですか?」

「え?」

「なんか、じっとこちらを見ているけどもしかしたら真歌さんも食いしん坊ぶりを発揮してるんですか?」

「わ、わたしはそんなことは……」


図星をつかれ目が泳ぐ。


「ふ~ん、真歌さんにも食べさせてあげようかな~と思ったんだけどいらないんですね~」


高男さんはわたしの顔を見ていたずらっぽく笑った。


「あ、食べる! 食べます!」


わたしは逃げる魚を追いかける勢いで言ってしまった。


「あはは、そんなに慌てなくても真歌さんの分もちゃんと作るので安心してください」


高男さんがククッと笑うのでなんだか悔しい。


「あ、ありがとうございます……」


わたしの声は小さくなる。でも、美味しい料理を食べられると思うと心が弾む。そんな自分の食いしん坊ぶりに呆れてしまう。


「さあ、みんな手伝ってくださいよ」


高男さんがわたし達の顔を順番に見て言った。


「は~い!」とわたし達は声を合わせて返事をした。


「では、真歌さんはキャベツを洗って、ムササビは菜っ葉の煮物とお好み焼き皿を出して、ミケはムササビを手伝って」


と高男さんはわたし達に指示を出した。


どうやら高男さんは菜っ葉の煮物とお好み焼きを作るようだ。これがお客さんの懐かしい味なのだろうか。


ムササビ食堂のみんなは食いしん坊でした。


読んで頂きありがとうございます。

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