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72 目覚めし者の家族




「…?…」


漆黒の闇が薄っすら白み始めたエルオの丘…


自室にいた長老セダルは、微かに聞こえる足音に気付く。


どこか覚束ないその足音は、ゆっくりとだが確実に…長老のいる場所を目指しているようだった。


そして、とうとうその足音は彼の…本当に限られた者しか近付けない…プライベートな領域に入り、自室の前で止まった。


「…長老…」


「…目覚めたんだね…おはよう。鍵は開いているから入っておいで…」


なんとも優しい声で長老が応えると、ゆっくりとそのドアは開いた。





「…つまり…この子は…ヒカは、希望を持ち帰って来たのですね……?…どうされました?」


「あ…いや、すまん。予想以上に君達が私の説明を冷静に受け止めてくれたから…正直、ちょっと拍子抜けしてしまった。そうなんだよ、任務先での事だからね…。2人に関しては或いは批判も受けやすい状況なんだが…あの子達は使命を果たし、今のヒカのこの状態こそが約定の成就の証で、本来なら最も喜ぶべき事なんだ。これは2人の意思でもありながら…古に置き去りにされた約束の成就を渇望するあの星の女神の意思が巧みに介入していてね…。この子達もその役目を果たすべく生まれ、巡り逢ったとも言える。」


通常は長老の了承がなければ誰も立ち入れない領域…


地下から伸びる巨大なマナイの結晶の、頂上部分の平らな領域には小さな特殊なドームがあり…


その中に横たわり眠るヒカの側に4人は佇んでいて…


そのうちの1人であるエイメは、ヒカの表情が覗き見える部分を愛おしそうにじっと見つめ…


代わりにリュシが長老の説明を熱心に聞き入りながら、更に問いかける。


「…つまり、こうなる事は生まれた時から決まっていたと…?」


「…微妙に違う。ヌビラナ…いや、そこで文明を繁栄させた者達にはかつてソーユンニと呼ばれていたその惑星は文明の崩壊後、地上の生物全てがほぼ死に絶えてから長い時を経て…こちら…アリオルムの科学レベルがある程度進み、彼の星に基地を完成させる事が出来た今のタイミングが、我々の女神との古き約定を結ぶ最適、いや、最後の機会だったようでな。ある程度の青写真があってあの2人は生まれ落ちた訳だが、後の選択は自由意思で行わなければならなかったんだ。セレスとティリの強力なエネルギーを併せ持つヨハと、セレスとレノのエネルギーを持つヒカ…更に言うとヒカはレノからセレスへ変異するエネルギーを持ち、セレスのエネルギー自体はヨハよりも強い。分化する前のミアハの根源のエネルギーを、彼の星の意識体である女神は受精によって受け取ろうとして…その目論みは見事に成功した。だがそのエネルギーはどこまでも純粋で無ければならず、仮に先に目的を知った上で、2人が使命の為に事務的な行為を行った場合は、受精はなされなかっただろう。…予言書には2人の事は度々記されていたが…女神の意図は、ミアハの長老である私以外の誰にも悟られてはならない事だったのでね。私はあの子達がふれ合いやすい環境は作ってあげられたが…あからさまな干渉は約定を無効にしてしまいかねないので出来なかったんだ。ヨハがティリに研修に行っている最中にヒカが記憶を消されたり…変異の子に表れる命の危機をなんとか乗り越えたと思ったら、近しい先輩能力者に妙な暗示をかけられたりで…本当に色々…ドキドキと緊張の連続だったよ。」


「……」


かつて…エルオの女神のエネルギーに、抱き抱えられるように包まれた状態でアリオルムに降りたったミアハの祖先は、かつて太古に交流のあったユーソンニの民と、お互いの星がそれぞれに渇望するモノの一部を得るべく…その手段としてミアハの独特な能力を利用しようとしていた。


