9 エンデの仕事と望まぬ未来
…さすがに…そろそろやばいかな…?
ベッドに横たわり、間も無く終わろうとしている点滴の残量を見つめながら、身体をやっと起こしてエンデは内線の受話器を掴む…
どうも自分の深淵の瞳の力は、個人の野心の為に使って良いモノではないらしく、あの男の指示通りに能力を使い出してから、毎夜ベッドに横たわるとすぐに日中に食べたモノをほぼ全て戻してしまうのだ。
最近は身体を起こしているのもシンドく…毎日栄養補助の点滴パックと共に過ごし、男の指定する株や為替の未来に渡る動きを見続けて必要ならば記録し…その作業に没頭していつの間にか夜になる日々が普通になってしまっていた。
そして…日を追うごとにエンデの身体の衰弱はじわじわと進んでいる…
このままだと、ここで力尽きて命を落とすか…もしくは期待外れという事で本物の刑務所に送られ、そこで余計な事を喋らせないようにトラブルに見せかけて命を狙われるか…どちらにしても今のままでは二度とセジカ達の待つ家には戻れない未来に行き着くだろう…
「…ありがとうございます。では今からそちらに伺います。」
エンデは内線専用の受話器を置き、これからあの男との一か八かの交渉の為に力を振り絞って立ち上がる。
ここに来てからは予想外な未来の連続で…本当はエンデの理想通りに進む可能性は五分五分で、最悪の結末も十分あり得る状況にいる。
もしもの時は…村長にセジカ達の事は託してはある。
最悪、交渉決裂で本当に帰れなくなる可能性はあるが…エンデはこのまま自分の身体が限界を迎えるまで待つより…やれるだけの事をして結果を待ちたかった。
「随分とやつれたな…メクスムの空気は君には合わないかな?」
品のあるクラシカルな装飾のテーブルを挟んでエンデの正面に座る自称シムルという男は、皮肉混じりの言葉を投げかけ一瞬だけ腕時計をチェックし、足を組み替えながらソファに自身の背を預ける。
最初の対面以降、彼自身がこの部屋にエンデを呼ぶ事は無かったが、今日は寛ぎモードではなく紺のスーツ姿…
どうやら夕方からこの国主催の大きな催しがあるらしい…
「話があるそうだが、私も色々と忙しい身でね…手短かに頼む。あ、と…念の為。私は君とは対等な立場とは思っていないから…言葉にはくれぐれも気を付けるように…ではどうぞ。」
「……」
言い方こそ丁寧だが…
男はまず牽制してからエンデの発言を促した。
彼は用心深く、エンデの力を借りようとはしているが、裏をかかれる恐れはないかを未だにかなり警戒している。
自分達が調べ上げた他の…まだ知り得ない力をエンデは隠し持っている事も恐れているようだった。
どうやら…あの女と自分を重ねて見ているようだ…
…一応、周囲の人払いはしてあり、今日のエンデの話は今後に大きく影響することを彼なりに理解している。
上の…このビルのヘリポートのある屋上に続いている階への階段辺りに隠れてこちらの様子を伺っている警備員も能力者のようだが…エンディのような思考や時間の流れから情報を得るタイプではないようで…ただ音にはかなり敏感のよう…
エンデはここでの衰弱死や冤罪での刑務所行きを甘んじて受け入れる気はなく…とにかく今やれるだけの事はやる。
覚悟を決めてエンデは話し始める。
「…今現在まで…貴方から依頼のあった件の僕の出した回答の結果は如何でしたか…?」
彼は、エンデとの初対面の時と同じように口元だけ笑って、
「…そうだね。お陰様で結構な利益を上げさせてもらっているよ。…ただ昨日の件はちょっと微妙だったね…」
男はふと思いたったように、
「もしかして…今日の話は未来が見えなくなって来ているとかそういう事か?」
「…違います…ですが…ある意味、遠からずかも知れません。」
エンデの身体は力み、手には汗がじわじわ滲む…
「というと?」
男はテーブルに置かれていたタバコを手に取り、火を着けながら尋ねる。
「若干…今のご質問からズレる話ですが、僕の中では大いに関係あると捉えている事を少しお話しさせて頂いてよろしいでしょうか?」
男はエンデと視線を合わせる事なくタバコの煙を吐きながら、
「…手短かに。」
とだけ答えた。
「…僕はここに来てからどんどん…今まで見えていたモノが見え難くなり、体調も悪くなって来ています。こんな事は初めての経験で…自分でも驚いています。」
「私達に心理的に追い詰められている為…とでも言いたいのかな?」
感情の見えない微妙な表情で…風で揺れる窓のカーテンの揺れを気にしながら、男は言葉を返す。
「まぁ…ゼロではないかも知れませんが…」
