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10 喪失


お昼休みの誰も居ないはずの音楽室から、女の子の話し声が微かに漏れていた…


「…うん…今日はね…ピンク色の粘土でね…お花を作って、髪飾を作ったの。お兄ちゃんのも作ったよ。……えっ…どうして?前にお花の冠してくれたのに……」


楽しそうな少女の話し声のみが辺りに小さく響いていた…


誰かと通話しているようだ。


すると…


少女の背後に1人の女性がゆっくりと近づいて行く…


少女は話しに夢中で、女性の小さな足音も気配にも全く気付く様子はない…


女性は…少女のすぐ背後まで来ていた。


そして…少女が話しを終えイヤーフォーンをポケットにを入れたのを見届けてから、


「ヒカちゃん、もうお昼休みは終わるわよ。…誰と話してたの?」


と、背後からの思いも寄らない声に驚いてヒカが振り向くと…


女性は…ヒカに笑いかけていた。


だがその貼り付けたような笑顔は…どこか怖さも感じるモノだった。






少女は一人ブランコに乗っていた。


小さく漕いで…足元を通り過ぎようとしている小さな蟻をじっと見つめていた。


「……ん…?」


そして…何度目か分からないため息を吐いた時、自分を呼ぶ声にハッとして顔をあげる。


「タニアちゃん?…あっ、見つけた。」


少し先に咲く野薔薇の茂みから仲良しのエリンがヒョイッと顔を出すのが見えた。


「もう、探したんだよぉ〜」


少し息を切らしながら、エリンも隣のブランコに座る。2人しか乗れない古めかしい木のブランコがタニアもエリンもお気に入りだった。


「今朝、雨が止んだらお砂場でお城作ろうって言ってたじゃない…だからエリン…お砂場でタニアちゃんを待ってたのに…ブランコで遊ぶ?休み時間もうすぐ終わっちゃうよ。」


「……ごめんね…」


「タニアちゃん…なんだか元気ないね…どうしたの?」


「………」


「タニアちゃんが元気ないと、私も悲しいよ…どうしたの?」


「……かな?…」


タニアがボソボソと何か呟いたが、エリンにはよく聞き取れなかった。


「何?よく聞こえないよ…」


と言いながらエリンはブランコを降り、タニアのすぐ側まで近づいてしゃがみ込む。


「嫌な事あったらエリンにも話して。友達でしょ?」


心配そうに下からタニアを見上げるエリンに、タニアの表情は少し明るくなった。


「エリンちゃん…私はみんなと何か違う?私は変なのかな…?」


エリンはタニアの疑問にキョトンとする。


「なんで?タニアちゃん変じゃないし皆んなと違くないよ。なんでそんなこと思うの?」


「…ツリムさんが…私を見ると時々[あやまちの子]って聞こえて来るの。口を閉じているのに…声が聞こえるの…。アシルさんからも…聞こえる時があるの。他の皆んなといる時は聞こえて来ないのに…いつも私だけ…。何が違うか分からないの…ツリムさんもアシルさんも大好きだったのに…変な声が聞こえて来てから…なんだか怖い…」


タニアは学びの棟に移ってから自分担当の一部のアムナ達から聞こえる意味不明な言葉と、微かな…その言葉が醸し出すなんとも言えない嫌な気配をどう受け止めていいのか分からずに…ひとり悩み苦しんでいた…


…いや…声はもう少し前から聞こえる事はあったように思う。


だが…心を許し信頼を寄せていた彼女達から時々聞こえる言葉の意味が最近になって理解出来るようになってから…徐々に怖くなって行ったのかも知れない…


だけど…


抱えていた不安が一気に浮上し、エリンに訥々と話しながらタニアは…涙が止まらなくなってしまった。


「そんなこと……」


言葉で慰めようとする事を止め、エリンはいきなりバッと立ち上がり、ブランコに座ったままのタニアの頭を抱きしめる。


「タニアちゃんはとても綺麗だし、優しいし、変じゃない。何が違うかエリンは全然分からないよ。ツリムさんやアシルさん達は別に怖くないと思うけど…タニアちゃんが怖いなら私が守ってあげる。…だから…もう泣かないで…」


タニアも泣きながらエリンにしがみつく…


「エリンちゃん…」


「タニアちゃんのこと、エリンは大好き。ずっと一緒だからね…」


そう言いながら、エリンはずっとタニアの頭を撫で撫でしていた…


「……」


カラ〜ンコロ〜ン…


休み時間終了の鐘がなっていた…


「…行こう…大好きなお歌の時間が始まるよ…」


「…うん…ありがとう…私もエリンちゃんが大好き。ずっとずっとタニアとお友達でいてね…」


エリンは少しタニアから離れて手を差し伸べた。


「もちろん。行こう、タニアちゃん。」


「うん。」


と、タニアも差し伸べられた手を握り、元気よく立ち上がる。


二人はブランコを背にして走り出した。


走り出し…


最初は前を走っていたエリンの動きが急に遅くなり…止まった…


「エリンちゃん…?」


立ち止まり、うずくまってしまったエリンの異変にタニアは気付く…


…あ…エリンちゃんの背中の辺りがなんだか赤い…


と、タニアが思った瞬間、


「グブッ」


という…聞いた事のない音とともにリリは血を吐き、倒れた…


「エリンちゃん!」


何か…重大な事が目の前で起きていた…


「だ…だれか…エリンちゃ…」


目の前の光景が、タニアにとって受け止め切れないほど悲劇であると…


理解しようとする本能から逃れるように、タニアは大人を探して助けを呼びながら夢中で走った…






…またか…


学びの棟に移ったばかりの女児が亡くなったと、レノの果樹園視察から戻る車中で連絡を受け、長老セダルは苦悩に顔を歪める…


セレスの人々の自然妊娠と出産がいよいよ絶望的な状況となって、試行錯誤の末に人工受精・人工母胎による出産が成功し、それがやっと軌道に乗り始め…セレスの出生率や人口問題に希望が見えたかに思えていたが…


その子達の1割強が突然死するという現象が、近年は年齢問わず立て続けに起きていた。


ある時からじわじわと貧血状態に陥り、それから間もなく急激な多臓器不全と出血が起きて、あっという間に死に至る…という共通のパターン…


…これは衝撃的な悲劇で、その場に居合わせた者達にとっても大きなトラウマになり得る事。


やはり…


かなり昔のミアハの民は、そもそも誰もが3種類の能力のどれも自由に使い熟せていたのだが…外国に癒しの力を貿易の術として利用する事を思いついた、時の長老の代から、能力の特化を目指し1つの能力のみ強化させる研究や訓練を重ねて行った事が、結果的にセレスのようなかなり強力なエネルギーを身体に通さざるを得ない身体に強引に分化させてしまった事が、現代の様々な問題を引き起こしているように、セダルは思えてならなかった。


