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73 不意の訪問者と不審者と…長老の決断


「あれ……?…君…」


早朝、急患があり診療所で1人その対応に追われ…その患者は処置後に症状が落ち着いたので無事に帰宅し、カシルがその後片付けを終えて一息ついたタイミングで…


再び診療所の扉は開いた。


入り口のドアが開く気配に反応して彼が見ると、


「…すみません…あの、私…」


少し前に思いがけない再会をしたレノの少女がそこにはいた。


「…前も言ったけど、お金は受け取らないよ。ここは一応、ポウフ村の人が診療対象で、診察の受付時間にもまだ早いんだけど?」


既になんだが嫌な予感がしているカシルは、若干不機嫌になって行く感情を抑え、努めて事務的な対応する。


「…いえ、お支払いの件は諦めました。今日からこの村の雑木林の植物や農作物の発育状況の調査の為に、毎週この曜日に伺う事になりました、セランと申します。よろしくお願いします。」


カシルのやや冷ややかな対応にも動じる事なく、セランも事務的だが笑顔で自己紹介をする。


「…あれから無事試験に合格したんだな。噂だと最年少らしいじゃないか…おめでとう。そんな君がなぜこんな早朝にここに来ている?」


笑顔で祝福しながらも、雰囲気は先程より更に少し冷ややかさを増して、カシルは再び質問する。


「…ここの村は兄や研究者の方々が作った酵素を積極的に土に取り入れておられますよね?ですから、ギハン感染症の流行後の作物や雑木林の植物の成長状態を調査して欲しいと、レノの長から依頼を受けて参りました。と同時にですね…実は今、私は医師を目指しており猛勉強中なのですが、樹医としての調査は毎週この曜日に早朝と正午と夕方の3度行うのですが…その間の時間を使って診療所のお手伝いをさせて頂きたいと思いまして…」


「……」


[私はね…植物と人のお医者さんになって、ミアハの能力者の人がやろうとしている事を世界のクライアントの人達に分かりやすく説明出来る人になりたいの。]


…かつて希望に輝いていたアイツの笑顔が、この少女とダブる…


アイツの夢は、俺なりに精一杯応援してやりたかった…


なのに…これからという時に……


この少女はちょっと苦手だ。


リラとの思い出はもう…記憶の宝箱の中にしまって起きたいのに…


俺が1人きりになる時間帯のみの助手?…そんな事…俺は聞いてない…


誰からも事前連絡はなかったぞ。


もう…ここ最近は色々あり過ぎて…


「……」


深い悲しみを否応なく思い出されてしまうこの少女に、どうにも感情が掻き乱されるカシル…


「悪いけど…慣れていない人に教えながら手伝ってもらうのは返って…」


「あ、セランちゃんいた。ダメよ〜先に行ったら…こういう事は最初の段取りは大事だから勝手に動くのはなしよ。次から気を付けてね。あのカシルさん…連絡が後になってしまってごめんなさい。昨夜にハンサさんから長老の伝言を受けて…カシルさんは最近忙しい上に、この曜日の午前中はほぼワンオペ状態で診療対応しているから、この曜日限定の手伝いを派遣するからってハンサさんが…カシルさんに伝えてくれって…」


セランの背後から顔を出したタニアが、少し恐縮しながらカシルに状況を説明をする。


昨日はずっとテイホにいたから…それを把握していたハンサさん達は俺への通話を遠慮していたのだろう。


タニアだって最近は似たり寄ったりで…エンデと代わる代わるポウフ村から出ている事が多い。


そのせいか、タヨハさんも最近は若干気分が塞ぎがちと聞く…


「悪いけど、いくらなんでも素人は…」


「あ、あのね、セランちゃんはレノに帰って来てからずっと近くの病院で診療の手伝いをしていたんだって。病院だけど、ここの診療所と規模はそんなには変わらない小さい病院だから、ある程度の助手的な事は出来ると思うから最初は少し様子を見てあげて欲しい…って、レノの長からも頼まれているからよろしくね。じゃあ…」


