彼女の愛が勝った話
やばい女がでてきます。これはダメだと思ったら閉じてください。
顔と愛想のいい婚約者を持つと、羨ましがられることがあるが、実際は面倒のほうが多い。
「彼と別れて」
要約するとこんなことを言われるのは、今月に入って三回目だわ。
ネアーゴは怒りを通り越してもはや冷静にそう思った。
ネアーゴの婚約者、ケメインはもてる。なにせ顔が良い。笑顔で白い歯きらめかせつつ声をかけられたら白馬に乗っているのかと錯覚しそうな美形だ。しかももてる自覚があるので、つれなくしたら可哀そうだと要らぬ気づかいをする。たてまえとしてはレディファーストだ。
よその女の子はちやほや甘やかすくせに、ネアーゴには甘えてくる。その顔と普段とのギャップもあいまって、ネアーゴはケメインと別れなかったのだが。
浮気相手がケメインを連れて直談判に来るのはさすがにはじめてだった。
メヘランと名乗った少女はたれ目勝ちの大きな瞳を潤ませ、小鳥のように震えている。見るからにか弱い美少女を放っておけないのか、ケメインは彼女にそっと寄り添っていた。それでも困ったようにちらちらとネアーゴをうかがってくる。
「すまない、ネアーゴ。でもメヘランは繊細な子で、放ってはおけないんだよ」
だから、わかってくれるだろう? そう言いたげにケメインが口火を切った。
「わ、わたくしがいけないんです。ケメイン様を愛してしまったから……っ」
「そう。正直そういう子、いっぱいいるのよね」
メヘランの様子を見つつネアーゴは言った。
事実である。
「でも、でも……っ。ケメイン様、ヘラのこと、可愛いって言ってくれて……っ」
さらっと告げられた事実がショックだったのか、まだ序盤だというのにメヘランが素を出した。自分のこと愛称で言う子かぁ。ケメインが声をかけたなら社交デビューは済んでいるはずだが、見た目も中身も幼いらしい。
「そんなの、ケメインは誰にだって言っているわよ」
これも事実だ。女の子と書いてかわいいと読む、くらいの軽さでケメインはぽんぽん言う。心にもない言葉ではないからこそ、言われた女の子は本気になるわけだ。
他者の美点を見抜く目があるのはケメインの良さだ。面倒をかけられてばかりのネアーゴはそう前向きにとらえ、婚約を続けていた。
「え……」
「ヘラちゃんっ。ネアちゃんっ、何も今そんなこと言わなくてもっ」
ぽろぽろと泣き出したメヘランに、慌てたケメインがネアーゴを咎める。
ネアーゴがいるから、と本気の告白を断ろうと――ネアーゴに断らせようとしているくせに、この男はこういうところが卑怯だ。ネアーゴは一睨みでケメインを黙らせた。
でも、でも、ヘラ好きなの。ケメイン様だけなの。ケメイン様しかいないの。泣きながら言い募るメヘランに、ネアーゴはなんともいえない、じっとりとした薄気味悪さを感じた。目が合う。その瞬間、ぞわっと鳥肌が立った。
あ、これ、やばい女だ。
直感でそう思った。
ネアーゴの家は領地のない子爵家で、商売が上手くいって男爵から子爵になった、成り上がりの家だ。
幼いころから老若男女問わず、様々な人と出会う機会があった。中には家が没落してしまった者もいる。
物と人を見る目を磨かれてきたネアーゴの直感が言っている。この女はやばい、と。
はたしてどうやばいのかまではわからない。メヘランのことなど何ひとつ知らないのだから当然だ。しかし、いつものように、ケメインに言い寄る女の子扱いで撃退するのは絶対にダメだ。敵にしてはいけないタイプの人間だ。
少し考えたネアーゴは、メヘランの細い指をそっと両手で包み込んだ。
「メヘランさん……本当に、ケメインを愛しているのね」
