60 輝きの後
「…?!…なんだ?…あれは…」
ブラインドの隙間から漏れた強烈な光が眠るブレムの眼球を刺激した事で、彼は半強制気味に覚醒させられたのだが…
未だ経験した事のないほどの眩い光が、自室の全ての窓から今も漏れていて…
その強い光にブレムは思わず息を飲む。
「ブレム様?…起きておられますか?」
間仕切り用のパーティション越しにジウナが声をかける。
「ああ…一体何が起きているのだろうね。こんな事は初めてだよ。」
その光は更に、目を開けていられないほどの輝きとなり…まるで遮るモノが何も無いかのような強烈な光に晒され、思わず光に背を向ける2人…
「……」
ブレムはベッド上で腕で顔を覆い、ジウナは発光地点も原因も不明の光に云い知れぬ恐怖を感じながらも、彼女はとにかくブレムが心配で、薄い毛布でガードしながら必死に彼の元へと歩いて行く…
「ブレム様、ご無事ですか?」
「ああ、私は大丈夫だから…このまま少し様子を見よう。」
そう言い終えたブレムの背中に、ジウナの手がそっと置かれる…
「もう来てしまいました。あなた様の様子が良く見える場所で待機していた方が、私は安心なので…」
「…まったく君も…そういう所はヨルアと似ているな。」
困ったようにブレムが言うと、
「…私にとってそれはお褒めの言葉と同じですよ。」
と、嬉しそうにジウナが返す…
「困ったモノだ。確かに君がいてくれて私はどんなに助かっているか…。それには感謝しかないんだが…前も言ったと思うが、私は君の父君ではないんだから…決して生き急いでくれるなよ。」
「……」
真剣な口調で返してくるブレムに、少し黙り込むジウナだったが…
「…しませんよ、誓って。まだ第2の父である師匠に恩返し出来てませんし…万が一、ここであなた様と共に私も何かあったら……残され怒り狂ったヨルアさんを天国から見たくはありませんからね。無茶はしません。」
「……」
今度はブレムが黙り込み…
「…確かに。それは笑えない展開だね…ハハ…」
ブレムは呟きの中に乾いた笑いを残し…
「…だから君は、どうかその言葉通りにね。しっかり師匠に恩返ししなきゃダメだよ。…これは私の遺言と思ってくれていいか」
「やめて下さい!遺言なんて…いいですか?私だけ生き残ってもヨルアさんに恨まれます。どうか…彼女の側で生きたいと、強く願って下さい。」
ブレムは凄い剣幕でジウナに怒鳴られる。
「…プロジェクトは今は止まっても、きっと実を結ぶ日が来ます。私達の長老もそれを信じております。…あるいは…この光は何か大きな変化の兆しかも知れません…だからどうか…」
ジウナの声は次第に掠れ…やがて…
「……」
黙ってしまった。
「…ありがとう。ジウナ…分かったから…」
ブレムの背中に縋り付いて…おそらく忍び泣いているであろうジウナに、彼は優しく語りかける…
「……」
2人がそんなやり取りをしているうちに、光は大分弱まって来て…
「…光は収まって来たようだね。一体どこから…」
ブレムが言い終わらないうちに、ジウナは窓際へと移動していた。
「………どうやら…ミアハの民がいる方向からの光のようです。」
「やはり…という言い方もなんだが……そうなのか…」
「……」
光が収まっても、しばらくジッと窓の外の様子を見ていたジウナだったが…
何かに気付いたように部屋を出て行く。
「ジウナ…?」
「すぐに戻ります。」
そう言って出て行った彼女は、本当にすぐ戻って来たのだが…
戻るなりジウナは、
「トインが来ました。…という事は…」
部屋の入り口の所からブレムの方へ向かって言いかけたが…途中で彼女の言葉は途切れる。
「…そうか……」
ジウナが言いづらそうに黙ってしまった事で、ブレムは大体を察した。
「果たして、我々の血と汗の結晶のあの作業場は…どこまで痕跡を留めてくれるかな…?」
ブレムの弱々しい笑顔に、ジウナは思わず彼の元へ駆け寄り…
「ブレム様、そういう事は起きてから嘆くモノです。今、あなたが頑張らなくてはならない事は、生きてヨルア様に会う事ですよ。…もしかしたら…この後の事が今後の作業復活の活路になるかも知れないではありませんか…希望はまだ捨てるべきではありません。」
自身も不安に飲み込まれそうになりながら、必死にブレムを励ました。
と…
2人のそんなやり取りの中、エンジン音がもの凄い勢いで近づいて来て、ブレム達のいる建物の前で止まった。
ただならぬテイホ軍側の動きに緊張しながらも、ジウナは急いで窓から様子を確認する。
「…?」
緊急時の為か、いつもの顔触れではなく見慣れない人がジープのような車から降りて、入り口の呼び鈴を鳴らしながら声をかけて来る…
「こちらは異常はありませんかぁ?」
ジウナは努めて冷静を意識して、玄関に向かう…
と、
なぜかそんなジウナを追い越してトインが玄関に向かって駆けて行き…ドアの側で、
「ワンッ」
と一声だけ鳴いた。
ジウナは一瞬焦るも…
確か、トインの存在を分かる人は今は向こうには居ないはず…と、自分を安心させるのだが…
「ああ…トイン君はこちらにいるのですね?」
え?…能力者?
