52 似たような過去
「…夜分にすみません。」
タニアがノックとともにそう声をかけると…
「ああタニアだね…どうぞ。」
「失礼致します。」
タニアがドアの向こうの長老の声に従いドアを開けて一礼するや否や、
「タニア…ハンサの事を気にかけてくれていてありがとう。だが君も既に分かっていると思うが、今のあの子はこれからの事でいっぱいいっぱいだ。…それでもね…これに懲りずにまた時々お節介を焼いて欲しい…と、私は願ってしまうんだ。……今後も今以上に忙しくなりそうな君に対して、少々厚かましい事かも知れないが…」
と、長老から唐突にお願いをされたのだった。
「はい勿論、私はそのつもりです。」
珍しく…
ここでは言葉とともに長老の切ない心情がダイレクトに伝わって来てしまっていたので、タニアは迷いなく、努めて明るく返事をしたのだった。
少し前…
「予定より遅くなりまして、すみません…」
早足が更に途中から駆け足になって到着したタニアは、彼女の姿を確認し少し遠くから軽く手を振ってくれていたハンサと、彼の横で朝も夜も立ちっぱなしでエルオの丘を守ってくれている入り口の警備員の人達に、詫びを入れながら深々と頭を下げた。
思いがけなくナランとの再会を果たしたタニアは、その足でエルオの丘へと向かったのだが…ナランとのやり取りで予定の時間より遅くなってしまったのだった。
タニアが到着するとすぐ、
「長老の許可は得ているから、この子も通して欲しい。」
とハンサが警備員に告げて、タニアは彼と一緒に中へ進む…
「君は凄い行動力だね…感心するよ。」
途中の通路で話しかけるハンサに、
「…おじさんには敵わないわ…実際、さりげないフォローや根回しでずっと長老様を助けて来ているでしょう?…でも、私の場合は今しかないと思ったからやれる事を頑張っただけ…テイホのあの人は今、完全に意識活動は止まっているから…既に薄まっているゼリスのマーキングに関して私が干渉した事は、気付かない可能性の方が高いと思う。どの道、カリナさんとの衝突は多分避けられないと思うけど…今出来る事のタイミングを逃したくなかっただけ。」
ハンサの後ろを歩き、所々の通路脇に下げられている明かりを辿りながら…タニアは淡々と答える。
「そうか…でも使える力を限界までフルに活かして頑張っている君は…僕はやっぱり凄いと思うよ。けど、こんな逞しくなった君をタヨハさんが見たら…頼もしいだろうけど複雑なんだろうね…」
「もうっ!」
タニアは前を歩くハンサの背を軽く押す…
「おじさん…今の私にはパパの事は泣き所なの。帰って来るまでもうパパの話はしないで。」
「はは…そうだね…ごめんよ。」
「……」
「…タニアちゃん…」
「…何?…」
「だから、、必ず無事で帰って来るんだよ。」
「…あ…え!?」
タニアが言葉を返そうとした時、ハンサが不意に止まる。
「…門…?」
ハンサにぶつかりそうになりながら、彼の前に立ちはだかる門みたいなモノをタニアが確認すると、
「タニアちゃん、このゲートを抜けたら登りの階段の方へ行って、10段もない階段を登ってすぐの扉をノックしてみて…光が漏れているから多分まだそこに長老はおられるから。…これから色々と大変だけど、皆んなで力を合わせて頑張ろうな…じゃ…」
タニアの肩をポンと叩いてすれ違おうとしたハンサだったが…
「…おじさん…」
手を離した瞬間に、ハンサはタニアに腕を掴まれる。
「あのね……あの人はもう…とっくに決めている事があると思う。あの人は…」
「……」
「……マリュさんは誰がなんと言おうと、一生結婚する気はないみたい。ある1人のむさくるしい…優しい男性以外とは…」
「……」
ハンサはタニアの思いがけない言葉に一瞬固まるも…
軽い溜め息のような感じで息を吐き、イラッとした空気を纏わせながら頭をカリカリと掻く。
