84 終わりと始まり
「ティテヌ様ぁ〜」
アイラとの会談を終え、彼のお見送りを済ませ踵を返したところでティテヌは光が差し込むのを感じ…
「ああ…良いタイミングで朝日が…」
と感慨に浸ろうとした瞬間にネヤラの呼ぶ声が…
あまり彼女らしくない…少し取り乱したような雰囲気でネヤラが自分に向かって駆けて来るのが見えた。
「どうしたの?こんな早朝に大声出したら…」
「み、水が…」
ネヤラの声のトーンを少し嗜めようとしたティテヌだったが…
「!…もしかして…?」
「そうです。とりあえずいつも通りの清掃作業に入ろうとしたら…とにかくいらして下さい。」
まだ少し興奮気味のネヤラに手を引かれ、ティテヌは言われるまま泉に向かう…
「…これは…」
「ね?…これで大急ぎでお呼びした理由がお分かりになりましたでしょう?」
「……」
泉は…再び湧き出していた。
滾滾と…虹色に輝く水が…
「…ああ…契約の子が無事に…」
ティテヌの頬には、あまりの美しさと…この美しい色彩の水が湧き出でた理由に思いを巡らせ…その紛れもない答えに至った感動により、涙が伝っていた。
「1つの時代が終わり、新しい始まりの証が…ここまで美しいとは…」
女神様が喜んでおられる証…
私は…禁を破り表の世界に口を出しました。
それは…正しかったと、思ってよろしいでしょうか…?
ティテヌは心を鎮めて問いかけたが…
泉は変わらず…美しい虹色の水を湛えているのだった。
「…ここは本当に不思議な場所ですね…」
授乳を終え、眠る赤子の隣で自分もウトウトと眠りに入ろうとしているヒカを見つめながら、エイメは呟く…
「ええ本当に…長く過ごせば過ごす程に…私達はまるで…この世に生まれ出でる前の胎内で過ごしているような気持ちになって行く感覚ですよね。だから…私は何も不安はないんです。」
ああ…フィナ先生は…
「…私と主人もです。…子供達はまだ…とても大きな決断ですからね。私達は子供達のそれぞれ出した結論を尊重するつもりではいます。けどね、先生…」
ここにいる皆は少しずつ感じ始めている。
大きな選択に悩む必要が無くなる日が来るのでは?という予感を…
「ええ…分かります。この子…リクシュ君は…やはり普通の子ではなかった。それが何か新しい始まりを感じさせますよね。」
フィナのこの言葉に、夫のリュシやトウやセランも頷く。
1カ月前…
ヒカが意識を取り戻した直後から、眠る彼女を守っていたドームは出産の為の部屋というような内部にガラッと変化し、その中で彼女は無事男児を産んだのだが…
フィナが赤子を取り上げた直後に、塔の周辺には青白く光る水が湧き出て、彼女達のいる頂上のすぐ際までその水位は達していた。
そんな中で、リンナが赤子を取り上げた直後のフィナを広場のある場所まで導いた。
フィナが誘われるままリンナの後に続くと、そこには小さな窪みがあって…
その窪みは塔の外側と同じ青白く発光する水に満たされていたのだ。
それはおそらく、その産まれたばかりの赤子の身体を清める為に出来た窪みで…
リンナがその子を中に入れろというリアクションをするので、フィナはそれに従った。
すると…
「あらあら…」
その赤子…リクシュの身体がその液体に肩まで浸かると、それまで青白かった液体の色がキラキラと虹色に輝き出したのだ。
その様子を見たフィナは、いつもの慣れた作業でありながら、この子の誕生は何か特殊と感じながらも、同時にワクワクして来る高揚感を少し楽しんでいたのだった。
湯浴み?のような作業を終えてすぐにフィナはリクシュを抱き上げ、身体を拭いて再びその窪みを見ると、それは跡形もなく消えていたのだった。
…しかも…
きれいに清められたリクシュの身体も彼を拭いたタオルも全く濡れておらず…
少しの間、リクシュの身体は虹色に輝いてすらいたのだ。
「…まるで魔法の世界にいるみたい…」
隣でフィナを手伝うセランも興奮気味で、目をキラキラさせながら呟いていた…
そう…この空間は本当に不思議な事だらけで…
ミアハの民の始まりの存在であるエルオ…
その存在はまずこのドームを作って後に我々の祖を産み出したとされていて…
この空間は多分…
女神エルオと、特別な時間の流れを形作っている青年…ヨハの意識下にあるのだと、この中にいる者は皆思い知らされている。
子を産み、乳をその子に与えるヒカを中心にして、この中の時間は流れていて…
その様子を見守る者達は皆、ヒカと赤子が世話を必要とする時以外はひたすら眠らされるのだ。
そして…
