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94 みんな一緒


「…ねえねぇ…ママリュ……」


…この独特な呼び方は…


希望の棟の厨房で、アムナや村人達が手分けして避難時用の料理を拵えている最中に、マリュは自分を呼ぶ可愛い声と同時に左側の袖を弱く引っ張られる感覚を覚え…


声の方…左脇のやや下の方を見ると、


「レン君…お泊りの時以外はママを付けて呼ばない約束でしょう…どうしたの?ここには危ないから入って来てはダメって…」


茶色の髪でやや深みのある青い目の少年レンは、ここに来てまだ1週間も経っていない子なのだが…ポウフ村から比較的近くの隣村の畦道に倒れている所を発見された子で…


つい最近4歳になった(と本人は言っているが他の事は何も覚えておらず)顔の約半分くらいに火傷らしき痕があった。


セレスでは育児棟の対象年齢の子で強い不安を感じていたりする子は、日頃比較的スムーズに交流出来ているアムナの自室に時々連れ帰って添い寝をしてあげるようにしていたので、マリュはここ希望の棟でもなるべくそうしてあげたいと…


ナユを連れてひっそり村に戻った彼女になぜだかとても懐いたレンも、一昨夜に自室で添い寝をして上げたのだが…


今の希望の棟では慢性的な人手不足も相まって、ナユのような2歳未満の子は夜はアムナが常態的に自室で面倒を見る事が多く、お泊まりの夜にマリュの自室でナユを見かけた時もレンは…


[ナユがいるよ。昼間もずっとナユはママリュと一緒にいたのに…ズルいよ。]


と、入って来るなりナユにヤキモチを妬いていたのだが…


「ナユもいるよ。僕はどうしてダメ?僕はお手伝い出来るよ。」


と…やはりナユをライバル視して粘るのだった。


マリュの部屋にお泊まりしてからのレンは、彼女の事をママリュと独特な名前で呼ぶようになっていて…ナユもレンもなるべく分け隔てなく接して行きたいマリュは、お泊まりの時以外ではその名で呼ばないよう彼にその都度注意はしているのだが…


そうすると、日頃マリュに背負われている確率の高いナユに不満の矛先が行くようで…


「…今は特にアムナが少ないから、ナユみたいな小さい子は目が離せないからしょうがないのよ。料理がもうすぐ出来上がるから、それまでは良い子にして皆んなと待っていて…」


だがレンは、他の子と遊ぶよりもアムナにくっ付いて甘えたがる子で…


今日は午後から急遽避難計画を立て、諸々の準備に入った村人達が慌しく動いていたのだが、特に今は2日前に長老のお別れの儀の為に一時的な帰国の予定で帰ってしまったお手伝い組のアムナやティリやレノの教育者が、元老院からの緊急連絡で危険の為しばらく出国が禁止となってしまったのだ。


直後にメクスムも緊急事態となって、アムナの手伝いの為に希望の棟に戻る予定だった人達は更に出国が厳しい状況になり…


いなくなったスタッフ達の穴埋めで先住の村人達がマリュ達と一緒にこれから倉庫に避難する為の料理を作り貯めている最中だったのだが、幸い今は2歳未満の子はナユだけなので、アムナ達になるべく負担をかけたくないマリュが背負って、今は村人全体の食事作りの作業を分担しているのだが…なぜだかマリュにべったりのレンは、今も彼女に背負われてスヤスヤ眠っているナユに嫉妬心メラメラになっているのだ。


だがナユがご機嫌で1人遊びしてる時のレンは、彼女の側で見守ってくれたり遊んであげたりもしてくれて、そういう時はとても助かるのだが…


「…僕はお手伝い出来るよ。ナユは僕がおんぶしてあげる。だから…」


尚も粘るレン…


「…レン君、まだあなたにはこの子は重いわ。君が背負ったらそのまま動けなくなってしまうわよ。それにここは皆んな火を使って調理していて危ないからダメよ。…もう少ししたら皆んなに料理を運び出すお手伝いをしてもらうから、それまで倉庫で良い子で待っていて…お願い。」


