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74 救出と作戦会議と淡く芽生えるモノ


「…?」


重い鉄製のドアが開く音がした。


時間帯的にこれは食事を届けに来る看守の足音…のはずだが…


いつもと違う足音と…気配…


あれは…


「?!」


それよりも、なんだ?この血の匂いは…


[[私は大丈夫]]


その心の声と共にトレイを持った男が姿を見せた。


[[…ノシュカさん…どうしてあなたがこんな所へ…]]


「食事だ。」


若干、顔色の悪い男は、声なき会話とは全く関係ない言葉を発し、鉄格子の下部分の平たい枠の鍵を開けて、貧相な食事の載っているトレイをバフェムの方へ押し込んだ。


「残さず食べろよ。」


[[監視カメラを意識して喋るからな。こっちの会話に集中してくれ。端にあるブルーベリー以外は食べるな。毒入りだ]]


ノシュカは再び発している言葉とは違うメッセージをバフェムに送る…


「…どうも…」


[[ノシュカさん…脇腹…]]


トレイを受け取りながらバフェムは心配そうにノシュカを見る。


「……」


ノシュカは苦笑する。


[[少々油断してしまってね…私は大丈夫だ。君も人の心配をしている状況ではない。時間があまりない…とにかくそのブルーベリーをすぐ食べろ]]


と…


ノシュカが伝えるべき情報を全てバフェムに残すと、カチッとバフェムの背後で微かな音がした。


「?…」


バフェムが反射的に振り返ると、鉄格子付きの窓の鍵がスルッとひとりでに外れて窓が開き…


「え…?」


[[よ、妖精…?あ……]]


そうだ…コイツは見覚えが…


[[コイツじゃない。リンナよ!これからあなたの恩人になる存在なんだから、名前は覚えてあげてね!]]


「え?…」


更に少し離れた壁の向こうから女性の声が唐突に頭に響いて来て、トリッキーな現象の連続に少し混乱し始めたバフェムたったが…


この声もなんだか覚えが…


「あ…」


[[そうか、診療所の時の…]]


と、頭に響いて来る声の主をふと思い出し、再びノシュカに視線を戻すと…


[[いいからブルーベリーを食べろ。くれぐれもそれ以外は手をつけるなよ]]


そう伝えるノシュカの上をリンナも早く食べろと言わんばかりに旋回しながら飛び回る。


「……」


とにかく、言われるがままバフェムは1粒だけ不自然にトレイに置かれていたブルーベリーを口に放り込む…


[[あ、甘い…凄く甘いですね…]]


バフェムが率直な感想を伝えると、


[[…その実は解毒の力もあるらしい…君は今日の食事を食べていたら秒で心停止する予定だった。この食事の中に入れた薬が猛毒に変化するよう、2日前から微量の違う種類の薬剤がずっと食事に混ぜられていたんだ]]


後日もしも遺体を調べられたら、食べ合わせの偶然の事故とかで言い訳するつもりだったか…?


ノシュカが簡単な説明をしているうちに、4.5人のこの建物の関係者らしき気配が近付いて来るのがバフェムには分かった。


急に周囲の気配を伺い始めたバフェムの様子にノシュカは気付き、


[[…おそらく、君の遺体を運び出す役目の奴等だろう…彼等は私が倒した看守を見つけたら速攻で雪崩れ込んで来る。急ごう]]