「…お邪魔します。様子はどうですか?赤ちゃんが無事に産まれたってリンナが知らせてくれたの。」
いつの間にか現れた2人の存在を知ると、微睡みの中にいた皆は覚醒する。
ヒカとリクシュに外部の人との適度な刺激が必要と判断すると、リンナは人を中に招き入れるようで…
「…お世話になっております…」
悲喜交々の複雑な心境の彼は、ぎこちない笑顔でリュシやフィナ達に挨拶をしたが…
無事に出産を終えたヒカと、その傍らでスヤスヤと眠るリクシュの姿を見た瞬間から、その表情は満面の笑みへと変化した。
「…私もとうとうおじいちゃんか…ヒカちゃんも無事で良かった…」
「あ、あの…」
実質、タヨハとは初めての対面となるヒカは、慌てて身体を起こし挨拶をしようとするが…クラクラして上手く起き上がれず…
「ああ、いいんだよ。無理せずそのままで…」
フラつく彼女を咄嗟に支え、そのまま彼女を寝かせようとするタヨハの顔をマジマジと見つめてしまうヒカ…
「……」
ヨハの父は間違いなくこの人だろうと思わせる程に、タヨハはヨハにそっくりで…ヒカはポロポロと涙を流す…
「ヒカちゃん…」
タヨハは驚きながらも、ヒカの涙の意味をなんとなく察し…
「…大丈夫。きっとあの子は目覚める…」
ヒカの頭を優しく撫でながら、タヨハは彼女に語りかける。
「…こんなに可愛い息子が生まれたんだから…」
そう言いながら、タヨハも視界が歪み…涙が溢れ出て来る。
「あの子も今は必死に頑張っている。だから君も…リクシュの為にも逞ましいお母さんになって欲しい。私達も応援している事を忘れないでね…」
「…はい。ありがとうございます…頑張ります。」
横になり涙を拭いながら応えるヒカ…
「…ヨハはパパそっくりだから…ヒカちゃんを刺激してしまったみたいね…ごめんなさい。でも実際、あの子はリクシュ君が生まれた事を意識のどこかで分かっているから…不安だとは思うけど待っていてあげて欲しいの。…多分、この子の3歳の誕生日が1つの節目になると思う。」
そう…このままだと1カ月以内にテイホ国はミアハへの総攻撃を始めてしまう…
だからこの子…リクシュは早く3歳にならなければならないのだ。
これは関係者だけが知り得るトップシークレットで…予定通りに行けば、ミアハを救えるかも知れない…本当に最後の切り札。
その為に前長老セダルとヨハは、命懸けの賭けに出たのだから…
「…でも…この子の名を聞いた時は本当に驚いたよ。あの子の願い通りに名付けてくれてありがとう。」
ヒカの頭を何度も撫でながら、タヨハはまた涙ぐむ…
「…きっと長老に聞いたのでしょうね。ヨハにしてはなかなかセンスある名前だと思うわ…ねぇ、リクシュちゃん。」
しんみりした空気にならないよう、タニアは意識して明るい雰囲気で眠るリクシュに話しかけながら、小さな小さな鼻をちょこんと撫でる。
リクシュはタヨハの父にあたる人の名で、優しく聡明な人だったと、かつてヨハは長老セダルから聞いた事があるらしく…
リクシュという言葉はミアハの古語で希望という意味も有るという…
「ル…いえ、ヨハさんからこの子へのプレゼントと思っています。ちゃんと考えて下さっていたのは、本当に嬉しかったです。」
ヒカは枕元に置いてあったやや古めかしい本に触れながら、言葉通り、嬉しそうに答えた。
あれは…あの本は、
ヒカが目覚めてから間もなくの頃に、事情を知ってかリンナはゼリスをヒカの元に連れて来て…
少し前にヨハから預かっていた、元々はヒカの参考書だった本を彼女に渡したのだった。
ヒカはすぐにそれを開いて見ると、一枚の栞がヒラリと落ち…
それが挟まっていたらしいページに目をやると、ヨハからヒカへのメッセージらしい文字が…
[ ヒカへ
生まれてくる赤ちゃんに名前のプレゼントをしたい。
もしヒカが心から気に入ってくれたなら、受け取って欲しい…
男の子だったらリクシュ。
これは僕の祖父の名前らしいんだ。
女の子だったら、ヒカのお祖母ちゃんの名前を…
家族って感じが良くて…勝手に決めてごめん。
僕はきっと目覚めてリクシュを抱き上げる。
そして次に、リクシュを抱っこしている君を抱きしめるんだ。
でももしも、もしもの時は、君と赤ちゃんの事だけを考えて生きて欲しい。
君の生活費の事は全てハンサさんに託してあるから聞いて。
これが、僕が今君に伝えたい全てだ。
幸せを祈る。
ヨハ ]
なんとも彼らしいというか…どちらかというと現実的な連絡事項の方が多い内容だが…
手紙とか買いたら?