「やぁだ、ママリュといるの。お手伝い出来るから…」


と、マリュの裾をギュッと掴んで涙ぐむレン…


…困ったな…


割と目立つレンの顔半分の火傷の痕は、比較的最近のモノだろうと診療所の医師は言っていた。


隣村の更に向こうのテイホの元属国だったエラニカ国では、半年ほど前から地方都市で内紛めいた戦闘行為が少し続いたらしく、なんとか政府軍が鎮圧したらしいが…


レンはそこから逃げてる途中で親と逸れたのではないかと村人達は見ている。


その根拠としては、レンはエラニカ国の服の特徴や髪や目の色が似ていて…毎晩のように夜泣きして母や父を呼ぶのだが、起きている時はここに連れて来られるまでの記憶が殆どないのだ。


おそらく彼は、逃げ回っている間にとても怖い思いをしたせいで、一時的な記憶喪失に陥っている状態ではないかとも言われていて…


エンデやタニア達が戻って来たら、彼のこれまでの経緯も詳しく分かりそうなのだが…


今はここメクスムとテイホ…2つの大国間で急にきな臭い噂が出始めていて、メクスム君主であるウェスラー宅がなんらかの攻撃に遭いそうになったという未確認の情報も出てるらしく…


それと関係があるのか、エンデとタニアそしてカシルも最近はもう1週間近く村にいない…


そんな折、さっきタニアが…タヨハに似た少年を連れて久しぶりに戻って来て、とりあえず今は一時的に倉庫に避難をして欲しいと…


ただ、その期間は長くても1週間以内で、早ければ2.3日で避難解除出来るだろうとも…


そして、避難時の注意点だけ皆に告げると、タニアはその少年と共にすぐ消えてしまったのだった。


それからはバタバタと…緊張感の中、今の状況になっている。


レンに限らず、かつてミアハから連れ去られ身体から様々なサンプルを取られたり実験をさせられ怖くて痛い思いをし、挙げ句に用済みになると街の裏通りの更に入り組んだ路地辺りで捨てられる経験をしている子達は、皆それぞれがトラウマによる夜泣きやオネショ、時には摂食障害や癇癪等の反動がかなりの割合で出て来るが、今のレンのような分離不安ぽい子も時々いて…


家族と離れて新しい環境にもまだ馴染めずに必死に踠いているレンを、マリュは突き離し切れず…


「…じゃあ…」


と、レンでも何か出来そうな作業を探そうとすると、


「あ、見つけた。レン…向こうに行って一緒に遊ぼう。」


例の倉庫にアムナ達と一緒に子供達を移動させてくれていたセジカが入って来て、レンを見つけて連れて行こうとするが…


「…ヤダ…ママリュのお手伝いする…」


レンはそう言って、素早くマリュの後ろに隠れてしまう…


「……」


セジカはその様子に思わず苦笑する…


「…セジカ君…」


マリュは、レンは自分がなんとかするとセジカに告げようとすると、


「…レン、君もマリュさんの作るお菓子は好きだろう?」


「うん、大好き!」


「…君がここでウロチョロしていたら、マリュさんがおやつを作れる時間がなくなってしまうよ。」


「……」


お菓子には笑顔で反応したレンだったが…またシュンとしてマリュの後ろに隠れてしまうのだった。


だがセジカは笑顔を崩さず…


「だから、これから一緒に材料のりんごを採って来よう?あ、もしかしたらまだ栗も少し落ちているかも…」


「え?りんご…?栗も…?」


レンはパッと表情が明るくなり、ピョコンとマリュの後ろから顔を出す。


「うん。確かりんごはまだ少し残ってたと思う。栗は見てみないと分からないけど…見に行ってみよう。栗のお菓子も作ってもらえるかもだよ。」


「うん、そのお手伝いなら行く。」


レンは嬉々として飛び出て玄関に走り出す。


「こら、慌てて転ぶなよ。」


マリュはレンを追おうとするセジカを呼び止め、


「セジカ君、助かったわ…ありがとうね。」


「いえ…僕等も昔はエンデさんの取り合いで…サハは村に来たばかりの頃は僕やイードによく突っかかって喧嘩して、イードはイードで夜泣きが凄くて…ここが小さな小屋だった頃は、あの人を随分と困らせましたから。今のレンは昔の僕達です。」