「正直だな…」
男は皮肉っぽくフッと笑う。
「…僕が言おうとしてる話はそういう事ではなく…」
どこまで目の前の男に届くか分からない話だが…一度大きく息を吸って、エンデは話し出す。
「…もう既に心配な現象が現れている地域もチラホラ出ているようですが、僕にはこの星の全体の地が、様々な要因で植物の発芽や成長に関わる数種類のバクテリア達の餌ともなるある酵素が極端に減少して行く事で、今後1世紀近くの間にかなりの広範囲で地が枯れて行くという現象が見えています。」
「……」
ここで男は一瞬、動きが止まり、初めてエンデの目を見る。
「なんだそれは…予言めいた胡散臭い話で私を煙に巻こうとしてるのか?」
男は少し苛立ちを見せた。
無理もない…彼は現在、農業や治水に関する省の副大臣だからだ。
数日前、今年の現在までの農作物の成長や収穫が国全体でやや芳しくない報告を受けたばかりで…エンデの話は今後への不安を大きく煽っていた。
「いえ…誓って占い等の統計学の話とは違います。あなたにお会いした時…いや…部下の方が僕の家に来られた辺りから、あなた…ウェスラーさんがこの国の農業関係の仕事のNo.2の座におられる事は見えていたのですが…あなたは最初、亡く…っと、ご家族の方の名を名乗っておられたので…そもそも警戒されている方に、唐突に未来の深刻な飢饉の話をしても余計な疑念を与えてしまうだけと考え、この問題の話は控えてました。」
「……」
ウェスラーはサラッと自身の本当の身の上をエンデに暴かれ、少しの間、言葉を失った。
「……私の…家族の事は…これ以上話すな。…で?バクテリアやら酵素がなんだって?」
このタイミングで…エンデの見たい未来が急にクリアになって来た。
やはりこの決断は間違っていない証と思うと、徐々に気力が戻って来る…
「…そうですね。話を戻します。既にご存知かと思いますが、農地の収穫物の質の劣化はゆっくりとですが、この星のほぼ全ての地表で起き始めている事です。…僕のこの能力は、5歳の時に火事で死を覚悟した時に視力と共に得られたモノなんです。それまでの僕は盲目で…火事の息苦しさの中で自分は逃げられないと諦めかけた瞬間に、炎のオレンジ色の光が目に差し込んで来たのです。夢中で逃げて…逃げている途中では訳の分からない映像が頭の中を次々現れては消え…後で分かったのはそれらは火事の後の燃え尽きた村や苦しむ村人の姿でした。」
「今度は身の上話か…」
と呟き…ウェスラーは2.3度吸ったタバコを消す。
「…そうですね…でも関係ある話なので聞いて頂きたいんです。あの大火で僕は母を亡くし、助けてくれた老人が、僕をそのまま引き取り育ててくれたのですが…自給自足の生活の中で作物を育てていると、徐々に大地が植物を繁らす力を失っていく未来の姿を何度も…これでもかという程に何度も悲惨な景色を見ました。その中で、村からの要請で数年に1度やって来るミアハの能力者の方達と会話する中で、ミアハの地だけは大地が豊かな様子もまた何度も見ました。実際、僕の住むポウフ村でも彼らが訪れた場所は、後に着実に状態が好転するのです。そして何より…僕が農地を現状より良くしようとあれこれ考えていると、ミアハの能力者と協力し合う姿が何度も未来の映像として見えて来るのです。…僕が何を言いたいのか…あなたのように頭が回る方なら察しが付くのではないかと思いますが…」
ウェスラーはミアハの事に関してはあまり関心はないようで…面倒そうに、
「大国も彼らの能力を研究し利用しろと?そんな事はとうの昔からやって来ている。だが成果は思うように出ていない。今ではごく一部の者しか…テイホの連中は…まぁ…我々の中では廃れつつある類の話だよ…そんな…」
「畏れながら…」
ウェスラーの話の腰を折るように言葉を続けながら、エンデはソファから立ち上がり、絨毯に両手と両膝を突いて頭を下げる。
「畏れながら、私が見る限り、大国の方々のミアハとの関わり方は…力を借りるというより…搾取に近いように見えます。」
ウェスラーはエンデが平伏す姿とは真逆の…抗議に近いニュアンスの指摘を、失笑で反応する。
「…言葉に気をつけろと…まあいい。かなり直接的に言うんだな…」
「私から見る彼らは本当に特殊です。姿はほぼ同じですが…彼らはあの姿に至る進化の過程が他国の民とはかなり違う為、あなた方大国の研究者が彼らの能力を我々の身体に取り込む研究を、今から真剣に取り組んでしても…百年以上は徒労に終わるでしょう。問題は…その成果が現れるよりずっと前にアリオルムの文明は…このままでは半世紀持たないという事です。そして何より」