とにかく今すぐには断らないで、と言わんばかりに説明だけして素早く帰ってしまうタニア…


「あ、おい……ったく…」


まあ…無下に断ってレノの長の心象も悪くしたくないし…


2.3度手伝ってもらい、適当な理由を言って断わりゃいいか…


と、


「言っとくけど、ここは意外と忙しいんだ。だから…優しくなんて教えられないから覚悟はしとけよ。」


とりあえず受け入れた様子のカシルにホッとしたように、少し不安気だったセランの表情はパッと明るくなる。


「はい。受け入れて下さり感謝します。レノの病院でも、最初はスタッフの方々に似たような事を言われましたから…覚悟して頑張って参りますので、よろしくお願いします。」


そう言って、セランは勢いよく頭をさげた。


「…おう……まあ…よろしく。」


…挨拶はまあ…年齢の割にはしっかり出来ている感じだな…


…雰囲気はあの子と似てはいるが…内面は全然違う印象を受ける。


なんだかな…


この子のどこか張り詰めたような雰囲気はどうも…出会ったばかりのアイツと似ていて…


「……」


どうやら俺はこの子が本格的に苦手なようだな…


カシルはなんとなく居心地の悪さを感じ、目を伏せて立ち上がる。


「…休憩がてら一服して来るから…奥にロッカーがあるから空いてる所を適当に使ってくれ。」


「あ、あの…」


「休憩所はロッカーの部屋のすぐ隣だ。…すぐ戻るから、そこで待機していて欲しい…」


セランと視線を合わせようともせずに、説明ととりあえずの指示を簡単にしてカシルは出て行ってしまう…


「……」


[カシル先生はね、気さくで仕事も出来るし部下の面倒見は良い人なんだけど…多分、セランちゃんにだけはしばらくちょっとそっけないと思う。でもそれはある意味、彼があなたに特別な印象を抱くからなの。それは嫌な意味ではないんだけど、あなたがそれを理解して上手く受け入れられるまでにはちょっと時間がかかるかな…。そんな彼の元で医療現場の経験をある程度積んで行きたいなら、彼のそっけない態度にイチイチめげていたら勤まらないわ。でも、それでもここで頑張ってみようと覚悟を持てるなら…セランちゃんにとって新たな可能性や楽しい未来が開けて来るかも知れない]


昨夜…レノの長から、


[一応、行く前にセレス出身の神官であるタヨハさんには挨拶をして置いたいいよ]


