善意の改竄者 Sheet4:川口の推理
翌週末、鳥海は甥の洲崎と共に来店した。
「例の犯人探しの方はどうなりました?」
ボトルキープの余市と響でハイボールを提供しながらアキラが尋ねる。
「それが…あれ以来、ファイルの不具合がさっぱりないんです」
「あれま」
「重要ファイルに細工する訳ですから社長に事の経緯と了承を取ったんですが、どう勘違いしたのか社員の前で公言しちゃいまして…
我が社に不利益をもたらす改竄者を炙り出すとかなんとか…」
「まぁそれで不具合が無くなったんなら、めでたしめでたし…ってワケには行きませんよね…美味いなこれ」
甥の洲崎がハイボールを飲みながら言った。
「社長の発言で不具合が無くなったのを見ると、張本人は故意でやってたか、少なくとも自分がしでかしたんだと気が付いたかのどちらかでしょう。こうなったら不本意な形ですが、一旦解決とするしかないのかも知れません」
鳥海が諦めがちに言ったその時、エルが胸元で挙手をして遮った。
「あの!」
「ん、どしたエル?」
「そのファイルの内容見れますか?」
「そりゃダメだろ、企業の肝になる情報だぜ」
「そっちはいいの。今回作った"記録シート"の方だけ」
鳥海はひとしきり考え込んだ後、
「だったらPCのユーザー名と時間だけだから、まぁ大丈夫でしょう。シートを複製したものを一ブックにまとめればいいですか?」
後日、係長にメールで送らせるという事で話がまとまった。
その翌週、店の仕事始めとなる火曜日。
チーム『エクセレンター』のメンバーにして店の常連、川口が開店と同時にやって来た。
「おや?新しい常連さんでも出来たかな?」
「えっ、グッさん何で分かるのさ?」
「だってほら、そこの余市と響。最近キープされたやつだろ?」
「よく見てんなー。名推理だわ」
アキラは事の顛末を説明した。
「ふうん。それでその"記録シート"から何か分かったのかい?」
「いや、それがまだメールが来てない」
そんな話をしていると、当の鳥海がやって来た。
川口をチームメンバーとして紹介し、メールの件を尋ねるとUSBメモリにコピーして持って来たという。
エルはそれを受け取ると、いつもの様に奥へ引っ込んでいった。
「情報量は多い方が良いのかと思い、係長にはここへ来るギリギリまでコピーするのを待ってもらいました。」
鳥海はおしぼりで顔を拭いながら言った。
「エルちゃんが戻って来るまでカラオケでも入れようか?」
川口が選曲する間もなくエルが魔道具を持って来て戻ってきた。
「あー、奥ではコピーしただけ。今日はここでやってみるね」
「何か勝算というか犯人を特定する手がかりみたいなのが見つかるのか?」
アキラには見当が付かなかった。
鳥海や川口も同様だ。
「えへへ、実は前からやってみたかった事があるんだ」
エルは楽しそうにエクセルを起ち上げた。