ノシュカが彼の真上を飛んでいたリンナに合図すると、少し下降して2人の間をすり抜けるように飛び…


リンナの身体が次第に透け始めたタイミングで、入り口の方から男達の怒鳴り声と共に建物のドアをガンガン乱暴に叩く音がし始めた。


その音を確認すると、もうかなり身体が透けて来たノシュカは、


「入って来る時に一応、鍵穴を塞いだのでね…多少の時間稼ぎにはなったね。」


と言いながらフッと微笑んで、消えてしまった。


「グッジョブです。」


と、ノシュカを称えながらバフェムも直後に消えた。




「やあ、いらっしゃい。」


一瞬だったのか、長い時間が経っていたのか…


よく分からないが、ふと気が付くとノシュカとバフェムの2人は全く見覚えのない木の下に座り込んでいた。


「ここ…どこですか…?」


2人のすぐ側に立って、にこやかに彼等に挨拶をして来た少年にノシュカは尋ねた。


「ここはミアハの、レノというコロニーの中の僕の家の庭です。ノシュカさんは初めましてですね。僕はトウといいます。タニアさんから事情は大体伺ってます。」


「ミアハ…?…凄いな…本当にタニアさんの言っていた通りになった…」


立ち上がったノシュカが感心しながら周囲を見渡し、再び視線をトウに戻すと…


いつの間にかリンナがトウの頭の上にいて、寛ぎモードになっているのが見えた。


「リンナ、ありがとう。君は本当に凄いね…」


ノシュカの言葉にちょっとドヤ顔になったリンナだったが、ハッとして飛び上がってトウに耳打ちをする。


「…ノシュカさん…お腹に怪我をされているんですね?バフェムさんの身体も…拷問のダメージや栄養失調の影響があるってリンナが…今、父を呼びますので、まずは病院へ行きましょう。」


ややグッタリしているバフェムさんを、ノシュカとトウで支えて起こし…そのままトウが家の中へ家族を呼びに行こうとすると、ノシュカはハッとしたようにトウの腕を掴む。


「タニアさん達は…無事ですか?」


ノシュカの問いにトウは苦笑し…


「あの人達は…まあ大丈夫でしょう。彼女達自体が強いし、強力な装備や人も貸してもらってますからね。」


トウの言葉にリンナもうんうんと頷く。


「それにほら…リンナが余裕でここにいるって事は大丈夫という印です。今のリンナの力では2人の人間を連れての移動が限界ではありますが…そもそもあの人達が本当に危機に陥る可能性があったら、この形の作戦にリンナは協力してませんから…」


その説明にリンナはまたうんうんと、深く頷いた。


その後…


リンナの力でノシュカの刺された傷は一応止血は施されてはいたが、割と傷は深かった為にティリの大きな病院へと移され、バフェムも今日まで体内に入れられた薬品を調べる為に、2人とも同じ病院へと移されたのだった。





「ヨルア…」


深夜にひっそりとブレムの病室に入って来た娘を、彼は待ち構えていたかのようにその名を呼ぶ。


「あ…起こしちゃったかな?…ごめんね…」


「そんな事は…」


何か…娘のぎこちない言い方に、ブレムの中ではなんとも言えない不安が広がって行く…


「療養中の私が深夜に目が覚めようとも、そんな事は全然問題ではないよ。君は…毎晩のようにコソコソと…私の目を盗んで何をやっているんだ?」


…これはいつか分かる事だから…言ってもいいよね…?


「…今…テイホ政府がかなりミアハに対して攻撃的になって来ているから…その件で私も協力出来る事がありそうだから、アイラさんの所へ時々行っているの。作戦に関しては、今回はケントさんやカシル達も全面的に協力してくれているから、綿密な計画で…エンデさんを介してメクスムのウェスラーさんも部分的にフォローもしてくれるらしいから、抜かりなく実行する為に皆んなで力を合わせているの。決して無茶はしないから…そんな顔をしないで…」


実際はもう既に部分的に動き始めてはいて…結構ヤバい相手に近付きつつはあるのだが…それはパパには言えない。


「…メクスム?ケントさん…?君らは一体何をしようとしているんだ?そんな人達まで引っ張り込む作戦というのは、それだけ危険か大掛かりなモノという事じゃないか?……ヨルア…」