当時のミアハの民の能力は現在のように分化しておらず、その力も強かった。


その頃の長老的立場であった首長は、自身の後継者と考えていたある若者と、他の…特に能力の強い者達30名を厳選し、女神の眷属である樹木の精霊のリンナ的存在が作る、当時の唯一の交流経路だった次元ポータルを利用し、彼等をユーソンニに送り込んだのだが…


その時、水の枯渇によって民同士が激しい争いを繰り返していた彼の地は、争いによる自然破壊により大気や水は汚れ…それは更なる水不足を呼び…戦闘は全世界に広がり激化の一途を辿っていた。


瞑想により地を癒し、あえて地下水を豊富に蓄えている地域の地殻エネルギーの動きを活発にして地下水を地表に上げる事を試みたのだが…


その最中でも戦闘はどんどん激化して行く…


混乱の中で情報も歪んで広まり、瞑想中のミアハの民の様子を誤解した集団から受けた攻撃で、派遣された半数近くが負傷してしまい…


幸い死者は出なかったが、これ以上の滞在は死を招くとの後継者候補の若者の判断により、約定は結ばれないまま苦渋の撤退となった。


そしてその後…


ひと月を待たずに彼の地の文明の気配は消滅してしまったのだった。


「その時の後継者候補だったその若者が、今のヨハとヒカなんだ。この子達はね…その時の約定を完了させるべく、男女に分かれて生まれて来たんだよ。」


「……」


長老の言葉に、その場にいて話を聞いていた3人は言葉を失う…


と…


「遅れまして、すみませ〜ん。」


聞き覚えのある男性の声と、こちらに向かって階段を必死に降りて来る音が、マナイの結晶の塔の頂上にいる者達に漂う重苦しい空気を変えた…


「タヨハか…慌てんでいいから気を付けて降りて来い。」


必死に階段を降りている彼に向かって、長老は叫んだ。





「おい……」


頂上に降り立つなり、タヨハは一目散にヨハに向かって走り出し…


挨拶もそこそこに、彼を思い切り抱きしめたのだが…


「目覚めて良かった。本当に良く頑張ったね…」


人目も憚らず、タヨハはヨハを抱きしめたまま涙ぐみ…なかなか離そうとせず、皆を唖然とさせた。


タヨハはそのまま…しばらくしてヒカの両親達にやっと気付き、


ハッとしてヨハを解放し、ヒカの両親に対して片膝を折り、その上に折った膝の反対側の腕を置いて、タヨハは改めて挨拶をした。


「ご挨拶が遅れまして…ヨハの父のタヨハです。その…このような状況で…子を思う父親の感情を優先させてしまい情け無い限りです。申し訳ございません。えっと…不束な息子ですが…」


「ちょっと待って、タ…お父さん。僕はまだ御両親には何も挨拶出来ていないんだ。」


ヒカの両親に、急に訥々と挨拶を始めたタヨハを慌て止めるヨハ…


「お父さん…?…」


ヨハのお父さんという言葉に、恍惚の表情で涙ぐみながら息子を見つめるタヨハ…


そんな2人のやり取りを見ているうちに、徐々に表情が緩んで行くヒカの両親…


「まったく…相変わらずそそっかしいな…少し落ち着け。」


苦笑しながらも、タヨハを見つめる長老の目はなんとも優しそうだった。


「だがまあ…世間は少しきな臭くなって来ているようだからね。君も色々と大変な中で時間を作ってくれて感謝するよ…」


「息子の為なら当たり前です。」


長老の言葉にタヨハは何かスイッチが入ったようで…スッと真顔になる。


「…そうだね…。ではヨハ…君から彼等に伝えたい言葉があるのだろう?今のこの機会を大切に使いなさい。」


そう言って、長老は4人から少し離れる…


「はい、ありがとうございます。」


そう言ってヨハは長老に会釈をし、ヒカの両親やタヨハの方を向いて片膝を折り頭を下げ、ミアハの中での目上の人や敬意を払うべき人に対しての、折り目正しい挨拶のポーズをする。


