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77 誕生日の前


「嬢ちゃん…こういうワガママはもう…これきりな。何かあったら…」


家を出発した時とほぼ同じ事をトバルからコソッと耳打ちされ…


「分かっています。ええ…ワガママを聞いてくれたトバルさんには本当に感謝してますから…」


…テイホ国はここ最近、小国ミアハに対して非常に敵対的な姿勢を崩さず…ミアハ国と結構親密なウェスラーがメクスム国の政治のトップに立った事で、元々そんな彼を煙たがっていたテイホの元首であるグエン氏が何か嫌がらせを画策しているような動きを察知したアイラの持つ組織の情報によって、最近イトリアの外出にも厳重な警護が付くようになったのだが…


「こんな事を頼めるのはトバルさんしかいないんだもの…本当にありがとう。」


「嬢ちゃんの気持ちは分かるが…ボスの耳にこれが入ったらなぁ…」


パパにバレないよう、トバルさん達は色々頑張ってくれたが…バレたら私より怒られる事を想像してるんだろな…


…ごめんなさい……


後でこの埋め合わせは必ずしますから…


パパの長年の夢の実現のお祝いのプレゼントは、どうしても自分の足でお店に行って実物を見て選びたかった…


私の頑なさでパパにはずっと辛い思いをさせてしまったし…


今、斜め後ろで溜め息を付いているトバルには、かなり頼み込んでの外出なのだ。


予め色々と調べ…自宅からなるべく近場で探したターゲットのお店に直行し、購入次第すぐ帰宅する約束で、トバルだけの護衛で買い物しているイトリア…


実は…買う予定の物はウェスラーのプレゼントだけではなかった。


あと1週間もすれば私は20歳の誕生日が来る…


果たしてデュンレはかつての約束通りに私に告白をしてくれるかが…


今のイトリアはかなり不安なのだった。


なぜなら、現在のウェスラーの立場や知名度が今までとは格段に変わってしまった事で、秘書である彼の仕事量も激増してしまっていて…


ここ2週間以上は官邸に入り浸りの彼とは顔も見ていない状況で…


あまり邪魔にならないようにと、イトリアが1日に1度だけ寝る前に彼にメッセージを送っても、返信が帰って来たのは5日前の1度だけ…


環境の変化で気持ちも変わるとかのクラスメイトの話を聞くと…イトリアは更に不安になって来ていた。


だから…


もしもデュンレがあの約束を忘れていたなら…私の事はそれだけの存在として諦める覚悟も出来ている。


そして、その1ヶ月後にデュンレの誕生日がやって来るのだが…その時の自分のテンションがどうなっているか分からないし…


なにより、きっと次回も同様にプレゼントは気ままに買いには行けないだろうから…


今日はせっかくだからパパとデュンレのプレゼントを一緒に買うつもりで来たのだ。


「……よし、決めた。」


デザインこそ違うが、これから人前に出る機会も増えて行くだろう2人には、イトリアはネクタイを買うことにし…


悩むこと30分で決断して、それぞれのネクタイをプレゼント用に包装してもらい…


にこやかに店員に見送られながら、イトリアは足早にお店を後にした。


出るとすぐ目の前に、既に車は待機していて、


少し距離を取って歩いたいたトバルが、すぐに車までの動線をイトリアに寄り添って歩き始め、彼女を先に乗せようとドアを素早く開けた時…


それは起きた。


「痛っ……?」


イトリアの額に痛みと共に衝撃が走り、同時に赤い液体が飛び散るのが見えて…


もう1つの小さな衝撃がすぐ側のドアにあったような気がしたが…


次の瞬間に世界は真っ暗になり…


彼女は倒れた。


「嬢ちゃん!!」


トバルは悲鳴の様な声を上げ、イトリアを庇うように覆い被さる。


だがその後はもう…何も飛んで来る気配はなく…


直後にトバルは、イトリアを庇ったまま手に持っていた小さなスイッチを押した。


と、


イトリア達と車の辺りの空間が歪んで行くように見えて来て…