「……本当に…君は…まったく……それで僕の決意を変えられると本気で思っているの?」
ハンサは苦しそうに…タニアの目を見ずに言った。
「…そうやって…おじさんはあの方の心配とかも気付かないようにして来たの?」
「もう…止めてくれ。こんな話をする場所ではないんだよ…長老がお待ちだ。」
ハンサはタニアの手をサッと振り払って歩き出す…
「おじさん、私達はきっと生きて帰るから…そしたらきっと…だからおじさんも諦めないで欲しいの。」
タニアの言葉に立ち止まったハンサだが…
「…ミアハの為に僕はここにいる。諦める以前に願う余裕もない…」
抑揚のない口調でそれだけ言うとすぐまた歩き出し…
その独特の歩調はどんどん早くなり、みるみる遠ざかって行ってしまった…
「……」
まあ…当時のおじさんだってかなり悩んだみたいだから…そう簡単には行かないよね…
これから大きな嵐が節目と一緒にミアハに幾つかやって来る…
その内の1つの嵐におじさんはもう…既に打ちのめされているのだから、あの反応は無理もない…
…でも…
おじさんが変わればセレスはもっと早く…今までの無駄な縛りを外せる気がするの…
私は諦めないからね。
タニアは深く深呼吸して、目の前のドアをノックした。
「そうか…君がこんなにスピーディーに動いてくれたとは…本当に助かるよ…」
言葉通り…長老は本当に安堵しているようだった。
「…彼女は私の訪問にかなり驚いていたようでしたが…ドアを開けてまず私の顔をまじまじ見てくれたので…大事な目的はすぐに果たせました。ゼリスは…以前の私に少し似ています。彼女が今でも心の支えにしているイレン様が長の役を降りる事は、今の彼女をかなり不安にさせているようです。彼女は閉鎖的なセレスの能力者の中で、自身を悪目立ちしていると思い込む事で孤立感を深め…警戒心が強くなってしまったようです。先輩も同年代にも、表面的にはそつなく交流出来る子ですが、本当はなかなか心を開いて話せる人がいないようです。イレン様も意識して深い話はゼリスとはされていないようですし…だから、あの子…ヒカちゃんに接触したのは、当初は本当に好意からだったと思います。」
「…イレン自身も対人面では決して器用な部類には入らないからね。彼は師匠として、自立したゼリスに構い過ぎてもマズいと少し距離を置いた部分は容易に想像出来るが…あの2人の問題点でもあり少し似ている所は…周囲の世間話に付き合ってしまいやすいんだよな。」
タニアはフッと苦笑した。
「確かに…その傾向はあるように私も思います。ただ、イレン様は噂の真偽をまず長老様に委ねるようにしているみたいです。…ですがゼリスは…大きな誤解を抱いたまま、あの人に狙われてしまった。」
…そう…だがゼリスはカリナに1度はマーキングはされたのだが…直後にカリナはタニアに出会って…ゼリスに関してはほぼ放置状態になっていた。
それはゼリスにとっては不幸中の幸いだったとも言えるが…
記憶の底にこびり付いていたヨハへのネガティブな感情が…結局、ヒカへの過剰な干渉へと結び付いてしまったようだった。
「…それであの子の…そもそもの誤解は…解けたのかな…?」
多分…本当は一番心配していたであろう事を長老は恐る恐る尋ねた。
「…大体は。ただ彼女は…私がパパ達と過ごした事で深い安心を得られたように、今は彼女にとって一番信頼する存在であるイレン様とゆっくり過ごせる時間が必要なように思います。」
きっとこれから…あの老女との交流も、彼女の満たされなかったモノを癒していく時間となるのだろう…
「……」
「………」
ふと黙り込むタニアを少しの間見つめていた長老は、彼女の顔を覗き込むようにして、
