46 それぞれに流れる時間…そして、ヌビラナへ…
ある日のケント宅…
「うん…じゃあ…また連絡するね。」
イヤーフォーンでコソコソと…でもなんとも嬉しそうに話すラフェンの背後に、ある人物が近付く…
「なんだ彼女か?…いいなぁ楽しそうで……って違う。仕事中にプライベートな通話をするなぁ〜!」
「仕事って…早朝に起こされて慌てて着替えて来たのに…未だミーティングは始まっていないじゃないですか。僕、今日は講義に出るつもりだったんですけどね…。そんなピリピリしてケビンさん…また彼女とケンカしたんですか?」
…ったく…、
優秀なのは分かっているが、コイツはまだ学生で…自分とは10も歳が離れているのに…どうしてこういつも冷静で落ち着き払っているんだ…?
図星を突かれたケビンは不貞腐れた表情でラフェンを睨む。
「…親父は今日中に俺のサポートチームの新たなメンツとの顔合わせをさせたいそうだ。その子を途中で拾って来ると言っていたが、少し遅れると今さっき連絡があったんだよ。…そのメンツが…さ、テレーサと揉めてる原因なんだ…」
「え?…その新しい人って若い女性ですか?テレーサさん、かなりヤキモチ焼きだから…この間も秘書の人の事を疑って事務所まで来ていましたよね…?やっぱり秘書は年配の女性か男性にしといた方が無難ですよ。ケビンさんて見かけによらず女性受けは良いから…苦労しますね…」
「…まったくなぁ…寄って来るのはおばちゃんや子供ばかりなのに…って、見かけに寄らずは余計なんだよ。」
と、ケビンは軽くラフェンの頭を小突く…
「あはは…でもまあ議員さんなら年配女性や子供に人気っていい事じゃないですか?ゴシップにさえ注意すれば盤石な支持層になり得る人達ですよ。」
ラフェンはケビンが恋人と揉めてる件はほぼ他人事で、ケントを待つ間の暇つぶしにいじられている事をケビンも自覚しながらも…
「…けどまあ…これから来る奴はちょっと背景がややこしくてな…もしこの先テレーサとの関係が拗れそうになってしまったら…話を聞いてもらってもいいか…?」
不安を滲ませた目でケビンはラフェンに向かって手を合わせる…
「…マジですか…?そんなややこしい女性なら、ケントさんに言ってその人の加入を断ればいいじゃないですか…」
…なんだかよく分からないが…そんなややこしい人とあえて仕事を組ませるのって…ケントさんの判断としてどうなの?と…
ケビンの困った表情を見ていると、ラフェンの心にも次第に不安が広がって行く…
「いや、女性じゃない…男の子なんだ。テレーサとのややこしいトラブルはごめんだけど…彼女には悪いが、彼に会える事はちょっと嬉しくもあるんだ。実は…」
「やぁおはよう、待たせてすまない…」
ケビンが複雑な表情で話し始めたタイミングで、不意にドアが開き…ケントと共にその噂の人物は現れた。
「あ、初めまして。僕はカイルと言います。今はまだ学生の身分ですが、アイラさんの元で仕事のお手伝いをしていました。よろしくお願いします。」
…少年…?
どう見ても自分より年下だろう…マジか…
部屋の入り口で、ケントの隣で深くお辞儀をする結構な美少年にラフェンは釘付けとなる…
「あ…前に1度会ったよね?君の噂は時々アイラさんから聞いていたんだ。君が僕達の為に力を貸してくれる事にご両親の理解が得られて本当に良かったよ…僕はケビンだよ。よろしくね。」
ラフェンとは対照的に、ケビンは躊躇なく嬉しそうにカイルに近付いて握手を求めた。
「あ…僕もです。アイラさんから時々ケビンさんのお話は聞いてました。アイラさんはあなたの議員としてのこれからの活躍にとても期待されています。僕でお役に立てるなら…とても光栄です。」
カイルはケビンの握手に応えながら、大人顔負けの挨拶をして来る…
…けど、なんだかこの子…
「……」
「こらラフェン、とりあえず挨拶。」
興味深過ぎて思わず見入ってしまい、挨拶を忘れてついカイルをまじまじと…無言で見つめていたラフェンの腕を、カイルから見えない位置からケビンが肘で軽く突く…
「あ…初めまして…ラフェンです。…よろしく…」
…この子…カイルは一体…?
カイルの隣でケビン達のやり取りを見ていたケントは、ラフェンの困惑した表情を見て取り、どこか面白そうに苦笑する。
「ラフェン…君の戸惑いはよく分かるよ。カイルはまだ年齢的に政治的な活動は出来ないから、表立っては一緒に活動する事はまずない。ただね…この子は今、君と同じ学歴…いや、もう論文は提出済みだから君より先に進んでいて…間もなく表向きはアイラさんの持つ研究室のお手伝いをすることになっているんだ。」
へっ?