…しばらくはセレスとティリの交配で進めて彼らの成長を待ち、その彼らの種からセレス、ティリ、レノとの人工交配と…色々可能性を広げて行くしかないか…


と、あれこれ思案している内に、セダルを乗せた車は研究所前に到着し…彼はゆっくりと車を降りた。


だが建物に入って間もなく、彼は更に悩ましい知らせを受け取る事になる。


「エリンだって?!まさか……タニアが仲良くしてたエリンなのか?」


セダルは愕然とする。


「エリンという子が運ばれた旨の連絡が病院からありまして、こちらの職員が駆けつけた時にはもう…育児棟も学びの棟も、あちらで起きた事は色々と理由をつけて直にこちらには詳細を報告してもらえないので…はい、遅くなりましてすみません…」


事務局の職員がすまなそうに報告する姿を見て…


「いや…君が気にする事ではないよ。報告ありがとう。」


と言いながらセダルは彼の肩にそっと手を置く。


「……」


エリンの死で改めて浮き彫りになる、もう一つの問題…


先先代の長老ラムサの時代は、まだセレスもティリやレノのような家族や一族という血縁グループが存在していたが、セダルが引き継ぐ頃には若い家族の姿は激減し数える程の状況になっていて…しかも当時のその若い夫婦のいずれも、結果的に子は出来なかった…


そして、苦肉の策により現在の体制での子育てや教育が本格的に始まったのだが…


セダルの親の代までは、血族の名誉に固執する者も少数だが存在し、セダルの代になる時も先代長老を輩出した一族がセダルに対して対立候補を出し、少しだけ揉めた。


だがセダルを押す者が圧倒的だった為、新たな長老がセダルに決まっても不満を抱く者はこの一族の中の極一部しかいなかった。


だがその後…


いずれ長老セダルの後を継ぐ者として人気が出てしまったのが…いわゆるセダルの血縁に当たるタヨハだった為、現長老選出の件での対立候補の兄弟が、美男で人の良いタヨハの悪い噂を立て彼は次期長老には相応しくないとあちこちで言いふらして回った。


すると今度はタヨハを慕う者達が噂の元を探し出して彼に詰め寄った事で、まだラムサの家系を意識する者達数名が逆にその件を非難し、セレス内にしては珍しく揉め事らしい展開に発展しそうな雰囲気になってしまった為、セダルは噂の発信者達を3ヶ月の自宅謹慎とし、不本意ながらタヨハにも1年程ティリの山奥の神殿管理の任務を命じ、事の鎮静化を計った。


だが不幸な事に、タヨハはそこでとんでもない事に巻き込まれてしまい、セレス本部に戻って役を得て、近くでセダルを支えながら後継者の道へ進む行く事が難しい状況になってしまった。


更に厄介な事に、教育系の仕事に携わる人が多かった前長老の家系の者が、現在の育児棟と学びの棟のトップに君臨している為、中々セダルの思うように意思疎通が取れない事も、現状しばしば起こる…


ただ、セダルも無策という訳ではなく、彼の目指すモノを理解し信頼を寄せてくれる親派的存在をじわじわ送り込んでいる最中である。


ただでさえ、最近タニアが沈んでいる事が増えたという報告が届いていたので、今回のエリンの急死によるダメージがとにかく心配なセダルは…


「あ、確か学びの棟には優秀で子供好きな…ちょっと変わった事務員の男がいるだろう?確か…ハンサとか言ったか…事務員の動きはアムナほどには警戒されないと思うから、彼にタニアへの接触を一度任せてみたいとリシワに伝えてくれないか?明日のエリンの埋葬の儀の後、改めて私からリシワとハンサに接触するとも伝えて欲しい…頼むね。」


と言って、事務員の肩に置いていた手を軽く職員に向けてヒラヒラ振って、彼は事務所を後にした。



タヨハは…あくまで彼は被害者であるにも関わらず、タニア誕生の事情を知る一部セレス能力者の抵抗感もあって、能力者としてのグループでの仕事がスムーズに組めず、単独での慣れない他国行脚の割合が多くなった中で、現在、ユントーグという国の反政府組織による暴動の混乱の中で拘束されてしまい、解放に向けての交渉を行っている真っ最中で…


今の彼は、タニアを迎えに来れるどころの状況ではない。


かと言って、自分が不用意にタニアに直接接触したり干渉を強めれば、回り回ってタニアの環境を更に悪化させてしまう可能性を、長老セダルは恐れてもいた。


タニアよ、すまないがあと半年頑張ってくれ。来年は2トップが引退となって風通しが良くなり、君は今よりきっと居心地が良くなるだろうから…


研究室に向かう途中の廊下を歩きながら、エリンの死に打ちひしがれているであろうタニアに思いを馳せた。





エリンの死から1週間が経ち、学びの棟の様子もほぼ通常に戻った。


1人の少女を除いては…


お昼ご飯を食べ終えて、少女はまたいつもの場所に来ていた。


そこはつい1週間前まで…亡くなったエリンとよくおしゃべりしていた古めかしい木のブランコ…


最近、広場の目立つ場所に新しいカラフルな色のブランコが沢山出来て、みんなはそこで遊ぶようになったので、広場の片隅で野薔薇の茂みに隠れるように佇むその古いブランコは、タニアとエリンの秘密基地の様になっていた。


あんな事さえなければ…


…こうやってブランコに乗っていると…


いつもなら、


「タニアちゃん見つけた〜」


と言いながらエリンが現れて、すぐさま隣のブランコに乗ってあれこれおしゃべりを始めたり、ブランコから靴飛ばし競争とかも盛り上がる…


今も…


ヒョイッとエリンが顔を出して、変わらない時間がまた始まりそうな気がして…


タニアは毎日ここに来てしまう。


タニアの喪失感はあまりに深く、未だエリンの死を受け入れられず…

涙も出て来ない。


今朝も久しぶりにツリムさんやソインさん達から不思議な声が聞こえたけど…


あの声の意味なんて…もう分かりたくもない。


…エリンちゃんのいない世界は…何もかもが…どうでもいい。


しばらく…タニアは虚な目で少し先に咲く野薔薇を見ていると…


カサッという音と共に


「あれ、可愛い先客がいた……隣に座ってもいいかい?」


と、タニアにお伺いを立てながらも、その男…ざん切り頭でむさ苦しそうないでたちの男は、タニアの返事を待たず隣に座ってしまった。


そして、徐にタバコに火をつけ吸い出したので、タニアは驚いて男を凝視する。


「最近は誰もこのブランコで遊ばなくなっていたから、おじさんの特等席のつもりだったんだけどなぁ…君もこの場所が好きなの?」


タニアは目をぱちくりして、タバコを吸う男の様子を見つめながら頷く。


「大好き…だった。…けど今は…よく分からない。おじさん、口に加えているその細長いモノは何?」


「あ、これかい?」


と、その男は口からタバコを離してタニアに見せる。


「煙が嫌だったらごめんね…タバコっていう魔法の棒だよ。僕はこれを吸うと元気になるんだ。あっ、でも子どもが吸ったら死んじゃうからね。君はダメだよ。」


ニコッとタニアに笑いかけながら、男はまたタバコを吸い始める…


「…子どもは死んじゃうの?…だったら…タニアも吸いたい。エリンちゃんに会えるなら…」


男はタニアの言葉に微かに反応し、再びタバコを口から離す。


「エリンちゃん…?あ…君はお友達だったの?」


「…エリンちゃんは死んじゃったの?よく分からないの。…死んじゃうって…何?何がなんだか…分からないの…」


そう言って、タニアは思わず両手で顔を覆う。


「?」


気付くと、手が濡れている気がした。


え?涙…?……泣いてる?