「大丈夫でしたか〜」


という声と共に、四方から5人の男が彼等の所に駆け寄って来た。


「大丈夫ではないわ!…クソ…意識が戻らない…とにかく、救急車を待つくらいなら、このまま病院へ向かう。」


トバルはイトリアの額の傷口と脈を確認しながら男達に凄い形相で怒鳴り、グッタリしている彼女を運転手の男と一緒に車に乗せ、そのまま急発進で行ってしまった。


「……」


唖然としている男達の中の1人のイヤーフォーンが唐突に震えた。


「あ、今…額に傷を負ったイトリアさんを…」


と男が通話の相手に慌てて報告しようすると、


「え……?………はい、分かりました…」


話を聞いている内に、通話中の男は徐々に眉間に皺をよせて来て…通話を切ると、


「…とりあえず2人はあの車の警護に付き、後の3人はそのまま大至急駅へ行けと指示があった。」


指示の意味がイマイチよく分からない…という表情をしながら男はそのまま皆に伝える…


「イトリアさん達の警護は2人でいいのか?」


「…彼女は大丈夫だから、慌てて事故らないようにと今からトバルさん達へ伝えるから、とにかく2人は病院に着くまで見守ってくれって…」


そして、


微妙に首を傾げながら男は、


「彼女達は車で逃げた方を追ってるから、俺達の残り3人は駅に逃げた黒っぽい服とグレーの服の2人組の男達を尾行しろって…3番線15時発のエストラ行きに乗る前に、その2人組はトイレでそれぞれ白と黄色のTシャツにジーンズ姿に着替え、白はサングラス、黄色は途中で音楽を聞きだして終点のレブントで空港行きの列車に乗り換えるから見失うなって……まあ、とにかくこちらも急ごう…」


という、独特な指示を伝えた男は、急いで病院組と駅の尾行組に分け、時々首を何度か傾げながらも指示に従ったのだった…





「…ちゃんと見えたでしょう?アイツよ。」


イトリアが撃たれたお店から約50m近く離れた地点を運転しながら、つい今しがたまであるカフェの2階の通り沿いにいた男の事を、ヨルアは後部座席で双眼鏡を外したばかりのラフェンに問いかける。


「……」


真っ青な顔をして無言で固まってしまっているラフェン…


「ラフェンさん…大丈夫ですか?」


隣から心配そうに話しかけて来るマリンの声にも全く反応せず…


「…イトリアは本当に無事なんですよね…?」


若干、責めるような口調でヨルアに問いかけるラフェンを隣で見ていて…マリンは徐々に複雑な表情になって行く…


「…もう3度目ね、似たような質問…彼女に当てたのは赤い液体入りの特殊なゴム弾だってば。2人組がビルから撃って来たヤツは、私とタニアちゃんがしっかり軌道を曲げてドアと縁石の辺りに逸らしたから…それは私も確認してる。でもあんたの今日の役目はここで終わりだから、なんなら後はソフィア達に任せてあの子の病院へ行く?今はもう到着してて、一時的に失神状態になった手当を受けてるみたいだけど…1時間もしないうちに目を覚ますと思うわよ。」


「…そうして下さい…」


「あ、でも言っとくけど、例の秘書が30分後に病院に飛び込んで来るけどね。ウェスラーさんは会談中だからすぐには動けないけど…でも1時間後には病室にいるわね。…それでも行く?」


ヨルアはちょっと面白そうに、ルームミラー越しにラフェンに尋ねる。


「…イトリアは…僕の為にこんな…命を張ったような協力をしてくれたのですから…大切な友人の無事はこの目で確認させて下さい。」


ヨルアはルームミラー越しに隣のマリンの様子も見て…


「まあ…いいけどね…」


と、ソフィアに連絡する為に耳をいじりながら、ヨルアは車を病院へと方向転換をした。






…ん…?何…?


「…はあんまりですよ。こんな危険な事…一歩間違えたら…この子は死んでいたかも知れないんですよ。」


「すまない…何も言い訳は出来ないよ…」


「トバルさんを責めないで下さい。立ち話を彼女に聞かれてしまった僕のミスです。」


聞き慣れた声が聞こえるけど…喧嘩してる?