「君も…戻ったら会いに行けばいいじゃないか、ゼリスと一緒に…。あの子の良き理解者に君はなれそうな気がするよ。まあ、君に余裕が出来たらでいいから…これからもちょっとだけ気にかけてやってくれ…」
「……」
語りかける彼の優しい眼差しの奥には、限られた時間の中で色々な思いを託して行こうと必死になっている切実さが垣間見えてしまい…
タニアはついつい言葉に詰まりがちになってしまう…
「……そうですね。彼女は私にとってヨハとはまた違った…不思議な感情を覚えます。まあ今は…とりあえず私もパパへのとんでもな誤解が解けて一安心です。この機会に良い交流に繋がって行くといいなとは思っています。」
「…そうか…根は純粋で優しい子だと思うから、よろしく頼むよ…」
安心したように長老は立ち上がってタニアに近付き、肩に軽く手を置く…
そして、ついでの様に柱時計に目をやり…
「ああ…大分遅くなってしまったな…疲れているのに申し訳ない。ひとまず今日はここで話は終わろう。」
タニアも慌てて立ち上がり…
「あ…こちらこそです。長老もご多忙なのに…ありがとうございました。では、失礼します。」
「あ、タニア…」
一礼をしてドアの方へ歩き出そうとしたタニアを長老は呼び止めた。
「はい…?」
振り向くタニアに…
「…君はきっと大丈夫と言うだろうが…夜の通路は慣れていないと歩き辛い…入り口まで送ろう。」
「…いえ、あなた様にお会いしたいと言ったのは…」
いや付き合わせた方がそれは…と、タニアが手で断る仕草をしても…
「私が送りたいんだ…入り口まで付き合ってくれよ…」
長老はタニアの肩を優しく抱えるようにしてドアの方へ向かせ、前に進むように促す…
「あ…はい…」
そこまでされたら、さすがに断れず…
タニアはおずおずとドアを開けて長老に前を譲る…
「……」
「タニア…」
行きと同じく明かりを辿って歩き…少しして長老が沈黙を破る。
「はい…」
「これから過酷な任務に赴く君にお願いばかりして…本当に申し訳ない…」
申し訳なさそうに言う長老にタニアの方こそ…今後のミアハの事を常に考えてばかりいる彼の姿には…
「いえ…長老の日々背負っているモノの大きさを考えたなら…畏れ多いお言葉ですからもう…どうか謝ったりなどしないで下さい。」
胸が苦しくなってくるのだった…
「…最近の新たな予言では…特に不吉な文言はない。ただ…具体的な予言も何もないんだ。だが今日の瞑想の後の君の表情は…明らかに瞑想前より険しくなっていたのを私は見逃さなかった…」
「…それは…」
動揺しながらタニアが言いかけると、
「いいんだ。言わなくていい…」
そう言ってセダルは振り返り、タニアを強く抱きしめた。
「私は女神に君達の無事の帰還を祈り続けるし…祈りは届くと信じている。だから予言の話はこれでお終い。きっとハンサは入り口で君が戻るのを待っているだろうから、急ごう…」
抱擁を解いた直後の彼の顔を見たタニアは…
「……」
やはりこの方は気付いていた…と確信した。
「長老様…1つだけ聞いてみたい事があるんです。…よろしいですか?」
「…君の質問にはなるべく全部答えてあげたいが…なんだい?」
長老はタニアの質問に微妙にワクワクしてるようで…興味深そうに彼女を見た。
「…それでは…えと…あの…今まで恋愛感情を抱いた方とかおられましたか…?」
「ああなるほどね。いたよぉ…勿論。…大好きだった。」
「…ではその…今までそういう面での葛藤とかは…」
長老は割とフランクに笑顔で答えてくれたので、タニアはついつい詳細を知りたくなって…
