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71 切ない企み


日は大分傾き…暗くなりかけている道を、一応予定通り儀式を終えた一行は、駐車場までの道を言葉少なにてくてくと歩く…


「じゃあボス…いずれにしても明日は一報をお待ちしておりますぅ。それじゃあ。」


道寄りに車を停めていたフェリアがアイラの横を軽く会釈しながら通り過ぎようとすると、


「フェリア、ちょっと待て。今日こそライアン君達の所へ帰るんだろう?」


今日こそ家族の所へちゃんと帰るのか確認しようとアイラが呼び止めると、


「あ、それはまだですよぅ。ケリをちゃんと付けてからでないと、色々迷惑かけてしまいますからぁ。」


フェリアは涼しい顔で答える。


「…それから…ヨルアを拘束する際に、どさくさで気になる事を言っていたらしいな。」


「やだなぁ…私は基本、ハッタリや脅しは身内には言いませんよぅ…あの子が望むならですが、本気の提案はしましたよぅ。」


「…分かった。君とは一度じっくり話をしなければと思ってたんだ。いずれにしても、明日は朝イチで私の事務所に来なさい。」


フェリアが既に何か腹を括って決断している事を察したアイラは、眉間に皺を寄せながらそう指示すると、彼女の反応を待たず通り過ぎた。


「……」


他の者達は2人のやり取りは見て見ぬ振りで…それぞれの車に乗り込んで行く…


その中にはヨルアとタニア、そしてタヨハとラフェンはいない。


正確には、儀式自体は未明まで続くそうで…


役割を終えた者はそのまま離脱し帰宅する事になったのだった。


明日の夜明けには儀式の結果が出るらしく…


目標に近い結果ならば、ブレムはアイラが密かに経営する地方の病院に移され…もし望んでいた結果が出なかった場合は、彼はヨルアによって2人が暮らしていたマンションへと帰る。


残念ながら儀式の結果が出なかったとしたら、残された時間を自宅で過ごさせてあげたいと…そして自分が看取ってあげたいという、ヨルアの強い希望が尊重されたのだ。


「あ…ここでの事は、駐車場を出たら全てなかった話になりますので、そこは皆さんよろしく頼みます。」


アイラは念を押すように皆に向かって言い放つ…


「…カイル…?」


ソフィアは思わず、確認の意味で彼の名を呼んでしまう…


「…分かってる…子供と思ってバカにするな。」


「…そうね…ごめんね。昨日から色々疲れたでしょう?もう本来のあなたに戻ってもいいのよ…」


そう言いながら、昨夜からなんだかんだでほぼ寝ていないであろう少年を労いながら、ソフィアも車に乗り込む…


「ん?」


と、ソフィアの言葉の違和感になんとなく振り向いた者は僅かにいたが…


他の皆もこの数日はろくに眠れていない為にあえて言葉の真意を問う者もなく…引き続き儀式に参加している者を残して、皆それぞれ帰途に就いたのだった。


例え明日の朝…


儀式の結果がどんなモノであったとしても、ここに集まってくれた人達には何らかの連絡は行くだろう。


だがどんな結果であっても、この日の事は…


ラフェンの能力を使った今回の儀式は、悪用も…幾つかハードルはあるが不可能な話ではないので、今後は一切封印され禁忌の儀式扱いになるのだろう。


なんとも重苦しい空気を残し、長い長い一日がもうすぐ終わろうとしていた。





「…どうか………てあげてくれませんか…」


…?


どこか…見覚えのある…優しい笑顔……


「あなた方は……?」


彼等は微笑んだまま…問いかけには答えてくれない…


「…を…どうか……」


「え?……なんて…?」


最後の言葉がよく聞き取れないまま…2人の姿はどんどん遠ざかる…


「あの……」


とうとう2人の姿は見えなくなり…


代わりに光が…彼の視界を徐々に明るくして行く。


その光は…やがて人の形に変化して、


ブレムの手に触れた。


「パパ……?」


手の温もりと…懐かしい声…


そしてそれはなんとも心地よく…


彼は目を開けてみる。


「あ……」


側で自分を見つめている美しい瞳は、なぜか涙に濡れていて…


とても愛しい気持ちが溢れて来るのに…名前が…


「…あ……ヨル…ア……?」


そう、この子はヨルアだ!