「ここに…まだ眠り続けるヒカさんとは、任務地であるヌビラナで結婚の約束を交わしました。私はまだ…これからのミアハの危機を乗り越える為の任務があります。結婚の事は任務が無事に終わり、ヒカさんが目覚めてから具体的に進め、世間にも公にするつもりでおります。ヒカさんとお腹の子は、一生をかけて守り抜きますので…どうか…今後とも、よろしくお願い致します。」


「…ヨハ君、正直…この子はまだ目覚めてはいないから…心配する気持ちは拭えないままなんだ。何より、ヒカの妊娠を知らされた時は本当に驚いた。だけどね、私達はそれ以上に嬉しくもあったんだよ。」


「え……」


ヨハ自身、眠っているヒカの腹部に感じた小さな命の気配には本当に驚き、嬉しくもあったが…この状況での妊娠は、果たして周囲の理解は得られるだろうかと…心配の方が先に立っていたのだ。


だから…リュシの言葉は少し意外ではあったが…とても嬉しく、有り難い言葉でもあった。


「ヨハさん…」


ハッと気付くと、エイメがヨハの目の前に立っていて…満面の笑顔で彼を見ていた。


「ありがとう…」


「…!…」


そう言いながら、エイメはヨハを思い切り抱きしめた…


「母親ですからね。あの子の想いにはずっと前から気付いていたけれど…どこかで叶わないモノと思っていたの。だから…ビックリはしたけれど…夢みたいよ。ヒカを守ると言ったあなたの言葉は、既にあなたはこれまでの生き様で示してくれているわ。あの子は多分、私と似て頑固な面もあると思う。不束な娘だけど…どうか、娘を……」


そこまで言うとエイメはヨハを更に強く抱きしめて…黙ってしまった。


「………」


涙を滝のように溢れさせながら、エイメはヨハをしがみつくように抱きしめ…泣き続けていた。


「…エイメ…ヨハさんがちょっと困っているよ。」


リュシは苦笑しながらエイメをヨハから離すが…彼の目も涙が溢れる寸前の状態だった。


「あ…感極まってしまって…ごめんなさいね…」


「私からも…どうか娘とお腹の子を…よろしくお願いします。娘の至らない所は私達も出来る部分はフォローして参りますから…」


「いや、そんな…僕も頑固な所はありますから…至らない所はどうかご指導を…」


2人の涙に刺激され、ヨハも涙腺は崩壊寸前だった。


「…お前もそんな殊勝な言葉が使えるようになったんだな…」


少し離れて見守っていた長老も、目を潤ませながらヨハを見ていた…


「ヨハ、私も影になり日向になり、君達を支えて行くつもりだからね。なんでも相談してくれ…それから、赤ちゃんはしょっちゅう見せに来るんだよ。来なかったら私から行くからね。」