「私は責任論を言ってるんじゃない。まずはリスクから遠ざける努力をして頂きたいって言っているのです。…トバルさんともあろう方が…ラフェン、君も君だよ。」


…違う…約1名が怒り狂っているだけ…


…トバルさんも…ラフェンも悪くない…


自分の提案を…ごり押しした私が全て悪い…のに…


この男は何を偉そうに…


…なんか…腹が立つわ…


こんな時ばっかり…


「…う…違うの…」


ああ…まだ呂律がよく…


だが、イトリアの声に3人の会話はピタっと止まり、意識が彼女へと集中して行く…


「イトリアさん。」


トバルとラフェンを押し退けたデュンレは、イトリアの方へ瞬間移動する。


「…私は…無事だし…2人は悪くな…の…」


自分にに向かって必死に話すイトリアに、デュンレは微かに目を潤ませながら…


「無理して喋らなくていいです。…ええ、あなたにも後でたっぷりお説教はします。だが…それとは別の話で、彼等2人の責任は重い…然るべき処分は仕方ない。」


…処分…?


誰が……誰に…?


ああ…なんだか本当に…


頭にきた。


湧き上がって来る怒りのお陰で意識が急激にクリアになり、イトリアは枕元にいるデュンレの腕を掴み…


「…私は大丈夫です。トバルさん、ラフェン…今日は私のワガママに付き合って下さり、本当にありがとう。…私はこの人と折り入って話しがしたいので…ちょっと2人きりにして頂けますか?」


2人きり…


「……」


ラフェンはイトリアのこの言葉に胸がツキンと痛んだが…何より、あんなに怒りのオーラを出している彼女を見た事がなく…彼女の発しているエネルギーの強さに圧倒されていた…


「あ、ああ分かったよ。じゃあ俺達は一旦廊下に出ているな。…行こう、ラフェン。」


ただならぬ空気を察したトバルはラフェンに軽く目配せをし、2人は退室した。




「…罰は私だけ受ければいい話よ。デュンレ、あなたに彼等をどうこう言える資格はないと思うの。…この件を事前に知ってるハズのあなたには何も言えないと思う。お騒がせしてごめんなさい。私は大丈夫だから、もう帰って下さい。」


「…?…仰っている意味が良く…もう少し休まれてからお話しを…」


「私は大丈夫って言ってるでしょ!…あなたの優先順位はよく分かったから…帰って…」


「……」


…こんなに怒っている彼女を見るのは2度目だな…何なんだ?一体…


「とにかく、イトリアさんの無事が確認出来て安堵はしていますが…あなたが怒っている理由をちゃんとお話し頂けるまでは帰りません。」


「お話し…そうね、目を通しておられないようだから口頭で…」


落胆したような表情を浮かべながらイトリアは苦笑し、睨むようにデュンレを見た。


「私は…あなたを殆ど見かけなくなってから毎日、寝る前に一言だけのメッセージを送っていたけれど、その中で今までに2度だけ…あなたに長めのメッセージを送ったわ。パパは本当に信頼出来る人との折り入った話は自宅でするから…パパとあなたとはすれ違いになってしまったけど、まだ残ってトバルさんと話し込んでいたアイラさんを見かけて…フェリアさんに関する話を聞いてしまったので、1度目はフェリアさんに関する情報を…」


「ああ…それは覚えている…君からのメッセージにはちゃんと目を通しているよ。…返信を返していなくて申し訳ないが…」


「……」


嘘つき…


私に関する記憶なんて、そんなに曖昧になって行っているのね。


その時だけは…ありがとうと…一言だけだったけれど、あなたは返信をくれたのよ…


「2度目の長いメッセージは、前半はあなたの体調を心配する内容だったわね。だけど後半は…たまたまトバルさんに会いに来ていたエンデという人を、学校から帰ったばかりの私が初めて見かけて…その後にラフェンとカシルという人も来て…エンデという人にフェリアさんの事を聞いて見ようと話しかけるタイミングを伺っていたら、なんだかとても興味深い話をしていて…それが、今回の作戦を私が申し出た大きなきっかけになったの。それで、その作戦の話を相談したくて…メッセージの後半にその件を書いて送ったのよ。返信は全くなかったから、作戦は私のごり押しで実行させてもらったけれど…」