自分より先って…スキップしているのか……にしても…
「…表向きって?…ケントさんはこの子に何をさせようと…?」
…ケントさんも中々食えないというか…我々にも手の内は常に部分的にしか晒さないからなぁ…
と、今の時点では、ケントがカイルをわざわざ自宅まで連れて来て顔合わせをさせた意図がよく分からず…ラフェンはケビンを差し置いて思わず質問をしてしまっていた。
「ふふ…ケビンはね…親の私が言うのもなんだが、平和主義な議員として変な駆け引きをしないお人好しな部分が逆に功を奏して、この先の未来には人心を掌握出来ると私は期待しているのだが…やはりまだ未熟で若干抜けている所はね…他の誰かが補わなければ、直ぐに足元を掬われる世界だから危惧している。その為には私だけでなく、君とこのカイル君の力が必要なんだ。実はカイルはある期間、優秀な諜報員と行動を共にしていたんだ。勿論、彼は見学だけ…幾らなんでもカイルの両親は彼のスパイ活動は許していないからね。…ただこの子の好奇心は果てが無くて…ちょっと放浪癖みたいな所もあり、アイラさんもそこには手を焼いているらしい。だが彼の機転と視野の広さはきっとケビンの役に立ってくれると信じているんだ。基本的にはご意見番みたいな役どころかな。」
…やっぱりケントさんは、持っている情報の半分も言ってくれない…
「…この子…カイル君て…一体何歳なんですか?少なくとも10代後半ではないはず…何か…彼には違和感を感じます。」
ほう……とケントは少し目を細め、
「さすがラフェン君だ。中々鋭い所を突いて来るね…まあ君より5歳以上は下と言っておこう。…君と同じくカイルにはかなり期待をしているんだ。…それにね…君はこれが何に見えるかな…?」
ケントはそこまで言うと、カイルに目配せをする。
するとカイルは自分の足元の方に視線を落として、そのまま後ろの方を見る…
「ほらトイン…おいで…」
と言って、足元と入り口の間に少しスペースを開け、自分も少し前に出て後ろ向きにしゃがみ込む…
と、やや長毛の白と黒の毛色の中型の犬が入って来て、
「クゥ〜ン…」
と、カイルに甘えるように、差し出された彼の手の指をペロペロと舐めているのが見えた。
「…可愛い犬ですね…犬種はボーダーコリーかな…?」
と、ラフェンが普通に見たままを答えると、
「ボーダーコリー…?」
まずケビンが驚愕の表情でラフェンを見て…
直後にケントの方を…何かを問うような表情で見た。
するとケントも、最初こそ少し驚いたようだったが…徐々に嬉しそうな笑顔に…
「…な、ケビン…面白いよな。実に面白く…そしてかなり興味深い。ラフェン、やはり君にはミアハの民の血が流れているんだね…」
今度はラフェンを見て微笑むのだった。
「え?…なんでそれを…?それに今その話ってこの犬と関係あるのですか?」
ケントの言葉の意味もケビンとのやり取りの意味もサッパリ分からないラフェンは、やや混乱状態となっていた。
「ラフェン、私とケビンにはその犬は全く見えていないんだよ。」
…ケントは、今カイルが撫でている犬の辺りを見つめながら、言葉通り実に面白そうに呟く…
「え…?」
ケントの簡単な説明は、ラフェンを更なる混乱へと落とし込むのだった。
一方、テイホ国官邸のある一室…
「入りたまえ…」
年配で恰幅の良い…品あるスーツに身を包んだ男性が、ノックの男に反応する…
「失礼致します。」
と、軍服に身を包んだ高身長の…こちらもやや年配の男性が入って来る。
「…さっそくだが例の件はどうなっている?」
「現場の警護の件はご安心下さい。精鋭ばかりを20人同行させます。更に…」
「違う。私の警護の話を聞きたいのではない。」
スーツの男はやや苛立ちながら座り心地の良さそうな椅子から立ち上がり、近くの窓に身体の向きを変え歩いて行く…
「例の…青緑色の目の娘の件だ。」
「はい、それも首尾は上々です。」
スーツの男が背を向けているのをいいことに、軍服の男は若干動揺を表情に出すが、発する言葉は勇ましく…更に続ける。
「カリナほどではありませんが、我が国の選りすぐりの特殊能力者を10名ほど向かわせます。あとは普通に軍事的戦術に長けた者達を多数配置させ、こちらは圧倒的な人数と戦力で作戦日は備えます。」
「…カリナの最近の様子はどうだ?」
軍服の男は微妙な表情を浮かべながら、
「相変わらず…こちらの要請にあまり協力的ではありません。が、現場で掘削作業の指揮を執るブレム議員には従順なようですから、とにかく今は彼の目的達成が最優先で、我々の邪魔はしないでしょう。」