「そうだね…当時は…私が長になる少し前からセレスは色々とゴタゴタしていてね。セレスの諸々の問題も既に深刻化していたし…あの頃の私は能力者として夢中で駆け回っていたよ。長老になってからは恋愛に関する葛藤は特になかったけど…若い頃は私も大好きな人と気持ちは通じてはいたんだ。でもお互いとても忙しくて…今思えばあれが最初で最後のデートだったのかなぁ…たまたまお互いの任務がメクスムだったんで、待ち合わせて一緒にご飯を食べにお店に行ったんだよ。本当に楽しい時間だったなぁ…懐かしい思い出だ。」
長老はそう言って、懐かしそうに目を細めた…
「……」
…その瞬間、珍しく長老のその頃の記憶がサーッとタニアの頭の中に流れ込んで来たのだが…
その…美しく…とても柔和な表情が印象的なティリの女性は、若きセダルと任務の後の束の間の時間に初デートした約2週間後…
大国の大企業の重役クラスのクライアントに無理な治療を強要され…治療を終え帰路に就こうとしていた所で倒れてしまったのだった。
大国の病院に救急搬送されて、彼女は一旦は意識を取り戻した。
当時の担当医師もそのまましばらくの療養を勧めたのだが…
彼女は任務への使命感が強く、自分の不調で治療が出来なくなった他の大国の治療予約者のミアハへの苦情も想像し、彼女は次の任務を強行してしまった…
結果的に最後のクライアントとなった人物の治療後に再び倒れ…
近くにいたクライアントの部下達が急いで病院に運ぼうとするが、彼女の強い希望によって、その部下の1人が運転する車でミアハには戻れたのだが…
帰国直後に彼女は急死していた。
彼女の遺体と対面した当時のセダルの深い悲しみと、懲りる事なく理不尽な治療を要求して来る身勝手な一部のクライアントへの強い憤りが…
タニアの心を強く締め付けて来る…
それから少しして、長になったセダルはその女性に永遠の愛を誓い…その後の彼自身は任務と恋愛の葛藤はなかったようだが…
彼の若い頃にもセレスの能力者達は、任務を最優先に独身を貫く人は普通にいて、そんな彼等に翻弄された女性も少なからずいた事も、ミアハ内での恋愛や結婚の障壁を取り除きたいという今の彼の方針に少なからず影響を与えているようだった。
だから…
勿論、エルオの女神の古い約定の事もあるが…ヨハとヒカをなるべく自身の側に置いて守って来たのも…
何より…
長老の感情に紛れ込んでいたある2つの家族の記憶…いや、家族としては成立出来なかった親子の悲しい物語をそれとなく見聞きして来た彼は…
「どうした…?」
固まっているタニアを心配そうに覗き込むセダル…
「…いえ…」
タニアはそう答えるのがやっとだった。
長老はだから尚の事…あの2人の事は気掛かりなのだろう…
それに…
血縁とかは関係なく可愛がったタヨハの…後継者の道を阻んだニアの事も…当時は怒りながらどこかで同情する気持ちも…
「…メリアさん…素敵な方ですね…」
タニアは上手く言葉が浮かばないまま…滲む涙を素早く拭う。
「?!…」
長老セダルは、愛しい名前がタニアの口から漏れた事に驚き、目を見張ったが…
やがて破顔した。
「そうなんだよ!…ああタニアに見られてしまったか…私の永遠の恋人は美しかろう?」
…彼は間もなく訪れる皆との別れを悲しみながらも…
その後の彼女との再会は楽しみの1つのようだった…
「ほら、やっぱりいたろう?」
「やっぱりって…よく分からない予想を勝手に立てないで下さい。タニアちゃんが夕食を食べないまま出かけちゃったから、サキヤさんから鍵を預かっていたんです。」
自分を見てなんだか嬉しそうにタニアに目配せをする長老に、何か噂されていた気配を感じたハンサはちょっと不機嫌そうに説明をする。
「何も食べないで寝るのはダメだよ。…とりあえず食堂に直行だ。」
と、ハンサはついて来いとばかりにタニアを見る。
「では、ここからは僕が引き継ぎますので…」
と、長老には軽く一礼をして彼は歩き出す…
「ああ頼むな。…この子なりに君を心配してるんだ。何か言われてもピリピリするなよ〜」
…やっぱり!