長老の視線を遮るように割り込んでヨハに話しかけるタヨハには、ヨハも苦笑いして…


「勿論だよ。お父さんが子供好きなのは分かっているから、ウンザリするほど遊んでもらうかも知れないよ。」


またまたお父さんと呼ばれて感激するタヨハは、涙ぐみながらエイメ以上にヨハを強く抱きしめて、


「ウンザリなんてする訳ないだろう。孫の面倒を見るのは私の夢でもあるんだよ…約束だよ…孫とたくさん遊ばせてくれ…」


「まあ…タニアが忙しそうなタイミングで行くよ。父さん大好きの姉さんの視線をあまり感じない状況で遊びたいんでしょう?」


「な、何を言っている…いくらタニアでもそこまでヤキモチ妬きではない…と思う。それにあの子も…そう遠くない未来には私にヤキモチ妬く暇もなくなるよ…」


「へぇ…まあ…大体察しは付いてるけど、良かったね。」


「孫の面倒で大忙しになるのが私の夢だからね…色々と楽しみだよ…」


「…では…婚約に関しての両家の顔合わせはこの辺でいいかな?」


タヨハとヨハの…なんとなく家族らしくなって来た会話に、長老は目を細めて見つめながらも…もう1つの大事な話題に切り替えようとしていた。


「君達の今後の身の振り方とヒカの子供に関しての事なんだけど…先程リュシ君が心配していたヒカの目覚める時期は、エルオの女神が決められる事だから断言は出来ないが…おそらくは3.4か月くらい先になると思う。あの子のお腹の子は、かなり特殊な状態で起きた受精だから…エネルギーの状態が安定するまでは、女神はヒカを目覚めさせないだろう。なにせこの子供はミアハを救うキーパーソンとなり得る力を持って生まれて来るから…いや、生まれて来てくれないと…ミアハの危機は去ってはくれない可能性が高いんだ。だから…」


むしろ…今の時点で大事な話はこっちなのかも知れないと…


5人はエルオの丘の中の資料室へと移動し、それから長老の話は日がしばらく続いたたのだった。


そして、


辺りが少し薄暗くなって来た頃に、ヒカの両親はエルオの丘を後にしたのだが…


帰途に着く2人の様子は、いつになく沈んでいた。


「ねえ…やっぱり…」


しばらく続いていた沈黙に耐えられなくなり、思い切ってエイメが口を開くと…


「頼む…何も言うな…」


…なんとなく…


不安な噂は耳にしていた。


最近の長老は姿を見せなくなって、代理で秘書のハンサだけがあちこちに顔を出すようになっていると…


それは何を意味しているのか…誰もその先は口に出さない…


言ったらそれは、本当になってしまう気がして…


今日…2人は、それを確認するような場面を幾つか垣間見てしまっていた。


長老は…常に杖をつき…なぜか厚めの手袋を常にはめていて…


階段の移動に至っては、ヨハの不思議な能力に頼っていたし…


とにかく移動が大変だったのに、何故だか今日の長老は終始…意識して明るく振舞っているように見えた。


今日はまるで…あえて「その時」を意識させない彼の人の意図を感じ…


つまり、もしかしたら…


自分達が彼の人の姿を見るのは…


「……」


分かってはいる。


時代は巡るし…彼の人は既にセレスの男性の平均年齢をかなり上回ってはいるのだ。


いつその時が来ても…不思議ではない年齢である事も…


だが彼の人はミアハの精神的支柱だ。


「……」


エイメは立ち止まり…蹲る…


「…エイメ…?」


異変に気付き、リュシも立ち止まる…


「…ごめんなさい…ごめん…」


そのまま泣き出してしまうエイメ…


「……」


何も言わずにリュシも隣りに座ってエイメの肩を抱く…


「しょうがないよな。俺達が生まれた時からあの方は偉大だったから…それに何より、立場の弱い能力者の存在をずっと忘れずに守ろうと動いて下さった。…偉大な方の終わりを予感したら…辛くなるのは仕方ないよ…」


そう言いながら、リュシの涙腺も…


「仕方ない…悲しいんだから…」


泣き笑いのような顔で、リュシはエイメに笑いかける。


「……」


「…だけどさ、今日のあの方は、一度も辛気臭い雰囲気を出したりする事なく、朗らかな表情でミアハやヒカ達の未来を見ておられたんだ。…泣くだけ泣いたら、俺達もそれに習おう…?」


「うん…そうね……」


それでもエイメは、まだしばらく顔を上げられなかったが…リュシはエイメが泣き止むまでその場に寄り添っていた…





「…じゃあそういう事だから…よろしく頼むな。」


ヒカの両親が帰り、ヨハを住み慣れた研究所の元の部屋に帰した後も、タヨハは資料室に残って長老と話していたのだが…


「……」


彼はブッスーとした膨れっ面で、すっかりご機嫌斜めのようだった。


「仕方ないだろう…。まったく…お前は子供達の事となると、そうやって大人気なくなるのは不味い所だぞ。」


「…だからって…ヨハの体調や安全面を心配される気持ちは分かりますが、なんでタニアまで…」


駄々っ子のように文句を言うタヨハに、長老は呆れ顔で溜め息を吐く…


「結婚まで遅らせろとは言ってない。子供は少し様子を見てからにして欲しいと言ってるだけだ。あの子の言う事ならゼリスは素直に聞くだろうから…慣れるまでの間だけだ。タニアは優秀な子だ。あの子の協力が必要なんだよ。まずはヨハ達の子が生まれるからいいじゃないか…」