「…まあ、いざとなればブレム議員の身の安全を盾に、あの女にも協力させる手も考えておけ。それに…」
スーツの男は振り向き微かに口角を上げ…
「ここだけの話…あの男はあまり長くはないだろう。最悪、何かあっても代役はなんとでもなる。もしもあの親子が怪しげな行動を見せたなら…躊躇はするな。」
「はっ!」
スーツの男に向かって、軍服の男は勢いよく背筋を伸ばしながら敬礼をする。
「…君の報告には一応満足した。期待しているぞ。話は以上だ。行っていい。」
「はっ、失礼致します。」
軍服の男はもう一度敬礼をし直すと、深く一礼をして退室した…
「……」
遠ざかる足音を確認しながら、男はタバコに火を付けてもう一度窓の方へ身体を向ける。
「こちら(テイホ)はもう前進のみだ。今度のヌビラナでの作戦で一気に優位に立ってやる…」
最近やたらと耳にするあの男の顔を脳裏に浮かべ、スーツの男はタバコの煙をゆっくり吐き出しながら、不敵な笑みを浮かべた。
ポウフ村でのある昼下がり…
「あ、あの、タニアさん…」
収穫した野菜を籠に入れて、一旦神殿へ戻ろうと歩き出したタニアは、不意に後ろから名前を呼ばれた。
「セジカ?久しぶり〜。今日は希望の棟のお手伝いね?…なんだかまた背が伸びたんじゃない?」
セジカに近付きながら、タニアは彼の頭を背伸びして撫で…
「あ〜あ…私はとうとう追い越されるのね…なんだかセジカ達を見る度に時間の流れを感じるわ。」
しばらくぶりの再会を喜びながらも、タニアはちょっと複雑な表情を浮かべる…
「な、何言ってるんですか…タニアさんはまだ全然お若いし…その…お綺麗です。お、お世辞じゃないですよ。」
セジカはやけにムキになってフォローする。
「……」
そんなセジカの様子見て、タニアは優しく笑う…
「ありがとう、セジカ。あなたは優しいね…。最近やっと新人アムナ達が少し入って来たみたいだけど…あなたが教師としてあそこで暮らしてくれたらマリュさんもエンデも心強いと思うわ。…頑張ってね。私もパパも出来る限り協力して行くつもりだから…なんでも言ってね。」
そう言いながらタニアは、セジカの腕を軽く叩く。
[君は優しいね]
…そう言えば昔…あの人がここを出て行く前の日の夜にも、似たような事を言われたな…
「いや…実は僕…もう少ししたら、しばらくここへは来れないんです。両親との約束で、将来ここで教師をやりたいならまずレノの能力者になって、最低でも1年は活動しなくてはならなくて…1カ月後が試験なんですが、それに受からないと予定がどんどん遅くなってしまうので…とにかく頑張ります。って、違うんです。今日は僕の話をしに来たんじゃないんです。」
セジカは徐にポケットから可愛い柄の巾着を取り出して、それを恥ずかしそうにタニアに渡す。
「え?何…?可愛い巾着ね。これって…腕につける物かしら…?あら、なんだか良い匂いがする…」
タニアは受け取った巾着から中の物を取り出し、すかさずそれを鼻に近づけた…
「…ライカムという草で編んだ腕輪なんです。僕とサハとイード…あと少しだけどアヨカで編だんです。昔、エンデさんがメクスムの人達に連れて行かれる前の日に…当時、あの小屋で留守番を約束した僕とサハで…エンデさん、サハ、イード、僕の分を編んで、また皆んなでここで会える事を祈って…エンデさんにその中の一つの腕輪をプレゼントしたんです。ライカムはここでも生えている草ですが、乾燥させた香りは心を落ち着かせる作用があるそうで…そして、ライカムの花言葉は再会なんです。」
「あ…だから…」
タニアは思わずエンデを思い浮かべていた理由も分かり、思わずその腕輪と巾着を握り締める。
「明日の朝…ここを出発されると聞きました。」
タニアがヌビラナに行く事は、本当にごく僅かしか知らされていない…
「…そう……」
セジカだからと信頼してトウがポロッと話した場面から…セジカがサハやイードに呼びかけてこのライカムを編み始めた所にアヨカが乱入…みたいな様子がタニアの頭の中のスクリーンに見えて来た…
「だから…わざわざ今日…来てくれたの…?」
「……本当はサハ達も一緒に来たかったんですが…その…皆んな今は僕と似たような条件を親からそれぞれ言い付けられているので…試験の前でしばらくは出かけ辛い状況で…って…!!…あ…」
少しすまなそうに言うセジカをタニアは堪らずに抱きしめた。
「ありがとう…それでもあなたは来てくれたのね…」
セジカの気持ちが嬉しくて…タニアは思わず抱きしめてしまっていた。