とアドバイスしたのはタニアで…
その時の彼は、自分の感情的なモノを文章で伝えるのは苦手だと言った。
かつて長老がミアハの民をここに集めた際に、そこでたまたま会ったゼリスとの会話中に、彼女の記憶を通して見たヨハの文章は、彼にしては随分頑張った文章ではないかとタニアは思った。
文の中でハッキリと男の子の名前を書いているのは多分、タニアがお腹の子は男の子だと思うって言ったからなのだろう…
けどねぇ…
文章の最後の最後はイタダケないわよ、ヨハ…
あれじゃまるで…
「…でもタニアさん、あの方の一番の贈り物はなによりこの子です。それに…」
ヒカはあちこち葉の崩れかけた四葉のクローバーをラミネートで固定したような長方形の栞を、潤んだ目で見つめる。
これはこれで、2人の大切な思い出のモノなのだろう…
栞に加工したのは、どうやらヨハらしいが…
「私は信じています。あの方は…ヨハさんはきっと…いつかあそこから出て来てリクシュを抱いてくれるって。」
「私もよ。あいつは結構しぶといからね。私もライバルはいてこそ張り合いが持てるからね。なかなか起きて来なかったら、リクシュに叩き起こして貰おうか…」
「ふふ…そうですね。…でも…タニアさんとヨハさんは何のライバルなんですか?」
ここでやっと明るくなって来たヒカの表情にタニアは安心した。
「タニア……」
…けどまあ…昔は一度対決はしてるし…
タヨハを巡ってヤキモチ妬いてるのは彼自身も把握はしてるから、タヨハの表情が少し険しくなる…
「ん…内緒。パパが変な心配し出すから、この話はこれで終わりね。私はね、ヨハとは今は割と仲良い兄弟してると思ってるから…ヒカちゃんはあまり真剣にこの話は受けないで聞き流してね。」
「…私の知らないヨハさんの話を聞くのは楽しいですよ…」
確かに、ヒカは楽しそうに興味深々でタニアの話を聞いているようだった…
「…前も少し話したけど私は色々あって、あまりヨハとのエピソードは持っていないけど…思い出したらまた…あ、それなら…これからそういう話は割と持ってるうるさい男が来るから…」
「…うるさい男…ですか…?」
ヒカはあまりピンと来ていないようだったが、エイメの隣でさりげなくタニア達の会話を聞いていたセランが微妙に反応した。
「タニア、そろそろ…」
「ああ…はい。じゃあヒカちゃん…またね。」
タヨハに促されたタニアはヒカの頭に軽く触れ、そのまま離した手を振る。
続いてタヨハも、
「ヒカちゃん、君にはこんなに愛情深く接してくれるご家族がおられるが、何か困ったりしたら私達もいつでも相談に乗るつもりでいるからね。…ヨハにも言ったが…いつか3人で私達の暮らす村に遊びに来て欲しい…じゃあまたね…」
ヒカの肩に触れながらまた潤んで来る目でそう言って、タヨハは行こうとするが…
「はい、か、必ず…3人でお伺いします。」
ヒカは咄嗟にタヨハのその手を握り、再びポロポロと涙を流す…
「ヒカちゃん…」
…ここに来る前にセダルの変わり果てた姿に対面して来たタヨハは、ヒカの涙にどうにも共鳴してしまい、タヨハも涙が溢れて止まらないのだった…
いや、フィナやリュシ達も、タヨハの涙の意味を察し…さりげなく目頭を押さえていた。
まだセダルの死を知らないトウやセランも、ヒカやヨハの未来を憂い、彼等の涙が伝播して行く…
勿論、タニアも…
「パパ…パパの顔はヒカちゃんの感情を刺激してしまうから…もう行きましょう。」
涙を拭いながら、タヨハの服の裾を軽く引っ張るのだった。
勿論、今の皆の涙はヨハの為だけではない事は分かるから…タヨハがうっかり余計な事を口走ってヒカやトウ達の動揺させる状況を避けたいのもあった。
