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41 絶望と説得と…ヨハの未来


「夜分にごめん…ちょっといいかな?」


「あ…はい、どうぞ…」


夜遅い時間に、思いがけない人物の訪問だったが…その訪問の理由はヨハはなんとなく察しが付いた。


「…どうにも気になってしまってね。出発まで10日を切ったのに…僕が見ている限りでは2人の間の空気はなんだかぎこちなくてさ、このままだとヒカちゃんが向こうに取り込まれる隙を作ってしまいそうで…そもそも当初は君との2度目の任務はあの子だけとテイホ政府側は指定して来たくらいだからね…で、…例の件はヒカちゃんに伝えられたの?」


「…まあ…ただ任務の前の自分を安心させる為に言っているんじゃないか?ってフィルターがかかっているような雰囲気で…僕の話は半分もヒカには届いてない感じです。その後も話す機会を作ろうとしても…辛そうな顔をされてしまうと何も言えなくなってしまって…」


やはり…ゼリスはその後もあの子にちょこちょこ干渉しているな…


「…君は明日は例の場所に行くんだよね。その時にエンデ君と少し話した方が良さそうだな…」


「なぜですか?」


「先日…少し彼と話す機会があったんだけど…ヒカちゃんの体調に関して気になる事を言っていたんだ。今、あの子が君から離れてしまうと…その…例の問題がぶり返して…下手をすると命に関わる不調に繋がって行く未来が薄っすら見えるそうだよ。」


ただでさえ冴えないヨハの顔色が一気に蒼白になる…


「なんで…?だって…儀式は成功したはずじゃ…」


「…多分だけど…君達の関係に少し距離が出来てしまっている事が何か問題のような気がするんだ。確か儀式を終えた後…長老は、2人の進む方向が女神の意思に沿っている限り願いは叶うと話をしていた記憶があるんだ。…長老に儀式の事を改めて質問してみる必要もありそうだけど、その前にエンデ君と話してみた方が良いように僕は思う。明日はスケジュール通りに色々進めば長老もそっちに顔を出したいと言っていたから…上手く行けば明日は2人と話せるんじゃないかな…」