「…私ね…なんとなく覚えているの。まだ記憶が戻っていなくて、自分がどこにいるのかも分からない頃…薄暗い中をずっと歩いていた時、いつの間にか誰かが一緒に歩いていて…その人はずっと私に寄り添って、私を気遣うようにして一緒に歩いてくれた。それはなんだかとても優しい時間だったの。その時に一緒にいてくれたのは…あなたよね?多分、あの時の私はパパやエンデが目を離した隙に外に出てしまったのよね…あなたは無理に神殿に戻そうとせず、しばらく私を見守りながら付き合ってくれたんでしょう?」
突然タニアに抱きしめられ、ドギマギしているセジカだったが…
「…たまたまプレハブの側をあなたが歩いているのを見つけて…なんだかとても楽しそうに歩いていたから…しばらく様子を見た方がいいかなって思ったんです。でも割とすぐにあなたはタヨハさんを探すような感じになって来て…タイミングよくタヨハさんが探しに来てくれたので、途中から3人で神殿まで歩いたんですよ…」
なんともいえない至福の中で、セジカは思い出話をした…
「…ありがとう…多分、私はあの時からセジカは優しい子なんだって知ってた気がするわ。…エンデをよろしくね。こんな事はセジカにしか頼めない…あなたはエンデにとっては特別な存在なの…」
「……」
それは…
セジカにとって最高の時間であり…淡くて切ない何かが崩れた瞬間でもあった。
「…分かりました…でも約束して下さい。きっと元気で帰って来ると…」
セジカが小さな声でそう答えると、タニアは安心したように抱擁を解いた。
「勿論よ。じゃなきゃパパやエンデに何を言われるか分からないわ。」
複雑な心境のセジカにタニアは満面の笑みを向ける。
と…
「あ、いた。セジカさ〜ん、マリュさんが呼んでますよ〜」
少し離れた木々の間から見慣れない…新人のアムナが出て来てセジカを呼ぶ…
微妙…いやこれは絶妙なのか?というタイミングの呼び出しにセジカは内心苦笑しながら、
「じゃあ行きます。次に会う時も、タニアさんの元気で素敵な笑顔が見たいです。きっと…」
セジカはそう言うとタニアから少し離れて一礼し、アムナの方へ駆けていく…
「ありがとうセジカ。また会おうね〜」
タニアはセジカの後ろ姿に思い切り手を振るのだった。
「……」
そしてセジカの姿が見えなくなると、タニアはクルッと振り返り…
「…いつからそこにいたなんて愚問…したりしないから、もう出て来たら?」
タニアが少し大きめの声で呼びかけると…少しして20メートルくらい先にある神殿の勝手口が開いて…
イタズラがバレた子供のような…バツの悪そうな様子のエンデが出て来た。
「…だって…見えちゃうんだから…あんな場面が見えたら…そりゃあ心配になってしまうんだよ。…君達は随分と長く抱き合っていたね…」
不貞腐れた表情をしてエンデが近づいて来る…
そんなエンデの様子を見てタニアは思わずクスッと笑う。
「…私達ってきっと浮気は絶対出来ないわね。だって、こんな風に他の異性と仲良く話してる場面は全部見えてしまうものね…せっかくだから一緒に野菜を運ぶの手伝ってくれる?」
「……」
エンデは相変わらず不機嫌のまま…タニアから野菜の入った籠を無言で受け取り、そのままサッと向きを変え神殿へと歩いて行く…
そんなエンデの後ろ姿を「まったくもう…」という表情で見つめ…タニアは籠に入りきらなかったじゃがいもとにんじんを素早く数個ずつ、広げた自分のエプロンに乗せて裾と脇の部分を持ってしっかりガードし、エンデを追った。
「ねぇ…夕食はこっちで食べるでしょう?今夜はエンデの好きなメニューばかりをを作るから…どうか機嫌を直して。」
勝手口にあったもう1つの籠にエプロンで運んで来た野菜を入れ、それを勝手口の中に運ぼうとすると、エンデがその籠をサッとタニアから奪い、中に入れてくれた。
「あ、ありがと…」
お礼を言おうとしたタニアの腕を、彼は自分のいる勝手口の方に強く引っ張った。
すると、そのままバランスを崩したタニアの身体は…エンデの胸にちょうど良く収まってしまう…
「タニアちゃんのバカ…僕はあんなに長く君に抱きしめられた事はないのに…」
お母さんに甘える子どものような不安気な声で文句を言いながら、エンデはタニアをギュッと抱きしめる…
「ごめんね…セジカがあんまり可愛い事をするから…皆んなでまたここで会おうって…ライカムで腕輪を編んでくれたの。前にあなたももらって…いつも身に付けているでしょう?優しいあの子らしいと思って…でもあれはあくまでお礼のハグだから…」
タニアもエンデの背中に手を回し、拗ねる恋人を慰めるように背中を撫でた…