エンデは何か言いかけたウェスラーを遮り更に続ける。
「例え私に命じたこの方法であなたがこの国のトップに登り詰めても…2年も持たず失脚します。なぜなら、間も無く大飢饉の不安がじわじわと世界を覆い始め…各地で暴動増えている頃に、唐突にあなたや義理のお母様に預けている娘さんの命に関わる事件が起こるからです。」
ここでウェスラーの顔色が一気に蒼白となる…
「…止めろ…どこで娘の事を調べた?家族の話はするなと言ったはずだが…?」
「僕はある意味、このタイミングであなたの手助けが出来る事に運命的なモノを感じています。なぜなら娘さんは…」
ウェスラーは懐から銃を取り出しエンデに向けた。
「止めろと言っている。」
「今ここからあなたの立場を多いに活かし、搾取ではなくミアハの知恵と彼ら特有の能力を積極的に借りて大地の活性の為に取り組んで行く事によって様々な危機はギリギリ免れ、更に収穫物を横取りされないように独自の流通ルートも確保して置く事により、国民のあなたへの評価はゆっくりだが着実に上がり、その立場は揺るぎないモノになります。あなたやご家族…引いてはこの星の危機に立ち向かいながら、あなたの野心を着実に実現化する為のスタートを切るには今が最適でギリギリのタイミングなん…」
プシュッという音と共にエンデの言葉は一瞬止まる…
ウェスラーの撃った弾はエンデの右肩を掠めた。
掠めはしたが…ポタポタとエンデの右手の先から鮮血が伝い落ちる…
「娘の話は止めろと言ってるだろ。」
ウェスラーは努めて冷静に言葉を発していたが、かなりの動揺と苛立ちをエンデは感じた。
今の発砲の音で、上で控えていた警備の男が慌てて降りて来る…
だがエンデも引けない…
このチャンスを逃せば、こんな形でウェスラーと話せる機会は二度と訪れないかも知れない…それだけエンデの身体は限界が近づいていた。
「僕がなぜ無抵抗でここまで来たか分かりますか?あなたの…過去のご家族の悲劇に囚われる前の、素晴らしい理想に賭けてみたい思いがありました。あなたはこれから訪れる危機を乗り切る為の、資質と人望をお持ちです。ここにおられるあなたの部下は、条件やお金で集められた方ではないでしょう?だから」
と、今度は左の腕に弾は命中し、その衝撃でエンデはよろけ、少し遅れて伝わる腕の痛みで、遂に言葉が出て来なくなった。
「…話はここまでだ。」
と言いながらウェスラーは立ち上がる。
が、尚も話を続けようとするエンデ…
「お願いです。もう少しだけ話を…」
だがウェスラーは、近付いて来た警備の男に、
「こいつを部屋へ戻せ。」
と冷ややかに命じ、銃を懐に戻しながら部屋を出て行ってしまった。
「ほら、立て…」
警備の男にやや強引に立たされたエンデは、フラフラと覚束ない足取りで部屋を出て行く…
…どうせならもう少し…伝えたい事があったんだけどな…
ガッカリしながらヨロヨロ歩くエンデを、不意に後ろから手が力強く支える。
先程の警備の男だった。
「…転んじまうぞ、ほら、肩に掴まれ。」
言葉は命令口調だが、支え方はとても優しく…
エンデを自室へ運んでベッドに寝かせ、その男は麻酔投与から始まり傷の手当てまで全てしてくれた。
医師でもあるのか…?それとも無免許……?
麻酔でだんだんと薄れる意識の中…
「お前…面白い奴だな。2発撃たれても怯まず話し続けようとした度胸は大したもんだ。俺は嫌いじゃない。お前の声は嘘を言っていなかったし…何より…あの方が俺達や上司以外の人間の話にあそこまでまともに付き合ったのを久しぶりに見たぞ。だがこれで分かったろ?あの方は家族の事でご自分をずっと責め続けているんだ。今度あの方に家族の話をするなら命を賭ける覚悟を持ってからするこった。」
聞こえた警備の男の声は…エンデにはなんとも優しくて…心地良かった…
深夜…
衰弱した身体には麻酔はなかなか抜けきらず…微熱も出ていたエンデは、浅い眠りの中をずっと漂っているような感覚で、覚醒出来ずにいた。
だが…夢の中で誰かが額に冷たいモノを当ててくれた感覚に、少し驚いて反射的に身体を起こそうとすると、そばに佇む黒い気配がそれを止めた…
「起こしてすまない…熱があるようだから安静にしていろ。…昼間は…悪かった。…だがこれに懲りて家族の話だけは止めてくれ。…トバルはお前の今日の声の透明度は信頼に値すると言った。私もお前の高い能力を認める。熱が下がったらまた話しに来い。じゃあな。」
それだけ言うと、黒い影はエンデの部屋を出て行った。
「……」
…撃たれた日を境に何かが動き、空気が変わった…ようにエンデは感じた。
