43:お茶会~マリー~
デレクから改めて想いを告げられ、プロポーズを受けてから。
本当に幸せな日々が流れている。
◇
デレクの両親、コネリー男爵家に仕えるバトラーは驚き、最初は「そんな、主のお嬢様に手を出すなど言語道断」と激高したというが。それを宥めたのはコネリー男爵だった。コネリー男爵がデレクと私の婚約を認めているのだ。次第にデレクの父親も事態を受け入れた。
ただ、私と婚約するにあたり、デレクに転職することを彼の父親は求めた。でもそれは妥当な要求だと思う。世間体もあるが、結婚した後の身の周りの世話を夫がしてくれる……というのは少しシュール。だからデレクが職を変えることについて、私も反対しなかった。
その結果。
デレクは騎士に転身することを決め、いくつかの騎士養成学校の入学のために必要な資料を取り寄せていた。つまり今はどこの学校に通うか検討している最中だった。
剣術の腕もあるし、体力もある。運動神経全般が優れているのだ。デレクだったら間違いなく、騎士になれるだろう。
騎士になるということは。有事の際に駆り出されることもある。そうも考えたが……。
ここは乙女ゲームの世界。
紛争などのきな臭いこととは、無縁となっている。だからデレクが騎士になっても、危険はゼロとは言わないが、宮殿の警備、要人の護衛で済むだろうと考えた。よって彼が騎士に転身することにも同意したのだ。
その一方で、ささやかだが婚約のお祝いの食事会を皆で楽しみ、母屋にデレクのための部屋も用意してもらえた。結婚式はいつにするの?とコネリー夫人に聞かれたが。デレクが職を変えるのだ。生活が安定し、落ち着いてから結婚式を挙げることで、デレクと私の考えは一致した。
何よりも。
デレクと私は、従者とその仕える相手という関係があまりにも長かった。近い距離にいたが、デートもしたことがなければ、恋人同士がするようなことを一切していない。しばらくは恋人のように過ごしてみたい……という気持ちがお互いにあったのだ。
そんな気持ちがあるのだけど。
デレクと手をつなぐ姿なんて、なかなか想像できない。そう思っていたが……。
デートに誘ってくれたのだ。デレクが。
季節は夏が始まったばかり。
街では夏にイベントが多かった。
そこでデレクが誘ってくれたのは、この街で一カ月間に渡り行われるサマーフェスティバルだ。
街の中を流れる川沿いに屋台が並び、日によって花火が打ち上げられたり、特設会場でダンスが行われたりする。この日は特設会場でサーカスがあるからと、二人で見に行くことにしたのだ。
人も多かった。はぐれる危険もある。
だから……。
手をつないだ。
本当に子供の頃は。手もつないだが。
大人になってデレクと手をつなぐなんて、初めてのことだった。
緊張もしたけれど、それ以上に嬉しく感じた。
前世で恋愛経験がゼロだったわけではない。
むしろ前世の感覚からすると、たかが手をつなぐ、ぐらいなのに。その手をつなぐことすらあり得ない関係の二人だったからこそ。それが許させる今が、とても幸せに感じられた。
そんなデレクの恋人として過ごす時間は、まさに夢のよう。沢山の幸せをデレクからもらっている最中。リリアンから連絡が来た。お茶会のお誘いだ。
ノートル塔では共に生死の危機を乗り越えた。もはやリリアンは戦友とも言うべき存在。喜んでそのお誘いに応じた。すると宮殿の庭園でお茶会をできるようになったと、さらに連絡がきたのだ。
間違いない。スコット皇太子がリリアンを支えているのだろう。二人が上手くいっているのなら、それに越したことはない。私も幸せで、彼女も幸せ。悪役令嬢とヒロイン、その両方が幸せになれる結末なんて最高ではないか。
そんなことを思っているうちに、そのお茶会の日がやってきた。
◇
デレクはお茶会の会場となる宮殿の庭園まで、私を送ってくれることになった。
とはいえ皇太子の婚約者をやっていたのだ、私は。宮殿のことはよく分かっているし、デレクが送ってくれる必要はなかった。だがデレクが宮殿まで来るのには、理由があったのだ。
それは。
リリアンと私がお茶会をしている間。スコット皇太子はデレクと話したいと申し出た。あのノートル塔で既に二人は知り合っている。二人きりで話すことになっても何も問題はないだろう。ということでデレクは勿論、この提案に快諾した。
こうして私を見送りつつ、スコット皇太子と話すため、宮殿へデレクと共に向かった。
会場となる庭園は、私にとって見慣れたもの。
でもそこにリリアンがいるのは新鮮だ。
デレクとわかれ、リリアンの方へと向かう。
挨拶をすると、リリアンは輝くような笑顔になる。
可愛らしい、と思う。
笑顔だけで、周りの人が明るくなりそうだ。
着ているドレスもパステルピンクにアイボリーのレースや刺繍と愛くるしいデザイン。見た目は可愛らしいのに。ノートル塔に乗り込むだけの行動力もある。このギャップは……スコット皇太子はたまらないだろう。
思わず頬が緩む。
「マリーさま、どうぞお座りください」
リリアンの言葉に頷き、椅子に腰をおろした。














