44:スマホで写メ撮りたい~リリアン~
あたし達が着席すると、メイドが来て、ティーカップに紅茶を注いでくれる。
なんでも皇族御用達のブレンドティーで、エンペラーブレンドと呼ばれているそうだ。
「この香りは……エンペラーブレンドですね」
マリーは香りだけですぐに言い当てた。
「すごい。マリーさま、よく分かりましたね」
「そうですね。これでも私、リリアンさまの前任者ですから」
「……! そうでした。なんだかすみません」
あたしが項垂れると、マリーはクスクスと笑う。
「リリアンさま。申し訳ないのですが、私、今、とても幸せです。デレクとは先日、初めてデートをして手をつないで。まるで少女のようにドキドキいたしました」
キターッ! 恋バナ! 好物!
「そ、そうなのですね! どちらへデートに?」
「街でサマーフェスティバルをやっていますよね。サーカスをやっていると聞き、二人で見に行ったのですよ」
「へぇ~」
いいなぁ。サマーフェスティバル。あたしも行きたい。お祭りとか縁日とか好きだし。スコット皇太子に連れて行ってもらおう!
「私がデレクとそんな時間を過ごせるのは、リリアンさまのおかげです」
「!」
「皇太子妃教育は大変でしょう。私は婚約が決まってから少しずつ勉強させていただきましたが、リリアンさまは結婚式の日程が決まっていらっしゃるので……。私でよければアドバイスできますから、いつでもご連絡ください」
マリー、なんてイイ人なの! しかも、皇太子妃教育の苦しみを分かち合える……!
「……リリアンさま、この紅茶、いただいても?」
しまった! 早速、話に夢中になって、お茶会の開始を告げていなかった。
あたしは慌てて、マリーに紅茶を進め、メイドに合図を送る。
今回は焼き立てのスフレを出すことになっていた。
それはお茶会開始と同時に作り始め、1時間もしたぐらいで登場予定だ。
「マリーさまは、こちらのお菓子を召し上がったことは?」
テーブルに並べられたお菓子に目をやったマリーは、ニコリと微笑む。
「ええ。ただ、季節のフルーツを使ったり、毎回微妙に味を変えているのですよ。ですから必ずしも同じ味、同じお菓子をいただけるわけではないのです」
「そうなのですね。では今日のこのお菓子はこれ限り……。見た目も可愛らしいし、映えるし……。あー、スマホがあれば写メ撮るのに!」
ホント、こんなに綺麗なのに。残念。
そう思いながら、紅茶を口に運び、チラリとマリーを見ると。
なんだかとても真剣な顔であたしを見ている。
どうしたのだろう……?
「……リリアンさま。ユメミドールってご存知ですか?」
「ユメミドール……、え、『夢見ドール』のことですか? え、え、え、なんで、マリーさまはそれを!?」
するとマリーは「やはり」と言いながら、ソーサーにティーカップを置いた。
「リリアンさま。私は転生者です。『夢見るドールは恋を知る』という乙女ゲームをスマホで画面表示した状態で事故を起こし、この世界に転生しました」
あまりにも驚き、口をぽかーんと開けたまま、固まってしまう。
え、本当に?
どう考えてもこの世界の住人としか思えない、完璧な男爵令嬢のマリーが転生者?
え、そんなことあるの?
え、え、え、え、え?
もうフリーズしてしまう。
でもなんで急に転生者であると打ち明けたのだろう?
「リリアンさまの言動に、この世界観にそぐわないと感じることが何度かありましたが……。先程の言葉で確信しました。スマホに写メ。さすがに、バレます」
……!
またうっかりをやっていたーーーっ!!
言った、さっき。
この目の前の美味しそうなお菓子を見て、写真撮りたいと思ったから。なんならSNSにアップしたいと思ってしまった。
「リリアンさまはいつ、前世の記憶が戻ったのですか?」
「そ、それが、丁度、あの庭園でマリーさまと話した時です。あの時、前世の記憶がよみがえり、覚醒しそうになり、脳が混乱して意識を私は失ったのだと思います」
あたしの言葉を聞いたマリーはお皿にとったメロンを一口食べた。
とても優雅な手付きで、本当に、貴婦人という感じ。とても前世持ちの転生者には見えない。
「そうだったのですね。私もなんだか記憶があの庭園で飛んだのは……。同じように前世での記憶が、よみがえりそうになったからなのかも知れません」
「マリーさまは既に覚醒していたのではなかったのですか?」
あたしの問いにマリーは首を振り、とんでもない事実を明かす。
「私が前世の記憶を取り戻したのは、断罪終了後です。断罪終了後に覚醒するなんて、ホント、ひどい話だと思います」
「そうだったのですね……。マリーさまは……悪役令嬢なのに。それでは回避行動も何もできなかったわけですね」
マリーはコクリと頷いた。
あの庭園で何があったのか。
そもそもそこの記憶がないのだから。回避行動は無理だったと思う。
でも、もしもっと早く覚醒していれば、庭園で話をすることになる以前に回避行動をできたはずだ。例えば呼び出されても庭園には行かないとか。
それにしてもホント、断罪終了後に覚醒ってひどすぎる。
でもあたしの記憶の覚醒もまさに断罪が始まる直前。
あたしがもっと早く覚醒していれば、マリーの断罪を止められたかもしれないのに。
「マリーさま、ごめんなさい。あたしはあの庭園で倒れて、覚醒が始まったと思うのですが、じわじわ思い出す感じだったのです。ですから、マリーさまの断罪を阻止できませんでした」























