私……


「エリンちゃんは…可哀想だったね。エリンちゃんは、残念ながら死んでしまったんだよ。女神様がお迎えに来たんだね…」


前に咲く野薔薇を見つめながら、ハンサは淡々とそう言うと、またタバコを吸い、煙を一気に吐き出す…


「…もう会えない?女神様はどうしてそんな意地悪をするの?」


この人なら胸に詰まっているモノを聞いてくれる…


タニアはそんな気がした…


「お嬢ちゃん…落ち着いて。タバコの火で火傷してしまうよ…」


「……」


気がつくとタニアはハンサの前に立っていて…彼の両腕を掴んだ自分手が、タバコの先に触れそうな位置にあった。


更に、タバコを遠ざけようと身体を捩りながら苦笑している彼の顔がすぐ近くにあり…


「危ないから、ブランコに座ってお話ししよう。」


男の声にタニアはハッと手を離し、気まずそうに元の場所に戻った。


「…お嬢ちゃんじゃなくてタニアよ。…エリンちゃんはとても優しくていい子だったのに…どうして女神様は連れて行ってしまったの?おじさんは女神様と知り合いなの?」


ざん切り頭の男はフッと笑って煙を吐き出しながら、


「おじさんじゃなくてハンサだよ。…そうだね…僕は女神様とはちょっとした知り合いだ。でも皆んな見えないから気付いていないだけで、女神様は皆んなと繋がっていていつも見守っているんだよ。勿論、タニアちゃんの事もね。…エリンちゃんは連れて行かれたのではなく、エリンちゃんとの約束を守った女神様が迎えに来たんだと思うよ。」


「約束?」


タニアはかなり驚いて、目を丸くしてハンサを凝視する。


「そう…約束。人は誰でも生まれて来る前に女神様と命の話し合いをしてから生まれて来るらしいんだ。殆どの人は生まれると忘れてしまう約束のようだけどね…。きっとエリンちゃんも約束は忘れていたろうし、君が大事なお友達だったら尚の事、エリンちゃんもお別れが辛かっただろうね…」


タニアの顔が一気に歪んだ…


「うっ……クッ………うわ〜ん…」


喉の奥で、ずっと吐き出したいのに詰まっていたモノ…


出したくても出なかったのに…このおじさんと話していたら、それが吐瀉物の様に一気に込み上げて来て…止まらなくなってしまった。


「エリンちゃぁ〜ん…ああ〜ん…会いたいよぉぉ…」


号泣するタニアを少し眺めていたハンサは、座っていたブランコの端でタバコを消し、タニアの側まで行ってハンカチを渡す…


つもりだったが、近づいて来た彼にタニアがバッと抱きついてしまった為に渡せなくなってしまった。


彼は渡せなかったハンカチを持ったまま、タニアを抱きしめ返してあげた。


「大好きな人といきなりお別れが来ちゃったら…そりゃあ悲しいよな…おじさんだって泣く。…それはきっと亡くなったあの子も同じだよ。悲しいんだからしょうがない…。泣いちゃえ泣いちゃえ…」


と、お母さんが赤ちゃんをあやす時にするように、ハンサはタニアの背中をポンポンと優しく叩く。


そんなハンサに抱きしめられながら、声を上げてタニアは泣き続けた…


「うわ〜ん……エリンちゃん……うわ〜ん…」


そんなタニアに…


「…おじさん、付き合ってあげるから…気の済むまで泣いていいよ。」


と…


タニアはハンサに抱かれたまま、ふと泣き止んで顔をあげる…


「……おじさんて呼んでいいの…?」


「……」


号泣してる割に結構人の話を冷静に聞いているタニアに、ハンサは苦笑しながら、


「もうおじさんでいいよ。悲しい事は、今ここで泣いて全部吐き出しちゃえ…」


再びタニアの顔は歪み…


「うわ〜ん…おじさ〜ん…」


と、泣きながらハンサのみぞおち辺りに顔を埋める。


広場の片隅で、タニアの泣く声はその後もしばらく止む事は無かっ

た…




翌日…


お昼を食べ終えたタニアはまたいつものブランコに乗っていた。


それは昨日とほぼ変わらない光景だが、明らかに違うのは…タニアの表情…


悲しみの影はすっかり消えて、微笑んでさえいた。


「あ〜…美人さんが台無しだね…」


昨日、そう言って…おじさんは散々泣いて涙でぐちゃぐちゃになったタニアの顔を、持っていたハンカチで優しく拭いてくれた…


今思えば…あの時、おじさんのシャツはビショビショだった様な…


「どうしたら、おじさんにまた会える?」


と、しゃくり上げながらタニアが聞くと、


「僕はね、ここでお仕事をしているんだけど…事務所に…大人達が集まっている場所にタニアちゃんみたいな子どもが入ったら、ツリムさん達はきっと注意して来るだろうから…僕に会いたくなったらここにおいで。毎日は来れないかもだけど、ここにはタバコを吸いに来るから…エリンちゃんとの思い出やタニアちゃん自身の事…好きな食べ物とか将来の夢でもなんでもいいよ。色々おじさんに教えてよ。それじゃあ…またね。」


と、笑顔で去って行った…



「……」


もしかしたら、今日は来ないかも知れないけれど…


あのおじさんは、辛過ぎて苦しくて吐き出せなかった悲しみを受け止めてくれただけでなく…ここに来る新たな楽しみもタニアに与えてくれた。


自分と…エリンとの思い出を、興味を持って聞いてくれようとするハンサの存在が、タニアにとってゆっくり大きくなる予感がしていた。


「君にあげるよ。」と、拭いてもらったハンカチは洗って返すと言うと、おじさんはそう言った。


しっかり洗って丁寧に畳まれたそれは、今、タニアの宝物となってポケットに入っていた。


結局…

その日、おじさんは現れず…


次の日も…来なかった。


「……」


あのおじさんは…


実はおじさんの姿をした野薔薇の妖精で…たまたま悲しむ自分を見兼ねて来てくれただけで…もう会えないのかな?