愛猫のシャーが子供を産んだ時のことを思い出しているネアーゴの目は愛おしさで潤んでいる。シャーはもともと野良猫で、身籠っていたせいか警戒心が強く、それでも放っておけないとくじけずに面倒を見続けたネアーゴに恩義を感じたのか、仔猫が産まれるとわざわざ見せに来てくれた、義理堅い猫である。今では仔猫ともどもすっかり懐き、子爵家のマスコットになっている。まんまとしてやられた気がしなくもないが、面倒を見ると決めたのはネアーゴだし、シャーは幸い頭の良い子でトイレもすぐに覚えた。仔猫たちも商会の倉庫で鼠を狩るなど役に立ってくれている。迷惑をかけるだけで尻ぬぐいすら自分でできないケメインとは大違いだ。
「ね、ネアちゃん……?」
「メヘランさんの愛の深さには負けたわ」
いつものようにメヘランを追い払ってくれると期待していたのだろう、ケメインが蒼褪めた。
「ネアーゴ様……っ」
パッ、とメヘランが顔を上げる。涙の痕すら可憐だった。
「ケメイン、こんなに可愛らしい子があなたを愛しているのだもの。男みょうりに尽きるわね? もう他の子に迂闊なことを言ってはダメよ」
「わかってるよ! ……って、そうじゃなくてっ」
「安心して、父には上手く言っておくわ。おじさまにも、反対しないように頼んであげる」
「ありがとうございますっ」
止めようとするケメインを睨みつけて突き放す。どんなに顔が良くても、正直ケメインにはうんざりしていたのだ。これ以上の面倒はごめんだった。
「お二人とも、幸せにね」
ネアーゴの祝福にメヘランはまたも泣き出した。よく泣く子だ。
家に帰ったネアーゴはさっそく父と面会して婚約破棄を求めた。
今までケメインのやらかしをしょうがないな、で済ませていた娘の訴えに、父は驚いて理由を訊ねる。
「今までの女の子とはわけが違います。あれはやばいです」
同年代の令嬢に慕われているネアーゴはめったに人を悪く言わない。その彼女をしてこうまで言わしめるとはどんな女だ、と父は気を引き締めた。
「メヘラン……ああ、あそこの令嬢か」
「ご存じですの?」
「噂だけだがな。社交デビューはしたものの、病弱であまり外には出せないという話だった」
「病弱……。たしかに病気で弱そうでしたわ。主に頭が」
「うん? どういうことだい?」
「少し話をしただけですのでわたくしの感想にすぎませんが……、おそらく彼女は言われたことをそのまま受け止めているのでしょう」
悪いことではない。
しかし女の子を褒めるのはサービスだと言うケメインの誉め言葉を、メヘランは素直に喜んだのだ。世の中にはリップサービスというものがあり、誉め言葉が実は皮肉だったり裏があったりする。貴族なら特に、男性が女性を褒めるのはマナーの一種だ。
「そして時間と共に、その言葉を頭の中で熟成させてしまうのでは? ケメインに可愛いと言われた、可愛いからケメインは自分が好き、自分たちは愛し合っている、というように」
「飛躍しすぎだろう」
「だからやばいと言っているんです。こちらにも面子がありますから婚約は破棄としますが、慰謝料などは最低額にしてください」
「そこまでするのか?」
「逃げるが勝ちですわ。わたくしはメヘランさんの愛に感激して身を引いたことにしますから、お父様は理解ある父のフリをしてケメインと彼の周囲から撤退してください」
万が一にも縋ってこられてはたまらない。
ケメインとメヘランの浮気ではなく、真実の愛、美談にしてしまうのだ。
鬼気迫る勢いの娘に、父は渋々ながらも了承した。
婚約破棄の慰謝料を請求するため、弁護士と共にメヘランの家を訪ねた父は、蒼褪めた顔で帰ってきた。
「ネアーゴの言っていたことがわかった。あれはやばい!」
どうやらメヘランだけではなく、その両親もやばかったらしい。
どうしてだ、悪いことなどしていない、と反発するメヘランとその両親に、父は娘の気持ちも考えてほしいと泣き落としをやってのけたという。渾身の演技であった。
「さすがはお嬢様。ご慧眼でした。ほとぼりが冷めるまではどこかに避難したほうがよろしいでしょう」
多くの修羅場を潜り抜けてきたはずの顧問弁護士まで冷や汗を拭っている。