私の…かけがえのない娘…


「そうよ。…もう…凄く心配したんだから…」


そう言いながら、ヨルアの目からは涙が溢れて来る…


「…ここは…?…なぜ…私はこんな……」


「……」


一瞬…ヨルアの表情が固まったような気がするが…?


ヨルアは…涙を一旦拭いながらニッコリ笑う。


「…ヌビラナで大きな地震と地割れが起きた事は覚えている?


…ヌビラナ…?


地震…?


「…痛っ……」


ブレムは思わず額に手をやる…


記憶を辿ろうとすると、頭がズキズキ痛くなって来るが…


薄っすらと…地面が裂けて行く様子…背後から自分を呼び止める若い女性の声…


あの声は…


ヨルアではなかったような…?


なら一体…?


「ああそうそう、ジウナさんがね…順調に回復して退院したそうよ。だからパパも元気になって、早く現場に戻れるといいね。」


ジウナ…?…そうだ、ジウナという若い治療師が側にいて…落ちて行く私を…


「…そうか…ジウナさんは助かったんだね?それは良かった…安心したよ。でも…確か掘削プロジェクトは…打ち切りが決まったはずでは?私は戻れる…のか…」


地震の時、確か作業員は誰もいなかったはず…打ち切りはほぼ決まりだから早めに作業員は帰したと確か…現地にいた役人が…


「ああ…そうよね…パパはあの地震以来、意識不明で生死の境を彷徨っていたから…それからのヌビラナの様子は知る訳ないのよね。あの後はね…パパ達が仕事していた周辺や、ミアハの能力者達が滞在していた辺りは水没してしまって…小さめの湖のような水溜まりが出来たんだそうなんだけど…その後はその水にパパ達がずっと砕いて削ってきた岩の成分が、かなりの割合で溶け出して来ているらしいの。勿論、お目当ての例の酵素もね。」


ヨルアはとても嬉しそうに…


地割れから湧いた水に例の酵素が溶け出している事を、ブレムに軽くウィンクしながら告げた。


「水…そうか、そうなんだな…」


ヨルアの報告に、まだ薄ぼんやりしていたブレムの目にはみるみる力が漲って来る…


そんなブレムの様子をヨルアも満足そうに見つめながらも、


「あ、でもまずはパパの体調を元に戻さないとね。それに、ヌビラナの基地周辺は地殻変動や攻撃の影響でシールドのダメージも結構あったから、まずはそっちの修理が先で…それから本部の建物の修繕と、現場の作業がちゃんと安心して出来る状態になってから、例の酵素を多分に含む水を蒸留精製して取り出す為の施設を大急ぎで作るんだって。だから…」


そこでヨルアはブレムの手をそっと両手で握り…


「それまでの間は、まずパパはリハビリの方に集中ね。裂け目に落ちた際に義足は完全にダメになってしまったから、義足を作り直しつつ…体力を付け、手足の筋力も鍛えて歩行訓練も頑張らないと…」


義足…?


歩行って…


リハビリ…?


施設の完成って…どのくらいかかるんだ…?


なんだろう…ヨルアの話に色々と違和感を感じるが…何がそう思わせるのか…?


「義足は…今の私に必要な物なのか…?予定では施設の完成まではどのくらい…?」


…?


なんだかヨルアの表情が揺らいだような…?


気のせいか……?


「義足がなければパパ歩けないでしょう?施設はね……」


「ああ、それは急ピッチで進められるよ。私も多方面に働きかけている最中だ。早ければ、完成まで1年はかからないかも知れない…そっちのスケジュールはもう少しでハッキリ分かると思うから、ちょっと待っていてくれ。」


いつの間にか入室していたアイラが、ヨルアへの問いかけを引き受けて笑顔で答える…


1年…?


ギリギリだな…果たして間に合うのか?


?…?…


何に間に合うんだ?


歩行訓練て…


何か変だ…


だが具体的に何が変なのか…?