「…そう…ですね…かなり気になるので僕もエンデさんと話したいです。」


…大丈夫かな?今のヨハ君はちょっと思い詰めがちだからな…


「ヨハ君…くれぐれもヒカちゃんに対しての無茶な治療はダメだよ。まずは長老とエンデ君の2人と話してから、対策出来るモノは皆で一緒に考えよう?…いいね?」


「…はい…」


ハンサは一応、釘を刺した。


「……」




数日前の日暮れ時…


「ヨハ君……?」


日もほぼ沈み…かなり薄暗くなった中を、ハンサは長老に呼ばれてエルオの丘の入り口に向かっている途中で誰かとすれ違った。


それは多分…ヨハだったはずなのだが…


すれ違う者には目もくれずにその人物はユラユラと薄暗い中を歩き…徐々に遠ざかって行く…


「ヨハ君!」


なんだか消えてしまいそうな…心もとない彼の後ろ姿に向かってハンサは、思わず声をかけた。


ピクンと、ヨハの背中はハンサの声に小さく反応し、ゆっくり振り返る姿を薄闇の中でかろうじて捉える。


「…ハンサさん…?…今…すれ違いましたか…考え事してて…気付かなくてすみません…」


「……」


未だかつて聞いた事がない程に力のない声と…おそらく落胆しているであろう精気を失った様なヨハの揺らめく気配に、ハンサはこのままやり過ごす事は出来ずに彼に駆け寄る。


…おそらく今日、長老はやっと覚悟を決めて彼に話したのだろう…


辛い記憶を癒やし、人に心を開いて寄り添う事の喜びをもたらしてくれた最愛の少女から唐突に突きつけられた別々の道…


そして…きっと長老は、後継者の話も一緒に触れている可能性が高い。


最近見つかった古い書物の中の、2人の事に触れているらしい予言の部分をヨハに見せるつもりだと…昨夜彼は言っていた。


ならば、


「ヨハ君。」


急いで彼の前に回り込み、両肩を掴んでハンサはもう一度彼の名を呼ぶも…


ヨハの目は…光を失いかけていた…


「そんな腑抜けた目をして…らしくないぞ。例の任務ではあの子を守れるのは君しかいないんだよ。…僕なりにある程度の事情は把握しているつもりだけど、ヒカちゃんはこれから先の君の足手纏いになる事を酷く恐れている。その事を理解した上で、気持ちが落ち着いたら2人でしっかり話した方がいいよ。」


フッとヨハは力無く笑う…


「…でもハンサさん…。あの子は…こんな大事な事を…僕には何も話さずに決めてしまったんですよ?…今更…何を…」


ヒカちゃんを守る為に、この子が日々命を削る思いで寄り添って来た姿をずっと近くで見て来たハンサだけに…


彼の落胆が半端ない事は痛いほどよく分かっているハンサだからこそ…


とにかく全力で励まさずにはいられなかった。


「…ヨハ君、しっかりするんだよ!」


ハンサはヨハの両肩を強く揺さぶる。


「あの子は…自分がこれ以上側にいる事がゆくゆくはヨハ君の長老への道の障害になると思っているんだよ。僕は少し前にね、中途半端な…噂に近いような情報を自分勝手に張り合わせて、独断でヒカちゃんに色々と…これから長老になって行くであろうヨハ君との距離感について、まるでほぼ把握しているかのようにあれこれ忠告をしている先輩能力者とのやり取りを偶然聞いてしまったんだ。君が今しがた長老から知らされた事の数々を思い出してごらん。その人物の忠告が如何に中途半端な情報を元にしている内容か、冷静に考えてみれば分かるはずだよ。」


「長老への…障害…?」


「そうだよ。君の将来に関しては、あの子もある程度は知っておいた方がいいと僕は思う。心配なら、ちゃんと話す前に長老に確認してみたら?これから命を賭けた任務に臨もうとしてる2人に関する情報を共有する事は、信頼関係を維持する為にも必要と思うし…長老もダメとは言わないと思うよ。」


「……」


ハンサはヨハの肩を掴む手に更に力を込めて、


「ねえヨハ君…僕はもう一度言うよ。あの星で、あの子を守れるのは君しかいない。なぜ君達をあの星の女神が求めているかは…具体的な事はまだ僕には分からないけど、君達に女神様は何かを託しているのは確かなんだよ。2人共、事情をよく知らない人達の干渉で動揺したり絶望してる場合じゃない。長老や僕や…カシル君達も全力で君達をサポートするから…。ついこの間だって、ヒカちゃんの命の危機を乗り越えたじゃないか。皆んなで力を合わせて、どんな危機でも乗り越えて行こう?それが結果的にミアハの将来やこの星を救う手段かも知れないなら…希望がある限り頑張ろうよ。」