「なんというか、目が正気じゃなかった。この家は衛兵で固めて、別荘に行こう。使用人もだ」
「店はどうしますの?」
「メヘランの一家が来ても逆らわず、商品を強奪されたらケメインの家に請求するよう通達する」
母がいなくて良かった、とネアーゴは思った。母は現在兄を鍛えるため、他国との取引に行っている。母がいたら戦う前に逃げ出すとは何事か、と全面戦争になっていただろう。母は女傑なのだ。
「お母様には……」
「……別荘に着いてから連絡しよう」
父も同じことを考えたのか、目が泳いでいた。
逃げると決めたからといって、夜逃げよろしくとんずらするわけにはいかない。準備がいる。
その間にケメインはやらかしていた。
メヘランとのデート中、案の定女の子に声をかけたのだ。ケメインはいつものようにサービスを振りまいた。大方「今日の君はこの前よりも可愛い」とでも言ったのだろう。いつものことである。
しかしその日いたのはネアーゴではなくメヘランである。目の前で他の女を褒められたメヘランは泣き出した。泣いて、ケメインを責めた。
これがネアーゴなら呆れつつさっさと先に行っている。確かに相手の良いところを、ちょっとした変化を見つけられるのがケメインの特技であり、美点であるが、それでないがしろにされるほうはたまったものではない。ネアーゴはそんなケメインを受け入れて、というかあきらめの境地にいたのだが、メヘランはそうはいかなかった。
ケメインに愛されているのは自分だと思っているメヘランにとって、不安にさせたケメインを責めるのは正当な権利であった。
ネアーゴには責められたことのなかったケメインは咄嗟に謝った。愛とはこういうものなのかとちょっと感動もしていた。
メヘランは言った。
「謝らないでくださいませ……。でも、ヘラに愛を信じさせて?」
ドレスや宝石ではなく、愛をねだるメヘランにケメインは困ってしまった。
愛とは目に見えるものでも金で買えるものでもない。信じさせて、と言われても。
結局、この日は何度も「愛してる」と言うはめになった。
また別の日。ケメインは「父への贈り物を一緒に選んでほしい」と頼まれて、女の子と街へ行った。あからさまな父親を口実にしたデートの誘いでも、断ったらかわいそう、と思うケメインは断らない。
それをメヘランに目撃された。
ケメインが女の子を家まで送り、上機嫌で帰ると、メヘランが待っていた。
ケメインの部屋にある、ありとあらゆる物に『メヘラン』と書かれ、服にも、特に下着には念入りにびっしりと『メヘラン』が刺繍されていた。
これには腰を抜かしたケメインに、メヘランは涙で赤くなった目で、
「自分のものには名前を書かなくっちゃ」
と言った。
そしてケメインの手の甲に『メヘラン』としっかり描いた。ペン先が食い込み、インクだけではなくひっかき傷までついた。
傷がふさがってもインクが皮膚に染み込んだのか刺青のようになっており、『メヘラン』は消えずに残った。手袋で隠してもメヘランが泣くのですぐに外すことになる。
ここに至ってようやくケメインと彼の両親は、メヘランのやばさに気が付いた。
なおこの間、二回ほどネアーゴはメヘランを慰めに行っている。敵じゃないよアピールだ。自分がいないからといって屋敷や店に手を出さないでね、の意味もある。
ケメインが泣きついてきても逆に諭し、メヘランのもとに届けてやった。
メヘランからは婚約の催促をされているが、とんでもない。婚約したが最後、死ぬまで束縛されるだろう。
頼りのネアーゴは「二人の幸せのために」と別荘へ旅立っていった。ついでに父親について商売の勉強をするらしく、あちこちに行く予定である。
ついでにネアーゴは友人たちにはメヘランのやばさを伝え、二人の邪魔をしてはいけないと忠告しておいたので、ケメインとメヘランを表立って批難する者はいなかった。