「分かってる…分かってるけどセジカはね…」
「言わないで…」
タニアはそう言うと、背中に回した手をエンデの頬に移動させ、グイッと背伸びをしてエンデの唇に軽くキスをした。
「…あの子は…身近な年上の女性に漠然とした憧れに近いモノを抱いているだけと思うわ。私をどうにかしようなんて気持ちはさらさらないもの。それにあの子はしっかりしているし優しいから…試験が終わって色々と余裕が出来れば、お似合いの女の子と結構良い雰囲気になれるわ。恋人までは少しかかりそうだけど、お互いの気持ちが通じればすぐ将来を考えたお付き合いになりそう。私には…あなただけよ…」
「……」
タニアはそっと再びエンデの背中に手を回し…ギュッと抱きしめる。
エンデも…少し力を込めたタニアの腕にハッとする様に、タニアを強く抱きしめ直す…
「行かせたくない…僕はやっぱりあんな危ない星に君を行かせたくないんだよ…」
…段々と泣き声のようになって行くエンデの願い…
それは…彼自身がとりあえず納得はしながらも、彼の心の奥から常に漏れて来ている言葉でもあった。
「…エンデ…それはもう言わないで。私は弟達を守り、パパの名誉を回復させる為に行く…これは私の使命だと思っているわ。この能力を彼等の為に使う事で私の心も救われる気がするの。」
「……」
顔を上げると、予想通りエンデは泣いていた…
タニアの胸はツキンと痛んだが、もう後戻りは出来ない…
タニアは流れるエンデの涙を掬いながら、
「泣かないで…私はきっと…」
タニアの口は不意にエンデの唇で塞がれ、続きは喋ることは出来なかった…
「…ん…」
まるで今のエンデの思いの丈を込めたような長いキスに、タニアもついボーっとしてしまうが…ハッとして、「もう離して」と口を離しながら言おうとした時、
少し開いたタニアの口の中にエンデの舌が滑り込んで来て、同時にエンデの片方の手はタニアの後頭部を捉え…タニアは慌てて彼の胸を押そうとするが、もうエンデのキスから逃れられず…そのキスはかなり濃厚なモノへと変化して行った…
その間ずっと…タニアにはエンデの切ない気持ちがダイレクトに流れ込んで来て…
タニアはとうとう抵抗を止め、エンデの濃厚なキスに身を任せた…
だが、やがてタニアの舌を捉えていた彼の舌が…次第に耳たぶや首筋を這いだしたので、
「ま、待ってエンデ…それ以上はダメ。」
タニアは渾身の力を込めてエンデの身体を押し離す。
「…私はあなたの気持ちをまだちゃんと聞いていないの。あなたの気持ちはヌビラナから戻ってから聞くの。続きは…その後。」
「なんで…」
けれども、エンデが文句を言う前に今度はタニアの気持ちが流れ込んで来て…
[今は帰ってからの楽しみをたくさん作って行くの。]
タニアが自らの気持ちをそうやって奮い立たせている姿も見えて来てしまっていた。
「…分かった。君が帰ったら1番先に僕は気持ちを伝えるから…必ず無事で帰って来るんだよ。約束だからね。もしも…君が約束を破ったら…僕も後を追うからね。」
エンデの言葉にタニアの顔色はみるみる蒼白になって行く…
「止めてよ…あなたはミアハとメクスムの大事な橋渡し役よ。あなたはこの村に無くてはならない人なの。勢いでもそんな事を言うもんじゃないわ…」
タニアが言い終えない内にエンデは彼女を再び強く抱きしめる…
「…君はどうなの?…タヨハさんももはや村人にとっては無くてはならない人だ…そんなタヨハさんや僕から、どうか君を奪わないで…タニアちゃんを大事に思う存在の為にも、君は命を粗末にしてはいけないんだよ。」
「分かってる…分かってるわよ…」
タニアの瞳は潤み始め…涙は頬を伝った…
「……ごめん…エンデ…」
少しの沈黙の後、タニアは言葉をやっと絞り出す。
「…何のごめんなの?」
相変わらずタニアを抱きしめたまま…苦笑しながらエンデは尋ねるが…
エンデのその声もまた涙声だった。
「分からないわ……でも私は負けない。絶対にヨハ達も自分も守り切って帰って来るの。……もう…エンデのバカ…泣くのは帰った時に取っておきたかったのに…」
「…泣きたいなら泣けばいい…どんな君でも受け止めてあげるから…今の僕にはそんな事くらいしか…」
エンデも涙で言葉に詰まる…
そしてそんなエンデの言葉にタニアもまた涙が…
「…涙が止まらないよ…もう…もうエンデのバカ…」
…明日の朝タニアとカシルは当初の予定より少し早く、ひっそりと村を出る…
ヌビラナでの警備全体の連携強化の為に、ウェスラーが厚意である施設を提供し訓練に協力してくれる事になった為だった。
