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91 泉の儀式と吉報


「…?!…嬢…ちゃん?」


来訪者を告げるチャイムにすぐ反応し、確認画面を見たトバルはその映し出された姿に驚愕した。


「…心配かけてごめんなさい…やっとの思いで逃げて来たの。…怖い……早く開けて。」


「……」


…偽りのある響きではないし、確かに嬢ちゃんの声だ。


服装も…あの朝の監視カメラに映っていた服装のようだし…画面のその女性は怯えた様子で何度も後ろを振り返っていた。


外の様子が…画面からはイマイチ分からない。


トバルは慌てて外回りの警備達に確認しようとする…


と直後、


画面のその女性は小さく悲鳴のような声を発した。


「奴等が追って来たわ。お願い…早く開けて。」


彼女は怯えながら必死に入り口のドアを叩く…


「あ…ああ、待ってろ。今開けて…」


躊躇しながらもトバルは咄嗟に開閉ボタンを押す…


「待って。気配はイトリアさんみたいだけど、何か変だ…」


トバルの動作を直前で阻止したエンデだったが、ずっとガムシャラに入り口周辺を叩き続けているそのイトリアらしき女性の背後に急に人影が現れ…


うわぁ、グホッ…


キャア…


複数の短い悲鳴と共に画面からそれらの姿は一瞬で全て消えた。


「…何が起きた…?」


「ご安心下さい。とりあえずの面倒事は片付きました。」


若い男性の声が、急に現れた複数の人の気配と共に背後から響き、ドアのすぐ隣の小さな画面に張り付いていたトバルとエンデはビクッと大きく仰け反り返ってしまう…


「…ビックリさせてごめんね…」


エンデのすぐ隣に移動して来た小さな気配は、そう言って彼の手にそっと触れる。


「…君は……」


予想を越える展開に言葉が上手く出て来ないエンデだったが…


「この方はリクシュ様です。先程、我が主人が代々管理を許されております神殿にて儀式を終え、この星アリオルムにヌビラナで得た大いなるエネルギーを繋いで下さった存在であり…しばらくは2名のセレスの方の補佐が付きますが、次期長老となられる事が既に決まった方です。」


「…違うよ…」


エンデの手に触れていたリクシュの顔からフッと笑顔が消え、彼のすぐ後ろで説明を終えた男に向かって否定の言葉を発する。


「あ…失礼致しました。現在、セダル様の後を引き継ぐ立場となられたのはハンサ様です。つまり、ハンサ様の後を継ぐ事が既に決定している方がこのリクシュ様という事になります。」


…あ……いよいよか…


「……」


エンデは引導を渡されたような心境となり、思わず唇を噛み締める…


そのエンデの表情の変化にすぐ気付いたリクシュは、触れているだけだった彼の手をギュッと握り締めた。


リクシュのその手の動きに反応し、思わずマジマジと彼の顔を見てしまうエンデ…


「……」


そんなエンデの様子に動じる事なく、リクシュは優しい眼差しで…まるで「大丈夫」と伝えているかのように微笑んで彼を見つめていた。


「…申し遅れましたが、私はリュスタといいます。我が主人の命により、今からエンデさんとこの女性をアネセケルにお連れ致します。」


「…女性…?あ…」


リュスタがガッシリと肩を掴んでいる女性に改めて目をやったトバルとエンデは、思わず絶句した。


ずっと落ち着きなく困惑の表情を浮かべているその女性は、服装こそイトリアと同じで背格好も似ている様子だが…


「お前は誰だ…?…なんで嬢ちゃんとおんなじ服を着ている?さっきの嬢ちゃんは何処に行った?」


最初こそ驚きの表情を浮かべたトバルだが…その女性の腕を掴みながら、表情は徐々に疑念と怒りに満ちたモノに変貌していた。


「……」


エンデはエンデで…トバルの反応とは少し違い、複雑な表情を浮かべていた。


「トバルさん、お怒りはごもっともですが…彼女もどちらかというと被害者なのです。申し訳ございませんがあまり時間が…詳しい状況は後の者が説明致しますので。ではリクシュ様…」