いたのはネアーゴとの婚約破棄を聞きつけ、あわよくば自分が、と後釜を狙う女の子だけである。彼女たちはメヘランから逃げ回るケメインを喜んでかくまった。
家にいるとメヘランが会いに来る。だからケメインは外に逃げたのだが、メヘランはくじけなかった。
「いずれこの家に嫁ぐのですから」
そう言って居座ったのだ。
冗談ではない。
たしかにメヘランは一途な娘だ。あれが欲しいこれが欲しいと贅沢をねだることもない。彼女が求めるのはケメインの愛のみだ。
しかしどうにもその愛が重い。というか痛い。
常識では測りきれない、得体のしれない生き物が家にいる、という気味悪さにケメインはすぐに耐えられなくなった。
「いい加減にしてくれ! 家にまで居座って……未婚の令嬢が男の家に押し掛けるなんて、外聞が悪すぎる!」
「ケメイン様……? だって、ヘラは花嫁修業に来てますのよ?」
「婚約もしていないじゃないか!」
「婚約してくださるのでしょう?」
信じて疑っていない表情だ。いきなり怒鳴りつけられて涙ぐんではいるが、もう結婚する気でいる。
「ネアーゴ様にも認められたじゃありませんの」
「……っ」
ネアーゴは助けてくれない。何度か手紙を送ったが、読んでいないのか不在なのか、返事が来ることはなかった。
「君となんて結婚しない!」
「え……っ」
「ネアちゃんとの婚約だって、破棄するつもりはなかったんだ! それを君が……っ、余計な事するからっ!」
「そんな……ひどい……っ」
メヘランはわっと泣き出すと、子供のように駆け出して行った。
多少の罪悪感はあったものの、これで終わった、とケメインは長いため息を吐き出した。
「こうしておけばよかったんだ……」
とんでもない。
これで終わりどころか、報復のはじまりだった。
泣きながら帰ったメヘランはその勢いのまま両親に泣きついた。さすがメヘランの親というべきか、メヘランを育てるうちにうつっていったのかはさだかではないが、この両親もメヘランの同類だった。
連日ケメインの家に押し掛け、娘の純情を弄んだ、責任を取れと騒いだのである。
数日放置しても変わらず、門番に追い返されればどこで雇ったのかゴロツキめいた男たちが加わって、警察隊を呼ばれれば被害者はこちらだと訴える始末。
「若いうちは遊びたいのはわかりますが、詐欺まがいのことはいけませんよ」
なぜか警官にケメインが説教された。
「ちょっと褒めただけだったんですよ!?」
「本気にさせるようなこと言ったんでしょう? しかもご令嬢を、数日間とはいえ軟禁して花嫁修業させたとか」
「あの女が押し掛けてきたんです!」
「ですが追い返さなかったのはそちらです。その間、ケメイン氏は他の女のところで遊んでいたとか……。あちらのご両親の怒りはごもっともでしょう」
警察は警察で、単なる痴話喧嘩として処理した。連日のことに、しだいに面倒くさそうに、投げやりになっていった。
これだけでは終わらない。
ケメインをかくまっていた女の子たちにも、メヘランは報復の手を伸ばしたのだ。
なにしろ彼女は唯一ネアーゴを引かせた娘なのだ。お幸せに、と祝われ、ネアーゴの友人たちにも色々言い含めてもいる。いわば、ネアーゴに認められた存在であるのだ。
かくして精神的、肉体的、財政的にケメインは追い詰められ、人望をなくし、本人と家の名誉は地に落ちた。
もはや白旗を掲げる気分でメヘランと結婚すると言ったが、メヘランは許さなかった。
「可愛さ余って憎さ百倍とはまさにこのことですのね。ケメイン様、ヘラは心から愛しておりますわ」
お前のせいだ、と両親に袋叩きにされ、平身低頭で謝るケメインに、メヘランはじっとりとした微笑みを浮かべる。
「ええ、ですからケメイン様が心から……ご両親や周りの人たちに説得されてではなく、心からヘラを愛して望んでくださるまで、ヘラは愛を教えて差し上げますわっ」
ケメインはこれ以上の絶望があるのか、と悲鳴を漏らした。