礼を言うマリュに、セジカはどこか懐かしそうにレンを見て微笑んだ。


「お兄ちゃん、早く〜」


「今行くよ。」


「でもホント…あなたがいてくれて良かった…はいこれ。あの子がまたグズりそうだったら一緒に食べて。」


厨房を出て行こうとしたセジカをマリュは呼び止めて、透明なセロファンに包まれた2つの木苺の飴をマリュは手渡した。


「ありがとうございます。…じゃあ、行って来ます。」


受け取ったセジカは少し嬉しそうに微笑んで、小走りでレンを追って行った。


「……」


…あの子は…セジカは、本当にエンデ君に恩を感じているんだな…


だってこんな状況なのにわざわざ村にいてくれて…


ミアハでのお別れの儀の直後に、急いで帰り支度をしていたマリュの所に彼はやって来て、親と長の了承は得ているから一緒に連れて行って欲しいと懇願されて…


結局セジカは、特例で許されたマリュと一部の診療所のスタッフと共に村にやって来たのだった。


[とりあえず試験は皆終わったので…両親はちょっと心配そうでしたが、僕に関してはもう諦めてるみたいです。家族は一応笑顔で送り出してくれたので大丈夫です。]


あの子は笑顔でそう言ってはいたが…


多分…少なくともアヨカちゃんは笑顔では送り出してはいないと思うマリュだった。


それに何より、少し前にはあの赤毛の人の件であの親子はとても怖い思いをしているのだ。


ご両親の心情はかなり複雑だろう…


だが優しい彼がそこまでして来てくれた。


おそらく彼は、私やタヨハさん達と同じく、ここに残って村を…この希望の棟を、アムナというか教師として私達と共に支えて行く覚悟なのだろう。


色々な意味で岐路に立つミアハの民だが…


きっと誠実で優しいあの子はそこまで考えている。


何より、あの子は辛い思いをした子供達の良き理解者として、セレスのアムナだけでなく、ティリやレノからやって来る医師や教師やボランティア、そして村人との大きな架け橋となってくれそうな…とても頼りになりそうな大事な存在だ。


「マリュさん、野菜切り終わりました。次は…」


そして、おそらくこの子も…


「あ、じゃあ…私はこれからパイの下拵えをササっとやってしまうから、セランちゃんはこっちの鍋にその野菜を少しずつ入れて様子を見ててくれる?ジャガイモが少し透けて見えるような感じになったら教えて。」


「分かりました。」


と元気に返事をしたセランは、出来上がって行く料理を興味深そうに見ている妖精を頭の上に乗せているので、今は何気に厨房の皆んなの注目の的になっている。


…彼女は…


今朝、診療所に突然現れて一時は大騒ぎになったのだが…


「…村の人達は大丈夫かな?って思ったら…ここに来てました…」


という…


こんな状況だし、タヨハさんは彼女を心配してミアハに帰そうと説得したが、


「…多分…ここのアバウの女神様も村を心配しているから、この妖精…ヤカを呼んだのだと思います。今はエンデさんもタニアさんも…か、カシルさんもいないじゃないですか。だから、彼等が戻って来るまでは、私はヤカとここにいます。……あ、時々ヤカも居なくなりますが、それはここは安全と判断した時だけだそうです…」


タヨハに説明をしている最中に、彼女は何やらヤカに耳打ちをされ…説明を付け足した。


「…でも君は…今はいない彼等のような体術とか…特にそういった備えのないお嬢さんなのだから、帰った方が…」


「いえ、私はこの妖精と意思疎通が出来ます。それにこの子は基本、私の側が好きなようで…私から離れたがらないのです。……今、ヤカはリンナちゃんのように役に立って見せます…と言っています。」