というアドバイスを聞き、急いでポウフ村の神殿に連絡をしたらタニアさんが出て…


どこか自分の下心を察しているような雰囲気の彼女は、色々と彼の事を教えてくれ、最後にそうアドバイスをくれたのだ。


彼女の能力の噂は色々と…兄のトウからも直に聞いていたし、何より、ヌビラナではカシルと共に任務をこなして帰還した人で…


そんな彼女のアドバイスは、今のセランにとってはミアハの教典レベルに有り難い存在だった。


「…カシルさん、とにかく私は恩返しだけでも諦めませんから…」


彼が出て行った直後、ロッカー室に向かうセランはやや挑戦的な表情を浮かべながら呟いた…





「……」


タバコに火をつけながら、近くのクヌギの木の下に向かう途中で…


カシルは一瞬足を止めるも、また何事もなかったかのように木の下へ…


さりげなく神殿の方に視線を移すと、ちょうどタニアが自分達の朝食らしきモノが載ったトレイを持って診療所へ歩いて来る様子が見えた。


「あ、カシルさ〜ん。朝食出来たので食べて下さいね。」


カシルがワンオペになる午前中の診療の前には、自炊が苦手なカシルを心配してタニアが朝食を持って来るようになっていた。


最近は村を出る頻度が高くなって来ているので、他の日は外食で済ませてしまう事が多いのだが…


それまでは大体、希望の棟の食事の時間を狙って紛れ込んで、アムナ達の準備の間に子供達の相手をする代わりに、マリュの美味しい料理を分けてもらっていたカシルだったが…


今のタニアは、意識して普段通りに振る舞っているように見えた。


…緊急の危険はないって事みたいだが…


「ああそうか…悪いな。」


カシルも普段通りを意識して診療所へと戻った。


「……」


「……」


「お二人とも…どうされたんですか?」


出て行って2.3分で戻って来たカシルと一緒にタニアも入って来て、セランは2人の醸し出している微妙な緊張感にちょっとだけ戸惑う…


トーストやらスープやらサラダやら…おそらくカシルとセランの朝食と思われるそれらを載せたトレイを両手で持っているタニアは笑顔を崩さず、


「セランちゃん、そのままゆっくりと休憩室へ行って…」


と、少し急かすように指示をしながら自分もゆっくり休憩室へと移動する。


タニアの後から入って来たカシルは、入り口のドアの鍵を素早く閉めて、彼もゆっくりと休憩室に入って行く…


そして、3人が休憩室へと移動し終えた瞬間に、カシルは素早く休憩室のカーテンを全て閉めて床の収納スペースの扉を開ける。


「え、え?…何があったんですか?」


何か問題が起きているらしいのは分かるが、セランは2人の様子の変化に困惑していた。


「とにかくこの階段を降りて。」


床収納スペースの扉と思いきや、それは地下へ降りる階段になっていて…加えてタニアの緊迫感のある声の様子に、かなり心配になって来ていた。


「……」


言われるままに、不安そうに無言で降りて行くセラン…


「驚かせてごめんね…多分、大丈夫だと思うんだけど、今朝はセランちゃんがいるから念の為の避難なの。あ、階段を降り切ったらそのまま真っ直ぐ進んで行ってね…」


…確かに…セランの後ろからトレイを持ったまま歩いて来るタニアの声は、キビキビはしていたがどことなく余裕を感じた。


「まあ…最近は露骨になって来ているがな。」


タニアぐらいの身長の人間ならば普通に歩ける高さの通路だが、カシルは身を屈めて少し窮屈そうな様子で、少しだけ背後を気にしながら2人の後に続きながら呟く…


「ああやっぱり…もう出て行った…でも次回はまた少し露骨に存在を示して来るわね。この件でエンデは最近はあの人に頻繁に会っているわ。一応ここはメクスム国内だから、近い未来に対応してくれると思う。」


「…俺の方も、食えないおっさん約2名から似た情報は受け取っている。現テイホ政府のギリギリの意思表示のつもりなんだろうな…こちらがもろに抗戦はしたくないのを分かっていて…わざと警備員の巡回コースの逆地点から出没している。お前らなんぞその気になれば…みたいな、遠回しな威嚇にも見える。」


「…まあ…それでも、ここはあくまでメクスムの領地内だから、こちらもそこは最大限の砦という強みよ。エンデのホットラインは今も健在だから、下手に戦闘状態になったらメクスムの軍も一応動くから、現状はああいう意思表示が限界みたいよ。」


通路の中は人の声もタニアの運ぶ食器の接触する音も、不思議な感じで反響していた。


「……」


…なんとなくだが、自分を怖がらせないようにあえて説明的会話をしてくれているように見える2人だが、本来はあまり音を立ててはいけない場所のように感じたセランは、ひたすら黙って2人の話に耳を傾けながら通路を歩いた。


「…あ…」


やがて薄暗い前方に扉らしきモノが見え…


「セランちゃん、その扉を開けてくれる?」


背後のタニアに頼まれて、セランは言われるがままに扉を開けた。


「おい…鍵は俺が持って…」


「ごめん、面倒だから私が開けちゃった。エンデが予め警備の人には連絡してくれているはずだし、私はトレイを抱えたままだし…今は多め見て下さい。」


「…ったく…他の警備の人間の前ではやるなよ。不用意に警戒させる行動は…」


「分かってますってば。」


後ろの2人の、分かったような…よく分からないような会話を聞き流しながら、セランは扉の向こうへと進む…


「わぁ…結構広い部屋ですね…」


…そこは…セランが想像していたよりもかなり広いスペースが広がっていた。


「そうなの。ここの上は警備員の仮眠室も兼ねた待機室で、緊急の時はここは避難シェルターみたいな場所になるの。畑を挟んだ向こうの倉庫が本来の避難シェルターなんだけど、神殿や診療所や警備室は倉庫までは少し距離があるから、本当に緊急な場合の一時避難所なのよ。」