慌ててジウナはトインを勝手口に誘導しようとすると、
「大丈夫です。僕は上官達がやたら警戒するアイラさんに通ずる者ではありませんが、一応、あなた達の敵ではないつもりです。今、基地内は電気系統…特に通信系統が機能していないんです。あまり時間をかけて話していると、命じた上官が飛んで来ると思うので…とりあえず、中に入れて頂いてよろしいですか?」
「…なぜあなたは…トインの存在が分かるのです?」
…どうしても…ドアを開ける前にこの質問はしなければと、ジウナは思った。
この人は、事前にジウナが知らされていたテイホ側の能力者リストにもなかった。
けれど、この…ドアの向こうの男性からは、ジウナ独特の勘では悪意や敵意は感じない…
なのになぜ…この人はこちら側の事情を察しているのか?
場合によってはこの後に戦闘の可能性があるならば、ドアを開ける前に出来るだけ多くの判断材料がジウナは欲しかった。
「…あなたが今抱いている疑問に全て答える事は出来ないかも知れませんが、僕がこの犬の存在を感じられるのは、僕がかつてミアハの民に命を救われているからなんです。そして、僕は特にどちら側という感覚を持たないままここに配属されて来たので…あなた達の事を常に気にかけておられる方々との繋がりがないから、今、この役を上司から命じられてここにおります。」
どちら側でもない…?
「……」
ジウナはますます混乱してしまっていた。
「…信頼して頂けないならば、この状態でのお話でも構いません。僕はこの後に向こうのミアハの方々の所へ行って、先程の現象に関しての調査と彼等の安全確認に行かねばなりませんが…どうやら、あなた方やミアハの方達も含め…我々にはあまり時間がないようです。」
「……」
数日前…いきなり現れたトインの持つ情報を、たまたま定期的な巡回に訪れたアイラ側の諜報員的な人がジウナやブレムに説明してくれた際、近い未来にこの基地周辺で起きるかも知れない問題と、おそらくタニアがトインに伝えた情報から、その対処方を彼が理解出来る範囲で伝えてくれたのだが…
グエン側でもアイラ側でもないこの人は、一体何を知っているというのだろう…?