翌日から、様々な未来がかなりクリアに見えるようになり、何より夜の嘔吐がピタッと治ってしまった。
1週間後…
点滴の必要も無くなり、傷口もほぼ塞がり、弾が傷付けた骨の治癒はまだ途中だが…人の支えが無くとも歩けるようになったエンデは、再びウェスラーに面談を申し出た。
「よう、随分と顔色が良くなったじゃないか。」
ウェスラーの部屋の前に立つと、ドアの脇に立つ警備の男が気さくに声をかけて来る。
「ええなんとか…いつまでもバテてられないですから。」
「そうか、まぁ…頑張れ。」
あの一件からウェスラーを取り巻く人間達の、エンデに向ける視線がだいぶ柔らかくなり…こんな気軽でどこか温かいやり取りも、彼の早い快復を後押しした要因の一つだろう…
先日の命懸けの交渉が僅かでも良い実を結べた事が、これからの未来を繋いでいるようで…エンデは嬉しかった。
だがこれは、最初のささやかな一歩でしかない…
焦らず、着実に…
エンデは背筋を伸ばして部屋に入る。
「赤毛のカリナ?…あぁ…テイホの最強能力者ですよね。最近はほぼミアハに関する活動に照準を絞っているようで…ミアハの人達は水面下で警戒をかなり強めているようです。」
「君は過去に接触した事はあるのか?」
エンデはハッとして、ウェスラーに向けて両手で罰点を作る。
「彼女に関して探れとかは無理ですよ。意識を何度も飛ばしていたらすぐ気付かれて、いずれここも彼女に知られて散々な目に遭い、あなたの大切な部下の半分くらいは使いものにならなくなります。彼女は攻撃力もそうですが狡賢に能力を利用出来る。能力の攻撃性と応用力は最強です。そういう類の能力を持つ人ですから…」
ウェスラーは少しガッカリした表情を見せ…
「なんだ…君でも対抗出来ないのか…」
「……」
…どうやら彼は…
テイホのカリナの様な、彼女に匹敵する強力な能力者を側に置きたいらしい…
「僕の能力には攻撃性のあるモノは存在しません。ただ彼女の力は僕には通用しないし、僕ほど時間の流れを読む力はないですしね…」
ここで初めてウェスラーは、エンデの言葉に強い興味を持った。
「なら…」
と言いかけると、
「ウェスラーさん…出来る限りリスクを避けて進むべきです。彼女は今現在は最大の信頼を置く人物の為に、宇宙開発に関するプロジェクト推進関係に反対する派閥排除の工作に集中していますから、あなたの出世には全く関心はありません。それに彼女は、例えテイホの地位のある人間であっても命令どこ吹く風で…ほぼ群れずに動き、ある特定の人物の言う事しか聞かない人のようなので…敵対心を持たれたらかなり厄介です。彼女の目的を阻まない限りは問題ありませんから、今はとにかく、無駄な対抗意識は持たず前に進む事をお勧めします。」
「…そう…か…化け物にはなるべく触らず進むが無難という事だな…」
ウェスラーはエンデの冷静な指摘に、カリナへの興味を意識の外に追いやる事にしたが…
「ただ…この星の大地の力を蘇らせる為にはミアハの力はどうしても必要で…いずれ…少し先の事ですが、カリナ達の利害に抵触する事になりそうです。幸いミアハにはあのカリナが恐れる人物が複数名います。近い未来に更に増え…彼らの前では彼女特有の攻撃は通用しませんし、何より彼等は彼女の力に立ち向かう為の有効な攻撃力を持っています。だからこそ…あなたは特に農業を通してミアハとの関係を大切にして頂きたいのです。あなたの未来の長期政権を支える大事な柱は、ミアハとの良好な関係を築く事によって得られる安定的な豊作で…こんなシンプルな事が10年もしない内に世界は喉から手が出るほど欲する様になって行きますから…」
ウェスラーは腕組みをして、エンデの目をじっと見つめる。
「なるほど…君のミアハ推しの理由は大体分かった。それで…君は君で罪を背負ってまで私の元にやって来た目的があるのだろう?…君の具体的な望みはなんだ?」
…さぁ、ここからが僕の…いや…僕にこの不思議な能力を与えてくれた存在が望む未来への、本当の第一歩だ。
エンデは両膝に乗せている握り拳に思わず力が入る。
「僕は…
1ヶ月後…
エンデは廊下の…自室の前に置かれた折りたたみの椅子に座って…ひたすらに待っていた。
会談の前半こそ立ち会えたが…
「ここから先は二人だけにして欲しい。」
という、老人の申し出により、会談途中で警備の者やエンデ…そして老人の連れていた秘書と…2人を残して居合わせた全ての人間は廊下に出された。
「……」