「……」


ヨハは少しの間は療養期間が与えられたので、その間はヨハをポウフ村で面倒を見ようとしていたタヨハだったが…


ヨハはああいう状態のヒカからは心配で離れたくはないだろうし、エルオの丘の中に長くいた方があの子の回復は早まると長老に却下され…


その上、タニアの力をもうしばらく借りたいので、子作りは少し待って欲しいとダイレクトに言われ…


タヨハはかなりガッカリしてしまったのだった…


「…あくまでこれは私の勘ですが…ヨハ達の子は、おそらく普通の子ではないでしょう?また…ヨハの幼児期の様な事が起こる可能性を考えたら…きっと私はあんまり遊べない。せめてタニアはと…思ってしまうんです。」


タヨハは悲しそうに呟く…


「タヨハよ…私はその子等の顔すら拝めないかも知れない…」


「…!…」


この長老の言葉には…彼は何も言い返す事は出来なかった。


ヨハに関しては、幼児期の突然の特殊能力の発現により…更には、一時的でも後継者として側で見守って来て…


ヒカに関しても、変異により親から不本意に引き離し…常に健康面は心配しながら目をかけて来たのだろうし…


その子達が結婚の意思を示して子供まで授かったのだから…きっとその赤子の顔を見て…あやし…抱っこもしたいだろう…


「……」


タヨハは子供達の事にばかり気を取られていた自分を自覚し…恥じた。


「…これから先はしばらく…セレスは君とイレン…そしてハンサが頼みの綱なんだよ。カシルやエンデも、きっと君の指示なら従うだろうし…かつてはミアハの…私の後継者として修行して回った時期もあったんだ。君のやれる事はどんどん能動的に動いて行ってくれ…どうか…よろしく頼むな。」


「………嫌です…」


長老に背を向けながらタヨハは呟く…


「はぁ…?」


かなり呆れたように長老が聞き直すと…


「…諸々の準備はして行きます…けど、あなたがいなくなる事なんて…今は想像もしたくないんですよ!」


珍しく拒絶の返事を言い放ったタヨハは、そのまま長老から顔を背けるようにして出て行ってしまったのだった…


「…ったく……気持ちは有り難いが…私は親族への遺言の話をしているんじゃない。ミアハの近い未来の話をしているのに…」


私だって…こんなタイミングで逝きたくはない…


ああやってあの子は…


私には純粋な感情を直接ぶつけて来る時があるので…しっかり封鎖したはずの涙のダムが揺さぶれて…


どうもダメだ…


困ったモノだな…


と、


不意の小さなノックの音で、長老の感情は上手く切り替えられた。


「…マリュです…」


ああ…彼女も呼び出していた事を忘れるところだった。


「ああ…多忙な中を呼び付けて申し訳ない。入ってくれ…」


彼女は逞しく、ポウフ村では慣れない事だらけの環境で、本当に良くやってくれている。


タニアの世話の為にここから離れる際、彼女からある打診があったのだが…その時は返答をずっと保留にしていた。


まるで何かのついでのような…軽い雰囲気で切り出された話ではあるが、あの子にとっては…そこに切なる願いが潜んでいる事はすぐに分かった。


[もしも自分のケースが上手く行けば…セレスの女性ももっと意欲的に生きられるのではないかと思うのです]


と、キラキラした希望を讃えた目で私を見つめながら彼女はそう言っていたのだ。


健気な面を持ちながらタフで芯の強い彼女には、今までの褒美の意味も込めて、私も返答しなければと思い…


今日はその為だけに、マリュを呼び寄せたのだ。


「失礼します。」


そんな長老セダルの思いを知ってか知らずか…


マリュは心なしか軽やかに…颯爽と入って来たのだった。




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