「…でもね…私達もあの倉庫があるから…いざという時の準備はして来ていたんだよ。…気持ちはありがたいんだけど…一度ハンサさんと相談するからちょっと待っていて。」


タヨハの説得に、終始食い気味で必死に反論するセラン…


そして彼女はタヨハを待ってはおらず、希望の棟までさっさと移動して厨房で手伝いを初めてしまったのだった。


タヨハから連絡を受けたハンサは、ヤカが側にいる限りあの子は戻りたくなればいつでも自宅に戻れるから様子を見ていて欲しい…とタヨハに託し…


赤毛のヨルアの襲来時もタニアを直接守ってくれたのはリンナだった事をタヨハは思い出し…


エンデ達の留守中で若干不安は残るも、タヨハはセランの滞在を渋々承諾し、セランにはそのまま厨房の手伝いをしてもらっているのだった。


まあ…彼女は診療所でカシルの手伝いをしていたから、村人とはある程度交流も出来るし…


何より、ヤカの存在は子供や村人達も喜んでいて、かつてここでタニアとヨルアの緊迫したやり取りを実際に目撃した者達にとっては、妖精の存在は心強い味方に映るのだろう。


「……」


…どうか…嫌な事は早く収まって。


そして…エンデ君、タニアちゃん、カシル君も…


どうか皆んな無事で…


早く帰って来て。




「ただいま、マリュさん…」


いつの間にか…


眠るレンを背負い、2つの小さなりんごが入った籠を持ってセジカがマリュの背後にいた。


「お帰りセジカく…あらあら寝ちゃったのね。お世話様。本当…ありがとうね…」


作業を止めレンを抱き抱えようとするマリュをセジカは止めて、


「大丈夫、レンはこのまま倉庫に連れて行きます。…あの…りんごはこれしか採れなくてすみません。」


すまなそうにマリュに籠を渡す…


「あら2個も採れたのね…嬉しいわ。実は前に皆んなで集まって催したお茶会に使ったりんごの残りがまだ倉庫にあるのよ。でも5.6個くらいだったと思うからあまり沢山は作れないけど、他のお菓子もあるから少しなら皆んなに行き渡ると思うわ。」


「そうですか…良かった。じゃあレンを寝かせた後で僕が倉庫のりんごを持って来ますよ。」


「あ…あの…」


2人のやり取りにセランが遠慮がちに入って来る…


「?…ジャガイモ煮えた?」


「…それもありますが…今ヤカが…」


「!!…凄いわ…これはヤカさんが全部持って来たの?ありがとうね。」


「…栗もあったので…持って来たそうです…」


ヤカはいつの間にやら、様々な材料の置かれている厨房のテーブルに座っていて、その側には…


「…りんごは…倉庫にあったやつでしょう?だけど、栗なんて倉庫にあったかしら?」


「…多分ですが…私の自宅にあった栗かと。良かったら使って下さい。」


5個の大きな真っ赤なりんごの側には大きな籠に入った沢山の栗達があり…


「でも…いいのかしら…ご両親が困っているんじゃない?」


「いえ…これは私が少し前に自宅の裏庭から拾って置いたモノで…多分、両親は今はセレスにいると思うので大丈夫です。私が毬栗から拾って取り出してた所をヤカは見ていたので持って来たのでしょう…」


ヤカの思いがけない行動に、セランは恥ずかしそうに説明した。


「ヤカはとても賢くて…セランちゃんが大好きなんだね。」


村人の為そしてセランの為に…ヤカは常に考えて動いている事を察し、セジカは感心した。


「…でも栗って調理する前の処理が結構ありますから…マリュさんのお仕事を増やしてすみません…」


「何言ってるの。レン君だってグズっていたのにお菓子の話でご機嫌が直るくらいなのよ。…こんな時だからこそ、美味しいお菓子で皆んなが楽しくなれば素晴らしいと思う。セランちゃんも栗むきを手伝ってくれるなら、処理なんてそんな手間な事でもないわ。ヤカさん…ありがとうね。」