エンデから少し離れた場所に、同じく椅子に座って会談終了を待つミアハの首長の秘書はまだ若く、秘書の仕事に就きたての様で…一見落ち着いた様子を見せているが、先程まではエンデと一緒で廊下を何度となく往復していた為、見かねたウェスラーの秘書のデュンレが、向かいの部屋から折りたたみの椅子を持って来て、2人に座って待つよう促したのだ。
…どうやら向かいの部屋はデュンレの仕事場兼、寝泊まり用の部屋のようで、彼はその部屋の中で待機し、時々出て来て警備員達とボソボソ小声で話したりしていた。
デュンレと、自分と少し離れた隣りに座るミアハの首長の秘書の男は、タイプは全く違うが仕える人に対しての忠誠心はかなりのモノで…
それなりの荷物と理想を背負って進む者は、相応の人物を引き寄せるのかも知れないと…エンデはなんとなく思った。
…ミアハの秘書は、タヨハと彼の子供達とも交流があるようで、タヨハは現在、かつてエンデが伝えたアドバイスはすっかり忘れてしまって、あの時のように1人で護身の装備もほぼ無くミアハの地を離れ、任務に赴いているようだった。
ひたすらに愛しい子供達と暮らす日を夢見ながら…
…だが彼は間もなく…命こそ奪われないが悪夢のような出来事に遭遇してしまう…
自分はなるべく早く、ウェスラーからこの建物から出る許可を貰わなくては…
タヨハの危機が近い事を感じ、エンデに少しだけ焦りが生まれた。
「あの…ハンサさん…」
ぼそりと…エンデは少し離れて座る秘書に話しかける。
彼はこの後の帰りのルートを気にしているらしく…少し遅れて「え?自分に話しかけてる?」と、驚いた様子で反応する…
「あ、はい?」
「タヨハさん…ご存知ですよね…?以前、タヨハさんが神殿を訪れて下さった事で、僕の故郷の村とミアハの方達の交流が復活したのです。その方に伝言をお願いしたいのですが…」
「…はぁ…分かりました。」
…彼は「この状況でタヨハに伝言?」という感じで、多少、腑に落ちない様子だったが…
「ユントーグの…レブントの北側の町は例え近道でも近付いては行けないと…お伝え頂けますか?不穏な気配が満ちている場所で…近い未来に大きな暴動のようなモノが起きると思います。なるべく早めにお伝え頂けたら幸いです。」
ハンサの表情が一瞬強張ったが…
「分かりました。早急にお伝えします。ありがとうございます。」
と、エンデに軽く頭を下げると…
スッと立ち上がってデュンレの部屋のドアを叩き、彼の部屋の固定の電話を借りているようだった。
…言葉通り、早急だった。
恐らく、盗聴や情報漏洩を防ぐ為にプライベートな通話機器の電波は入らない仕組みになっている事を想定し、更にコソコソした動作で周囲に無駄な不信感を抱かれる事を避けたい彼なりの配慮も感じた。
少しして…
通話を終えたハンサがデュンレと共に部屋から出たタイミングとほぼ同時に、ウェスラーの部屋のドアも開いた。
二人の表情は和やかで、まだまだ会話が尽きない様子で出て来た。
この会談が有意義なモノだった雰囲気が周囲にも伝わり、廊下にいた皆が安堵の表情を浮かべた。
「名残惜しいですが…今日の事は極秘事項ですから、私はここからお見送りさせて頂きます。…ではデュンレ。」
ウェスラーはデュンレに目で合図し、彼は首長をエレベーターへ誘導しようとするが…
「あ、では…君…エンデ君だったね。ちょっといいかな?」
と、ウェスラー達から少し離れた所で様子を見守っていたエンデを手招きする。
「先程も言った事だが、君がいなければこの会談は存在しなかった。有意義な時間を過ごせたよ。本当に感謝する。」
そう言いながら、老人…ミアハの長老セダルは、エンデを抱きしめ…
「そう遠くない未来に君をミアハへ招待しよう…その時は…」
抱擁を解きながら長老は、イタズラっぽい目でウィンクして、
「是非、これから始まるトレーニングの効果を披露して見せてくれ。」
と…意味不明な事を言い放った。
「トレーニング…?」
…彼が纏う雰囲気はかなり独特で…
常に分厚い青いベールの様な膜に包まれていて、エンデには彼の思考や過去の姿はサッパリ見えず、言っている事がよく理解出来なかった。
「トレーニングって?…あなたの周りは青いベールの様なモノがあって、何故だかあなたの事はよく見えません…」
唐突に謎のワードを放たれた上に、自分の能力が通用しない人が存在するという、初めての経験にエンデが困惑していると…長老は少し驚きながらも愉快そうに、
「青いベールか…それはそれは…私はミアハの頂点に立ち、民を率いて困難を乗り越えて行かねばならない。故にミアハの守り神たるエルオの強い守護を受けている。エルオの女神は青いベールを常に纏っているという言い伝えがあり…おそらく女神の御意思でそういう状態になっているのだろう…」