そんな風に思い始めてガッカリしていた次の日…


いつもの場所にタニアが行くと、既にその人は居て…なぜだかタバコではなく、花を加えてブランコに座っていた。


「…おじさんは…やっぱり妖精だったの…?」


自分の想像はあながち本当だったのかも知れない…と、真剣な表情でタニアが尋ねると…


「実は…そうなんだ…」


と、おじさんも神妙な面持ちで答えた…


「……」


…やっぱりそうなのか…とタニアは思っだが、


「な訳ないでしょ。おじさんもなってみたいけど…こんなむさ苦しい妖精はいないと思うよ。」


「……」


ふざけた妖精もどきはタニアを見て、悪戯っぽく笑った。


「じゃあ…どうして今日はお花を加えているの?」


会えない間、おじさんを一瞬でも妖精化していた自分を腹立たしく思いながら、タニアも隣のブランコに座る。


「タバコをね…昨日、ツリムさんに見つかって没収されちゃったんだ…。だからね…口寂しいからタバコの代わりに花の蜜を吸っているんだよ。滑り台の側の花壇に咲いている花の蜜は特に美味しいんだ…君もいつかやってごらん。」


「タバコって…大人でも毒なモノっていうこと…?」


タニアがちょっと心配な目でハンサを見ると…


「バレたか…」


と言って、おじさんはチュ〜と花を吸った。


「…妖精じゃなくて、イタズラ妖怪みたいだね…」


この瞬間、タニアが偶像化していた妖精おじさんは脆くも崩壊してしまったが…


優しくて、ちょっと惚けたむさ苦しい…目の前でアハハと笑っているリアルなおじさんが、タニアは大好きになっていた。


その日もおじさんは少しの間、タニアの他愛のないおしゃべりに付き合ってくれた。


こうして、タニアとおじさんのささやかな交流は始まった。


3日か4日…長い時には1週間近く間が空いてしまう事もあるけれど、おじさんは木のブランコのある場所に来て、タニアの日常の事やエリンとの思い出を丁寧にじっくり聞いてくれた。


おじさんという…大人との楽しい交流が持てた経験は、ツリム達のような…身近な大人へのよく分からない恐れを軽減させ、タニアは日々の生活を前向きに過ごせるようになって行った。





「ハァ………」


タニアが本来の明るさを取り戻しつつある一方で、セレス本部の応接室で落胆の溜め息を吐く男が1人…ソファに座り項垂れていた。


「つくづくお前も間が悪い男だな…」


テーブルを挟んで前に座る長老セダルが、男に対して憐れみの目を向けて呟く…


「とにかくタニアに会いたくて…命辛々帰って来たのに…」


「まぁ…帰ってすぐに会っていれば…とも思うが…あの状態ではな…」


エリンが急死し、ハンサがタニアとの接触を試みていたちょうどその頃に、父であるタヨハは生命の危機に瀕する状態でセレスに帰還していた。


「ポウフ村を出た時はまだ普通に動けたのですが…急に身体が鉛のように重たくなって…人と会話をするのも辛い程に…あんな経験は初めてでしたよ。」


「…セレスの能力者は基本的にあんまり経験しないケースなんだがな…」


「……」


遡る事、半年弱前…

任務でユントーグのパシュケという町に入ったタヨハは、足を踏み入れた時点で不穏な気配を感じ取り、長居する場所ではない事は分かってはいた。


しかしセレスの能力者の派遣を以前から要請していた町長と地元の神官は「やっと来てくれた」と大層喜んで、手厚いもてなしを受けてしまったタヨハは…


迫り来る危険は肌でなんとなく分かってはいたが…治安が今以上に悪くなればまた能力者の足は遠のいてしまうだろうと「あと少し、あと少し」と、とうとう国外に逃れる好機を逸してしまい…しかも、どこで聞き及んだかミアハのトップの血縁と知られ、テロ組織に人質のような形で拘束されてしまったのだ。


だが不幸中の幸いで、神殿で拘束されテロ組織のアジトに移動する途中の中継点で、以前ポウフ村で出会った不思議な瞳の色の少年と再会したのだが…その直後に大国メクスムの軍が、沈静化の為に国境近くのパシュケへ直接介入し、テロ組織全体の掃討作戦の為の攻撃を始めたのだった。


そしてそのどさくさで、メクスムらしき軍人が数人…不思議な目の色の少年とずっと連絡を取り合っていた様子で、地下深くに隠されたタヨハや人質達のいる場所に現れ、彼等がタヨハ達を安全地帯への抜け道に誘導してくれた事で上手く逃げられ、無事解放されたのだ。


ただ不思議な事に、人質全てが解放された直後にその少年はいつの間にか姿を消し…それと入れ替わるようにユントーグとメクスムの合同軍が大挙して基地全体へ雪崩れ込み、テロ組織はあっと言う間に壊滅してしまったとの事…


だがその後、無事パシュケを出られたはいいが…


途中、色々とお世話になったポウフ村で、ミアハまで車で送ると言う村長の申し出を固辞し出発し…もう少しでミアハ領地に入るという手前で、タヨハは動けなくなってしまったのだ。


この事態になって初めて、村長の厚意を振り切ってしまった事をタヨハはかなり後悔した…


レノからミアハ本部に「国境手前でセレスの能力者らしき人が動けなくなっている」という通報があり、比較的近くにいたレノの長と部下達がタヨハという事にすぐ気付き、セレスまでわざわざ運んで連れて来てくれたのだ。


「能力者特有のエネルギー枯渇の為の鬱症状だったなんて…動けなくなった時は訳が分からず…本当に恐ろしかった。死を覚悟した瞬間でした…」


ミアハの能力者は1年に1度か2度の周期でエルオの丘の地下にある瞑想の広場に行き、瞑想をする事によってミアハを守護する女神エルオと繋がり、能力者達はそれぞれに与えられた器の中で癒しの力を充電し仕事へ向かう。


それが、強い能力を生業とする能力者達の、命と共に能力を繋ぐ唯一の手段だから…


ミアハの人間は仕事に使える程の力がない者でも皆、大なり小なり癒しの能力を持ち、日々の色々な生活の場面でそれを生かしているが、彼らはミアハの中で生活し活動する限りは、定期的にエルオの丘に行かずとも能力が消える事はない。


しかし、その能力を自身の生業として本部に登録し、様々な契約の下で活動するいわゆる「能力者」は、そのエルオの丘での「充電」詣でを定期的に行わなければ、死の危険も生じるのだ。


様々な事情により、能力の枯渇に陥りやすいのはティリの能力者だが、今回、タヨハがその状態となり、ミアハに入る直前でとうとう動けなくなってしまったのだ。


然も、能力者は1度そういう状態に陥ってしまうと、回復するまでには(多少個人差はあるが)、3ヶ月前後の時間を要してしまう為、タヨハは結局、半年近く思うように身動きが取れない状態を過ごさねばならなかった。


その間にタニアはすっかりハンサに懐いてしまい、2年振りに会ったタヨハに対して彼女は、最初は誰なのかの記憶もおぼつかない様子だった事に、タヨハ当人はかなり落胆してしまっていた。


タニアをセレスに預けて3年くらいまでの間は、2ヶ月に1度のペースで会えていたし、タニアも楽しそうに父タヨハとの時間を過ごしてくれていた。


ただ、任務で色々な地を巡っているうちに、タヨハの中で子供達と一緒に暮らせる地を探す事と共に、あるビジョンを描くようになり、任務とは別にその2つの願いを早く叶える事に奔走していたのだ。


その為、2人の子供に会いに行けるタイミングも、エルオの丘に行くついでという状態が続いてしまった事で、タニアとの交流も限定的になって彼女の反応が徐々に薄くなって行く事に焦りも感じていた。


