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「くっ……私とした事がぁ…」


いきなり撃たれた腹部から薄赤い多量の液体が…フェリアのゆったりめのワンピースをもの凄い勢いで濡らして行く…


「…私の赤ちゃん…」


救急車を呼ぼうと耳に手を持って行こうすると…


「!…」


フェリアの小指に何かが一瞬掠め…少し間をおいて、その小指から真っ赤な液体がポタポタと伝い落ちて行く…


「させねーよ。あ〜あ…赤ちゃん死んじゃうねぇ…」


Tシャツにジーンズという…どこにでもいそうな軽装の中年の男がニヤニヤしながら、蹲って必死にお腹を守ろうとするフェリアにゆっくりと近付いて来る…


雲ひとつ無く晴れた空の下での、彼のやや大きめのサングラスは不自然さはなく…手にしている銃もかなり特殊なモノらしく、小さく手の中に収まってしまうくらいのサイズの為、一見オモチャに見えて…


そして生憎…


フェリアが撃たれたのは人通りの絶えない大通りではなく、裏路地の人気のない場所…


男よりも先ず、撃たれたフェリアの異常な状況が目に入らなければ、たまたま通りかかった通行人はこの惨事にはなかなか気付けないだろう…


「結婚して警戒も緩んだか?…とうとうお前も詰んだな…」


「…あんた、なんか見覚えあるわぁ……あれぇ?…」


絶望的な状況で開き直ったのか…


フェリアは身体を起こし、防御する様子もなく両手を上げて、男の正面に身体を向けながら呟く…


「今更思い出してもなぁ…今のお前に出来る事は、赤ん坊と共に俺に殺される事だけだ。お前達のお陰で俺の計画も家族もめちゃくちゃになっちゃってな…やっとその恨みが晴らせるよ…何より、お前達は凄く邪魔なんだ。」


お前達…ね…


男はフェリアの記憶に動じる事なく、笑顔でゆっくり距離を詰めながら…


今度は彼女の頭部に銃口を向けた…


「逆恨み…?あんた達がぁ…無差別テロなんかするからぁ、秘密警察に追われてただけじゃん…」


フェリアは此の期に及んでもどこか余裕の表情で…


「…?」


良く見ると、上げた手の片方の中指に何か…小さく丸い物がぶら下がっていて…


フェリアはニコッと笑いながら、その丸い何かがある方の手を閉じる…


と…


フェリアの姿が少し霞んだ。


ハッとした男が慌ててフェリアの頭部を狙って撃つも、跳ね返され…


男は驚きながら再びフェリアを見ると、先程まで必死に守ろうとしていた腹部から銃を取り出し、男に発砲していた。


「クソッ…なんでお前ごときが特殊部隊用のシールドなんか…」


パニクりながら悔しそうに、男は近くのゴミ収集用の大きな容器の陰に男は隠れようとするも、右足を撃たれ…


倒れた所を、今度は違う方向から立て続けに発せられた弾に左腕と右腕を打たれたのだった。


「残念ねぇ…詰んだのあんたじゃない…?」


その場から動かず、尚も銃で男を狙っているフェリア…


男は上手く起き上がれず、彼女の先程の弾丸で遠くへ弾かれた自分の銃を悔しそうに見つめながら、


「…クソ女がぁ!…まあいい、子供の方は仕留めた。それだけで…」


身動きが取れないまま寝転んでいる男は、それでもしてやったのは俺の方とばかりに笑みを浮かべる…


「え?…子供ぉ…?」


フェリアはスクっと軽やかに立ち上がり、男に見せ付けるようにクルッと一回転をして見せる。


「?!」


何かが…?


そう…何やら赤い液体の入った透明なパックがドサッとフェリアの足元に落ちるが、彼女のお腹はペッタンコで…更に彼女は軽やかにジャンプをして見せた。


「私の赤ちゃんは、少し早めに私のお腹を出て行ってるのよう〜」


「バ、バカッ、シールドはまだ外すなぁ〜っ。そのままジッとしてろぉ〜っ。」


近くの少し高めのビルの非常階段を必死に駆け降りながら、トバルがフェリアに向かって叫ぶ…


「大丈夫ですよぅ…保安局の人達はもう近くの通路を塞いでますしぃ…この通りに入った時から建物の窓や非常階段は私もずっとチェックしてますからぁ〜そちらこそ…慌てて階段を踏み外さないで下さいよう〜」