不意にヨルアの手はブレムに掴まれ、グィッと彼の方へと引っ張られた。


「え…?」


そのままヨルアの身体はブレムの胸の中に…


そして強く、強く抱きしめられていた。


「頼む…君に何かあったら私は…」


「……」


ブレムの声は震えていて…ヨルアも胸が詰まって、何も言えなくてなってしまう…


「…アイラさんには私から話してみる。だからもう…お願いだから…危険な事には首を突っ込まないでくれ…」


「………違うのよ…パパ…心配かけてごめんね。だけど私は能力者だから…テイホ政府の考え方が変わらない限り、私はパパの仕事のお手伝いに専念出来ないどころか…政府の理不尽な指令から逃げ回って生きなければならないの。だからその為に…今はアイラさんが中心となって動いてくれているから…私は手伝わなくちゃならないの。自分のこれからの事の為だから…今頑張らないとね。上手く行けば今月にはある程度の変革の道筋が見えて来るかも知れないわ。だから…どうか心配し過ぎないで…」


ブレムを抱きしめ返しながら、心配がじんわり伝わって来る彼の腕の中で、今の幸せに泣きそうになる自分を必死に抑えながら説明を続けるヨルアだった…





「…僕…ですか…?」


怒ったヨルアさんと1対1になった時も怖かったけれど…


いくらなんでも…これはちょっと怖い。


「ごめんね…でも君しかいないの…」


ラフェンに向かってすまなそうに手を合わせて懇願するタニアと…


「アレを放置してたら…またいずれたくさんの犠牲者が出て来るのよ。アンタの尊敬する人やその家族がこの先ターゲットになる可能性も低くはないの。グエンの大嫌いな人間がメクスムの顔になってしまったんだから…分かるでしょう?…ラフェンの事は私達が全力で守るし、お願いを聞いてくれたらレベンの事はなんとかしてあげるから…」


軽い脅しと駆け引きを持ち出して来るヨルアの、色々強力な2人に挟まれているラフェン…


「?!…レベンの行方を知ってるの?」


ヨルアの口から思いがけない人の名前を聞き、彼はヨルアの服を思わず掴んでいた。


「…レベンは今ちょっと困った状況に陥っているけれども…きっとケントさんやウチのボスがなんとかしてくれるわよぅ。」


ラフェンの背後にいたフェリアがすかさず彼に耳打ちをして来る…


「ちょ…フェリアさん、一応まだ10代の僕には、そんな色っぽい声は刺激が強過ぎますよ…」


と、身を捩りながら困ったようにフェリアから距離を取るラフェン…


「あら、ごめんなさいねぇ…マリンちゃん。私は愛する旦那も子供もいるし、彼の反応は可愛かったけど…そんな意味じゃないし、旦那一筋だから…気にしちゃダメよぅ。」


彼等から大分離れてソフィアの横でラフェン達の様子を見守っていたマリンは、いきなりフェリアに話を振られて耳まで真っ赤になって否定する…


「な、何ですかいきなり…勘違いされてますから…揶揄うのは止めて下さい。」


「そ、そうですよ。冗談でもそういうミスリードは…マリンさんに失礼ですよ。」


ラフェンも…顔こそ赤くはなっていないようだが、かなりムキにはなっていて…


最近、マリンを助手のような立場で同行させ、ケビンやケントと行動する事が増え出したソフィアも…


「ラフェン君…この子的には迷惑ではないみたいだから大丈夫よ。」


とニヤニヤしながら付け足す。


「…なんか余計な事を言ってごめんねぇ…でも…2人の反応が初々しくていいわぁ…」


2人の顔を交互に見ながら微妙にニヤつきつつ…フェリアはとりあえず謝った。


「何が一途だ。その愛する家族を心配させてないで君も早く帰ってやれ。」


フェリアのすぐ後ろで一連のやり取りを見ていたアイラは、やや不機嫌そうな表情を彼女に向けて呟く…


「ボス…帰らないのではなく、帰れないのぉ。ウェスラーさん達には申し訳ないけれどぉ…ライアンもあそこに住まわせて頂けただけでなく休診も説得して下さったみたいでぇ…本当に感謝しています。」


