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Lasting Twinkle  作者: 雪野原
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1話 旧東京都

初投稿です。よろしくお願いします。

 10年前、世界は破滅した。

 皆既日食と共に突如発生した未知の怪物の攻撃を受け、人類の総数はかつての1%にも満たない程に減少し、人類が放棄した地は"Ruin(ルイン)"と名付けられた未知の現象により侵食され、怪物を生み出す"ダンジョン"へと変貌していった。

 これに対し、生き残った人類はあらゆる対立を越え協力体制を築き、奇跡的に機能を保つ事が出来ていた地にて"破滅"に対する対抗手段を模索していた。


 ――そして今日、遂に人類による大規模な奪還作戦が行われる。


 ーーーーー


「――レー……スミレー、調整終わったよー」


 聞き慣れた声が耳に届き、意識が現実に引き戻される。


「……ごめん、眠ってたみたい」

「ううん、大丈夫……でもないか。時間的にもう作戦は始まっちゃってるかも」


 そう呟くと、声の主は徐に装着したライフギアに目を向ける。

 ホログラムの画面に映る時間は8:18。事前に通達されていた作戦開始時刻を20分程過ぎていた。


「うん。遅刻だね」

「そうだね……じゃなくて! あたし達も早く行かないと」


 私はその言葉に頷き、自分のライフギアのマップに目的地を映して、準備されていた装備を手に取る。

 今から向かうその"目的地"は、旧東京都の北西。その地、旧青梅市こそが今回の作戦『旧東京都奪還作戦』の開始地点だった。


 ーーーーー


「やっぱり、色んな所から戦闘をしてる気配がする。作戦は予定通りに始まってるみたい」


 彼女――天谷 翼(あまや つばさ)の言う通り、旧青梅市に入った途端に魔物の雄叫びや剣で斬りつける音が聞こえる様になった。

 つまり、この私達が立っているこの場所は、既に"Ruin"によって侵食されたダンジョンの内部、という事である。


 かつての日本の首都東京都全域を侵食した大規模ダンジョン、通称"旧東京都"。

 今回の人類初となる大規模作戦『旧東京都奪還作戦』は、その旧東京都を侵食した原因である"コア"が有るとされる旧中央区を目指して、比較的侵食の影響が小さく、敵の量、質共に低い旧青梅市より攻略を開始するというものだ。

 しかし……


「この感じ、侵食の影響が小さいとは言っても、油断はできないか」

「この辺りの魔物が弱くて少ないって言うのは飽くまでもコアの周辺、旧都心三区との比較だもんね。できる事なら戦闘は避けて行きたいけど、それも難しいかも――」


 そう。翼の言う通り、弱いとは言ってもそれはダンジョン内での比較。外で遭遇する敵とは比べ物にもならない程に危険なのだ。

 そして、数も当然多い。


「――うん、やっぱりいるよ。この先に5体。このまま真っ直ぐ進むと戦闘になっちゃいそうだけど、どうする?」

「他の道は?」

「ある……けどそっちの道は少し入り組んでて遠回りになっちゃうし、やっぱりそっちにも魔物は3体くらいいるよ。あとは関係ない道だと思うけど、他にも幾つか群れがいるみたい」


 翼の探知によると、どうあっても戦闘は避けられそうにないらしい。それなら私としてはどちらを選んでも大差は無いと思える。

 それに、翼が言う"道が入り組んでいる"事の懸念は距離だけじゃなく、探知のしにくさもあるのだろう。

 ルインの侵食によるダンジョン化の影響で、10年間更新されていないライフギアのマップは、ダンジョン内では目的地の設定以外に殆ど役に立たないのだが、翼は優秀な探知スキルを持っていた。

 視界が通らない場所だろうと一定範囲内であれば視認する事ができる。それのおかげで、ダンジョン内であっても不便無く行動できるのだが、複雑な地形となると視認する事はできてもその情報を整理する事に意識を必要以上に割く羽目になるから、あまりそういう場所でスキルを使いたくないと言われた事があった。