「…たく……少しは言う事を聞けぇ〜バカ娘ぇ〜」


ゼェゼェと息を切らしながら、トバルは階段を駆け降り…フェリアの元へ走って来るが…


途中…横たわり、既に動かなくなった男の側を通り過ぎようとして、トバルは立ち止まる。


「…こいつはちょっとヤバいな…大分出血が多いようだ。」


直後、少し離れた場所で叫び声が聞こえて来て…


どうやら…最初にフェリアの注意を違う方へ逸らした奴…襲撃した男の仲間も確保されたようだった。


倒れている男の救急処置をしながら、後から駆け付けた公安職員に救急車の手配をお願いし、トバルはやっとフェリアのところへ…


「…こいつはかつてカリナの家を襲ったテロリスト達と繋がっていた男なんですけどぉ…過去に1度、カリナと一緒にマークして追っていた事があったのですが失敗してぇ…それで奴等は雲隠れしたのでそのままになってしまったんですよぉ。その経緯もなんだが手際が良すぎて…カリナはテイホの政治家の中に協力者がいるようだと、その頃から指摘してたんですぅ。今回だって…ごく限られた人達しか知らない私の今の状況を誰がこいつに教えたのでしょう?あまり考えたくないですがぁ…他のある情報もあってぇ…テイホ政府中枢の人物がぁ…こいつらと何らかの形で繋がっている気がします…」


フェリアの怪我は、指が弾を掠めた際の小さな傷だけだったが…彼女の表情は冴えなかった。


「…そうだな…具体的な調査は一旦、メクスムの公安に委ねるしかなさそうだが…」


今のフェリアの本当の心配は違う所にある事は、トバルにはすぐに分かった。


「…これで兄さんはまた……」


「……」


この襲撃は、少し前にエンデが警告してくれた事でフェリアもお腹の子供も難を逃れたが…


この出来事は今後のフェリアやデュンレ…引いてはウェスラーやイトリアにも不安の影を落とす件となって行く未来を…


なんとなく感じている2人だった。


「とにかく、今はお前も子供も無事だった事を喜ぼう。まあ…ここまで色々乗り越えて来たんだ。あんまり心配し過ぎても仕方ない…なんとかなるさ。」


とりあえず嫁の無事を喜びながらも…複雑な思いでフェリアを支えるように寄り添って歩くトバルだった。





「やった〜私の勝ちよ。」


「え、やぁだ〜、エマが勝つの。もう1回やるの〜!」


泣きそうな顔で、またもや輪投げゲームの再戦を挑んで来るエマの負けず嫌いにずっと付き合わされているイトリア達だったが、


「ふふ…いいわよ。私はまた勝つけれどもね…。」


ママを恋しがって泣かれるよりは全然いいと勝負を受けて立ち、イトリアは不敵に笑む…


「エマちゃんは本当に負けず嫌いだなぁ…よぉし、おじさんだって負けないからな。」


2人のゲームに付き合わされている警備の若い男も、エマに腕まくりをして見せる。


「ま、負けないもん…今度はエマ勝つもん。」


エマは闘志を剥き出しにして2人を睨み…こうしてエンドレスの勝負はまた幕を開けるのだった…


「……」


ドアを僅かに開けた隙間から3人の様子を覗き…デュンレは深い溜め息を吐く…


イトリアの勉強を見る為に時間を空けていたデュンレだったが…


こんな状況ではゲームを中断させられる訳がない。


「あいつにはまんまと先を越されたな…」


フェリア襲撃から間もなく…


[襲撃の件は自分で調べたいので、すみませんがしばらく子供達をよろしくお願いします。」


と書き置きだけ残し…妹は姿を消した。


赤ん坊の方は、エンデの忠告の直後に人工子宮へと移され…


今はまだその中が安全だろうという事で、現状そのまま様子を見ているが、姉のエマは…


もうすぐ4歳の誕生日を迎えるが、まだ母親が恋しいさかりの幼な子で…


仕事もそう休めない父親のライアンを見兼ねて、ウェスラーはフロアでの子供の世話を申し出たのだった。


エマの為に専属シッターを雇い、シッターのいない時間帯にはこうして…手の空いているフロアの人間が代わる代わるエマの遊び相手になっているのだが…やはり若いし女性だし学生だしで、イトリアが遊び相手になるパターンがどうしても多くなり…長く側にいる時間が増えれば、自然とエマもイトリアに懐いてしまう…