「…そうだね。では皆さん、お身体をご自愛下さい。またお会いしましょう…」
と、ヒカを軽くハグした後に身体を離しながらタヨハはそう告げて、リンナと共に2人は姿を消した。
「あら、嬉しい…来てくれたのね。」
「当然です。今の私達にはこんな事くらいしか出来ませんから…」
大きなお腹を抱えながら抱きつくマリュをタニアも抱きしめる。
「…順調なようだね…何よりです。」
タニアのすぐ後ろで、タヨハも安心したようにマリュを見る。
「…タヨハさんも…前よりお顔がふっくらされたようで…本当に良かったです。」
「…その節は親子共々ご迷惑をお掛けしました。私が今あるのは、エンデ君やマリュさん、そしてタニアや村の子供達のお陰です。」
タニアに何度殴られても怯まず世話をしてくれ、タヨハが悪夢に悩まされた時期も、マリュは深夜だろうが未明だろうが、いつも親身に対応してくれた。
更には、タニアがヌビラナに行っている期間も、マリュはタヨハが落ち込まないよう色々と気にかけてくれていたのだから…
「あなたは私達親子の恩人ですから…協力出来る事はなんでも言って下さいね。」
タヨハは真剣な顔でマリュに告げる。
「いや…これは私の我が儘ですから…こんな風に顔を見に来て下さっただけでも有り難い事です。外からの刺激は日の動きしかない日々ですから…」
マリュは窓の方を見つめながらお腹を軽く摩る…
マリュのいる場所は、長老が専用に使うプライベートルームの隣の部屋…
かつてそこは、長老の身の回りの世話をする為に部下が待機していた部屋だったが、エルオの丘のすぐ近くに研究所が出来た事で、そこからすぐに向かえる体制が出来て殆ど使う機会が無くなった秘密の部屋なのだ。
まあ、ハンサや元老院はその部屋の存在は普通に把握はしているが…
今回、ヒカが出産を無事に終えるまでは、長老の事と共にマリュの事はフィナとヒカの両親以外には伏せられているのだが…
いつの間にやら、マリュのいる部屋の隣りに少し大きめの部屋が出来ていて、どうやらヒカやその家族は今後は塔から上がり、その部屋で寝泊まりするらしい…
そして、マリュの部屋はいつの間にかフィナも泊まれるらしいスペースに広がっていて…ここでそのまま出産する流れのようなのだ。
「…でもね、とても居心地はいいの。ここは不思議な場所で…ずっといるとね、いつも意識は微睡んでいる感じでお腹も空かないし、身体の代謝もほぼないみたいで…身体が汚れて来ないしトイレの必要も出て来ないの。ずっといるとね…この岩に溶け込んでしまうような気持ちになって来るのよ…」
だから…
リクシュのような、まだ生まれたばかりの赤ちゃんがマナイの塔でずっと過ごすのはあまり良くないらしく…
まだこの世のエネルギーに慣れていない赤ちゃんの身体は、元の状態に戻ろうとして、マナイに吸収されてしまう恐れもあるようで…
近い未来にここに…マリュの隣りにヒカ達はやって来る。
「あの子…リクシュ君は、本当に独特です。マナイのエネルギーを受け取りながら、あの子自身が持っているエネルギーをマナイを通してエルオの丘全体に与えているようにして存在しています。マナイのエネルギーは、ヒカちゃんの母乳を通しても与えられているらしく…多分、ここに移動して来る時には、そのエネルギーも必要なくなっているという事なのでしょう…」
タニアは、今現在自分が見えている情報をタヨハとマリュに伝えた。
「…そう…でも…このタイミングでそういう特殊な子が生まれたという事は…どうしても、色々期待したくなってしまうわよね…」
「…多分…今ヒカちゃんの周囲にいる人達は皆どこかでそう思っていると思います。あの子に変なプレッシャーを与えたくなくて、あえて言わないだけで…」