「……」


今のアイラにとっては、なんだかんだで一番心配しているのがこのフェリアだった。


長年、彼女を見て来た直感ではフェリアは…


彼女は、家族に自分のいない時間に慣れさせようとしているようにも感じ…この件に関して良くも悪くも死を全く恐れていない雰囲気が、アイラ自身を酷く不安にさせているのだ。


まあいざとなったら…


一応、暴走の歯止めは考えてあるアイラなのだが…


今はまず、ラフェンだ。


「ラフェン…かなり際どい任務だが…君の力が必要なんだ。勿論、この件に関しては私は何がなんでも君を守る為の準備はするし全力を尽くす。更に特別報酬も考えてある。引き受けてくれたなら、君がウェスラーさんに立て替えてもらっている借金は私が全て支払ってやる。今の生活費はほぼケントが面倒見ているようだし…学費だけはコツコツ働いて後でウェスラーさんに返しなさい。今現在の君の目標である外交官になれたなら、さほど苦もなく返せる額だろう…?その分は自力で頑張れ。」


「え……」


なんて美味しい条件だろう…


しかもこの…それぞれがある種強力なパワーを持つ面々に囲まれて要請されたなら…


断れる訳がないだろう。


「…アレはもう断れる勇気なんてない…みたいな、観念してる顔だね。」


ヨルアに面白そうに耳打ちするカイル…


「…学校サボってここにいるアンタは面白がれる立場じゃないわよ…」


軽い溜め息と一緒にヨルアはカイルに返す…


「分かりました。僕の力でお役に立てるなら…」


「そう、良かったぁ。ありがとうラフェン…」


思わずラフェンに抱きつくタニア…


「この作戦は連携が大事だけど…私とヨルアさんが全力で守るからね…ありがとう。」


「…タニアさんにお礼を言われる事ではないです。僕の力で大きな災いが未然に防げるなら…あ、あの…?」


ラフェンの決心に感激したタニアは、まだ彼を抱きしめたままで…


タニアのちょっとした事にすぐ感激して抱きしめて来る父タヨハの影響もあり…最近は彼女のこの傾向がしばしばエンデをヤキモキさせているのだが…


「ちょっと、タニアちゃん…」


「え?」


苦笑するヨルアの視線の先には、複雑な表情を浮かべているマリンがいて…


「あ、もう悪い癖ね…感激すると誰彼構わず抱きしめちゃうから…エンデにも怒られてしまうの。ごめんね。」


パッと慌ててラフェンから離れ、マリンに向かって謝るタニア…


「な、なんで私に謝るんですか。」


と、またまた赤くなるマリン…


「あ…そうね、なんだかマリンちゃんを見てしまったわ。深い意味はないの。」


タニアちゃん…どさくさで何気に惚気てるんだけど?と、ヨルアはタニアを軽く睨み…


でも、ラフェンの事にすぐ顔を赤くするマリンや、そんなマリンの様子を見て微妙に嬉しがるラフェンの様子を、皆は微笑ましく見つめている…


ラフェンの遊園地デートの結末は、皆が暗黙の中で把握はしているし…


振られた直後だったのに、彼は我を失っていたヨルアや死にかけていたブレムの為に、(自主的ではないにしても)頑張ってくれたのだ。


これから2人の様子を生温かく見守って行く事になる…と予感している大人達なのだった。


…まあしばらくは2人…特にマリンはカシルに合わせられないなぁと思うソフィアと…


彼女があえて語らずとも、それを既にしっかり把握しているヨルアとタニアなのだった。


「じゃあ、これからはその作戦関連を細かく詰めて行こう。今日は遅いから、とりあえずミーティングはここで終わろうか。」


というアイラの言葉で皆は解散となったのだが…


「…カイル……」


ソフィア達にくっついて部屋を出て行こうとするカイルを、ヨルアは意を決して呼び止めた。








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