善意の改竄者 Sheet5:ピボットテーブル
「私も確証はないんだけど、ピボットテーブルで分析してみたら何か分かるかと思って」
エルは魔道具のモニターを皆んなが見える向きへ回した。
アキラはそろそろカラオケで使ってるTV画面にミラーリング出来るよう設定すべきかなと思った。
『エクセレンター』メンバーの薔薇筆氏ならそういうのは得意そうだから頼んでみよう。
「エルちゃん、その"ホビット"テーブルって何なんだい?」
川口お得意の冗談なのかホントに間違えてるのか判断に苦しむ。
「ピボットね、小人族は関係ないです。簡単に言うと大量のデータを集計・分析するのに使うものだよ。例えばグラフで可視化したり…試しにユーザー名でアクセス回数のグラフを作ってみようか」
そういうとエルはほんの数工程で、ユーザー名の棒グラフを作成した。
「ほらこの人、ファイルへのアクセスが他の人に比べて極端に多いでしょ。逆にこっちの人は極端に少ない。この二人は何か怪しいな…」
エルの話を聞きながらモニターを凝視していた鳥海がつぶやく。
「この二人は同じ部署の上司と部下です。アクセスが多い方が部下です…どういう事かな」
「分かった!」アキラが言う。
「つまり上司は自分が入力しなきゃいけない分も部下にやらせてるんだ」
「ははぁ。今回、張本人が自分だと察したその上司が露見するのを恐れて部下に入力を投げたって事か。素直に自分の入力方法が間違ってましたって言えば済むのに」
川口が呆れた様に言った。
「部下クンだって急に投げられたら不信に思ったんじゃねぇの?」
アキラの疑問ももっともだ。
「そういえば上司の彼、先日から指に包帯を巻いてました。恐らく怪我してタイピング出来ないとか理由付けしてるんでしょう」
鳥海は自社にそんな社員が居た事に呆れと恥ずかしさがないまぜになった心持ちでいた。
「これだけで彼が張本人だと断言するのは難しいですが、入力を肩代りさせた事に正当性はあるのか、ハラスメント行為が無かったについて追及する必要はありそうです。いやぁ、本当に助かりました。エルさんありがとう」
エルは恥じらいながら人差し指と親指でL字を作るキメポーズをした。
恥ずかしいならしなきゃいいのに何でいつもするんだろうと、アキラはぼんやり眺めていた。