交信内容の抜粋
力の制御も利かないままジャンクフードの海を漂っていた。広告の込められた包装紙やプラゴミが、脇や膝裏といった関節部分に執拗に入り込んでくる。潰そうと思ってやっと潰せるていどの素材強度が煩わしく、体力を奪われ疲れてくるうちに潰さなくなってくると僕は小さな島へと流れ着いていた。陸地とは海の昇って来られない地点をそう呼ぶが、このジャンクフードの海においても意味は同様だった。地形はカステラを固めてできており、島のうえは甘い匂いが漂っている。向こうにみえる太陽でさえ人工物でないと辻褄が合わない景色が広がっていた。見渡す限り僕の居場所はないように思えた。このカステラの島はこの辺りで唯一、座って呼吸を整えることができるだけのスペースがあったが決して広い土地はなく、どういうわけか中心にヤシの木が一本だけ生えているほかには、端から端まで瞬時に見通せてしまうほど何もない円形をしていた。
2周ほど島の散歩を済ませたころ、こんな内容の書かれた紙が落ちていた。
『
A: 我々は神にはなれませんが、神々のシナプスから零れ落ちた火花を食べることで世界に多くの命を栄えさせます。
B: はい。そして次の火花が落ちてくるまでのあいだ、政治によって自分と仲間たちを存続させることができます。オプションとして、仲間たちの肉を食べて自分だけ生き残るという方法も残されています。この方法を選んだ場合、次の火花が神々によってもたらされた際には、この火花もまた一人で食べ尽くすことができるという強力なメリットがあります。
湯気がうぶ毛を逆立てる: ……。
夕日を掬ってはならない: ……。
A: あなたはその岩に命を吹き込んだ。あなたはその岩に一目惚れした。その岩はあなたをみて「どっかへ行け」と言った。あなたはその場で泣き崩れた。
この一連の出来事を経験したあなたが目を向けるべきは、この4場面のあいだに一言も言葉を話さなかったという事実です。あなたのうちに実際に起こった感情や周囲の出来事については、すでにあなたでは変えることができなくなった事実であるためです。
B: はい。あなたは巨大な銃弾のコックピットに乗っています。しかし内部からでは銃弾の軌道を変更できないので、あなたはあなた自身で引き金を引いた瞬間のことを信じて、当初の目標を撃ち抜くその瞬間を銃弾の中から見届ける義務があります。私はこの考えがとてもクールで好きです。
』
読み終えると紙は砂糖になって手からするする零れ落ちていった。それとともにカステラの島が揺れはじめ、中心に生えているヤシの木が太陽の方へ向かいながら海に沈んでいったのをみると、この島は確かに島ではあるが、ボール状のカステラが海に浮いて、波に転がされながら移動していることが判明した。それから僕は安定した玉乗りをつづけ、近くの港に流れ着くまでにおそらく4カ月は経っていたが、海にはハンバーガーやポテト、アイスクリームが浮いていたのでそれを食料にすることで、自分の乗っているカステラの島を食べてしまうことはなかった。どちらかといえば太りすぎて島が沈んでしまう恐れの方が強く、港から街に泊まりだしてからは何のその、もう4ヶ月で痩せ直すと、再び海の旅へと出かけた。そのときにはすでにカステラの島はカスすらも余さず街の人たちに食べられていた。これは旅へ出発する朝に宿屋の主人から聞かされたのだが、宿代はそのカステラで済ませてくれたらしく、僕にとっては不幸中の幸いだった。