「……」


なんて事だ…


イトリアからのメッセージはいつも「おやすみなさい」とか「お仕事お疲れ様」とかの一言メッセージが殆どで…


その2度目の長いメッセージは見ている途中で寝落ちして…あの時は多分…そのまま全部読んだ気になってしまっていたのだ。


「…ごめん…読んでる途中で寝落ちしていたと思う…」


デュンレはそう言って、申し訳なさそうに項垂れた…


「…仕方ないわ。私の気ままなメッセージだから…多忙なあなたを責めたいとは思わない。だから、彼等を責めないで。罰なら彼等の分まで私が受けるつもりだから…」


「……」


「…心配かけてしまった事はちゃんと反省しています。この作戦に付き合ってくれた人達の為に言うべき事は言えたから…もう気が済んだ。引き止めてごめんなさい。どうかもうお仕事に戻って…」


「…イトリアさん…」


…なんだろう…


冷静さとはまた違う…イトリアが発する何か冷ややかなモノを感じ…


デュンレは無性に焦りを感じていた。


「…あなたからのメッセージは…正直、頂ける事は嬉しいんです。ただ…言い訳になってしまいますが、ここ1週間はあまり寝ていなくて…それはあの方も似たり寄ったりの状況です。そんな時に…このような無茶な行動はやはりダメです。何かのタイミングがずれていたら死んでいた可能性が高い作戦なんて…絶対に…ウェスラー様に無断でやる事ではないんです。メッセージを見落としてしまっていた事は謝ります。けれど…」


「そうね…ごめんなさい。もう2度と…パパを無駄に心配させるような事はしないわ。協力して下さった人達にはこれから1人1人、私から直接謝ります。だから…私はもう大丈夫だから…仕事に戻って…」


「……」


何か距離を感じさせる…どこか噛み合わない会話…


「イトリアさん…僕は…」


「…途中で仕事を抜けてまで私の無事を確認しに来てくれたのよね…ありがとう。これ以上あなた迷惑をかけたくないわ。」


「……」


遠回しに帰れと言っているような…作り笑顔…


「…じゃあ…失礼します。」


途中から…自分の言葉が全て空気のように、イトリアの中を通過していくような…


やるせないモノに満たされたまま…デュンレは部屋を出た。


「デュンレ…ちょっといいか?」


病室のすぐ脇に待ち構えていたように立っていたトバルに肩を組まれながら、デュンレはそのまま数メートル先まで半強制的に連れて行かれる。


「え…と、あの、ラフェン君は?」


やや困惑するデュンレだが、あえて逆らわず…ラフェンの姿がない事をトバルに尋ねる。


「ああ、アイツは嬢ちゃんの無事を確認に来ただけだから、待たせてる人がいるって帰ったよ。…まあ奴の事はいい。これを見な。」


トバルはここで組んでいた腕を離し、反対の手に掛けていた紙袋を開いてデュンレに見せる。


紙袋は一部ゴム弾の血糊で汚れていたが、中味は…色はちょっと渋いが、上品なデザインの包装紙に包まれているプレゼント包装の箱らしいモノが2つ…きれいに並んで収まっていた。


「……」


「嬢ちゃんはボスのお祝いを買いたいと俺にせがんで来たんだ。作戦も目的の1つだが…コレを自分で選んで買う為の口実が欲しかったんじゃねえかな…。1つはボスのだと思うが、もう1つは…ほら、バースデーカードが挟まってるだろ?お前…来月辺りが誕生日じゃなかったか…?」


「……」


「嬢ちゃんはボスの事を喜んではいるが…ボスもお前も留守が増えたから…寂しいんだと思う。なんとなくさ…最近は元気ないんだ。さっきメッセージの話をしてたろ?」


「やっぱり…立ち聞きしてたんですね。」


呆れたようにトバルを見るデュンレだが、


「まあまあ、最後まで聞いてくれ…最近、1度だけ…嬢ちゃんが嬉しそうにしていた日があったんだよ。今日はやけにご機嫌だなぁって言ったら、お前からメッセージの返事が来たと…笑って言ってたんだ。」


