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臥薪嘗胆

side:子爵令嬢




「お初にお目にかかります。侍女としてお世話になるレイリアと申します。メルリス子爵家が次女ですわ。歴史のあるマイティス伯爵家で働くことのできる名誉、光栄に思います」


「これはこれは。お父上とは最近取引を始めたばかりでしてなぁ。レイリア嬢には、何をしてもらおうか。執事と相談しておいてくれるか?」


「かしこまりました。マイティス伯爵。わたくしのことは、レアとお呼びいただけると嬉しいですわ」


「では、レア嬢を頼んだよ。セバス」


「承知いたしました。では、メルリス子爵令嬢。こちらへ」


「セバスさんもわたくしのことはレアとお呼びくださいませ」


「……承知いたしました、レア嬢」


 わたくしは、お父様の伝手を使ってマイティス伯爵家に侍女として雇われました。


「レア嬢、館内の案内を致します。こちらへ」


「ありがとうございます、セバスさん」


 一目でわたくしとわからないように、長かった髪をボブまで短く切り、金髪を茶色く染めました。また、目の色を変えるメガネを使って、ピンクの瞳を茶色へと変えました。一目でわたくしがわたくしだとわかる人はいないでしょう。



「では、最後にお嬢様のお部屋をご案内します。レア嬢には、主にお嬢様と伯爵様の侍女の補助をしていただきます」


「わかりました」


 伯爵夫人は数年前に亡くなっており、今はマイティス伯爵と伯爵令嬢であるラテル様しかこちらには居住していらっしゃらないそうです。

 伯爵もこちらにはあまりお戻りにならないとのことです。





◇◇◇

「ごきげんよう。フラン様」


「会えて嬉しいよ、ラテル嬢。本日も大変美しいね」


「まぁ、ありがとう」


 フラン様は三日に一度訪れます。手には花束からアクセサリー、流行りのドレスまで。わたくしは一度も贈られたことのない品々ですわ。あぁ、一度だけありました。婚約者にはまだ贈ったことがないと言っていた指輪です。大切にネックレスにして身につけております。今でも。




「ラテル嬢と婚約できて、本当に嬉しいよ」


「ふふふ、フラン様はいつもそうおっしゃるのね?」


 仲のいいお二人。温かく見守る使用人たち。理想的な光景でしょう。ここにフラン様の浮気相手のわたくしがいなければ。そう思いながら、手を動かします。





「あれ? 新しく侍女を雇ったんだね」


「えぇ。わたくしが新しい侍女が必要だとお父様にお伝えしたの」


 フラン様のお言葉に焦りましたが、お嬢様が説明してくださったおかげで黙礼するだけで済みました。声を変える魔術具を用意することをすっかり忘れておりました。今日の休憩にでも街へ買いに向かいましょう。







◇◇◇

「君、美人だね。お茶でもどう?」


 フラン様はろくでなしでいらっしゃいました。

 わたくし以外にも女性がいらっしゃるようです。さらに、マイティス伯爵家の近くでナンパなさっています。こんなお方のどこが良かったのでしょうか。

 こんなお方に騙されたわたくしも、なんと愚かだったのでしょうか。




 回り道をして、目的の魔術具を購入し、すぐに身につけました。少し声が変わるだけで印象が変わります。



「あれ? レアの声、なんか違わない?」


「わたくし、声がコンプレックスで……。理想の声に変えるために魔術具を使ったの」


「うっそ! ごめん!」


 おしゃべりなメイドのリリーにそう嘆きます。彼女が吹聴することで、きっと誰もこの件には触れてこないことでしょう。









◇◇◇

「聞いた? マイティス伯爵家の話」


「聞いた聞いた! 伯爵の悪事の告発文が王宮に届いたんだって!?」


「婚約してたラザンテール伯爵家はどうなるのかしら?」


「よく知らないんだけれど、その悪事にラザンテール伯爵家も関わっていた噂があるそうよ」


「まぁ……」





 わたくしは、侍女としてマイティス伯爵家に潜入し、伯爵の行ったさまざまな不正の証拠を集め、告発した。その途中でフラン様のご実家ラザンテール伯爵家も関わりがあることに気づき、全てを明らかにしたのだった。


 任せられた領地の税の不正から隣国との取引に関するものまで、自分でもよく集められたと思うわ。


 わたくしからあなたへのプレゼントよ、フラン様。







「レディ。フランから全て聞いている。一途にフランを想っていた君のことが、ずっと気になっていたんだ。一曲お相手できないだろうか?」


「まぁ。あなたには婚約者はいらっしゃらないかしら? 二番目令嬢のわたくしでいいのかしら?」


 わたくしが小首を傾げてそう問いかけると、言い出しっぺの彼は決まり悪そうにこう言った。


「あぁ、二番目令嬢だなんて君には似合わない。失言だった。撤回するよ。……僕の婚約者になってくれないか? 父上の許可もとってあるんだ」


「まぁ、喜んで」

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