じわじわと勉強時間を削られているイトリアの学校の試験日が近づいて来ている今は…


彼女の成績がエマの事で落ちたらと、デュンレは気が気ではない…


「今から色々な人と接しておく事は、人見知りしないエマちゃんにとってはプラスだと思う。それに、トバルさんも嬉しそうだし…小ちゃい子がいる事でフロア内の雰囲気も賑やかになって明るい気がするわ。私は大丈夫だから、デュンレは心配し過ぎないで…」


こんな状況で気遣ってくれるイトリアの言葉は、どこかでフェリアのように自分も居なくなってしまうのではという彼女の不安も見え隠れして、なんとも申し訳ない気持ちになるのだった。


「…すまねぇな…」


3人の様子を覗くデュンレの肩に、同じ様に中の様子を伺うトバルが背後からそっと手を置く…


「いえ…それはこちらのセリフです。妹の関わっていた仕事はそれだけ危ういモノで…向き不向きは別として、そういう類いの仕事を先ずやらせたのが実の父親という…なんともやりきれない話ですが…あいつを助けたいが、敵の全容もそれを調べる術もよく分からない私は、今はとにかくアイラ氏の情報を待ち、無事に帰って来て欲しいと祈るしか…兄として申し訳ない限りです…」


バタバタとしていた中で、なかなかトバルとはちゃんと話せなかったデュンレは、ここでやっとトバルに謝罪する機会を得られたと…深々と頭を下げた。


「止めてくれよ。フェリアはもうウチの息子の嫁だし、孫達の母親だ。こういうのはもう…お互い居た堪れなくなるから止めようぜ。…つってもまあ、お前はそういう奴だよな。これは漠然としたオレの勘だが…子供の親になったあいつは単独で活動していた頃より無茶はせず、以前より慎重に動くとは思う。それに向こうの保安局は今のところアイラさんの親派が多いから、かなり信頼出来る情報はボスにくれるだろうしな…とにかくお前はフェリアが戻るまでは無闇に動くなよ。…嬢ちゃんの為にもな。」


最後に軽くイジってニコッとトバルは笑う…


「!……だから、彼女とはまだ…」


相変わらずムキになって否定するデュンレの肩をトバルは楽しそうにバシバシ叩きながら、


「分かってるよ、まだな…。そういちいちムキになるな。…オレも近いうちにボスの許可が取れ次第、エンデの所に行って来るよ。…良かったらお前も将来の勉強の為にエマと遊んでやってくれ。…おっと、もう休憩が終わる…じゃあな。」


「なっ…なんの将来ですか!」


「なんのって…そりゃあ…そういう事だよ。」


デュンレから遠ざかりながら答えるトバル…


「何がそういう事、だ…まったく…」


トバルは最後にもちょっとデュンレをイジり…


彼なりに、努めていつも通りを装いながら、ゆっくりと持ち場へと戻るのだった。


「……」


口では文句を言いながらもデュンレは…


どうせイトリアの為に空けていた時間だしと、恐る恐るエマ達のいる部屋を開け…


「エマちゃん、こんにちは。デュンレ伯父さんだよ。僕も輪投げゲームに混ぜてもらえるかな…?」


と、打って変わって満面の笑みで入って行くのだった。


「…うん、いいよ。でもエマに勝ったらダメ。」


「…エマちゃん…それじゃゲームにならないよ…」


「エマに勝ったらダメなの!」


「…デュンレさん…大丈夫っすか?最初は冷静ぶってもトバルさん主催のポーカー大会はいつも後半熱くなってるじゃないっすか…」


「え…そうなの?」


デュンレの参戦に心配顔の若い警備員の言葉に、イトリアは唖然とする…


「うるさいな…俺は何も賭けてる訳じゃないし…負けるのが嫌なだけだ。大丈夫だよ…」


「…いいですか?相手はエマちゃんですからね。」


「分かってるよ!」


「エマが勝つの。今度こそ負けないんだから。」


「……」


イトリアは、エマとデュンレを交互に見て…


負けず嫌いはどうやら血筋かも知れないと苦笑した。


結局…


夜勤のシッターが入って来るまで…伯父と姪はしばしば勝負に火花を散らしながらも、なんだかんだで楽しいやり取りは続いたのだった。




だが…


その後間もなく…ヌビラナの件で大国周辺はミアハを巡って騒然となる。


故に、トバルのポウフ村行きは頓挫してしまうのだが…


フェリアの行方も分からないまま…


だが後に彼女は唐突に…


意外な場所に姿を現すのだが…







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