「……今回、ヨハとの面会は…?」


少し恨みがましい視線を向けて、タヨハがセダルに一応質問してみると…


セダルはギクッとなり…


「そ、それは…構わんが…すまないが…まだあくまで瞑想の指導者としての面会で、父とは名乗らないでくれまいか?」


と、しどろもどろに答える…


「……」


やはり…この男は本気で自分からヨハを奪おうとしているーー


タヨハは確信に近いモノを感じながら、改めて質問を畳みかける。


「…やはり噂は本当なのですね?私をここに運んで下さったレノの長が[セダル様が有望なセレスの男子の誕生に大層喜ばれている]と話されてました。それが、ヨハなのでしょう?」


サラグも余計な事を……


「あの子の…ヨハの能力は、近年の能力者の類を見ないほど素晴らしい。加えて少し大人びた知的好奇心も…良い意味で現在のセレスの子達から浮きまくっている。今、あの子の興味は徐々に外国に向いているんだが…このタイミングで君について行ってしまったら、ミアハの能力者として生きる事を放棄してしまう気がして…正直…私は怖いんだ。」


「…は…?」


タヨハは驚愕した。


セダルこそ、他に類を見ない子と期待され、それを体現し、常に周囲を失望させずに来た男が……今、怖いと言ったのか?


タヨハは一瞬、聞き間違いではと思った。


「…君があの子の父である事をこのまま隠して行くつもりはないんだ。あの子の将来も強制するつもりもない。ただ…もう少し…このまま様子を見たい。…すまない…」


こんな恐縮しているセダルを見るのは…いつ振りか…?


「…分かりました。…でも…タニアは譲りませんよ。彼女がセレスでの生活に馴染めず苦戦しているなら尚の事…共に暮らせる日を目指して私は頑張ります…って……え?…」


話している途中で、セダルは唐突にタヨハの前に来て跪いて頭を下げたので彼は驚き、言葉が出て来なくなってしまった…


「タニアとヨハの事は、色々と過分に心配させてしまい…本当に申し訳ない。」


未だかつて見た事のない…長老セダルの跪く姿は、タヨハをなんとも悲しくさせた。


「…やめて下さい…あなたのこんな姿は見たくないです。気持ちが滅入ってしまいますから…どうか……」


と、タヨハはセダルの身体を強引に起こした。


身体を起こされ立ち上がったセダルは、タヨハの両腕を掴んで尚も話し続ける。


「タニアに関しては、現状、学びの棟の責任者のツリムと私の意思の疎通があまりスムーズに行ってはいないが、ハンサを始め私の信頼の置ける職員も多数居て、彼等から日々の様子は聞いているんだが…ツリム達がタニアに特に問題ある対応している報告は無いのにも関わらず、何故だかタニアは彼女達に怯え、周囲にも心を閉ざしている傾向があるんだ。そこら辺の理由を上手くハンサが聞き出してくれる事を期待しているんだが…まあツリム達古株の職員は来年は現場から退く。タニアはあと少しで環境は好転するように思う。…ヨハに関しては、そのうち彼から将来に関してなんらかの意思表示をして来るように思うから…その時に私から君の事を告げ、ヨハのこれからを話し合おうと思っているが…君とヨハの交流は何度でも一向に構わない。私はこういう心積りだ。…それでいいか?」


セダルはタヨハの目をジッと見て……彼の意思を確認しようとする。


「…私と子供達はずっと…あなた方のお世話になり続けているし、今回のパシュケの暴動の件では私の判断ミスで出国が遅れたにも関わらず、あなた自らがメクスムを通してユントーグの軍との交渉に出向い下さった事で生命を救われたのです。そんな私があなたに頭を下げられたら……何も言えないすよ。」


タヨハは溜め息混じりに答えて、セダルから目を逸らす…


そんな様子を見てセダルはフッと表情を緩め、タヨハの腕を離してソファに座る。


「正直……お前をティリの山奥に行かせる判断を下した自分と、大事なセレスの後継者候補の将来を潰すような真似をしたニアが…どうしても許せずにいた。…だがお前ときたら瀕死のニアとタニアをなんとか生かせと泣きついて来て…ニアは結局間に合わなかったが、せめて胎児のタニアだけでもと人工子宮に移して研究所の職員と共に昼夜見守って…頑張って、なんとか生まれたら生まれたで…タニア達を任務地にまで一緒に連れて行こうとするしで…そんなお前の姿にずっと内心は複雑な思いだった。そうしている内に私は私でヨハの才能や可能性に歓喜し、日々彼の成長が楽しみになっていた…。気が付けば、あの子達に出会わせてくれたニアに感謝している始末だ。まったく…運命とは奇妙なものだな。」


ソファに凭れ両方の目頭を指で軽くマッサージしながら、セダルは訥々と胸の内を語り出した…


タヨハもソファに座り直して、


「私も…あなたと親権を争う未来なんて想像もしていませんでしたが…」


「ちょっ……」


何を言うんだとばかりに顔を上げるセダルに、タヨハはニコッと笑顔を向け…


「もしも将来…[私の大事な息子の]ヨハがあなたの背負う荷物を分かち合ってくれたなら…それは[父として]とても誇らしく感じると思います。」


と応えた。


「………」


2人はよく分からない火花を散らしながら見つめ合い…


「…言っておくが…ここでの話しは全て他言無用だ。墓場まで持って行けよ。」


セダルがボソッと呟く。


「分かっていますよ。それくらい…」


「……」


子供の事になると、こうも大人気が無くなるモノかと…セダルはタヨハを半ば呆れ気味に見つめて…


こうして、2人の妙なライバル関係がしばらく続く事を予感させる夜は更けて行った…






「最近…雨が降ってないからか…月が綺麗だな…」


なんだか寝付けないエンデは、窓辺まで椅子を持って来て、座りながらじっくり月を眺めていた。


今夜はタヨハさんもあの月をご覧になっているような気がする…


とにかく、体調は快復されて来たようで良かった…


タヨハの救出作戦が成功したのは半年ちょっと前…


ウェスラーはメクスムの都市部で諜報活動を行わせている直属の部下に、今回の暴動はいよいよクーデターに発展する恐れがあるとの噂を流させ、自身の古い友人でもある陸軍の中将に偶然を装って会った際にも危機感をさりげなく煽った。


そしてほぼ同時に、タヨハが拉致されている旨をいち早く伝えて置いたミアハの長老をも引っ張り出して、パシュケの暴動を多方面から揺さぶりをかけてくれた。


周りの水面下の動きを活発にさせている間に、たまたま不用意にパシュケの街に入った脳天気で目立つ旅人を装ったエンデを敵に拘束させて、なんとかタヨハに外の情報を伝え、ウェスラー達にはエンデならではの鳥の協力を使った特殊な方法で内部の詳細な情報を伝えた。


そして、エンデからの情報を元にウェスラーは、メクスムの陸軍中将を通して上手く誘導し、メクスム軍の支援を受けたユントーグ軍と共に一気にパシュケ全体に反政府組織壊滅の為の軍事作戦を展開し、見事制圧した。