マリュがヤカの頭を撫でながらお礼を言うと、セランも嬉しそうに…


「ありがとうございます。…ヤカ、ありがとうね。」


マリュとヤカにお礼を言った。


「じゃあ、今夜のデザートは少し豪華に出来そうよ。私も作り甲斐があるわ。」


と言ってマリュは改めて腕まくりをし、栗剥きを始めた。


「じゃあ、僕は倉庫に戻ります。」


「あ、うん…本当に助かったわ。ありがとう…君も向こうで休めたら休んで。」


「いや…さっきタヨハさんが…子供達の相手が少し大変そうだったので…交代することになるでしょう…」


そう言って苦笑いし、レンを背負ったセジカは出て行った。


「あ…そうね…君がいてくれて本当に良かったわ。」


…だがまあ、タヨハはタヨハでタニア達がいない寂しさを子供達の相手をしながら紛らわせている事をマリュは知っているので…


今の状況でセジカやヤカの存在はマリュだけでなく、他のアムナや村人にとっても心強い援軍なのは確かだ。


「……」


…そして今のミアハも…


予想していた通り、あの人が新しい長老となる発表があったそうだし…


むしろこれからしばらくは、ミアハの方がミサイルの脅威に晒されるらしいから…


女神様のご加護があるから大丈夫だそうだけど、今はハンサさんも気が気ではないだろうな…


ただ、タニアちゃんが連れていた子…名前は名乗らなかったけど、多分リクシュ君は、本当に色々と凄い力を持っているようで…


何より、さっきここにいた時のあの子は終始ニコニコしていて…


[ミアハはきっと大丈夫。]


って、去り際にはっきり言っていた。


…ヨハ君にそっくりな…いやもっと言うとあの家族にそっくりなリクシュ君は…


見ていると、本当に今のミアハの心配事はきっと解決するだろうって…本気で思えて来ちゃうのよね。


そう…きっと大丈夫よね?


皆んなきっと…


離れ離れにはならずに済むよね…?


まだ殆どのミアハの民は、究極の選択に悩んでいるだろう…


私は…ここの子供達を見捨てる訳には行かないから…


ここで生きて行くと決めている。


だけどその選択は、あの人とほぼ永遠の別れとなるだろう事も分かっている。


凄く悲しいけど…お互いそれぞれの人生…


もう決めた事。


私にはナユがいてくれる…それがせめてもの…


「……」


だけど私はアムナ…


私の愛すべき子はナユだけじゃない。


「……」


「…?…マリュさん…どうしました?」


隣で作業するセランが心配そうに、涙を流すマリュの顔を覗き込んで来る…


「…ミアハはきっと大丈夫。だけど…もしもの時は…やっぱり私は…ここでアムナをやり遂げようって…改めて思ったの。」


「…そう…ですか……」


涙を流しながらのマリュの告白に、セランはとても複雑な表情を浮かべ…


そして、寂しそうに微笑んだ。


「…とても大きな選択ですから…皆さんギリギリまで慎重に考えるのだと思います。私は正直…多分結論は出ていますが…本当にギリギリまでは家族の為に精一杯考える事にしています。…だって……」


「……?」


「お姉ちゃんが命がけで頑張って、あの子が生まれてくれたのです。…あの子は…リクシュは、落ち込んでる私を見るといつも大丈夫だよって…そう言っているみたいに笑ってくれるのです。…だからリクシュを見ていると、本当に、本気で大丈夫って思えて来るんです。それに…」


「…セランちゃん…」


「…出来る事なら、皆んな一緒がいいじゃないですか…」


そう言ってマリュに笑いかけたセランの澄んだ緑色の瞳からは、涙が一気にボタボタと溢れ落ちたのだった。


「…そうね…」


マリュが応えてふと顔を上げると…


…そうだよ…


と言っているように、厨房の人達は皆んなマリュ達を見て、目を潤ませながら頷いているのだった。








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