「パパ…溺れて危うく死ぬところだったから…記憶が色々混乱しているのね。パパは前回の手術で病気は完治しているし、足の麻痺もジウナさん達の治療で感覚が戻ったのよ。今のグエン政権はとにかくパパのプロジェクトを潰したくてパパの命を狙って来るから、今は病は深刻な状況って向こうにワザと情報を流しているから…」


ヨルアは触れていたブレムの手をぎゅっと握り、


「でももう…あの地震で状況がガラッと変わったのよ。パパはあとひと頑張りすれば、目標達成はもうすぐなの。私もこれまで通り頑張ってパパを支えて行くから…お互い頑張ろうね。」


…何か腑に落ちない表情を浮かべるブレムに、ヨルアは努めてさりげなく…タニアとの共同作業でブレムに刷り込んだ新しい記憶を、本人に確認させるような擦り合わせをさりげなく繰り返して…


彼の…いや、2人の残りの人生を、希望に溢れたモノにさせようと頑張っていた。


「そうだよブレム君。あのプロジェクトは君が起動に乗せた状態で、いつか体力も気力もある若者に引き継がせる為の土台を作ってもらわないと…君にはまだまだ頑張ってもらわないとな。ヨルアはその為に全力で君を支えるそうだから、遠慮なくこき使ってやれ。期待しているよ。」


そう言ってブレムの肩口に軽く手を置き…安堵した様子でアイラは退室したのだった。


「……」


だがブレムの深い部分ではまだどこか…


未だ絶望的な記憶の残滓が彼の記憶の表面に浮上しそうになる様子が見えて、ヨルアはそれをとにかく阻止しようとするが…松果体の下部の近くに埋め込まれている金属チップによってヨルアの力は半減され…その作業はなかなか上手く行かない。


一方で、ヌビラナに向かう少し前から増強されて来たタニアの力は、その能力妨害チップの影響を殆ど受けないらしく…


ブレムの記憶操作はタニアとの共同作業だから上手く行った部分は大きい…


だけど…


ブレムの生まれ故郷の神殿からここ…アイラの病院に、1度は力を使い過ぎた為に母なる木に戻ったリンナが、明け方に再び儀式によって神官に呼び出され…


リンナの力を借りてここに彼を運んでもらったのだが、その際に別れ際、もしもタニアによって沈めきれなかった古い記憶のカケラが浮上しそうになったらこれを…と、リンナは特性ブルーベリーの実をヨルアに渡してくれたのだった。


「あ、そうそう…少し前にカシルとミリちゃんがお見舞いに来てくれたのよ。その時にブルーベリーの実とチーズケーキを頂いたの。ブルーベリーはミアハで栽培している物で、チーズケーキと一緒に食べると美味しいって…合わせて持って来てくれたのよ。少し食べてみる?」


…カシル達のお見舞いは嘘だけど、彼等からのチーズケーキの差し入れは本当で…


リンナにもらったブルーベリーの実は一粒だけだから…それだけ食べさせるのも不自然なので、ボスがさっき部下の人に頼んで購入してもらった市販のブルーベリーを、ここに持って来てもらってあったのだ。


「…いや……」


ブレムは気が進まないようだったが、


「じ、じゃあブルーベリーだけでも…せっかくだから、新鮮なうちに少しだけでも…」


例の実を食べて欲しくて、ヨルアはまずリンナのブルーベリーをつまみ、彼の口元へ運んでみる。


「う〜ん…そうだね。せっかくだから…」


普段から果物類はヨルアが意識して進めないと食べないのは分かっていたから、いつもの雰囲気でなし崩し的に口を開けたブレムに、普通のモノより若干大粒で艶やかなその実を、しめたとばかりにヨルアは放り込んだ…


「…どう?…美味しい?」


「ん…ん…?…なんだか…とても甘いね。新種なのかな…でも美味しいよ。」


「……」


ブレムがそれを嚥下して数秒後…


古い記憶のカケラは全て…記憶の海の奥底に沈んで行く様子がヨルアには見えていた。


「う〜ん…なんか…やる気が湧いて来たよ。アイラさんも応援してくれているなら…こちらもそれに応えて頑張るしかないよな。身体も…なんだかとても調子が良い感じなんだ。そんな感覚は凄く久しぶりな気がする。何より、ヨルアが側で支えくれるならパパはなんでも出来そうだ。君には負担も大きいと思うが、また一緒にヌビラナで頑張ってくれるかい?」