 そんな無理をさせてもいい事は何も無い。


「一応確認しておくけど、その魔物のレベルは?」

「多分、全部2」

「分かった。それならこのまま真っ直ぐ行こう」


 選択を伝え、武器を取り出す。

 対ルインの為に、残された人類が技術を集約して作り出した武装、"Anti() Ruin(ルイン) System(機構) "を搭載した武装、通称"A.R.S"。

 とある人物がダンジョンにて発見した"アーティファクト"と呼ばれる圧倒的な性能を持つ武具の1つを解析し、10年前の"終末の日"以降発見された"エーテル"と言う新エネルギーを利用した事により完成した、人類の希望。

 その最初の1つである大剣を手に取り、戦闘準備を整える。

 隣では翼も自身の弓を取り出し、身構えている。


「もう少しで射程に入るよ。敵は飛行型が2体と亜人型が3体。あたしは飛行型に先制攻撃した後そのまま相手するから、菫は亜人型の方をお願い」


 エーテルの矢を番える翼の言葉に黙って頷く。

 魔物は大きく分けて、2足歩行で武器をを使用する"亜人型"、翼による飛行能力を持つ"飛行型"、四足歩行で高い速度を持つ"獣型"の3種類に区分される。

 私の大剣では飛行する敵に攻撃を当てるのは困難であり、翼の弓では近接戦闘は不向き。言われるまでも無い程に理にかなっている役割分担だ。


「――射程に入った! 行くよ!」


 その宣言が聞こえた瞬間、走り出す。それと同時に光り輝く矢が放たれ、あっという間に通り過ぎていった。

 翼の弓の有効射程はおよそ300m。そこまでが命中精度を維持出来る限界なのだとか。

 その為、300m圏内に入った瞬間に翼が先制攻撃を仕掛け、それに併せて私が距離を詰め戦闘に入る、というのが私達の戦術だ。

 300mと言う距離も、今では10秒足らずで到達出来る。これもエーテルと言う未知のエネルギーや、私達"探索者(エクスプローラー)"達の一部に施された人体改造が原因なのだろう。

 超高速で放たれるエーテルの矢はそれよりも速く、1秒足らずで目標に届く為、その向上した身体能力でも追い付く事は不可能だが、数秒遅れると言っても私達が有利な事には変わりないので問題は無い。

 ――遠くで光の矢が何かに命中したのが見える。翼と違って私はそこまで遠くを視認できるわけではないので予想だが、恐らく当たったのは飛行型の魔物の一体だろう。

 飛行型Lv2の"ホーク"。

 魔物の強さは5段階に分けられ、数字が増える毎にその強さが格段に上昇する。

 Lv1ならば矢の一撃だけで仕留められただろうが、Lv2が相手ではそうはいかない。致命傷にはできても、一撃で倒し切るのは通常のA.R.Sの出力では難しいのだ。

 まあ、別に一撃に拘る必要は無いし、有効打なのは間違いないので特に問題は無いのだけど、少し面倒だ。

 ……とかそんな事を考えている内に、敵のすぐ目の前まで到達している。

 聞いていた通り敵は5体。亜人型Lv2のホブゴブリンが3体と、飛行型Lv2の赤い羽毛を持つファイアホークが2体。

 ファイアホークは翼の相手なので無視して、私はスピードをそのままに大剣でホブゴブリンを薙ぎ払った。

 重い感触が手に響き、大柄の人型であるホブゴブリンが吹き飛んでいく。

 私の大剣は特殊で、刃が付いていない。その為、切断による外傷を与える事は難しいが、その分強い衝撃を与える事ができる。

 そういう意味では剣と言うよりも鈍器に近い気がするが、それは別にどうでもいい。

 強い衝撃を受けて吹き飛んだホブゴブリンだが、直ぐに何事も無かったかのように立ち上がっていた。

 当然だ。Lv2以上の敵は耐久が上がるだけじゃなく、物理攻撃に対する高い耐性を持つようになる。エーテルを用いた攻撃でないと、どれだけ強い衝撃を与えようが倒す事はできないのだ。