恐縮しながらも、リクシュへ軽く目配せをするリュスタ…


「うん。シエルが来るから待っていてね。」


リクシュがニコッとトバルに笑いかけながらそう言うと、直後4人は一瞬で姿を消し…


「…なんて…?…シエル?」


部屋には唖然と立ち尽くすトバルだけが取り残されたのだった。


だが少しして、


「トバルさんこんにちは。あ…先ずは初めましてですね。僕はトウといいます。お噂はエンデさんから伺っております。」


「え…あんたは…え?…え…?そいつは……」


突然、緑色の髪と瞳の少年が姿を現し、戸惑う事なく笑顔で自分に挨拶をして来たのものだから、トバルは咄嗟に挨拶が返せなかったのだが…


更に、その少年の顔の横で羽ばたきながらこちらを見ている…


羽の生えた小さな存在に一瞬遅れで気付き…


むしろその奇妙な存在の方にトバルはかなり驚愕し…不覚にも腰を抜かしそうになり、背後の壁に張り付き…動けなくなってしまっていた。


「あ…彼女は…僕も最近会ったばかりなんですけど、妖精の…えっと…ああそうだ、シエルちゃんというそうです。リクシュやセランなら彼女の言葉はよく分かるみたいだけど…僕はリンナのようには上手くいかなくて…だから…意思疎通は少し手間取っています。」


…なんだ?…知らん名前ばかり出て来て…言ってる事の半分くらいしか理解出来ん…


唐突に出現しては消える人達や妖精の存在は、トバルに異世界に迷い込んでしまったかの様な妙な感覚に陥らせるも…


「…それで君等は…えっと…」


必死に思考を現実に戻し、トウに向かって言葉を返すが…急に姿を消したエンデに「俺1人でこんな奇妙な連中の相手をさせやがって」と文句が言いたくなってしまうトバルなのだった。


「…突然現れて驚かせてごめんなさい。用事が済んだらエンデさんはすぐ戻って来る予定みたいです。」


「あ、いや…俺達はあんまり不思議な事には慣れてねえからな…あんたが謝る事じゃない。今の俺はこんな事に動揺してる場合じゃないのに…こっちこそ悪いな。応援に来てくれたんだろ?」


「…そうですね。エンデさんがいなくなってこっちが手薄にならないように来ました。まだ誰か続いて来ると思います。こちらはまあまあな人数の移動ですからね…ウェスラーさんも御心配なんだと思います。」


…ボス……


ウェスラーの現在の心痛を思うとトバルも胸を締め付けられる…


だが…


ハッとしてトバルはついさっきの出来事を思い出す。


「そうだ…さっき女が嬢ちゃんのフリして来た時に背後で誰かが格闘してたんだ。奴はどうなったんだろう?」


慌てて先程の場面を思い出して外部のモニターを確認しようと立ち上がる。


「この建物周辺には俺達の仲間が分散して警備してるんだが、あの女も背後に現れていた男も…どうやって入り口まで入り込んだんだ…?外部の警備からは何も連絡がないし…」


「…それはここに来る直前で聞いたから僕が答えられます。下の階の人達…つまり、ウェスラーさんの関係者以外の一般の人達はもう全員この建物を出たから、セキュリティシステムの確認の為に一時的にシールドを外したら急に現れたのが例の女性と男性だったそうです。多分、イトリアさんを攫って行く際に簡易ワープの通路を作られてしまったらしいです。」


「簡易…ワープだと…?」


機器を操作し画像を探していたトバルの手が止まり、説明していたトウの方へ怪訝そうな表情で振り向く…


「…ワープは大国のみが得ている軍事用の技術で、お互い災害時や緊急な状況以外は使用しないという協定があるんですよね?そもそもワープ技術は外部に漏れないよう両国が厳重に管理していたはずのモノという事だけれど…」


そう…


イトリア誘拐の件といい…


これらは遠回しに、でも明らかに両国の関係を拗らせたい意図を見せつけているような行為だ。


…よりによって…テロの襲撃で家族を失い、辛い過去を必死で乗り越えて来た親子を…


怒りに身体を震わせるトバルの強く握られた拳の上に、ちょこんとシエルが着地して両手を前に出し…悲しげに笑む。


「…今回仕掛けている人達は…こちら側の事をよく調べた上で感情を揺さぶっているとシエルは言っていて、…国民の意思ではない。乗せられてはダメと…」


トウの辿々しい通訳にシエルはうんうんと頷く…


「……そうだな…」


と…


トバルが絞り出すような声で反応した直後、ノック音と共にテイラが入って来た。


「下階の一般人は皆出たわ。後はこのフロアに居る者達だけよ。シールドを貼り直したから外の警備も全員上がって来てる…」


「…そうか…お疲れさん。さっきの不法侵入の男はどうした?」


「それよ。駆けつけたら既に誰も居なかったそうよ。その確認もあって私は急いで来たのだけれど…」


困惑しながらテイラはトバルに質問を質問で返す。


「え…と、それは…」


2人のやり取りを聞いていたトウが、またシエルを見ながら辿々しく説明しようとすると、


「その男も例の女性と同じく暗示にかかっていて、彼はグエンの部下…元は特殊能力部隊の人だから、一般の人だと扱いが面倒だからリクシュがある場所に送ってしまったの。なので心配ないわ。」