さっきのタニアちゃんとの会話に、あの人はしっかり聞き耳を立ててたんだ。
背後から若干楽しそうにかけられた言葉に、ハンサはカリカリと頭を掻きながら、
「…何を仰っておられるのか…分からないです。」
と素っ気なく言葉を返しながら振り返る事なく…彼は早足で歩いて行くのだった。
「…タニアちゃん…さっきは…その…」
厨房は綺麗に片付けられ、既にスタッフは皆引き上げていて…
ポツンと一人で黙々と夕食を食べるタニアの向かいに…
彼女に付き合うように、彼もまた無言でコーヒーを啜っていたが…しばらくして意を決したように口を開く…
「少々キツい言葉を返してしまったと思う。ごめん…。だけど…」
「いいの。凄く余計な事を言ってるのは私なりに分かってるつもりよ。おじさんの気持ちは分かるから謝らないでいいの。」
ほぼ完食したタニアはハンサを見てニッコリ笑う。
「…このトレイは厨房のカウンターの隅に置いておけばいい?」
スッと立ち上がり、食器の乗ったトレイを持って厨房のカウンターに向かいながらハンサに尋ねるタニア…
「ああ…大丈夫だよ。今夜は泊まりがけの職員はいないようだから、サキヤさん達はもう引き上げてしまっている。そういう時は皆そこに置いているよ。」
「…分かった…」
タニア的にはここの日常は色々見えてはいたが…優しいハンサの背負う葛藤が醸し出す重い空気をなんとかしたくて、あえて聞いたのだった。
「おじさん、私ね…無事に帰ったらエンデと一緒にパパを支えて行くつもりなの。」
戻って、今度はハンサの隣に座ったタニアはサラッと彼に告げる。
「…そう…それはとても素敵な事だと思う。君達は良いパートナーになれそうな予感はしていたから…でももう僕達の事は…」
「エンデはね、元々彼の目は機能していなくて…多分…見届ける者としての彼の背負うイウクナの使命からの力が…彼の視神経からの情報を処理して映像化する脳の方に特別な力を与えている状態みたいなの。だから彼は光源のない場所でも、目を閉じても見えなくなる事はない…深淵の瞳は光以外の特殊な伝達物質があるようで…私達のような光からの情報を得ている訳ではないから…その力が無くなればおそらく…そんなに遠くない未来にまた元に戻るようなの。だから彼は…前におじさんに相談もしたけれど、私を避けるようになって行った。村が理想の形で機能し始めたら、彼はこっそり村を出て行くつもりだったの。」
「え…そうなの?」
ハンサは顔を上げ、唐突だが衝撃的な話をサラッと自分に告げたタニアの方を見た。
「もしかしたら…彼の気持ちはまだ揺れている。私が無事に戻ったらやっぱり…って今も迷っているわ。でも私は彼と生きて行きたいし、恩返しもしたいから…絶対に逃がさないわ。彼が私を必要としてくれているのが分かるから…追い回すつもりなんだけどね。」
タニアは…なんとも優しい目になる…
「……」
「他にも…私の周辺にはエンデみたいな…似たような優しい人達がいる。お互いを思い過ぎて離れた人達がね。私はその人達にたくさん心配をかけたし、お世話になったの。だから私は嫌がられてもまた…お節介をしたくなるかもなの。だから、だからね…おじさんがその時にまた怒っても、謝る必要はないの。」
そう言って、タニアはその優しい目をハンサに向けた。
「……」
ハンサは思わず目を逸らした。
タニアのその目は…今のハンサには少し眩し過ぎて…
それに…
彼女の期待には応えられない事もよく分かっているから…
「じゃあ、私はもう行くね。こんなに遅いご飯に付き合ってくれてありがとう…」
あなたの反応は想定内とばかりに、全く動じる事ない風でタニアは席を立ち…
「おやすみなさい…かな?…また明日ね、おじさん。」
「…ああそうだね…今日は色々とお疲れ様。…おやすみ…」
ハンサは…
タニアの健気な思いが切なくて…
それでも変えられない結論が悲しくて…
俯いたまま…そう応えるのが精一杯だった。




