6:断罪後・現在~リリアン~
必死にあたしが庭園での記憶を整理しているのに、スコット皇太子は婚約破棄を宣言し、ノートル塔へマリーを幽閉すると宣告してしまった。
マリーはすぐにその場で警備の騎士に捕えれ、連行されていく。しかも何も口答えすることもない。
この場にいた卒業生達は騒然としたが、スコット皇太子が再び大声で話し出す。
「皆、すまなかった。私事はこれで終わりだ。改めて紹介したい。ここにいるリリアンが」
「ちょっと待ってください」
「どうした、リリアン……?」
「どうした」も「こうした」もないだろうが。どう考えてもここで「わたしの新たな婚約者はここにいるリリアン嬢だ」と言う流れだと思う。スコット皇太子は見た目はもちろん、未来の皇帝陛下。とんでもない優良物件だと思うよ。そうだとしても待ってほしい。あたしは……いろいろなことを整理したい!
マリーは何も言わず、連行されて行った。でも間違いない。彼女は……無実だ。無実なのになぜ弁明もせず連行されたのか。それも知りたいし、中断された記憶の整理もきちんとしたいのだ。
婚約なんてその後でいい。それにあたしは高校生だし、いきなり婚約とか無理。ちゃんと恋愛したい。告って、気持ちを確かめ合って、それでいろいろ経てからの婚約と結婚でしょ。それにここ、乙女ゲームなんだからさ。攻略もしていないのに、いきなり婚約とか言われても、全然面白くない!!
というわけで思わず「待った!」をかけたわけだけど。どうしたものか。よく考えずに声をあげてしまった。だがスコット皇太子はもちろん、みんなあたしを見ている。もう面倒だなぁ。
あ、思いついた。
「スコット皇太子さま、私、頭が痛くて。少し休ませていただいてもいいですか?」
そう言いながら額の包帯に触れると。
ちょろい。みんなハッとして同情の表情へと変わる。
「……! 勿論だとも」
スコット皇太子は即答すると、再び皆の方へ向き直る。
「私はリリアンを休ませるため、ここから退席するが、卒業舞踏会はこれからだ。心ゆくまで楽しむといい。さあ、音楽を始めてくれ」
それを合図に楽団が演奏を始め、卒業生達はざわざわしながらも、卒業舞踏会を楽しむことにしたようだ。スコット皇太子から視線をはずし、それぞれ動き出す。
「リリアン、先程の休憩室へ案内しよう。怪我が痛む君をこの場に連れて来てしまい、申し訳なかった。医師によると額の傷は浅く、止血も済んでいる。縫う程でもないが、激しい運動は控えた方がいいそうだ」
なぜか。「激しい運動」という際、スコット皇太子の頬が赤くなったように思える。まさかこの皇太子、婚約破棄したばかりで私を、リリアンを婚約者だと宣言し、卒業舞踏会だからとハメをはずし、ベッドに押し倒すことを計画していたんじゃ……。
「リリアン、そんなに見つめないでくれ。今日は激しい運動はできないのだから……」
やっぱりそうなんだ。なんで男子ってみんなこうなわけ? 前世でもそう。私がギャル風だから、そーゆうこと経験済みだろうって、すぐに手を出したがる。マジ、そーゆうのムカつく。いくらイケメンだからって、許されると思わないで欲しいな。
あたしはムカムカしているのに、スコット皇太子は意に介さず、あたしの手を取り歩き出している。まだ婚約したわけではないのに、すっかり婚約者面な気がした。……というか、あたし、大丈夫ですよね? まだこの皇太子と何もないよね? 必死に頭の中の記憶を探る。
あ、よかった。まだないわ。あたし、覚醒前だったけど、本能でそーなりそうなのを回避していた。
そのことにホッとしながらも気が付く。
あたしは……いろいろなことを整理したい。でもこのスコット皇太子は休憩室に同行する気満々だし、多分、居座ると思う。あたしは一人になりたいのに。
そう思っているうちにも休憩室……つまりは最初に目覚めた部屋に戻って来てしまった。すんなり扉を開けると、スコット皇太子はソファにあたしのことを座らせる。
「リリアン、紅茶でも用意しようか?」
紅茶。まあ、気持ちを落ち着けるのにはいいかもしれない。そう思い、頷くと、スコット皇太子は大声で人を呼び、紅茶を持ってくるよう頼む。
それを終えたスコット皇太子は予想通り私の隣に座り、当然のように私のことを抱き寄せる。居座る気満々だ。
「リリアン、あの場で君との婚約を宣言できなかったけど、君が殺されそうになったと知った時から、もう動いている。だから安心していい。あの女の実家にも既に婚約破棄の知らせは伝えているし、力のない男爵家だ。すぐに従うさ。父上……国王陛下にも君のことは話してある。わたしの婚約者がリリアンになったということは、明日にでもみんな知ることになるから」
嬉しそうにそう言ったスコット皇太子の顔が迫る。……カッコイイですよ。当然。王道の攻略対象だし。でも……あんな風に一方的にみんなの前で断罪するなんて。どんなにカッコよくても、これは無理。
ということで迫る顔を交わしたところでタイミングよく紅茶が届く。
スコット皇太子が無念そうに一旦、私から離れた。