身体を起こし、う〜んと伸びをしながら、ブレムは嬉しそうにヨルアに問いかける。


…ああ…夢みたい…


今までのブレムなら、私を遠ざけよう遠ざけようと…ヌビラナへも渋々同行させる感じだった…


私が弄ったパパの記憶…


パパを…このまま支えて行きたいの…


それが私の夢なの…


ごめんね…


「ヨルア?…どうして泣く…?」


ポロポロと涙を零し…自分の腕に縋るように泣き崩れたヨルアにブレムはオロオロする…


「だって…だって…一度は死も覚悟したパパが…こんな…笑ってくれたら…嬉しすぎて…」


「…そうか……ごめんな。ヨルアにはいっぱい心配をかけたんだな…」


ブレムは空いている方の腕でヨルアの頭を…優しく…何度も撫でてあげる。


「プロジェクトの成功はなんだかんだでかなり近づいているようだ。ここまで来たら、ヨルアと共に見届けたい。お互い身体に気をつけて頑張って行こうな…」


「うん、うん、勿論よ…」


…私達には…そんなに多くの時間は残されてはいない。


ラフェンの能力を通して皆がくれた貴重な10年…


でも、少し前の絶望からは贅沢過ぎる状況だもの…


これは…パパ主導で進めていたプロジェクトに対して、アイラだけでなく、沢山の人の期待値がそれほど高い事も示していて…


与えてくれた時間の中でなんとか形にして、星レベルの危機をなんとか遠ざけなければならないという事でもあるのだ。


パパ…大切に使おうね。


ヨルアは幸せには慣れていなくて…


涙がなかなか止まらず…


ブレムに肩を抱かれながら、そのまましばらく泣き続けてしまったのだった。





「もう…親孝行したいと思うなら、あと2、3日くらい入院してあげて欲しかったかな。家でのお兄ちゃんの世話係の仕事を母さんから取り上げちゃったんだから、それぐらい…」


儀式を終え帰宅の段になって、ミリは強引にカシルをティリの元の病院に連れ戻したのだが…


両親…特に母親の必死の引き止めも虚しくカシルは退院し、ミリをポウフ村までの足に使っているのである。


「…悪いとは思っているけど、俺なりに色々な懸念があちこちにあって…じっとしていられないんだよ。ミアハにとっては、寧ろこれからが大変みたいだしな…」


ヨハ達やブレムの帰還は、あれからずっと情報は更新されておらず…彼等の情報は長老の周辺で全て止まっているが…


問題は公表のタイミングだ。


俺とタニアはいつもの生活に戻りつつあるから、その辺りから情報が漏れて行くのは時間の問題で…


今回の件をミアハ側の人間が大国に丁寧に質問しても、そのまま信じてくれるテイホ政府の人間がどれ程いるか…


様々な詮索が始まり、陰謀論とかも出て来そうだし…ヌビラナの基地損傷の責任を全てミアハに取らせようとする可能性もゼロではないのだ。


「ねえ…今頃あの2人はどんな時間を過ごしているかな…?ブレムさんはもう目覚めているでしょうしね…」


あれこれ国同士の問題に意識を向けていたカシルとは違い、ミリはブレム達の今の様子が気になるようだった。


まあ…気持ちは分かる…


ヨハへの淡い恋は儚く潰え…ミリからしたら、2人仲良くヌビラナへ行ったヨハとヒカの事は、意識的に視界から外したいのだろう…


だが幼馴染は…


絶望が希望へと転じ、ささやかなだがヨルアの願いは叶ったのだ。


奥底にしまい込んだ切ない願いは叶わずとも…彼の傍で、彼を支えながら生きて行けるのだから…嬉しくないはずはない。


例え作られた記憶設定の中でも…


ヨルアがつき続ける嘘を、エルオの女神は見逃して欲しいと願うほどにカシルも…


「あいつは結構泣き虫だから、感激で泣き過ぎてブレムさんを困らせてないといいけどな…」


「…そうね…でも…私は内心、かなりショックだったの…だから…」


「あいつの寿命のことか…?」


昨日…いざ儀式が始まった際、意外な問題で、儀式が一時紛糾したのだ…


原因は…ヨルアの寿命…


ラフェンの能力は本来は自己防衛から来る能力で、命の危機が訪れた際に意識の入れ替わりが起こり…入れ替わっている間に、なるべく遠くへ…危機を呼びこんでいる相手の身体を遠ざける目的の力なのだが…