そしてそこで数日過ごし、そこからメクスムを立ってヨハ達と星間移動用の空港で合流する。
結局…
ミアハに出掛けていたタヨハから間もなくの帰宅を知らせる着信の音がタニアの耳に響くまで…2人は名残惜しそうに…なかなか離れる事が出来ないでいたのだった…
翌朝…
まだ夜が開け切らない中、タヨハとエンデ…そして希望の棟をこっそり抜け出して来たマリュの3人に見送られ、カシルとタニアはメクスムに向けてひっそりと出発したのだった。
「…さすがにタヨハさんもエンデもいつになく元気なかったな…まあ当然と言えば当然か…」
運転しながらカシルがボソッと呟く…
「……」
「…まあこちらもそれなりに備えはある。女神同士の約束がなんなのかよく分からんが、皆んな無事で帰れればいいんだ。肩の力はなるべく抜いて行こうぜ。」
「……」
さっきから無言で…何か深刻な表情のタニアの様子がいよいよ心配になって来たカシルは、
「…なぁ…気持ちが揺らいでいるなら今からでも戻れるぞ。村人はまだ俺達がいなくなる事情は知らない…お前はエンデと共に村を守る立場で残っても全然問題ないんだ。」
とタニアに告げる。
「…いえ…私に迷いはありません。ただ…」
「ただ…なんだよ。吐き出して楽になりそうなら聞くぞ。」
昨日…帰宅したタヨハを通してタニアは見てしまった…
ミアハ中を震撼させる様な重大な事が…近い未来に起こるなんて…
だがそれを今の段階で長老本人から伝えられた者は、長達とハンサとタヨハだけの様に見えたタニアは…その件に関してカシルは、自分の口から知るべきではない事はよく分かっていた。
「…ありがとう。…エンデが以前、[見え過ぎる事は、心の荷物を望まず増やしてしまうから色々と大変なんだ]と話してた事があります。[知りたくないのに、他言出来ない事を知ってしまう時ほど面倒な事はない]とも…どうか…今はそれで察して下さい。」
カシルはあえてタニアを見ずに運転しながら、
「…よく分からんが…俺には言えないという部分は分かったよ。でも、それでタニアは大丈夫なのか?具体的な事は話さず、何を悩んでいるかだけを伝える事は無理な話ではないと思うが…まあ、話す事自体が辛いケースもあるよな。…もうこの話はやめよう。」
「……」
タニアは躊躇しつつも…訥々と話し出す…
「…悲しい事が先に分かってしまうというのは辛い事であると…打ちのめされています。…しかもこんなタイミングで知ってしまうなんて…ちなみにこれは今回ヌビラナに向かう人達の話ではないです。」
タニアの言葉に一瞬、目を見開くカシル…
「……」
にしても、タニアの周囲の人間の事なら大体範囲が限られてしまうよな…
悲しい事を漠然と想像してしまうとそれだけで何か…カシルもそれが具体的に何か分からずとも…鬱々とした気持ちに陥る。
が、少ししてハンドルを握り直し…
「…確かに難儀な能力だな…では1つだけ答えて欲しい質問があるけど、いいか?」
「聞いてみないと…内容にもよりますよ。」
「まあそうだな…だがイエスかノーで答える質問ならどうだ?…とりあえず聞いてくれ。その件に関して、今、お前が引き返した方が或いは状況が良くなる可能性はあるか?」
ああ…そういう…
タニアは少し呼吸を整え、
「いえ、私が何か出来る次元の問題ではないと思います。」
と、キッパリ言い放つ…
相変わらずカシルは前を向いたままだったが…
「…そうか…なら良かったよ。」
と言うカシルの表情は、心持ち柔らかくなったようにタニアには見えた。
「…なんだかんだ言っても、やはり俺達みたいなそういう力のない人間からしたら、これから未知の場所に行く際にお前みたいな奴が1人でもいたら…やっぱり心強いんだ。何が起こるのか今の俺にはさっぱり分からんが、この任務を無事に終えられ、その悲しみが単体で済むのなら…タニアもこのまま前に進むしかないと俺は思う。」
カシルの言葉にタニアは大きく頷き…
「そうですね。今は私の出来る事を頑張るだけ…正直、私とカシルさんがいない村の事が心配じゃないと言ったら嘘になるけど、皆の祈りの要であるパパと、色々な角度から状況を見通せるだけでなく、唄う事で人々のトラウマや不安を癒せるエンデ…そして何より、ヨハがあの倉庫を村人全員のシェルターとして命懸けのカラクリを施してくれたから…いざという時も大体の事はなんとかなると信じています。」
そう言うとタニアは窓を少し開け、風に当たり外の流れる景色を見ながら、村を出てから初めて表情が緩んだ。