 それこそがA.R.Sが開発された理由であり、銃火器や戦車等の近代兵器が通用せず、人類が追い込まれた原因でもあった。

 当然私の大剣もA.R.Sなのでエーテルを扱えるのだが、制御が難しい。

 A.R.Sの試作品(プロトタイプ)であり、採算度外視で開発されたアーティファクトの模造品。

 誰にも扱えないとされた《Excalibur(エクスカリバー)》を模して作られたものが、私のA.R.S『Collbrande(コルブランド)』なのだ。

 使用者である私すらも詳細を知らされていない"リミッター"があるそうなのだが、それでもこのA.R.Sの力を使おうとするとやりすぎてしまう。

 ビルを1個崩壊させてしまったり、地形が大きく変わってしまったり……とにかく、私ではコルブランドの出力を上手く制御できないので、あまりエーテルの使用はしたくなかった。

 まあ、案の定ダメージが通らなかったので使わざるを得ないのだけど……。

 という訳で、仕方なくコルブランドを起動する。

 刀身が淡く光り輝いて見えるが、この光が強ければ強いほど出力が高いと言うことらしい。今回は上手く制御できていそうで一安心。

 戦闘を長引かせると暴走してしまうかもしれないし、さっさと終わらせてしまおう。

 そう思い、一番近くにいたホブゴブリンに剣を振り下ろす。

 ホブゴブリンも棍棒の様なものを構えて防御しようとしていたものの、そんなもので大剣の一撃を防げるわけが無い。ダメージにはならないものの、こういう際に重量は有効なのだ。

 勢いは削がれてしまったためダメージは減ってしまったが、次を防ぐことはできない。

 そのまま振り上げて止めを刺す。

 その後ろから起き上がった奴が2体飛び掛かって来ていた。

 大剣を振り上げた状態から両方を防御するのは少し厳しいし、一旦後ろに跳んで距離をとる。

 そのままチラッと横を見ると、炎と光の矢が飛び交う遠距離戦が繰り広げられていた。

 半径500m圏内全てを認識できるスキルを利用した遠距離戦。それが翼の得意戦法であり、本人曰く「300mまでなら100発95中くらい」らしい。それ以上離れると不足の出来事や計算ミスで8割しか当たらなくなるし、距離による減衰で威力も落ちるからあまりやりたくないそうだ。本気を出せば1kmまで当てられるとかも言っていたが、本気を出す理由が無いので見た事は無かった。

 それに対してファイアホークの方だが、羽根や炎の球を飛ばして攻撃しているが、その精度はかなりお粗末なものだ。威力はそれなりだが、当たらなければ問題は無い。

 心配する必要は無さそうだった。

 意識を目の前に戻し、着地と同時に体制を崩していたホブゴブリンに攻撃を仕掛ける。

 空振りして大きな隙を見せていたホブゴブリンには回避する暇もなく、そのまま絶命する。

 最後に残った一体が襲いかかってくるが、ただ持っている棍棒を振り回すだけの攻撃なんて簡単に見切れる。

 隙を見て一撃入れてそのままホブゴブリンとの戦闘は終了した。

 翼の方はまだ終わっていないようだが、もう直ぐ終わるだろう――そう考えている内に、光の矢に当たった最後のファイアホークが地に落ちて動かなくなった。

 これで戦闘は終了。翼と合流して、先に進――


(――あれ……体が上手く動かない?)


 突然、天地が逆転するような感覚に襲われる。


(今日、かなり寝たと思ったんだけど……)


 色を失っていく視界の中で、駆け寄ってくる翼の姿が見えた所で、私は意識を失ってしまった。

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