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61 飛び込むジウナ


「…起きたんだね。怖いと思うけど、とにかく今は動かないで。」


目覚めてすぐ、大きく揺れている室内の様子に驚くヒカを宥めながら、状況を見守っているヨハ…


「…あれを…」


そう呟きながら、ヒカは急に起き上がり…ベッドから立ち上がろうとする…


「ダメだ。お願いだから今はじっとして…」


ヒカを抑え込みながらヨハが状況を説明しようとするが、


「…最初の時の冠は萎れてしまったから…アレはお兄ちゃんが帰って来て初めて行った研究所の裏のクローバーだから…置いて行けないの。」


「え……」


…お兄ちゃん……?


ヨハの注意が逸れて、力が緩んだ隙にヒカは部屋を出て行く…


「あ、ダメだって…」


慌てて後を追うヨハ…


「あれ…?」


部屋を出て、ヒカは違和感に気付いた。


行為の直後に意識を失ったヒカは、自室のベッドに寝かされているとは思わず…


またすぐに踵を返して自室に戻ろうとするが…


「危ない!!」


機体が大きく傾き、通路の壁に叩きつけられそうになるヒカのからたをヨハは寸前で抱き寄せるも、直後の大きな揺れで今度は通路の床に2人は投げ出され…


ヒカを抱きしめていたヨハの背中が床に叩きつけられる。


「…痛……」


一瞬、ヨハの意識は飛ぶ…


「ル……お兄ちゃん!」


投げ出された2人の身体の下には外へのワープスイッチがあって…


最悪な事に…


身体の重みでスイッチが押されて2人の身体が外に投げ出される直前に、地面は大きく裂け始めたのだった。




遡ること10分前…


「遅えよ。こっちで待機していろってしつこく言うから待ってやったが…あと1分待ってお前が出て来なかったら、向こうの機内へ突入しようと思っていたんだぞ。2人は無事か?」


少し怒っているカシルが、外に出て来たタニアに駆け寄りながら尋ねる。


「大丈夫です。私達も急ぎましょう。」


「あ、ああ…」


状況説明を殆ど端折られ不満顔ながらも機内へのワープボタンを押すカシル…


「揺れで機体が傾き出したら厄介ですから…」


もう一方の機内に着くなり、タニアはブルーベリーの鉢の置いてある場所へ向かって走り出す。


周囲の状況を注意深く見つつ、その後を追うカシル…


「…まだ鉢は無事ですね。良かった…」


鉢を抱きしめて、とりあえず安心するタニア…


「ほら、カシルさんも…ちゃんと掴まって下さい。」


「…リンナって…かなり気まぐれなんだろう?本当に来るのか?」


向かい合う形で鉢を掴んだカシルは、不安そうにタニアを見る…


「おそらく大丈夫でしょう。このブルーベリーの木は、リンナが出現した木の親の枝を挿木した物で…この鉢の土には例のトウ君達が作った酵素と共に、長老・レノの長・そしてトウ君…彼等3人の髪の毛がある儀式の直後に埋められていますから…さあ、私達も髪の毛を埋めますよ。」


そう言ってタニアは自身の髪を1本抜いて土に埋め、同じ行為をカシルに促す…


「わ、分かったよ。」


カシルも言われるまま髪の毛を土の中に…


「…リンナ…どうか、お願い…」


タニアが幹に触れながら祈り始めると…


触れている辺りの幹が急に輝き出し…リンナが姿を現す。


そして、リンナがタニアとカシルに触れると…2人は幹の輝きに包まれて、同時に身体が透けて行った。


だが、そのタイミングでタニアは…


傾いて行く機体の窓から、ヨハ達が外に投げ出された瞬間を見てしまう。


「ま、待って!」


ほぼ同じタイミングで、リンナもそれに気付いたが…


リンナは悲しげに苦笑いして、


「待てない」と告げているかのように、透けて行く自身の首を横に振ったのだった…





「…?…トイン…どうしたの?」


ブレムのいたリビングまでブルーベリーの鉢を移動させていたジウナの所に纏わりつき、トインは何かをせき立てる様に吠え始める…


「…!」


何か胸騒ぎがして、ジウナは焦ってブレムの姿を探し出す。


「ブレム様、どこにおられますか?」


屋内に彼の気配は無く、


慌てて外に出るジウナ…


「…もう…ブレム様…」


建物から少し離れた先の掘削現場へ向かって車椅子を漕いでいる彼を見つけた。


…長年、彼が心血を注いで来たこの現場は…もうすぐ崩れて無くなってしまうかも知れないのだから…


今の彼には、ジウナには計り知れない…断腸の思いがあるのだろう…


「……」


しかし、彼の心情は理解出来ても、今はとにかく、命を守る為にブレムに屋内にいて欲しいジウナは駆け出す…


と…、


地鳴りと共に激しい揺れが2人を襲い、ジウナも思わずよろける…


だがなんとしてもブレムを安全な場所に戻したい彼女は、彼のいる場所に向かって、よろけながらもなんとか走る…


と、


「キャアッ…」


直後の激しい揺れで倒れ、ジウナは彼を一瞬見失う。


違う方向が視野に入り…ミアハの民のいる小型機の下から亀裂が現れ…今まさに2つの機体がみるみる裂け目に飲み込まれて行くところだった…


「?」


見間違いだろうか?