タニアは、その力は応用で寿命の部分的な入れ替えも出来る事に気付き…


長老も、特殊な儀式でそれが可能になる事を知った。


ただその儀式は、寿命を受け取る側の人間の生まれ落ちた場所の神殿で取り行うのが最適らしく…


ミアハの、エルオの女神の神殿では、あの空間の特殊性からブレムの身体には負担が大きく…一時しのぎ的儀式は成功はしたものの…彼の寿命は1週間も得られない結果となったのだ。


故にブレムの故郷での儀式も、あまり上手く行かないのではという不安が、当時あの場に立ち会った全ての者の中に存在していたのだ。


その中で儀式は始まり、いざ皆がそれぞれ少しずつ寿命をラフェンに移す段階で、寿命を渡す事に問題がある人をリンナはさりげなく弾く予定でいた。


それぞれ渡せる範囲の寿命は1週間〜1年と上限をリンナは設けたが、幸いな事にほぼ全ての人は問題なく希望の範囲の寿命を渡せた。


ただ1人…ヨルアを除いて…


あの場にいた人達の中で、ヨルアの寿命が一番短かったらしいのだ。


その後、なんだかヨルアはリンナと直後会話が可能らしく、少し離れた所で少しの間、何やらずっと話し合っていた。


やがて…何か落とし所が見つかったようで、儀式は再会され…結果、皆がブレムに捧げた寿命は無事に譲渡となったようだった。


「ケイレが言っていたが、儀式によって、どうやら過去にブレムさんが失った機能も再生や復活がなされているように感じたそうだ。それに関しては、ブレムさん達を助けた謎の存在のエネルギーが何か関係している気がするってタニアが…それならブレムさんも以前より意欲的に日々を過ごせるよな。ヨルアの健気な思いを女神様は掬い取って下さったんかな?って…柄にもなく思っちゃったよ。」


「…ねえ…その話…私は知らないわ。もしかして、夜中に病室から通話した?他言無用な話なんだから、話す場所は慎重に選びなさいよ。」


「…そうだな…一応、毛布に潜って通話していたが…つい馴染みのある場所で気が緩んでたかも知れない。気を付けるよ。」


…そういえば、タニアにも似たような事を言われてたな…


パパも神官も何も言わないけど、多分、ヨルアさんは亡くなる時期をブレムさんと近く設定しているようだと…おそらくそれは10年後くらいかも…とも…


これはちょっと…それほどすぐではない未来だとしても、なんとも落ち込んでしまう話だった。


「まあ…ブレムさんの病気が治って、ヌビラナのプロジェクトが良い方向に行きそうなら何よりだよ。ヨルアが覚悟を持って決めた事なら、我々も尊重して彼等を見守るしかないんじゃねぇか?」


「…そうね…私は…個人的には、ヨルアちゃんの思いがいつか成就して欲しいって思ってしまうけど…今までもただ側で支えるという事も難しかった訳で……ギリギリの距離感でも、ヨルアちゃんからしたら側にいられるだけで幸せなのかも知れないわね……なんか……」


ミリは素早く目の辺りを拭う…


「切ないな…」


カシルはそんなミリの方を敢えて見ず、ミリの車を追い抜いて行くグレーの乗用車をなんとなく目で追いながら…


「そうだな…けどさ、そんな風に思ってくれる奴がいるだけでも、ヨルアは決して不幸じゃないと俺は思うぞ。」


「…そうなのかな…」


「…そうだろ……なあミリ…急ですまんがそこの脇道に入ってくれ…なるべく急に。」


「え、何それ…変な注文ね…」


怪訝そうにカシルを見ながらも、ミリは指示に従う…


追い越したグレーの車…全ての窓にフィルムを貼っていた…それも軍使用の特殊なヤツっぽいの…


なんとなく嫌な予感がしたカシルは、とりあえずミアハに引き返す判断をし、ケントに通話で車の事を確認しながら、その中で朝からバフェムと連絡が取れない事を知るのだった。









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