と説明した。
「…女神…?青……あっ…」
エンディは不意にある事を思い出した。
ここまで二人のやり取りを興味深そうに見守っていたウェスラーが、サッとエンデの横に来て、
「なんだか2人で興味深いやり取りをしているな。エンデでも見えないモノがあるんだな…」
と言いながら背中をポンポンと叩き、笑っていながらも「後で分かるように説明しろ」という目力をエンデに送っていた。
そっちこそ…トレーニングってなんだよ…と思いながら、エンデは笑顔をウェスラーに返す。
「長老…」
ハンサが先程からエレベーターを止めて待つデュンレの様子を気にしながら声をかける。
「あ、すまないね。」
状況を察し、長老はエレベーターに早足で移動し、それにハンサも続く…
「では…ウェスラーさん、またお会いしましょう。いつかミアハにも是非…招待させて頂きますね。」
長老が右手を軽く上げるとエレベーターは閉まった。
「……」
僅かな沈黙の後、
「エルオの女神って?」
「トレーニングって?」
ウェスラーとエンデのお互いへの突っ込みはほぼ同時だった。
「1週間の休暇?」
ウェスラーとミアハの長老の会談から10日が過ぎようとしていたが、その10日間はエンデにとって気が気では無い日々だった。
何も出来ない自分が歯痒く…とうとう我慢出来ずに彼は思い切ってウェスラーに休暇と外出を申し出たのだった。
会談の日…
エンデに忠告されたハンサは直ぐさまタヨハに連絡を試みたが…あの時点では結局、連絡が付かなかったようで…帰国後に色々と動いてはいる姿は見えたが…
その後間も無くエンデには、既にタヨハが例の地域に入り、迎えてくれた町長家族と共に神殿において身動きが取れない状況になっている姿が見え始めた。
あのままでは反政府組織に拘束されるのは時間の問題…
「3度も似たような状況の映像を鮮明に見たので…おそらく、これは予知ではなく現在進行中の問題と思いますが、大火事から途絶えていた僕の村とミアハの交流復活のキッカケを下さった方が…レブントの北のパシュケという町周辺で勃発している反政府組織の暴動に巻き込まれて軟禁状態になっているようなのです。このままだと彼らは人質にされ、その間にタヨハさんは一生消えないトラウマとなるような大変な思いをしてしまいます。解放まで時間が長ければ長い程…その方の心が崩壊してしまう可能性が高くなるのです。彼は長老の甥にあたる方で…ある時突然に降りかかった問題で彼は未来の長老候補から外れてしまいましたが、切なくなるくらいお人好しで…優しく気高い心をお持ちの方なんです。救出に向かわせて頂けませんか?お願いします。」
エンデはいつかのように、再び絨毯に膝と手を付き、頭も絨毯に擦り付けるようにして懇願した。
「…その人物が拘束時になんらかの深刻な危害を加えられるという事か?」
「………」
身動きせず…質問にも答えようとしないエンデに、ただならぬ雰囲気を感じ、ウェスラーは思わずエンデの側に歩み寄る。
「おい…どうした…?」
言葉を掛けながら肩を揺さぶるウェスラーは、エンデの身体が小刻みに震えている事に気付く…
「エンデ…?…大丈夫か?とにかく、顔を上げろ…」
と、ウェスラーが言い終わるか否かのタイミングで顔を上げたエンデは…
「あんな…拷問より酷い…人の尊厳を奪うような…あんなに心の綺麗な人を…」
涙と怒りに歪んだ顔で、エンデは側にいるウェスラーを通り抜け…遠い所をひたすらに睨んでいた。
「……」
ここに来て、初めて見せるエンデの修羅の形相に、ウェスラーは圧倒される。
「始めは…私達に感情を見せない君をスカした奴と思った。だが…己れの信念や他人の為にそんなに熱くなれる男だったんだな…」
ここで初めて彼は、ウェスラーが心配そうに自分の身体を支え見つめている事に気付いてハッとする。
慌ててウェスラーに向き直り、先程の様に頭を絨毯に付けて懇願する。
「自分の置かれている立場も弁えず、無理なお願いをしている事は承知しているつもりです。僕は生涯あなたの力になると誓います。だから…」
あの人が心を壊してしまったら…周囲から心を閉ざしつつあるあの子は誰が救える?長老や側にいるあの子も、大きな悲しみを抱えたまま…この先に起こる様々な苦難に向き合わなければならない。
未だあの人を慕うあの国の民は多い。
あの人の悲劇は大きな損失となって、あの国の未来に深い影を落として行く…
再び…エンデの吸い込まれるような藍色の美しい瞳から涙が溢れて落ちる。
