45:もしもを考えても~マリー~
まさかリリアンが転生者だなんて。
確信までに時間はかかったが、兆しはあった。
だからそこまで驚きではない。
でもリリアン自身はかなり驚き、そして――。
「マリーさま、ごめんなさい。あたしはあの庭園で倒れて、覚醒が始まったと思うのですが、じわじわ思い出す感じだったのです。ですから、マリーさまの断罪を阻止できませんでした」
リリアンはヒロインだ。
例え記憶が覚醒したとしても、悪役令嬢などどうでもいいと考えることもできるのに。
本当に優しい子のなのだろう。
「リリアンさま。もしも、を考えても意味がありません。あの場面は私が断罪されて終了だったのですから。それに今は二人とも幸せです。気になさらないでください」
私の言葉を聞いたリリアンの瞳には、涙が浮かんでいる。
感受性も豊かなのだろう。
何より、私より絶対若いハズだ。
「ちなみにリリアンさまは、前世で自分が何歳だったか覚えていますか?」
「はい。JK(女子高校生)でした」
女子高校生……。
乙女ゲーム『夢見るドールは恋を知る』こと『夢見ドール』は、全年齢版だったから。プレイヤー層は幅広かったはずだ。
しかし。
現役女子高生だったとは……。
「まだ若いのに、この世界に転生することになるなんて……。きっとご両親も悲しんだでしょうね」
「両親には申し訳ないと思います。でも……自業自得なんです」
リリアンの今の表情は……。
本当に幼い。女子高生らしいと思える。
「自業自得ってどういうことかしら?」
私が尋ねるとリリアンは、摘まんだクッキーをパクリと食べ、困り顔になる。
「あれですよ、スマホ。スマホの画面に夢中で、車が来ていることに気づかなかったのです。あたしが死んじゃったから、車を運転した人、大変なことになっていると思います」
この言葉には……。なんだかドキッとしてしまう。
私は車で女子高校生をはねたわけで。
……。
女子高校生をはねた。
え、まさか……。
「リリアンさま」
「はい。マリーさま」
くりっとした瞳でリリアンが私を見た。
私は……まさに人畜無害に見えるリリアンの中にいる女子高校生を、前世ではねたわけではないわよね……?
「リリアンさまは生前どんな女子高校生だったのかしら。制服はどんな感じでしたか?」
「あー、制服。うちのガッコ、結構人気あったんですよ、女子の制服、可愛いーって。上は普通の白の半そでブラウス。でも胸のリボンはピンクに白と紺色のチェック柄で、スカートも同じ柄なんです。で、あたしはちょっとギャル風にしていたので、スカートはミニ丈で。でも靴下は紺色のハイソックスはいていました」
ギャル風の女子高校生で、スマホの画面に夢中になっている子を、私ははねた。しかもその制服は……。記憶を探る。間違いない。一致している。
「リリアンさま……」
「はい!」
「ごめんなさい。私です」
「え?」
「生前のリリアンさまをひいたのは私です」
「えええ、そうなんですか!? え、それ、超驚きじゃないですか! ひかれた人間とひいた人間。両方が同じ乙女ゲームの世界に転生できるなんて」
リリアンの予想外の反応に驚いてしまう。
車で私がひいたのに。……怒らないのか?
そのことを尋ねると……。
「え、むしろあやまるのは私のような気がします。だって、もしあたしにぶつからなければ、側溝に落ちませんでしたよね。そうしたら今頃普通に生きているわけで……。あたしがスマホに夢中になっていたから事故ったわけで。あたしはそれでひかれたとしても仕方なくて、マリーさまこそ巻き込まれ損みたいな」
そうか。自動車事故の過失についての知識がないから……。
一応そこら辺について説明したが、リリアンはあまり気にしていないようだった。
「あたしは……すみません。私、どうしてもこの世界のリリアンより、前世の自分が出やすいみたいで……。すぐに『あたし』って言ってしまうのです。ともかく、あれですよ、マリーさまが言っていたとおりです!」
私が言っていたこと……? 首を傾げると、マリーは可愛らしく笑う。
「マリーさまは『もしも、を考えても意味がありません』って言っていましたよね。もしも、あの時、私が事故を起こさなければって、考えても……。それ、もう意味ないですよね。戻れないですし。そして私はこの世界、気に入っていますから。住めば都って言うんですかねぇ。だからマリーさま、もうお互いにこの件で暗い気分になるのは止めませんか? むしろ、こんな風に同じタイミングで転生し、覚醒した結果、赤の他人だった私達はすっかり仲良くなれたのですから。しかも悪役令嬢とヒロインなのに!」
明るい子だ。
それはリリアンがティーンエージャーで、この世界に転生したからだろうか。元々が明るいからなのか。でも……確かに言う通りだ。『もしも』を考えても、もはや意味がない。
「あ、私、むしろ、スマホがないので、今は歩きながら考え事をしちゃうんです。デレクさまに『それでは馬にひかれる』って指摘されて。図星だから驚きました。気を付けないと」
それはさすがの私も笑ってしまう。
それが合図となり、その後は、お互いの“婚約者”についての、いわゆる恋バナで盛り上がった。