「…今のあなたの疑問には答えられます。僕は…そもそも特殊能力があるんです。その件は時間があまりないので説明は端折りますが、政府側は今のところその事は把握してません。…不思議なんですが、今回、能力者として派遣されて来た部隊は、ここでは全く能力が使えず、おそらく、アイラ氏側の能力者と僕だけはなぜか特殊能力の使用に関してはさほど問題が起きていないのです。…だから、これからはなるべく時間を上手く使わなくてはいけない旨を、あなた達に伝えなくてはならないと思いました。」
「……」
この人は嘘は言っていないとジウナは感じ、恐る恐るドアを開けた。
「…急な任務…ご苦労様です。」
「…信用して頂けましたか…」
「はい…私は特殊能力者ではありませんが、勘が少し働いて…目の前の人が嘘を言っているか否かぐらいは、なんとなく分かるのです。」
その人は…年齢的にジウナとさほど変わらないように見え、発言の信頼を得られた事を心から安堵しているようだった。
彼は手早く2人の無事を確認し、ここからの発光現象の様子を聞いた。
そして、トインをジッと見つめながら…
「…あなた方は…これから何が起きても、ここから離れては行けないようです。この建物のどこかにあるブルーベリーの鉢植えの側に、このトインと共にいて下さい。」
そう忠告し、最後にジウナを見て…
「次はアリオルムで会いましょう。では、失礼します。」
と、笑顔で言って敬礼し、玄関のドアを開けた。
「待って下さい!」
出て行こうとする青年を、いつの間にか車椅子に乗ったブレムが、ジウナの背後から引き止める。
「母星に戻られましたら、これを娘に…」
ブレムは振り返った青年に焦った様子で必死に前に出てメモのようなモノを渡す…
「いや、でもこれは…もしもバレたら罰せられるのはあなたですよ。」
青年は困惑して受け取るのを拒否しようとする。
「ブレム様、もうすぐあの方はこちらへ戻られる予定です。お話はその時に直接お伝えすれば…」
「私はこんな身体です。いつ何があっても不思議ではない。無事にまた会えたら直接伝えるつもりですが…申し訳ありませんが…お願いです。中を見て口頭で伝えて頂いても構わない…そちらではゴミはひとまとめに細断して暖房に利用するシステムがあるでしょう?メモはそちらでいいように処分下さい。だからどうか…」
「……」
ブレムのあまりに必死な様子に圧倒された青年兵士は渋りながらも…
それを受け取り…敬礼をして出て行った。
「…ブレム様……」
なんとも安堵した表情のブレムを見て、ジウナは胸が締め付けられる…
この人はもう…既に生きて帰れない事を覚悟していて…
いや違う。
あの人に…最愛の娘に会えないまま逝く方が良いとすら…
ブレムの覚悟があまりに切なくて…ジウナは思わずブレムにしがみつく。
「私が…必ずあなた様を生きてヨルア様の元に…私は、絶対に諦めませんからぁ…」
溢れて来る涙を拭う事も忘れ、ジウナはブレムに縋り付いて叫んでいた…
「遅いぞ!何を手間取っている。」
ブレム達のいる採掘場の近くの建物を出てからミアハの能力者達のいる場所に向かう途中で、1台の同じタイプの車が後から迫って来て…
2つ機並んだ子機のうち手前の子機の前のスペースに車を止めると、もう1台も追いつき…
中から上官の兵士が降りて近づいて来て、彼を軽く叱咤したのだった。
「すみません。2人共かなり動揺していて…ブレム氏は過呼吸の様な状態になっていたので、軽く処置をしていました。僕があそこを離れる頃には大分落ち着いておりましたが…」
と、こちらには軽く嘘を散りばめた報告をした。
「まあ…あの男もあまり長くないそうだしな…だが最近は作業もなく、若い女の子とずっと2人きりでいるそうだからな。変なことしてる最中にお前が来て、動揺して過呼吸になったんじゃないか?」
「……」
緊急事態と部下を追い立てながら、自分はニヤニヤしながらこんな下世話な想像しか出来ないのか?
思えば…
そもそもヌビラナとは名前の通り、上陸した者は全て、滅びた文明の置き土産となったトラップにかかって一斉攻撃を受けるヤバい星で…
兵士達は「噂が一人歩きしてるだけだろ?」とか「自分のスキルを上げたいならヌビラナを志願すればいいんだ」とか、興味本位的な軽い口調で噂する奴が多いが…
政府直々でいざヌビラナでの作戦隊員の志願を募ると、集まったのは僅か…自分を含め10人も満たなかった現実があった。
その初期メンバーも結局、ここに来るまでに半数が辞退し…
結局、自発的な応募では予定していた人員には遠く…
軍で選抜されて来た兵士もなんだか…
ベテランの猛者もいるが、彼等も未だ士気が上がっている感じはない。
最初はこの星の様々な危険な噂が原因かと思っていたが…
どうやらグエン政権のやり方に否定的な、アイラ氏の息のかかったスタッフがまあまあな数潜り込んでいる事と、元々グエン氏直属の部下達の人間性も…少なからず影響している事を知った。
現にこの男も…
「あの強烈な光の光源は明らかにこの辺だった。ここら周辺のサーモセンサーは特に何も変化はなかったのに…だ。…奇妙な事だが、この現象を利用しない手はない。このまま例の娘を調査の体で基地本部へ連れて行くぞ。お前もそのつもりで援護しろ。まあ…30分しても我々が戻らなかった場合は、ある程度まとまって応援が来る予定だがな。」
彼はスッと身体を寄せて、その耳打ちして来る。
…応援?