その件は後に、メクスム反乱を目論む輩達の潜伏基地にされやすいユントーグの、国の治安の安定を願う国民の気持ちに拍車をかけて行き、大国メクスムによるユントーグ吸収の大きな動きとなって行くのだが…


今回の件でウェスラーの的確な動きは水面下で若干注目され始めていたが、彼はエンデの忠告を守り、目立つ事を極力避けて国内の農業問題改善に集中して行く…


エンデは…酷く恐れた拘束時のタヨハへの被害が小さく食い止められた事には、とにかく安堵した。


だが傷跡は…周囲に知られないまま…タヨハの今後の人生に影を落として行く事になることを…エンデは憂いていた。


確かに被害は小さくて済んだ…だが…ある意味…エンデは間に合わなかったのだ。


タヨハはその事を誰にも知らせる事なく…エンデが接触するまでの3日間の辛い出来事は不幸な事故として、彼は記憶の奥底に追いやろうとする…


それが…後々に表面化する未来が既にエンデには見えてしまった…


「僕…間に合わなかった…タヨハさん…ごめんなさい…」


窓辺に身体を預けて…じっと見つめていた月がボヤける…


だが…どんなに悔やんでも時は戻せない…


そう…彼でもない限り…


だが…彼はその力の使用は固く止められている。なぜなら…その力の存在はあの人しか知らず…その極めて特殊な力の使用は彼自身の寿命に大きく影響を及ぼすから…


僕は?…


僕は何が出来る?


長老が勧めた例のトレーニングは…何がダメなのか、未だ成果が出ていない…


エンデはグッと拳を握り…その拳で涙を拭う…


「ないモノねだりしたって仕方ない…自分の…今出来る事を頑張って行くしかないんだ。…そうだよね、じいちゃん…」


いずれにしても、僕はタヨハさんを支えて行く気持ちに変わりはない…


新たな悲劇が…芽吹こうとしてる…に…悩……でる…暇………なん……


今宵…エンデを魅了した大きい月の女神は…健気な彼を安らかな眠りに誘い…


夜は更けて行った…





「え…?…転勤…て何?…おじさんは、どこに行っちゃうの…?」


2ヶ月後のある日…


すっかりおじさん大好きになっていたタニアを、悲しみのどん底に突き落とす様な知らせがその当人のハンサからもたらされ…


話の内容をタニアは上手く噛み砕く事が出来ないでいた。


「…10日前にセレスの長のケラテスさんが亡くなったのは知っている?今、次の長は大体決まってはいたんだけど…まあ色々とあってね。本部の人達も混乱していて大変だから…急遽、本部へ応援に行く事になったんだよ。」


「もう…この場所で…おじさんと…お話しが出来なくなる…の?」


タニアは泣きそうになりながら、ハンサの伝えようとしている話に集中した。


「…そうだね…本部は少し離れているから…休憩に来られる距離ではないかな…。ごめんね。」


タニアの瞳から…堪えていた涙がポロポロと溢れる…


「……」


大切な人とのお別れはいつも突然…

悲しむ準備をする時間も与えてくれない…やっぱり女神様は意地悪だ。


「タニアちゃん。」


ハンサは、涙を拭く余裕も無く自分を見つめて立ち尽くすタニアの側まで来てしゃがみ、ハンカチで涙を拭いてあげながら話しかける。


「泣いたら可愛い顔が台無しだよ…」


拭き終えたハンカチをタニアの手に持たせ、華奢な両腕を軽く掴んでハンサは話し続ける。


「この間も言ったと思うけど、君は優しくて強い子なんだから…君が望んで心を開けばお友達は沢山出来るはずだよ。怖いと思う人には近づかなければいい。けど、タニアちゃんの周りは怖い人ばかりじゃないよ。勇気を出して話しかけてごらん。きっとまたエリンちゃんみたいなお友達は出来る。」


渡されたハンカチを目に当てイヤイヤをしながらタニアはまた泣き出す。


「タニアはおじさんとお話ししてるのがいい。友達なんていらない…」


ハンサは困ったように笑いながら、


「タニアちゃん、おじさんはエリンちゃんみたいに女神様の所に行く訳じゃないから、また会えるよ。しばらくは忙しくて難しいかも知れないけど…3ヶ月くらいしたら、お休みの日の昼下がりにここに来てみて。またお話ししよう。」


「ホント⁈」


ハンカチをパッと外したタニアの瞳は、希望に輝いた。


「おやまぁ…泣き虫さんが泣き止んだ。…その代わり、さっき僕が言ったこと…頑張ってくれるかな?」


「…うん。頑張る…頑張るから…おじさん…タニアのこと…忘れないでね。」


おじさんは不安に揺れるタニアの瞳を真っ直ぐに見ながら、


「もちろん。」


と言って、片手でタニアの髪をクシャッとしながら


「こんな可愛い子のことは忘れる訳ないよ。」


おじさんは笑って、スクッと立ち上がった。




そして…


3ヶ月後のある昼下がり…


茶色の小さな紙袋を抱きしめてブランコに腰かけながら、タニアは少し緊張気味にある人の訪れを待ち侘びていた。


それはもちろん…


…おじさん…


おじさんがここに来なくなって3ヶ月…


かなり忙しくなると言っていたから…今日はまだ来ないかも知れない…


けれど、出来る事ならば今日来て欲しい理由が1つ…タニアにはあった。


「今日も待ちぼうけ…かな…」


と呟いて何度目かの溜め息を吐いた時、カサッという音と共に待ち侘びていた声がした。


「あぁ久しぶり、タニアちゃん。待っていてくれたんだね…ありがとう。」


嬉しくて、タニアは思わず立ち上がる。


「おじさんだ…本当に来てくれてありがとう…」


嬉し過ぎて、おじさんを見つめるタニアの目が潤む…


おじさんはニッコリ笑って、


「約束したろ。あぁでも元気そうだね。元気なタニアちゃんを見ることが出来たから、今日は少し無理して来た甲斐があったな…。お友達は…出来たかい?」


おじさんの後半の質問に、溢れそうだったタニアの涙は引っ込み…俯いてしまう…


同室のエリンが亡くなって塞ぎ込むタニアを、同室の他の子達は何かと気遣ってくれた…


けど…普通の会話は出来るのに、ゲームをしたりおしゃべりの輪の中には中々入れないでいた。彼等はきっとエリンのように裏表のある人ではないと思いながらも…もし気持ちが緩んで、ツムさん達のような怖い声が聞こえてしまうのは…今のタニアには耐えられなかったから…


「……」


質問に俯いて立ち尽くすタニアを見て、状況をなんとなく察したハンサは、スッと側まで来てタニアの頭を撫でる。


「無理はしなくていいんだよ。でも諦めてしまわないでね。君ならきっとたくさん良いお友達が出来るから…エリンちゃんもきっと応援してる。周りをよく見てみて。きっとタニアちゃんとお話ししたがっている人はいるはずだから…」