「…そう……そんな子の近い空間で、私は出産させてもらえるのね…リクシュ君の力になれるような子になったらいいなぁ…」
マリュは少し期待を込めるように、またお腹を優しく摩る…
と…
「あら、蹴ったわ…この子ったら…返事をしてるつもりかしら。ねえ…もしそうならママも応援するわ。」
マリュは嬉しそうに話しかけながら、お腹を摩り続ける…
「ええきっと…この子はリクシュ君の心強い味方になります。2人は安定した絆を築いて行くでしょう…」
そう…おそらくこれは女神のお導き…
意味なくリクシュの側に人は置かないだろう…
「…そう…長いことセダル様にお願いし続けた甲斐があったわ…」
摩る手を止め、涙を流しながらマリュはタニアを見た。
「…マリュさんの出産は、謎のベールに包まれながらも良い呼び水となると思います。多分、セレスの女性だけでなく男性にとっても…ハンサさんだってきっと…」
「……」
タニアは思わず口を滑らせハッとマリュを見る…
「ハンサさんは関係ないわ。プライベートな事はもうとうに終わっているのだから…きっと彼はしばらく私の事なんて思い出す余裕もないでしょう。でも…私の事でセレスの人達が刺激を受けてくれたなら…もっと希望を持って生きられたなら、それは巡り巡ってミアハの為になれたらいいなって思うの。そういう意味でハンサさんが喜んでくれたら…私はそれで充分…」
「……」
…そう言いながら…
少し前におじさんからかけて来た通話のやり取りを、宝物のように大切にしているくせに…
彼がお腹の子の父親の事を、少しでも気にしてくれたらいいと思っているくせに…
でも、
この人はおじさんを少しもあてにしていなくて…
実子の出産を、アムナとしての新た出発点と捉えている…
とても逞しい人。
でも、その心の中を見てしまったら…切なさにこちらまで胸が締め付けられる…
ああ…つくづく厄介な2人。
でも、これからおじさんはきっと…
込み上げて来る切なさを必死で飲み込み、タニアは…
「…マリュさんのやろうとしている事は、きっとセレスだけじゃなく、ミアハ全体の人達やポウフ村の人にとっても良い刺激になって行くかも知れません。身を削る思いで子育てする親と、アムナのように未来の為に皆で子供を見守る視点は、両方あれば素晴らしいと思いますから…」
「…あなたはなんでも見えちゃうんだものね…ありがとう。ただの理想で萎まないよう私も一生懸命頑張るわ。」
「…全力で応援します。」
「君は恩人だが…私には娘みたいな存在でもあるんだ。孫のような存在に会える日を楽しみにしているよ。…ポウフ村もどんどん賑やかになるね。この後はきっとタニアだろうし…」
途中からスッとタヨハが会話に割り込んで来て、チラッとタニアを横目で見る…
「え?そうなの…?エンデ君とかな?まあ仲良いからそんな予感はあったけど…」
「え、あの…まだお互いの気持ちを確認したばかりで、その…」
「え?いつもイチャイチャしてるんだから…早く結婚すればいいじゃないか。僕はとにかく早く君が産んだ孫をあやしたいんだから…」
慌ててしどろもどろで説明するタニアを気にせず、タヨハはまた孫の催促をして来る。
「もう、勝手にベラベラ話さないで。…私達も色々考えているんだから…あ、リンナ、そろそろお願い。」
「え?なんだよ…話の途中じゃないか。」
「パパのせいでしょ。ま、マリュさん…じゃあまた…」
タニアがタヨハの口を塞ぎながら、マリュに向かって手を振ったところでリンナが現れた。
「ふふ…もう少し2人のやり取りを見ていたかったわ…うん、またね。」
マリュが苦笑しながらそう言い終えるかどうかの瞬間に、タニア達は消えた…