「……」
…そんな事の為に…
我々の対応が遅れれば、下手すれば基地の人間は皆死ぬかも知れない…
俺はアンタらと心中はごめんだ。
と…
2人のそんなやり取りの最中に片方の機から女性が出て来る。
「あ、お待ちしておりました。…先程の光には我々も本当に驚いて…おそらく光は向こうの機内からと思うのですが、通信機能もなんらかの影響があったのか、連絡が取れなくて…あの中にいるセレスの能力者2名の安全を確認しようとしていた所なのです。よかったらご一緒に行って頂けたら…」
と、慌てた様子でテイホ側の2人に近付いて来る…
うわぁ…セレスの種族は独特な雰囲気で美形の人が多いと聞いてはいたが、この人の美しさは…間近で見ると尚更に…
しかもこの人は…
タニアの美しさに思わずボーっと見惚れてしまう2人だったが…
[[バフェルさん、初めまして。あなたは能力者で、今の状況を冷静に正しく把握されていらっしゃる…とりあえず、その男と一緒に向こうの機内まで来て下さい]]
「…!」
やはり…かなり強力な能力者…
「確かに、我々が確認し得る範囲の中では、あの光の前後ではどちらからも子機から誰か外に出ている形跡はないようでした。とりあえず、中に入って調査しましょう。」
バフェムは、この女性が自分達2人共に向こうの子機中に入って欲しい様子を察し、上司にさりげなくそれを促す。
「いや、とりあえずお前だけ…」
そう言いかけた上官に彼女は素早く近付き…
「正直、こちらも何がなんだかという状況で…状況確認に立ち会って頂く方は多い方が助かります。」
さりげなく上官の正面に回り込み、目を見つめながら立ち入り調査を懇願する…
「あ…あ、そうだな…」
一応、彼も特殊能力者用の対策はして来ているのだが…そのセレスの女性の特殊能力はかなり強力で…上官の男は軽く思考停止させられる。
「……」
そるはまるで…噂のあの人みたい…
いや、もしかしたらその彼女よりも…
「ああ良かった…一緒に来て頂けるなら安心です。」
その人はバフェムに向かってニッコリ笑い…機内へのワープボタンを押した。
「…このタイミングで、あなたのような方がこちらに派遣された事もきっと…女神のお導きでしょう。だから私達は、その意思に応えるべく…全員が助かる為に全力を尽くしましょう。」
「……」
もう一方の子機の中に入るとすぐに、彼女は真剣な顔でバフェムに向かって話しかけた。
彼の側でボーっと立ち尽くす上官の存在をまるで意識せずに…
「とにかく私達は、この基地内の全ての人を無事に帰還させなければなりません。私達とブレムさん達は、あなた方の手を煩わす事は出来ませんから…そちらの人達の無事の帰還だけに集中されて下さい。」
「…ブレム氏も…?本当にそれで良いのですか?彼はミアハの血は…」
タニアはニッコリ笑う。
「分かりませんか?あの人は…今、この基地内にいる人間の中で、一番女神に信頼されている人ですよ。ブレムさんはとても真っ直ぐな方ですし、おそらく彼のやって来た事は女神の希望にも添っているのだと思います。少なくとも、今のそちらの混乱の中に合流しての帰還を目指すよりは、彼が無事に生き延びる可能性は高まると思いませんか?」
「……」
だが…ミアハの民がいくら不思議な力を有していると言えど、帰還する為の手段はこちらには見当たらず…
この小型機ではアリオルムまでのワープ可能な機能は設置されていないし、まともに宇宙空間を旅していたら帰還まで10年以上はかかってしまう…
何より、そこまで生き延びる為の諸々の設備も物も、一緒に乗せられるレベルの乗り物ではない。
現実的に、この人達にはこの星を離れる術は持たないように見える。
少なくとも、バフェムの常識からは…
自分は予知の力はあれど、彼等が危機に瀕した後の映像は見えていない…いや、見せてもらえていないのかも知れないが…
ただ、あの犬も…先程あの犬自身の意思の中で、
「あなた達はすぐにここから離れた方が良い」
と…しきりに警告していたのだ。
ブレム氏がその[あなた]には入っていない事をバフェムも理解したのだが…
「…本当に、よろしいのですね?」
バフェムは最後の確認の質問をする。