「…カシルさんに聞いてもらって良かった…気持ちが整理出来たみたいです。ありがとうございます。」
カシルはタニアのそんな様子をチラッとだけ見て、彼もまた今日初めての笑顔を見せた。
「そうか、なら良かった。なあ…タニア…いつかエンデも指摘していたが、あの場所であいつは…ミアハの人間に対しては何も仕掛けては来ないと俺は思うんだ。だがあの人に何かあったら、状況はガラッと変わって来ると思う。その時は…」
カシルの言葉に、タニアの表情は一気に張り詰めたモノになる…
「…カリナさんの事は、いつも頭のどこかで考えてしまっています。同時に彼女のお父様の無事を願わない日はないわ。……だけどヌビラナにおいては…あの子達2人の無事を確保して行く事が最優先である事に、私は迷いはありません。」
窓の外から視線をずらし、真っ直ぐに自分を見たタニアの顔をチラッと確認し、カシルは安堵する…
「…良かった…その部分だけはお前と足並みを揃えて置きたかったんだ。同じ思いで安心したよ…」
「…何も起きない事が一番だけれど…残念ながらテイホ政府側の不穏な動きは単なる心配ではないと思います。」
タニアは憂いを帯びた目で視線をカシルに移す…
「…そうだな…俺の知り合いの偉い人からの情報でも、そんな動きが確認されているようだ。…まあ、ミアハの警護の奴らと合流したら、新たな情報を元に色々考えて行こう…」
「…そうですね。ああでもこうやって話していると雑念がどんどん削がれて行きますね…カシルさんが任務に向けて気持ちが整理出来るように上手く質問して下さったお陰だと思います。さすが警備主任。」
「おうよ。戦って守れる医師・カシル様に任しとけ。」
カシルはガキ大将のような無邪気な目をして嬉しそうに胸を叩く。
「…なんてな…俺を病院長にしたかった親父の夢を打ち砕き、諸々の家の荷物を妹に丸投げしたアホな男のささやかな野望さ…。ここで役に立てなかったら、急に退職した事で迷惑をかけた元の職場の人達に丁寧に頭を下げて回ったらしい両親に顔向けできねえからな…」
一転、弱々しく呟くカシルに、タニアは自分の今の姿を重ねてしまう…
「私も似たようなもんですよ。パパを散々泣かせてここに来てますから…頑張るしかないです。」
自分を鼓舞するようにタニアが言うと、
「…泣かせてんのはタヨハさんだけかぁ?」
カシルはニヤニヤしながら意味深なツッコミをする。
「…人のそういう所はさりげなくよく見てますよね…そんなあなたも運命の出会いは間もなくみたいですよ。良かったですね。」
エンデとの事をあまり突っ込まれたくないタニアは、うっかりカシルの未来を予言してしまう。
見えている人の未来をあえて本人に伝える事は、結果的に人の未来を限定してしまう恐れを嫌い、普段は敢えて言う事を避けているのだが…動揺してつい口を滑らせてしまうタニア…
「え?そうなの?…おかしいな…あわよくばヒカちゃんと運命の糸を繋げようと思っていたのに…」
「何言ってるんですか…それをヨハの前で言ったら殺されるかもですよ。…でもまあ…お相手はミアハの女性みたいで…もしかしたら過去に会話した事がある人みたい…」
「だから、ヒカちゃんだろ?」
「だから、違う。…ヒカちゃんより少し下で…レノの人のようで…え?…」
しつこいカシルにキッパリ否定はしながらも…ここでタニアはある事に気付き、驚く…
「まあそうだろ…俺の狭いストライクゾーンの中心はレノの子で…それ以外はまず考えられないからな。って、なんでお前…そんな素っ頓狂な顔してんの?」
タニアの表情の変化を見逃さず、カシルは突っ込んで来るが…
「…秘密です。私、こういう話は基本的にしないのですが…今日は大サービスです。こういう楽しみがあればカシルさんも一層任務に張り合いが出ると思ったんで…この話はもうお終い。」
「なんだよ〜かなり興味が湧いて来ていたのに…意地悪すんなよなぁ。エンデに言いつけてやる。」
「なっ、…あっ間違えた、カシルさんの運命の女性は、外国の人で長身で知的でクールな年上の女性です。」
タニアはここでエンデの名前を出して来たカシルにワザとタイプではない女性の話をする。
「…タニア…テメェ…よりによって俺の苦手な女子のタイプを挙げやがって……あ、そう言えばこの間、新人アムナの女の子とエンデが楽しそうに話していたぞ、2人っきりで…お前も色々と苦労しそうだなぁ…」
「!!」
一瞬、動揺したタニアだが、エンデとその若いアムナの間には、一時的に村長夫妻から預かった赤ちゃんがいて、エンデが知り得る限りの赤ちゃんの情報をアムナに伝えながら接し方を教えていた時の映像がカシルから伝わって来て…タニアはすぐに冷静さを取り戻せていた。