すると、
「…君は…その…タヨハという人物に惚れているのか?」
ウェスラーの口からあまりに意表を突いた質問が飛び出し、エンデは目を丸くし…
「え…?タヨハさんは男ですよ。」
「…長老の甥と言ってたからそれは分かってる。だが人間の嗜好はまぁ色々だから…いや…すまない。こんな事を聞くつもりじゃなかったが…君のその人物への思い入れの強さが凄くてな、つい…」
ウェスラーが…しどろもどろになって顔を赤らめている姿がなんだか可愛いくて、エンデの涙はすっかり引っ込んでしまった。
ウェスラーはかつて、自分を部下にして欲しいと懇願して来た少年が、後に彼に対して尊敬以外の恋慕の感情を抱いていた事が分かって対応に苦慮した経験があり…今のエンデと当時の少年を重ねて見てしまったようだった…
結局その少年は惚れっぽい性格だったようで、数年後のある訓練がきっかけで軍部の将校に気持ちが移り、ウェスラーの元を離れる事を悩んでいた少年を彼は快く送り出した。
ウェスラー自身は12年前に伴侶と死別し、その後は長いこと女っ気はなく…恋愛とは距離を置いている。
…彼の心は…良くも悪くも…今も亡くなった夫人から離れられないのだ。
「確かに…人は必ずしも異性に恋慕を抱くとは限らないようですね。でも僕は…今はそういうのはよく分からないですが、将来は年下の女性にそういう感情を抱くようです。そうですね…ある意味、僕はタヨハさんのお人柄には惚れています。加えて、確かに彼の容姿は美しいですが、ミアハの種族…特にセレスの民は結構な確率で美形な人が多いです。…まぁ…過去にはそれ故の他国からの誘拐も頻発していたようですしね…」
思いがけないウェスラーの可愛い反応に、ニヤニヤしてしまいそうになる意識を必死に逸らそうと、エンデはあえてシビアな話題を引き寄せた。
すると、ウェスラーの表情もスッと引き締まり、照れ出す前の空気感に戻った。
「…そうだな…我が国でも人権団体が素性が怪しいタレントはミアハ出身の子が多いと調査したりして一時問題になったな…摘発が続いて、今はその手の誘拐は激減しているようだが。」
…その手の誘拐は確かに減ってますが、ミアハの特性を取り込もうと繰り返してる人体実験の為の誘拐はあまり減ってませんが…
と返したいエンデだが、今はその議論で貴重な交渉時間を費やす訳にはいかず、グッと言葉を飲み込んで、
「そうですね…確かに。」
という反応にとどめた。
「…話を戻すが、君はかつてポウフ村を襲ったテロリストを一時的に匿った罪状を認めた上で、刑務所で刑に服す代わりに君の特殊能力を我が国に活かす契約を承諾したはずだが…それは分かって話しているか?」
ゆっくりと元のソファに戻りながら、ウェスラーはエンデとメクスム国政府で結んだ契約の話を蒸し返した。
…ありもしない罪を口実にして、実質ウェスラー個人とエンデの密約で、メクスム政府は預かり知らない件のようですけどね。
と、心の中で指摘しながらも…
「はい。」
とエンデは答えた。
ウェスラーは徐にお気に入りのタバコに火をつけ…点滴の針を腕に固定したままフラフラの状態で初めて直談判した時のように、感情の見えない表情で一服吸った。
「…恐らくだが…あの地域は我が国とユントーグの国境に面していてる為に今回の占領は両国で暗躍してるテロ組織も絡んでいると思う。つまり、それなりに情報を持ち戦闘の経験も経ている百戦錬磨の連中が中心になって事を起こしている可能性が高い。君が守りたいミアハの要人を政府との交渉用に人質として利用する気なのだろう。そんな手練れを相手に君1人が行って何が出来る?ここ最近、少し護身や武器の扱いを警備の連中に手解きしてもらったくらいの経験値ではすぐ捕まるか、問答無用で撃たれて命を落とすのが関の山だ。何より君は、ここでの服役期間をクリア出来ていない。…という事で、残念だが許可は出来ない。」
「……」
「………」
あからさまに落胆の表情を浮かべ、肩を落とし返事も出来ない様子のエンデを、ウェスラーもまた無言で、少しの間、視線の合わない彼を見つめていたが…
「すまないね…」
と言って立ち上がり、通り過ぎる際にエンデの肩を軽くポンと手を置いて、ウェスラーは腕時計をチラッと見ながら部屋を出て行った。
「…おい…もう用は済んだろ。」
と、いつの間にか背後に来ていた警備員のトバルは、床に座ったまま茫然自失の様子のエンデを見兼ね、彼の両脇に手を入れヒョイっと立たせて退室を促す。
「……」
自室まで誘導されても始終無反応で視線を合わせる様子もないエンデをとりあえずベッドに座らせ…トバルは軽く溜め息を吐いた。