という…トバルにはまたもや聞き慣れない声が…


「タニアさん…こっちに来て大丈夫なの?」


「今はこっちが緊急事態だからアーテが運んでくれたの…で、もうリクシュの所に戻っちゃったわ。強力な味方が一気に増えたからね。それにリクシュや妖精さん達があちこち私達を動かしてくれた方が向こうは混乱するからいいのよ。」


…タニア…?タニアって確か…


トバルはトウが呼んだ名前に覚えがあり、突然現れた女性の方を改めて見た。


「…あんたがタニアさんか…」





一方…


「…これからのあなた様のご不安と深い苦悩は察しております。けれども…アリオルムの女神様はずっと…そのお力に目覚めてからのあなた様を見守っておられたのですよ。ですから…」


アネセケルの神殿の泉にて、ティテヌは儀式の後に共に禊ぎを終えたばかりのエンデに手を差し伸べながら…ティテヌは穏やかな口調で更に続けた。


「…あの方の御誕生から少しずつ…あなたご自身はお力の衰えを自覚し、それに伴っての葛藤も生じておられたかとは思います。リクシュ様のお力はこの泉へ新たな力をもたらして下さいましたから、今まで抱えられていたあなた様の大きなご懸念は間もなく解決へと向かうでしょう。それによってあなた様が背負いし使命は1つの区切りを迎え、深淵の瞳の力はこのまま徐々に失われて行きますが…只今の儀式によって、あなた様にも女神の祝福は舞い降りたのです。」


「…と…仰いますと…?」


不安気にティテヌを見るエンデに彼女は微笑み…


「…お分かりでしょう?深淵の瞳の力はまださほど失われてはいない筈ですから…」


「…私にとって視る力というモノは大いなる強みである一方、この地を去りし我が一族のある種呪いにも思えて…泣き所でもあるのです。」


…そう…これはタニアにも吐き出せなかった、エンデのトラウマであり急所とも言える問題で…


彼は泣きそうな目でティテヌを見る。


「…そのようですね。あなた方の祖先は当時の苦境を嘆き…去りし後に訪れるであろう同族のミアハの民の為に一部の民を残して行った。そして、今の危機を予め察していたイウクナ一族の女神はあなた様に見届ける為の力を与えたのですね。けれども、あなた様が世の為ミアハの民の為にここまで行動された事は、未知数の領域の話だったようです。ですから…女神様は私を使い、この度この儀式に導かれ…あなた様の本来の視力に関係する機能を修復されました。失い行く力と目覚めし本来の機能のバランスの取り方にしばらくは戸惑う事もあるとは思いますが…それはここまであなた様が努力し培って来た人々との絆が様々な面で支えて下さると思いますよ。どうか、今後はくれぐれも焦らずに…」


「……」


ティテヌの…今までの彼の苦悩と努力を労うような温かな言葉に、エンデは堪らず泣き崩れた…





「…へぇ〜なんとなく話には聞いてたが…ウチの嫁も結構美人だが、あんたはどこか神秘的で…凄くべっぴんさんだね。あいつには勿体ないくらいだよ。だが…そうだね。あいつもウチの息子に負けないくらいにいい奴だから、こんな綺麗で真っ直ぐな人と縁が繋がるんだな。あいつは一見、要領良さそうだけど優しさゆえに不器用だったりもするんだ。でも、人の為に一生懸命になれる奴だから…どうかこれからもよろしく頼みます。」


初めて見るセレスの女性の独特な美しさに見惚れながら、トバルは嬉しそうにタニアに頭を下げる。


「勿論です。彼は私と父の恩人でもあるので、恩返ししながらずっと仲良く一緒に生きて行きます。ここで彼はトバルさんにたくさんお世話になったみたいですね…あなたがいたから、彼はウェスラーさんや他のスタッフの方達との交流のきっかけが作れたみたいで…感謝申し上げます。」