「…あ…」


ハンサの言葉で、少し前に会った「パパ」と名乗る…綺麗だけど少し頼りなさそうな男の人の顔がなんとなく浮かんだ。


「誰か思い当たる人が居たかい?」


おじさんは少し嬉しそうに尋ねる。


「なんか…優しそうな人と…お話しした…でも…いつも会える人じゃないの…」


「そうか…タニアちゃんはその人とお話ししてどう思った?」


「う〜ん…よく分からないけど…なんだか安心した。」


「そう、それ、とっても大事な事だよ。」


タニアの感想におじさんはいつになく嬉しそうに反応し、タニアの頭を撫でた。


「まずは側に居て安心する人に話しかけてみるといいかも知れない…お友達と意識しなくても楽しくお話し出来る人を増やすと、毎日がもっと楽しくなるから…気が向いた時でいいから試してみてごらん。」


タニアはおじさんが居てくれれば、それだけでいいんだけどなぁ…


やたらお友達作りを奨励するおじさんに少しモヤッとするタニアだったが…


「そ、それじゃあ…私…皆んなと仲良くすることを頑張るから…タニアのお願い聞いてくれる?」


タニアのいきなりのお願いに、おじさんの顔は少し強張る。


「な、何?…タバコだったらダメだよ。ツリムさんに見つかったらそれはもう…こっ酷く叱られるんだよ。」


「……」


こっ酷く叱られたんだ……


「タバコなんて、タニアすっかり忘れてた!違うよ!」


相変わらず惚けたおじさんに少しイライラしながらも…


タニアはいつの間にかおじさんのそんなところも大好きになっていた…


「来年になったら…タニアも少しだけお出かけ出来るようになるの。でも1人ではお出かけ禁止だから…おじさんと一緒にセヨルディに行きたいの…」


「……」


セヨルディとは、ミアハ唯一のテーマパークのような湖の畔の森の中に作られた商業施設である。可愛い世界観で統一されたお店はミアハの若者だけでなく、外国からも評価が高い。


セレスの子供達もプライベートでセレスの外へのお出かけが可能な年齢になると、まずセヨルディに行きたがる。


ただセヨルディは、ミアハの子供の連れ去りも起きやすい為、単独でのお出かけは許されず、保護者やアムナの同伴前提でないと入場許可は下りず、子供同士の場合はそれぞれのコロニーで出しているバスがないと利用出来ない…


一瞬、ハンサの脳裏に嫉妬の目で睨むタヨハの顔が浮かんで…少し迷ったが…タニアの引きこもりがちな面が改善されて行く体験に繋がる事を願って、ハンサはお願いを承諾する事にした。


「いいよ。…でもね…おじさんはこれからますます忙しくなりそうなんだ。だから…次に会えるのは半年以上先になるかも知れない…その時に出掛ける際の準備の話をして、それからとなると、一緒のお出かけは1年先になってしまうかも知れない。それでもいいかい?」


「うん!」


おじさんの返事にタニアは破顔した。


「タニアもそれくらい経たないと、仲良しの人…出来ないと思うから…」


と、苦笑いしながら…


ずっと抱えていた紙袋を、ここで初めておじさんに差し出す。


「これはなんだい?」


タニアは少し俯いて照れくさそうに


「昨日ね…木苺のパイ…作ったの。あ、皆んなでだけど…。レノのお姉さん達が木苺を沢山持って来てくれて…パイの作り方を教えてくれたの。おじさんに…あげる。」


辿々しくおじさんに説明しながら、タニアの顔は真っ赤になっていた…


「…そうか…ありがとう。あ、じゃあ…せっかくだから、ブランコに座って一緒に食べようよ。」


と、タニアを促しながら、ハンサはブランコに座って早速、パイを頬張った。


「ん〜甘酸っぱくて美味しいよ。」


おじさんの反応に目を輝かせ、


「ホント?」


と言ってパイをあっという間に平らげたハンサを、タニアは嬉しそうに見つめていた…




…だが…


この後…思わぬすれ違いにより、結局、セヨルディへの2人でのお出掛けの約束は…果たされる事はなかった。






それから7年後…


なんだ?…この状況は…

一体何がどうなってしまっているんだ?


ヨハは、ティリのある大病院の渡り廊下で混乱の真っ只中にいた。


「ですから、僕は直に声を聞いてヒカの様子を知りたいんですよ。あの子の体調は色々と不安定要素が多いので、僕は長老から許可を得て定期的にイヤーフォーンで会話しながらあの子の精神状態や体調を把握しようとしています。ずっとそうして来ました。そのイヤーフォーンをなぜ今、あなたが持っているのかも理由が良く分からないので…とにかく今すぐそれをヒカに渡して頂けますか?」


ヨハはその後、医師免許の資格試験に無事合格し、3年が経とうとしていた。一人前の医師として活動出来るまでの修行期間はあと半年で終わろうとしている。


現在は学びの棟を離れ、ティリの大病院の近くの小さな家を借りてそこから通勤してるが、そこもあと半年で引きはらい、セレス研究所に引っ越す予定となっている。


学びの棟を離れてからは、なかなかヒカに会いに行く事も難しくなっていたが…


いつでも話せるよう、ヨハは二人専用で使用出来るイヤーフォーンをヒカに預けていた。


学びの棟を旅立つまでは、子供達の文明の利器の使用を好まず禁止令を出している長老を、なんとか説得して…特例でヒカに渡していたモノであるはずなのに…


それはいつの間にか、学びの棟の副主任に就任したばかりのタニアの手に渡っていた。


彼女はヨハが学びの棟に移って少し経った頃に何度か話しかけて来た人という程度にしか記憶がない人で、その時の様子すらほとんど覚えていない。


それくらいの接点しかないのに、ヒカに電話したつもりが彼女が出て、いきなり「お久しぶりですね。私を覚えてますか?」と…


彼女の不思議な距離感はとても不快だった。


とにかく、


この状況はなんだか変だ。


なによりも…


「…そう言われてもね…ヒカちゃん本人が要らないと言って、私にこれを預けて来たんですよ。彼女は今、仲の良い女の子と遊んでいます。そもそもこれは学びの棟の子達は使用を許可されていない物ですよ。」


「………」


そう…ヒカの様子も急に変わってしまったのだ。


2.3日前からヨハがイヤーフォーンをかけてもヒカは出る事が無くなっていた…


彼女が学びの棟に移った時からずっと毎晩のように通話していたのに…突然に、だ。今日こうやってお昼休みにヨハがかけて来る事も、いつものヒカなら知っていたはずなのに…友達と遊んでいるって…