扉のすぐ脇にあった折り畳み式のテーブルをカシルが組み立て、タニアがその上にここまで運んで来たトレイを置きながら、セランに答えた。


「じゃあセランちゃん、並べるのをちょっと手伝ってくれる?」


「あ、はい…」


2人はトレイから朝食セットを次々テーブルに移し、カシルはその間に隅に片付けてある折り畳みの椅子を3つ持って来て並べた。


「タニアも付き合うだろ。この子にはもう少し説明が必要だから、わざわざここまで一緒に来たんだろう?」


…まあそれもあるが…ここは比較的安全ではあるが、この段階でいきなり2人きりにしたらこの男は食事も取らずに診療所に戻ってしまいかねないからな…


「…そうですね…ねえセランちゃん、初日からこんな状況になってしまったのは、あなたにとっては良い機会かも知れないわ。長からの依頼とはいえ、ここはこれからあまり安全ではない場所になって行くかも知れない…少なくとも今はミアハよりは危険なの。だからあなたが怖いと思ったら、樹木と土壌の調査とカシルさんのお手伝いはすぐ中止して構わないの。なんなら今、止めてもいいのよ。」


「ち、ちょっと待って下さい。差し支えない範囲で構いませんから…具体的に今ここで何が起きているかを教えて頂きたいのですが…」


セラン自身、やるからにはという覚悟みたいなモノは一応持って来ている。


正直、今さっきの得体の知れない不穏な感じを目の当たりにしてしまうと…確かに少し不安にはなった。


だが…


「…何かあってからでは遅いんだ。だから君はもう…」


というカシルの言葉に、セランは本来の負けず嫌いな性分に火がついてしまった。


「私なりの覚悟は持ってここに来ているつもりです。その思いは今も変わりません。とにかく、ここで何が起きているかのお話しが聞きたいです。」


カシルが診療所に戻ってしまわないよう、セランは今来た扉の側に椅子を移動させて座り、タニアの方へ身体を向けた。


「…あら…」


タニアはセランの一連の動作に少し目を見張ったが、すぐにそれを楽しんでいるような表情となり…


「セランちゃんて…なんだか面白い。こういう子なら大丈夫そうな気がして来たわ…」


「おい…タニア…」


苦虫を噛み潰したような顔になっているカシルを宥めるように、


「カシルさん…この子は年齢の割に危機管理意識はある程度備わっていますよ。まあでも…セランちゃん、あなたが大丈夫と思っても、こちらの判断でミアハへ帰す場合も出て来るかも知れないの。その時はあなたの我が儘は受け付けない…それを受け入れられるなら、今からちゃんと説明します。それでもいいかな?」


「…分かりました。」


無意識になっていた両手の握り拳に更に力を込め…セランは頷いた。





「……力が及ばず…申し訳ございません…」


長老の自室でハンサはすまなそうに片膝をつき、長老の前で深々と頭を下げる。


もう…長老がエルオの丘から全く出なくなってから、どのくらい経つだろう…


その間に…ミアハは徐々に深刻な状況へ追いやられていた。




半日前…


ハンサはセレスの長であるイレンと共に、テイホ政府側が指定したある建物の一室にいた。


「…私達も舐められたものだな。セダル氏は自分の代理で話し合いを行わせようなど…」


「恐れながら…この度はセレスのトップとの交渉という閣下のご希望に沿い、セレスの長である私と長老の補佐であるハンサは参じました。…長老セダルは現在、体調を崩しており…」


「ああ…それは先程も聞いた。」


「……」


こちらの説明を軽くあしらい、話の途中で葉巻に火をつけ吸い始める貴様の方がよほど無礼であろうが!