タニアはタニアで、そんなトバルに迷いなくそう言って…片膝をつき、ミアハ式の敬意を示す体制をとってお礼を言った。


「…タニアちゃん……こんな所で俺を泣かせないでくれる…?」


タニアの背後から急に噂の人物の声が…


見ると、


「言ってるそばから目が真っ赤ですけど…?………エンデ……良かったね……」


ここに来る直前のアネセケルでのエンデの様子がタニアの脳内に一気に入り込んで来て……


タニアもエンデを見つめながら、涙がどっと溢れて来るのだった。


「…ごめん、タニアちゃん…僕の事…さっきまで怒ってたよね…?でも僕は…」


そんなエンデに抱きつきながらタニアは…


「いいの。あなたの迷いや葛藤は優しさからだって分かってるから…その件はまた後でね。今はそんな場合じゃないわ。もうちょっとで例のアレが飛んで来るから…」


2人の世界に入りかけていた自分を必死に現実に戻す。


そう…まずはここに迫っている危機をなんとかしなくてはいけないのだ。


「下の人達はもう…大分ここから離れたようですね。」


タニアはドアの近くにいたテイラに向かって彼等の現状を告げるように話し出す。


「え、ええ…状況はほぼ予定通り…軍が統率を取って下さり、下階の人達を準備していた地下通路へ誘導して…我々の警備の半分以上はそっちへ回しているの。彼等はあと少しで目的の場所に着くと思うわ。」


タニアはテイラにとっては見知らぬ女性だが…トバルが彼女と親しげにやり取りしている様子見て状況を判断し、経過を手短かにタニアに報告する。


「それ以外の警備の方達は皆このフロアに戻りつつありますね?隣のお子さん達とシッターさんも…今残っているウェスラーさんの関係者は全てこの部屋に集めて下さい。」


「こ、この部屋に全員集合ね。分かったわ。」


このままこの女性の指示に従って良いものか…一瞬やはりちょっと躊躇してしまうテイラだが、トバルもエンデもタニアと一緒にこちらを見ているので、彼女はなし崩し的に返事をして隣に向かったのだった。


「…シールドも…問題ないようですね……」


テイラが出て行ってすぐ、タニアはそう言って…


暫し黙り込んだ。


「…あぁ………間もなくリクシュが……ヨハを連れて来ます。」


数秒後、タニアは心からホッとしたようにそう言って目を潤ませた。


「ええ!…ヨハさんが?!という事は…?」


しばらく皆のやり取りを傍観していたトウも、思いがけずヨハの名前がタニアの口から出て来て驚いて反応する。


「あの子は目覚めたの。…リクシュが目覚めさせてくれたわ…良かったね。」


斜め後ろにいたトウの方にタニアは向き直り、


「?!…タッ…」


美しい青い瞳から涙を溢れさせながらギュッと抱きしめられたので、トウはちょっとびっくりはしたが…


「はい…これでヒカも元気になるし…家族も少し明るくなると思います…」

  

「…そうね…」


少し…とあえて言ったトウの気持ちはタニアはすぐ分かった。


ヒカやセランと同じく、大分後になってセダルの死を知らされたトウも今…ミアハの民共通の喪失感を味わっていた。


「…私達は今、困難を乗り越えている所よ。頑張って皆んなでミアハに希望を引き寄せるの。油断せずに行きましょうね…」


「は、はい。頑張ります。」


「……」


トウを抱きしめたタニアに、ちょっとヤキモチを焼きながらも…彼等の共通の悲しみを強く感じてしまうエンデは、


…まあしょうがない…トウ君だから許してあげる…


それに…


紆余曲折がありながらも、ヨハとの兄弟の絆は少しずつ絆かれていて…タニア自身も無自覚な心の奥底の願いが徐々に叶っている様子を、エンデは心密かに喜ぶのだった。


と、


タニアはトウから離れた直後に、今度はエンデの方をクルッと向く…


「エンデ、ヨルアちゃんはウェスラーさんから離れたから、シエルと一緒にウェスラーさんの所に行って。今のあなたなら私達よりウェスラーさんの力になれる。」


「え…?」


「あまり時間がないから詳しい事はシエルから聞いて。」


儀式の後のあの泉の水を飲んだあなたならきっと大丈夫だから…こっちが落ち着いたら私もそっちに行くから、お互い頑張ろうね。


「……」


…何がどう大丈夫なんだ…?


実際の声と同時に脳内に飛び込んで来るタニアからの情報に若干混乱しながらも、シエルと共に消える寸前に見た彼女のウィンクについ表情が緩んでしまうエンデなのだった。






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