「…そうですか…それは困った事ですね〜」
と、ほぼ棒読みでタニアが反応すると、
「くそ、最近はお前もエンデレベルで色々と見えるんだったな……なんか…やっぱりお前はヨハと兄弟なんだな。そういう可愛げないスカし方がソックリだよ。」
「…そうですか…どうかヨハとこれからも仲良くしてあげて下さい。あの子にとってあなたは数少ない友人みたいなようなので…」
急にしんみりと…モードを変えて話し出すタニアに、
「…なんだよもう…そうやって人をさりげなく翻弄する所もソックリじゃねぇか。んなこたぁ分かってる。俺は選ばれし数少ない友人だ。俺にとってあいつは小生意気な弟みたいな存在だからな、しっかり可愛がってやるさ…」
そう言ってカシルは不敵に微笑む。
「…安心しました。あなたのそういう…一見Sっぽいけど実はMの面が強い所も、あの子なりに気に入っているようですので…」
「……お前って…結構言うのな。…っとに、可愛くないんだよ〜」
と、タニアの思いがけない鋭い斬り込みに、カシルは片手をタニアの方へ伸ばし首を絞めようとする。
「…やめて。前を…見て下さい〜!事故りますから〜」
「うるさい。女版のヨハめ〜」
2人のメクスムまでの道のりは、思いがけず楽しいやり取りの応酬となったのだった。
一方、レノでは…
「…ただいま…」
「あら、おかえり。言ってくれたら迎えに行ったのに…帰ってくれたのね。ありがとう。」
末娘のセランの帰宅を涙を滲ませて喜び、出迎えるエイメ…
「……」
そんなエイメの様子とは対象的に、終始無表情のまま母を通り過ぎ自室に向かうセラン…
「おかえりセラン。元気そうだね。良かった…」
途中、自室を出て自分を出迎えたトウに声をかけられたセランは、すれ違いざまに兄をジロリと睨み、
「あの手紙を見てからは元気じゃない…」
と、不機嫌さを隠す事なく呟く。
「あれは…この先セランが一生後悔しない為に書いたんだよ。家族なんだからさ…一緒に行こうよ。」
セランの言動に全く動じる事なく、トウは笑顔で答える。
…結局、この人達はあの人の事ばかり…母さんなんかいつも私を素通りして…私なんて見てくれてない。あの時だって…
セランの脳裏に嫌な記憶が甦る…
「会った事もない…エコ贔屓されてばっかの家族を心配している余裕なんて、今の私にはないんだけどね。」
トウの顔も見ずに言い捨て、ドスドスとワザと足音を響かせてセランは自室へ入って行った。
「セラン…」
ドア越しに尚も話しかけようとするトウ…
「…分かってる。優しいお兄ちゃんを困らせるつもりはないから…もうあっちに行って。」
「…そうだね…ごめん。セランは長旅で疲れてるよね。母さん、セランが帰って来るからって張り切って料理してたからさ…夕食の時にエンゲラでの話を色々聞かせてよ。じゃあまた後でね…」
「……」
刺々しい反応をしながら心を閉ざすセランの部屋から、トウは複雑な思いでそっと離れる…
…あの時は…セランにとって大事な時期だったのに、色々な事が重なってしまい…結果的にセランは1年の努力を無駄にする形となってしまった…
その事を全てヒカのせいと思いたくなる気持ちが彼女の中で燻っているのも…トウも心情的に理解は出来る…
だが…同時に誰も悪くはない事もトウは知っている。
ヒカを巡るエイメの強い思いや葛藤が、セランの中で新たに葛藤を作ってしまった事も…身近で見ていながらあまり役に立てていない自分の歯痒さにトウ自身も悩んでいたりする為、セランには最近どうも腫れ物に触るような接し方になっている事も…彼女を苛立たせているのだろう…
『時間薬よ。家族の思いはいずれセランには伝わるよ。諦めないで。』
…それは何度か…ついリンナに愚痴ってしまっていた時に言われた言葉…
そうだよ。時間薬…今の僕達に必要な言葉だ。家族皆んながシンドい時期…だからこそ僕は踏ん張る。
そう自分に言い聞かせながら、トウはエイメを手伝う為に台所へと向かうのだった…
カサッ
という落ち葉を踏む音にその老女は振り向いた。
「あら…あなたは…」
やや蹲る体制で落ち葉を掃き集めていた老女は塵取りを置き、陽射しを背にして立つ若い女性を訝しげに見る…
「あ、あの…今、呼び鈴を鳴らしたのですが反応が無くて…庭の方で人の気配があったのでつい…無断で入ってしまい申し訳ないです。私は…」
「知ってる…ゼリスさん…よね…?」
老女は腰を押さえ、箒を持ったまま身体を起こし…ニッコリ笑った。