ネアーゴに叱られているうちに、やめておけばよかった。女の子を褒めるのは当然で、褒められた子が顔を赤くして笑うのを見るのが好きだった。それだけだったのだ。
ネアーゴは違った。ケメインが褒めても当然の顔をして「わたくしもそう思いますわ」と返してきた子はネアーゴだけだった。そのさっぱりした性格が好きで、さらにしっかり者のところもケメインを甘やかしてくれるところも好きだった。ケメインが惚れぬいて婚約に持ち込んだのだ。
どんなに後悔しても、もう遅い。
メヘランの愛とは『二人の世界』だ。正確には『二人だけの世界』である。
もちろん、そんなことはありえないとメヘランも理性では理解している。
二人だけでは生活が成り立たない。食べるにも困るだろう。
弱小とはいえ貴族なら、たとえ領地がなくとも社交はある。使用人だって必要だ。
あちこち目移りするケメインの前によその女が横切らない、なんて奇跡はメヘランでも無理である。
だが『世界は二人のために』なら可能だ。少なくとも、そう思い込むことはできる。
メヘランは自分の邪魔をしない限り許容した。ネアーゴの根回しもあり、そして努力のかいあってケメインを狙う女の子たちは寄ってこなくなった。
そしてついにメヘランの愛が実を結んだ頃、ネアーゴと家族が帰ってきた。
「メヘランさん、結婚おめでとう」
「ありがとうございますっ!」
「聞いたわ。色々大変だったんですってね」
主に周囲が。
「ええ、そうなんです……。でも、ケメイン様はヘラを一番愛してるって言ってくれましたっ」
ネアーゴが帰ってきたと知ったメヘランはお茶に誘ってきた。ネアーゴが断らなかったのは、釘を刺しておくつもりだからだ。
「あら、そこはメヘランだけを愛してる、ではないの?」
「あ……っ。そうですね」
「うふふ。でも大丈夫ね。困難を乗り越えた二人ですもの、もっと深い愛に育っていくでしょう。おめでとう、メヘランさん、ケメインさん」
「まあ……」
メヘランは相変わらず涙もろいようだ。
ネアーゴはチラリとメヘランの隣に座るケメインを見た。
彼の美貌は変わらない。にこにこと微笑んでメヘランを見つめている。メヘランの幸せが自分の幸せだと今の彼は信じていそうだ。
ケメインは『事故』で両親を喪い、その事故で下半身不随になった。家を継いだものの事故のショックが大きかったのか、目を覚ました時、記憶喪失になっていた。自分が誰なのかもわからない状態だ。
そんなケメインを献身的に支えているのが愛妻のメヘランである。なにもわからないケメインは、メヘランがいなくては生きていくこともできなくなった。
「わたくしも結婚が決まって、近々あちらに行く予定なの。会えて良かったわ」
「まあ、では、そちらで暮らすんですの?」
「ええ」
ネアーゴの新しい婚約者は母の紹介だ。他国で兄と共に鍛えられた商売人である。
母はやはりさっさと逃げ出したことに怒ったが、続々と届くメヘランの恐怖の報告に蒼褪め、よく逃げられたわねと抱きしめてくれた。兄は本当にそんな女がいるのかと半信半疑であったが、帰ってきて目の当たりにしたケメイン一家の惨状に若干女性恐怖症気味である。
母が鍛えただけあって新しい婚約者はできる男だ。ほぼ顔だけだったケメインとはなにもかもが違う。ネアーゴは安心することができた。
身内には甘いところはちょっと父と似ている。母の見る目は確かだ。
ケメインとのことは、いい勉強になったと思おう。
ともあれこれで本当に、この二人との付き合いは終わりだろう。今のケメインは幸せそうだ。もちろんメヘランも。
帰り際、見送りに来たメヘランにネアーゴは祝福の言葉を贈った。
「お幸せに」
心からの言葉だった。
ケメイン=イケメン
ネアーゴ=アネゴ
ではメヘランは……。
タイトル最初「愛が勝った話」だったんですけど、あの名曲を汚すようでやめました。いやー、書いてて怖かった!