「……」


いつも穏やかで飄々としているハンサさんが…こんなに必死になって…


感情を露わにして人を励ますハンサの姿を初めて見るヨハは、少し驚きながらも…胸がジンと熱くなって来ていた。


「…ハンサさん…」


肩に置かれたままのハンサの手ををヨハは思わず掴み…顔を歪めて涙をポロポロと流す…


「良かった…僕の言葉はちょっとは君に届いたね…」


ハンサは少しホッとしつつ…


長老に呼ばれていた事を思い出し、掴んでいるヨハの手をやんわり外して彼をハグする…


「…僕はこれから長老に呼ばれてるから行かないといけないからさ、何か話したくなったら…深夜でもいいから僕の部屋へおいで。」


と言って抱擁を解き、ヨハの目をしっかり見つめて…


「…うん…目に力が戻って来た…大丈夫そうだね…じゃあね。」


ハンサは改めて自分の気持ちを伝えるようにヨハの肩をポンと叩き、早足でエルオの入り口に向かって行くのだった。


「……」


長老との長い話の後…


茫然自失のまま外に出てすぐにハンサに会い…まるで長老の説明の足らない所を見ていたかのように彼は…必要な言葉だけかけて、完全に折れかけていたヨハの心に力をくれた…


ヨハはハンサの人間力と洞察力に今更ながら感心しながら…


この絶妙なタイミングには…


ヨハには珍しく、女神様の導きがあったような気がなんとなくしていた…


少し前…初めて踏み入れたと思っていた資料室の奥の、古の気配の漂う空間で…


長老がある本を開きながら、辛そうな表情を滲ませて伝えた僕の宿命…


物心つく前に現れた僕の力に途方に暮れた長老の話は多分…本当に初めて聞く…


あの長老をたくさんたくさん困らせて…あの部屋に2人で籠った事が幾度かあったのだと…


申し訳ない事に、僕は全く覚えていないけれど…でも…


今日の事で、自分のその能力の使い道がぼんやり分かって来た。


与えられている能力はセレスの…いや、皆ミアハの為の使命と関係していて、たまたま偶然というモノは存在しないという事か…


「…とにかく、頑張って行くしかないって事だね…」


ブツブツと呟きながらヨハはヨロヨロと…


だが少し前より大分マシに…


前を見てゆっくり歩き出した。




あれからこの子達は微妙な距離感のままという事か…


「……」


ハンサはカリカリと頭を数回掻く…


「ところでさ、君は最近ゼリス君と話したかい?」


「え?ゼリス…ですか?」


ハンサの唐突な質問にキョトンとするも…


「…いや…でも偶然にしても彼女から僕に接して来る事はもうないんじゃないかな…。かれこれ5年以上…挨拶以外は殆ど会話していないと思います。」


確かに…一時はヨハと一緒にいる姿を割と見かけたが…彼がヒカに付き添うようになってからはその様子は激減し、更にティリの病院に彼が研修医として行き、戻って来た頃には一緒にいる姿はまったく見かけなくなった。


どうやら彼女は大国の研究機関への留学を希望し、当時はヨハに色々と勉強を教えてもらっていたらしいが…それはヨハとの接点を増やす為の口実作りの部分が大きかったらしく…


噂では彼が研修でティリに向かう前に気持ちを伝えたらしいが…その後は留学の件も立ち消えとなった話はハンサの耳にもなんとなく届いていた。


彼女はヨハほどではないが、聡明で顔立ちも整っている上に社交的で…学びの棟では目立つ存在だったので、棟で暮らす子供達の様子を時々見に来る長のイレンには特に可愛いがられ、少し前まで師弟関係を結んでもいた。


独立後もイレンとはしばしば任務に同行していたりして、最近に至っては彼の代行で元老院の会議にも出ていたり…将来を期待はされている。


彼女はどうも…過去のあの件に関して独特の解釈をしてるらしく…


最近はやたらヒカと話している場面を見かけると研究所での噂を耳にしているハンサとしては…決して悪い子ではないのだが…ちょっと注意が必要な存在になって来ているのだった。


「……」


今はとにかく出来るだけ…あの2人の関係はイタズラに拗れさせてはならないのだが…


ならば…


「…そうか…研究所で以前より見かけるようになったけど…イレン様の事が心配で長老に会いたがってるのかも知れないね。まあ、それは君が心配する事でもないし…じゃあ、明日は僕もなんとか長老をポウフ村に向かわせられるよう…微調整を頑張るよ。」


ハンサはヨハにざっと要件を話すと退室し…やや眉間に皺を寄せながら再びガシガシと頭を掻く…


「やはりあの子とは直接話さないとダメかなぁ…」


背後にイレンがいる事はやや面倒だが…だがあの人は…


「まぁ…なんとかするしない…」


と、ぶつぶつ呟きながら部屋を後にするのだった…




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