「分かりました。とにかくイヤーフォーンの件はヒカに直接確認をしたいので、すみませんがヒカに代わって頂けますか?」


「そう…ね…確認してみて。その後、このイヤーフォーンはとりあえず主任に渡しますね。」


「……」


「ヒカちゃ〜ん………ちょっと来てちょうだい……」


…ヒカを呼ぶ声が聞こえる…

頼む…いつも通りのヒカであってくれ・・・


「……はい…ヒカです…」


「ヒカ?僕だよ…分かるよね…?」


「……あ……あの…誰ですか?……どうして私に…?」


ヨハの一縷の望みが打ち砕かれる…


ヒカの緊張が伝わる…

彼女があまり面識のない人に対してするやり取りだ…


「……突然にごめんね。…ヒカちゃん…1つ聞いていいかい?今も白詰草は好き?小さい頃、花畑へ行った事を覚えてる…?」


動揺のあまり、1つと言いながら2つ質問していた。


「…え?どうして知ってるの?……あなたは誰ですか…?」


「……」


…残念ながら、ヒカの驚きは演技などではない事は分かった。


そんな器用な事が出来る子じゃない…


「…そうか…覚えていないか…ヒカちゃんがまだちっちゃい時だったからね。驚かせてごめんね。それじゃ…」


耐えきれず、ヒカの次の言葉を待たずにヨハは通話を切った…






「…ハァハァ……ち、長老〜!」


あれからヨハは、直属の指導役の医師に頼み込んで急遽1日だけ休暇を貰い、ティリからはるばる長老を探してセレスの研究室へ駆け込んだ。


「おや…本当に来たんだね…」


長老は本棚の前で腕組みして何かを探している様子だった。


「お伺いしますと連絡したんですから…ハァ…ハァ…当然です。」


なかなか息の整わないヨハの様子を、長老は珍しいモノを見るように少し目を細めた。


「今日は取り乱す君の貴重な姿を見られて…少しラッキーだ。」


「何を呑気な事を…」


ヨハの様子を面白がる長老に色々言い返したかったが、早く息切れを治めて本題に入りたかったので、ひとまず我慢した。


「…驚くべき事ですが、ヒカは…一部の記憶を失っています。僕に関する事だけほぼ全てです。」


長老は視線を本棚に向けたまま…


「…そのようだね…ナランと昨夜少し話したが、ヒカは君以外の人への反応は変化ないようだ。ヒカが何かしらのアクシデントで外的ショックを受けた形跡もないようだし…まぁ外的衝撃にしても君の記憶だけ抜けてしまうのも妙だよねぇ………ああった、これだ!」


長老はじっと見ていた目の前の本棚からファイルの様なモノを取り出す。


「まぁとりあえず座って…」


と…ヨハを近くの椅子に座るように促し、取り出した資料をテーブルに置いて自身もヨハの正面に着席する。


「昨日のイヤーフォーンでのやり取りで、やけに冷静に事務的に対応していたタニアという副主任の女性になんとも言えない違和感を感じました。就任したばかりとはいえ学びの棟の副主任ですから、主任のリシワさんや…ナランさんからも僕とヒカの事は多少は聞いていたはずと思うのですが、ヒカの僕へのよそよそしい反応に彼女は全く動じていなかった。…ヒカの異変に彼女は何にも感じてない様子だったんです。…僕は………考えたくない可能性に行き着きました。…恐らく彼女は……」


長老は、ヨハが話している間ずっと本棚から取り出したファイルをパラパラとめくっていた…


…そして…


「タニアは…ヒカの一部の記憶の喪失に関わっている可能性はかなり高いだろうね。…彼女は…君の血縁…レノやティリ的に言うと姉なんだ。…君のように何か特殊能力を発現している可能性を疑わない方が自然かも知れない。…いや…私が迂闊過ぎたのかもだ…」


開いたファイルをヨハの目の前に差し出しながら、長老は今のヨハにとって受け入れ難い事実をサラッと言った。


ファイルには2人の男女の名前の下方にタニアとヨハの名前が記されていた…


ん?タヨハ?…タヨハって確か…


ヨハは父親の欄に記されているタヨハという人物に関して質問したかったが、長老の説明はそんな彼の気配を無視して進む。


「…恐らくはあの子の特殊能力は母親の系統から引き継いでいるのだろう…。ミアハの癒しの力と違い、特殊能力は唐突にどちらの血筋からも出るからね。本人から本部への申告はないが…今まで密かに都合よく使いこなして来たんだろう。残念なことだが…」


あくまで憶測だったモノが限りなく現実に近いモノとなった。


更に、逃れようのない宿命を記したファイルを目の前の人が突きつけている…


「……」


なぜ自分と血縁のある彼女が…よりによってヒカの記憶を…?


いつか…僕がちゃんと話をしなかったからなのだろうか…?…記憶が…本当に曖昧だが…ちゃんと会話をした覚えがない…


だからといって、ヒカが何をした?勝手に人の記憶をどうこうするなんて…


疑念、後悔、悲しみと怒り…ヨハはパニックになりそうなほど混乱していた…


「明確な理由は分かりませんが…一つ明らかなのは、僕とヒカの交流を妨害したい意図はなんとなく感じます。僕は、ヒカの記憶に土足で干渉した彼女を絶対に許せません…」


両方の拳を強く握り締め、激しい怒りの為にヨハの声は震えた。


「………」


長老は…開いたファイルの上に両肘を乗せて指を組み、更にその上に顎を乗せて、感情をあらわにするヨハの様子をじっと見つめていた…


「君も…こんな風に怒りの感情を剥き出しにする事もあるんだな…」


「?!」


隠そうともしていなかった怒りの感情を長老から指摘されハッと我に返り、ヨハは赤面した。


「…小生意気だろうが、周囲から浮いていようが取っ付き難かろうが…僕も一応、感情はある人間です。」


「………」


長老はヨハの言葉に反応することなく、しばらくジーっと生暖かい目で彼の顔を見つめていた。


ヨハはそんな長老の視線に耐え切れずに目を逸らし、長老の両肘の下にあるファイルがどうにも気になって、手元に引き寄せようとする。


しかし、長老はすんでのところでそれを阻止してファイルを閉じてしまう。


「まぁ…自分以外の誰かの為に熱くなる事は悪いことじゃないよ。そんなに恥ずかしがるな。…からかうような言い方をしてすまなかった。つい、嬉しくなってね…」


と、長老はヨハにウィンクをした。


「き、気持ち悪い事しないで下さい…だからナランさんからセクハラなんて言われるんですよ。」


ヨハは思わず席を立って窓際に避難した。


「酷いなぁ…君達は陰でそんな風に私の悪口を言ってるのかい?仕方ない…ナランには後で愛を込めて残業を指示するとするか…」


長老はいつものように髭を弄りながら、ニヤニヤ笑う…


「また…そうやって言うからですね、ナランさんやリシワさんも…」


と、ヨハが窓際に避難したまま反応すると…


「…タニアへの怒りは少し落ち着いたね。さあこちらに来て。これからの話をしよう…」


空いている手で長老はヨハを手招きする…


「……はい…」


……この人の事は…


尊敬も信頼もしている…これは揺るぎない。


だが自分はこの先もずっとある意味…この人の手のひらの上でこんな風に転がされて行くのだろう…


この時、しみじみ予感してしまうヨハなのだった。


ヨハがゆっくり元の椅子に戻ると、眼前の老人はいつの間にかやや張り詰めた雰囲気をまとっていて…


そこにはいつものトボけた老人ではなく、ミアハを背負う覚悟を纏った長老がいた…


「さて…かなり不本意なのだがね………」






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