裂け目に落ちて行く人影があったような…


けれども、ジウナがその影を確認する間もなく、信じられない光景が視野に入って来る。


「え?…嘘でしょう?」


ブレムもその影を見たのか…


裂け目に向かって車椅子を動かし出す彼の姿が見えて、ジウナはダッシュする…


が…


その裂け目はこちら側にどんどん伸びて来ていて、ブレムの足元まで迫り…


すんでのところでジウナはブレムを掴み損ね…


彼は落ちてしまう。


「ダメ、ブレム様っ」


咄嗟にブレムを追って、飛び込むジウナ…


「……」


落ちた直後に…


ジウナは、上からは自分達を追って来たトインと、下は…裂け目の底から急激に湧き上がって来る大量の水を見た。


「ブ…レム…さ…」


彼女はその水の冷たさを感じながら…


意識を手放したのだった…





数秒前…


ヨハは裂け目に落ちた直後に周囲の時間を10秒止め、なんとかヒカを捕まえた。


「ヒカ…」


どうやら彼女は、落ちた衝撃で気を失ったらしく…呼びかけに反応がなかった。


「君は…」


だが、少し前の彼女の言葉を反芻する暇は無く…


再び時間が進み始め、2人は落下して行く…


「…?」


下から迫り上がって来る大量の水が2人の身体に触れた直後、


薄く光る膜が2人を包んだ。


「……」


薄れ行く意識の中で、ヨハはヒカをしっかり抱きしめながら自分の手首を見た…


…これが無ければ僕達は…女神に力を根こそぎ吸い取られていたんだな…


腕輪よ…この状態がどこまで保てるか、僕にもよく分からない…


どうか…早く僕達を長老の元へ…


頼む…





遡る事、数週間前…


「ああ、いいモノを見つけた。これを使わせて貰おう。リンナ…いいかい?」


ある儀式の件でヨハを伴ってレノに訪れていた長老は、ブルーベリーにしては巨大に育った幹にたまたま絡み付いていた宿木を見つけ、リンナに了解を得ようと振り返る…


リンナは、長老が何を思いついたかなんとなく察し、うんうんと頷く…


「長老様、宿木をどうされるのですか?」


不思議そうに…でも好奇心でワクワクしながらトウは長老に尋ねる。


「…この木はね…地に根を張らずに生きている変わった木でね、地の女神とは直接関わらずに生きているから…こちらの女神もそうだが、向こうの女神とも、ある程度のエネルギーの干渉を避けられるんだ。…これはきっと…ヨハ達の命を守る手助けになってくれる。だが…」


ふと顔を上げて長のサラグの方を見る長老はすまなそうに…


「サラグ君…すまない…また儀式を1つ増やしてしまうが…よろしく頼む。」


と言って、頭を下げたのだった。


「……」


そのやり取りを黙ってじっと見守っていたヨハと、長老とレノの長、そしてヒカの4人の元で、ある儀式がその1週間後にエルオの丘で執り行われ…


儀式の際に祭壇に捧げされていた宿木は、そのままレノに持ち帰られて、長のサラグによって腕輪に加工され…


その2つの腕輪は、ヨハとヒカがヌビラナに向かう当日に、トウによって彼等に渡されたのだった。


…まあ、スンナリ彼等には渡らずに、ちょっと空港でゴタゴタはしたのだが…






「……」


光はヨハとヒカを包み込んだまま…ゆっくりと水底へ落ちて行く…


『チッ……』


面倒臭そうな舌打ちと共に、数秒の時間差で裂け目に落ちた、男女2人の人間と、彼等を追って来た何やら果実の香りのするモノ…


その片方の、男の心臓は既に止まってはいたが…


その3つの存在は一括りにされ、強烈な青い光が包み込み…ヨハ達を包む光の方へグイッと寄っせられて行く…


『ナンデ ワタシガ コンナコトヲ… ソーユンニ… アテニサレタ コノカリハ イツカ カエシテ モラウ カラナ!』


『………』


『オイ コラ…』


ヌビラナ…いや、かつてソーユンニと呼ばれていた惑星の女神に向かって文句を言う青い光の存在の言葉には、何の返答もなく…


ヨハとヒカによって結合されたミアハの純粋エネルギーを、星全体に馴染ませる作業を始めた女神の意識が暫し深い眠りに入った事は承知で…


その青い光は女神に文句を言い続けるのだった。






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