そして、彼の正面に回り込み、視線に合う高さまで膝を折る。
「いいかエンデ、くれぐれもヤケを起こすなよ。身体を張って…あの方がじっくり話を聞いてくれるまでの信頼を得たんだろう?お前の目指す理想の為にも今は我慢の時だ。パシュケの問題は10年近く前から色々あってな…我が国の政府も対応に手を焼いているが…あの方も他国の…しかも畑違いの事に迂闊に手は出せないんだ。だからって、お前をみすみす無駄死にもさせたくない…あの方も難しい心境と俺は見ている。」
「……」
尚も視線を合わせようとしないエンデを困ったように見つめるトバル…
「お前も…結構…真っしぐらなんだよなぁ…」
トバルは意を決したように、エンデの両肩をガッと掴み、
「いいか…特別に教えてやる。とにかく、3日待ってみろ。」
「……え?…」
少し間を置いて、やっとエンデと目が合った事にトバルはホッとする。
「…ようやく俺の声が届いたか?これはここだけの話だ。誰にも言うなよ。さっきのあの方の[すまない]という言葉は、俺には[少し待て]と聞こえた。何か考えがある筈だ。あの方の少しは大体は2.3日という意味で使っている。とにかく…少し待ってみろ。いいな。」
「う…ん。」
トバルの真剣な眼差しに圧倒され、エンデはつい素に戻った口調で頷いてしまった。
そんな少年らしいエンデの口調にトバルは破顔し、
「そうか、俺の声は届いたな…周りに人がいない時は、俺にはタメ口でいいぞ。」
と言いながら、機嫌良さそうにエンデの両肩を軽く揉みながらグラグラと前後に揺すった。
「……」
目の前で気さくに笑うこのおじさんに、自分はどうやら気に入られてるらしい…
窮した時に、有り難くもエンデに手を差し伸べてくれる人は、どこか皆タイプが似ているようだ…
と思うエンデ…
そして、
かつてテウルがそうであったように…このトバルも…最愛の息子が誘拐され、長いこと消息が分からないままになっていて…エンデの事を息子や孫と重ねて見てくれたテウルのような温かい眼差しに気付き、気の緩みと共に複雑な感情が溢れて…
「…おい、どうした…」
気がつくと、エンデはトバルに抱きつき、泣き声を上げていた。
「ありがとう…うわ〜ん…」
今まで…テウルが亡くなってからずっと…しっかりしなくてはと気を張って来たモノが、トバルがテウルに重なって見えてしまった瞬間、火事から逃げのびた5歳の頃のエンデに戻ってしまっていた。
「……」
トバルはトバルで、エンデの様子に色々な思いが溢れ、幼児の様に泣きじゃくる彼をしっかり抱きしめていた。
「あの方はお前をきっと悪いようにはしない…安心しろ。俺も応援してやる。だが、ウェスラー様は自身から部下を見捨てたりしない代わりに裏切りは許さない方だ。それは忘れるんじゃないぞ。誠実に向き合えば、あの方は応えてくれる人だ。」
「…僕は部下じゃない…囚人でしょ…」
無邪気に泣きならも鋭く突っ込んで来るエンデに、
「あはは…まぁそうだな…。だが…お前の噂がここまで届いたという事は、いずれ時間の問題で他の様々な権力者にお前の能力は狙われていただろう。俺から見たら、最初に目をつけられたのがあの方で幸運だったと思うぞ。…お前ならいずれ分かると思うがな…」
トバルは真面目に答え…
「さあ今日はもう遅い…話はここまでだ。」
と、ポンポンと子供をあやすように背中を軽く叩いて、彼はゆっくり立ち上がる。
「……」
ひとしきり泣いて徐々に冷静になって来たエンデは、少し気恥ずかしそうにトバルに背を向け、
「今日は…色々と…ありがとうございました。」
と告げると…
トバルは思わず、再びエンデの正面に回り込み、
「だ〜からタメ口でって…、まぁ大泣きした後じゃ照れるか。お前…なんでも見えるみたいだけど…話してみて始めて気持ちが楽になる事もあるんだぞ。モヤモヤしてたら聞いてやるから…遠慮すんなよ。…じゃあな。」
と、ポンとエンデの頭に手を置いてトバルは部屋を出て行った。
「……」
エンデはふと絨毯の自分の影に気付き、窓の外に覗くように傾いた月を見つけ、窓辺に立つ。
「セジカ、サハ…今夜はなんだか無性に君達に会いたいよ。…でも今日はもう遅いから、明日の夜に飛んで行くね…おやすみ。」
今の一番の心配事は何も解決していないけれど…
ここに来て、初めて心を許して話せる人間が思いがけず出来た事が、こんなにも嬉しいとエンデは噛み締め…
優しい時間で一日を終われる事を、エンデは月に感謝した。
そして、
トバルの言う通り、確かに三日後に事態は動いた。