「…!…」


「…それに…あの子はもうすぐ誕生日だ。その…あんまり顔を合わせてないから…あの子も不安なんだよ。忙しいのは分かるが…せめて1日1回…いや2日に1度でいいから、お前からメッセージを送ってやれ。」


「……」


…この人は…


トバルは…ここ最近はライアンやエマが彼と同じフロアに避難して来ていて…ウェスラーの配慮でその2人の警護に付くことが殆どで…


イトリアと顔を合わせる機会も多いのだろう…


「…そうですね…善処します。ご忠告をありがとうございます。」


そう言ってデュンレは、トバルに軽く頭を下げてエレベーターの方へ歩き出した。


「…なぁデュンレ…」


「なんです?…まだ何か?」


デュンレは振り返らずに立ち止まる。


「…お前は分かってるとは思うが…このままあの子を放置しておくと、想いが強い分、お前に対しては心を閉ざしてしまうかも知れない。いい子なんだが意固地な面があるからな。だが、お前がここから仕事を優先して行きたいなら良い機会ともなる。ラフェンもまだ割り切れている雰囲気ではなかったし…」


「……」


もう…


「………」


もう、このオヤジは…


デュンレは急に踵を返して歩き出す…


イトリアのいる病室の方へ早足で向かい…


途中、トバルをすり抜ける際に彼は…


「例え心を閉ざしても、僕にはあの子しかいないんですよ!」


と、悲壮感漂う表情で吐き捨てるように言い…


病室に飛び込んで行く。


「イトリアさん!」


「え…?…デュンレ…なかなか出て来ないと思ったら…まだいたの?」


病室の窓際に立っていたイトリアは、デュンレのトリッキーな再登場に驚いていた。


ああ…


君はそこから病院を出る僕を見送ろうと…?


ああもう…君って子はまったく。


デュンレは走り出し…


呆気に取られているイトリアを思い切り抱きしめていた。


「あ、あの…」


戸惑ってはいるようだが、抵抗の気配はない。


「…本当はね…君の誕生日には丸一日休みたかったから…最近はより頑張って仕事を片付けていたんだ。サプライズも色々考えていたんだよ。なのに今日の君は…僕をこんなにも不安にさせるから…」


「……」


イトリアは何も言わず…ゆっくりと両手をデュンレの背中に回し…


「…ごめんなさい…」


泣きそうな声でそう呟いた。


「…来週の…君の誕生日に大切な話をしたいから…予定を空けておいてくれるかな…?」


抱きしめたままデュンレが頼むと、


「…もちろん…楽しみにしてるわ。」


イトリアは顔上げ、涙に濡れた目でデュンレを見つめながら答えた。


「ああやっと…君の本物の笑顔が見れた…」


そう言って笑ったデュンレの瞳も、微かに涙に潤んでいた…




「…ったく…世話の焼ける…」


病室のドアのすぐ側に腕を組んでもたれ掛かりながら、向こうから必死の形相で廊下を小走りでやってくるウェスラーの姿を確認し…トバルはニンマリと満足そうに笑むのだった。





「…なぁんだ…やっぱりね…」


病院の斜め向かいのビルの一室から双眼鏡で窓際に立っていたイトリアを確認し、男は呟く…


「だけどまあ……ただの脅しと違うって分かって、多少のプレッシャーにはなってるよな…なぁ、ジェイ?」


「……」


「あ〜らら…なんかノリが良くないね…」


「まぁ…若干のトラウマですよ…」


「ああ赤毛の…随分と元気そうだったなぁ…まだ近くにいるし。」


「え…?」


青ざめるジェイとは対照的に、相変わらず窓際に立ち父親らしき男と話をしているイトリアを終始ニヤニヤしながら見つめている黒服の男は…


「やっぱり…狙うならあの男でしょ…」


そう言ってカーテンを閉め、誰ぞに指示を出すべく…


男は耳の辺りをいじり始めた。






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