と言いたげな表情を隠し切れないイレンに、「まあ気持ちは分かります」とハンサは内心で苦笑しながらも…


「グエン様、恐れながら…その旨は先程お渡しした我等が長老セダルからの書簡の中にも触れられているようです。後ほどにでも目を通して頂けたなら幸いです。」


「ああ…君の噂は聞いているよ…秘書の立場で色々としゃしゃり出て来るという…」


「ハンサでございます。閣下の記憶に留め置かれる存在であるならば光栄にございます。」


グエンの嫌味もモノともせずに、ハンサは恭しく頭を下げる…


「…なるほどね…」


微かにイラつきながらも…不敵な笑みを浮かべながらグエンは葉巻を捻り消す…


「君達の気持ちは理解した。」


…最初から答えは決まっているようなモノだろう…


こちらの説明を聞き入れる気もないのに、我々が頭を床に擦り付けて命乞いする姿を見たいが為に呼びつけたようなものだ。


その証拠に…テイホの軍部の動きが急に活発化していて、グエン周辺の人間は武器の確保と軍事予算拡大への根回しに最近は余念がないようで…


その規模は極小国をただ威嚇するには桁が違い過ぎる準備だ。


ヌビラナで起きた事の全てをミアハの責任にして、自身の立場を失わないように必死な事は…実状を知る者なら皆感じ取っている。


あの災害はセレスの引き寄せたモノ…


その証拠に、なぜだか現地で行方不明になっていたミアハの人間は生還している。


得体の知れない能力を持つ奴等だから、今回の災害は彼等が起こしたに決まっている。


彼等に全て賠償を負わせろ!


そんな風に彼は…必死で国民の批判の矛先をミアハに向けた刷り込みキャンペーンを行なっているのだから…


こちらを攻撃する理由を作り、機会を狙ってミアハを滅ぼし…


そのどさくさで変異の娘を手中に納め、ついでに使えそうなこちらの能力者の確保が、今の彼の目的なのだから…


結局…


交渉はまともに行われないまま…


呼びつけた側のグエンは一方的に退室し…


最後に残されたイレンとハンサの2人も帰国した。




「…残念だが、これも想定内の流れだ。私こそ…こんな状況で役立たずな名前だけの長老になってしまっていて、君達には本当に申し訳ないと思っている。あちらさんはミアハではなくセレスとの話し合いを要望したのだから、君しか適任はいなかった。イレンではこういう場面はあまり役には立たないからね。私もそれほど時間は残されてはいないようだから…決断しなければならないようだ。君も多忙な中を申し訳ないが、2、3日中に民をエルオの丘に集めて欲しい…」


「…!……」


片膝をついたまま話を聞いていたハンサは、そのままの体制で目を大きく見開く…


ああ遂に…


…だが…今は感傷的になっている場合ではない。


「…御意。」


ハンサは顔を上げ、一度だけ長老を真っ直ぐに見つめ…


出て行った。


「……」


遠ざかり…やがて消えた彼の足音を長老セダルは確認すると、


「クゥ〜ン……」


入れ替わるように、ドアのすぐ側で犬の鳴き声が…


「…ああトイン…君もいよいよ例の男の所へ行くんだね。…今のあの子達ならきっと上手くやれる。よろしく頼むね。」


「ワン!」


長老の言葉に応えるように、トインは一鳴きだけして去って行った。


「……」


しばし訪れた静寂の後…


長老は覚束ない動きの手で杖を握って立ち上がり、


「リンナ、悪いが今すぐ来て欲しいんだ。」


と宙に向かって叫んだ。


数秒後…


「え?え…?」


口をモグモグさせながら唖然としているトウと共にリンナは現れた。


「…トウまで連れて来てしまったのかい?…」


苦笑しながらも、長老は杖をついてトウの側まで行き…


「まあいいか…良い機会だ。トウよ、食事の途中ですまないが、これからヒカの所まで一緒に行こう。リンナ、頼む。」


彼がトウの頭上で羽ばたいていたリンナに向かってそう言うと、一瞬で皆の姿はその場から消えた。





「ああやはり…お前も来ていたか…」


「長老…?」


長老達がリンナの力によって現れた場所は、マナイの結晶の塔の頂上で…


そこの中央部にある小さなドームの中に眠る少女の、顔の部分が見える場所に膝をつき、眠り続ける愛しい存在の顔をジッと覗き込んでいたヨハは…


不意に現れた彼等の気配と長老の声に、少し驚いたように振り向いた。







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