「ええ。我々は我々のやり方でなんとかします。ただ…あなた方も…不安でしょうけど、丸1日はとにかく建物から出ずに耐えて下さい。出発はその後が無難です。暗闇の中での出発になるかも知れませんが、それまでは希望を捨てずに予備電源だけで踏ん張って下さいね。」
…この人は予知もかなり出来る人という事か…
あのトインが自分に伝えてくれた事の半分以上は、おそらくこの人発信の情報なのだろう…
「…分かりました。では機内をざっと見せて下さい。光源はおそらくここからですよね?」
「…?!…」
バフェムがヨハ達のいる部屋の方へ向かおうと歩き出したところで…
少なくとも、彼がここに赴任してからは聞いた事のない…大きな地鳴りのような音が耳に入る。
「やはり…あまり時間がないようです。このまますぐに戻られて下さい。」
タニアは険しい表情になり、バフェムを促す。
「いや、しかし…」
光源を全く調べないまま戻るのは…と彼が躊躇していると、
「原因はこちらは分かっていますが、あなたの上官の人達ではその原因に関しての真実は理解出来ないでしょう。…本当に時間がありません。調べたが原因が分からず、調査の応援を求めて戻ろうとしたとでもお伝え下さい。戻る頃には原因調査どころではなくなっています。それに…あなたがここにこれ以上長くいたら、兵士達がこちらに大勢で向かって来て、無駄に死者を増やす展開になるだけです。早く!」
タニアの剣幕に圧倒され、バフェムは戻ろうとするも…
「あ、この方のここでのやり取りの記憶は私が意識の奥に沈めました。多分、思い出すのは3年後くらいかな…まあその頃にはこの方は今の地位にはおりませんが…さ、急ぎましょう!」
と言って、タニアは外へのワープボタンを押そうとする。
「あ、待って。この人はいつ元の意識状態に?」
相変わらずボーっと宙を見ている上官に目をやりながら、バフェムは慌てて尋ねる。
「ああ…車のドアの前で彼の背中を軽く叩いて下さい。後はあなたが適当に現状を説明している内にまた地鳴りが繰り返し起きますから…彼はすぐに戻るでしょう。」
「…!」
タニアが説明し終えたところでまた地鳴りが…
「この後はもうひたすら急いで本部の中に戻って。そちらは大丈夫だと思いますけど…その後の問題もかなり大変ですから…くれぐれも、しばらくは建物の中にいて下さいね。では。」
タニアはワープボタンを押し、彼等は機内から消えた…
「……私も急がないと…」
そのままタニアは、急いでヨハ達のいる部屋へ向かう…
そこには、ベッドに横たわるヒカと、ベッドの脇に倒れているヨハがいた…
「あ〜あ…2人とも…大分エネルギーを取られてしまったのね…仕方ない…」
と、タニアはまずヨハに近付き、ティリの治療を施す…
「とにかく、アンタがしっかりしない事には…ヒカちゃんは助けられないでしょう?もう、時間がないっていうのに…」
やがて治療の最中に、外から自分を呼ぶカシルの声が…
「…分かっていますって…でもあと少し…」
と、
「……タニア…?」
ヨハが目を開けた…
「あ、良かったぁ…大丈夫?」
ホッとしたように、タニアはヨハの顔を覗き込む…
「あ…うん。なんだか突然、眠くなってしまって…」
起き上がっても、まだなんとなくぼんやりしているヨハの背中を、タニアはポンと叩く。
「もう…しっかりしてよ。あまり時間がないから、私は行くわね…」
外のカシルの声が、ヨハにも聞こえて苦笑いする…
「うん、僕はもう大丈夫だよ。行って。」
…今回の上陸の直前、「もしも光を見て、直後に地鳴りがしたら…」という話をタニアから聞いていたヨハは、その時が来た事を悟っていた。
「じゃあ…お互い全力で頑張って…セレスでまた会いましょう…」
そう言い残し、タニアの姿は消えた…
「全力でって…そもそもタニア達は…」
ヨハは、タニアの消える寸前の言葉に苦笑するも…
直後に大きな揺れを感じ、慌てて眠るヒカの側へ…
「…怖がられてパニックになるヒカを見るより、むしろ眠ってくれていた方がいいのかもな…」
そう呟きながら、次に来る衝撃からヒカを守るように、ヨハは彼女を抱きしめた。
と…
「……」
不意にヒカは目を開けた。




