39:本当は魔法使い?~マリー~
デレクに再びエスコートされながら、エントランスを目指す。
「デレク、あなたがせっかく持ってきてくれた金平糖。ジェフ様に渡してしまい、申し訳なかったわ」
「マリーさま。あの金平糖は。その魔法が必要な人の元にあるのが正解だと思います。全てを失ったジェフさまは今、まさに金平糖が必要な状態だった。だから彼に渡したこと、間違いないと思います」
この言葉を聞いて、安堵した。
「ジェフ様は……頑張れるかしら。かなりの棘の道だと思うけれど」
「そうなる道を選んだのは、彼自身ですから。致し方ないこと。ただ、マリーさまが心配なくても大丈夫だと思いますよ。先程、会ったばかりの時の彼の目は濁り、希望を失っていました。でもマリーさまとの会話の直後、その瞳に力強さがもどっていましたから。幼い頃から厳しい騎士の訓練に耐えてきた方です。精神力も鍛え上げているはず。後は彼を信じましょう」
デレクの言葉を聞いていると。
不思議とそうかと思えてしまう。
選ぶ言葉が的確だから。
何よりも。
デレクは冷静に状況分析ができる。
今、どのような事態なのか。次に必要なことはなんであるか。
まるで次に起きる出来事がなんであるか分かり、最適解を見出しているような。
「デレクって本当は魔法使い?」
「え?」
これは予想外の質問だったようだ。
いつもの落ち着いた声とは違い、心底驚いた声を出していた。でもすぐに穏やかな声で反応する。
「魔法使い。いいですね。魔法を使えたら。いろいろなことが楽になりそうです。……実際は、僕は多分、従者という職業柄、物事をよく観察しているのだと思います。マリーさまは行動が分かりやすいですが、例えば奥様は……。しばし思いつきで突拍子もないことをされるので、よく見て何かしそうになる前に、先回りする必要があったり。そんなことをしているうちに、現状を把握し、未来を想像することが得意になったのかもしれませんね」
すごい。
まるで誰もが同じようにすればできるようになる――みたいにサラッと言っているが。それは誰もができるわけではない。デレクだからできると思えた。
「ところで金平糖の件ですが」
!
もしやジェフに渡したことは間違いないと思っているけど、デレク自身はあまりよく思っていない……とか?
「マリーさまは今後どうなさるおつもりなのでしょうか? スコット皇太子さまと再度婚約する……という状況には思えませんでした。もしふりだしに戻られるなら。金平糖などいつでも僕から渡せると思ったのですが……。どうもマリーさまの中では、何かお考えがあるようで」
周囲に気を配りながら。
でもその翡翠のような瞳を一瞬私の方に向け、デレクは私の心中を尋ねた。
そんなデレクの様子を見ていた私は……。
そこに気づいてしまうなんて。
デレクはさすがね。
そう思っていた。
「デレクにはまだ沢山話していないことがあるわ」
そう切り出した私は、突然お忍びでこのノートル塔へやってきたスコット皇太子と何を話したのかを聞かせた。その話の中で、スコット皇太子が私とリリアンをそれぞれどう思っているのか。それを聞かせた。
ちなみにスコット皇太子がお忍びで足を運んだのは、ジェフに自分が来ていると知られないためだった。すでに昨晩、リリアンから話を聞いた時点で、スコット皇太子はジェフに対しての疑念が生れていた。それでも幼なじみのように育ったから。まさかジェフが――という思いの方が強かった。
私と話し、沈黙の理由を知りたかったというのもある。だがそれ以上に、ジェフにも聞きたいことがスコット皇太子にはあった。なぜ嘘……なのか勘違いなのか。ともかく実情と違う報告をなぜしていたのか。その理由、それをジェフに聞きたいと、スコット皇太子は考えていた。
結果は……とても悲しいものだったけれど。
ひとまず私の話を聞いたデレクは……。
「なるほど。ではスコット皇太子さまはリリアンさまと正式に婚約し、マリーさまは自由の身になるのですね」
しみじみという感じでデレクはつぶやく。
そう。
私は遂に自由を手に入れた。
もう忖度はせず、自分の想う人へと向かうことができるのだ。
そうすると決めている。
決めた。
それなのに。
彼へ自分の想いを伝えると決めたのに。
ノートル塔からの幽閉も解かれた。スコット皇太子も私と復縁することはない。
そして。
私が想う彼には婚約者もいなければ、恋人もいない。だから当然結婚の予定もない。
唯一分からないこと。
それは……。
彼の私への気持ちだ。
嫌われては……いないと思う。
では好きなのか……?
それが分からないのだ。
この塔に幽閉された時は。
再び自由になれるかハッキリ分からなかった。だからそれこそ清水の舞台から飛び降りるではないけれど。好きな人に想いを告げ、彼と一緒に生きて行こうと決めていた。失敗を想定せず、ただひたすら成功イメージでここまで至ったけれど。
私だけ気持ちを募らせ、彼に向かって行き、そして……玉砕する可能性もゼロではない。
それをよりにもよってここで自覚してしまうなんて。
「エントランスが見えてきましたよ、マリーさま」
デレクの声に、現実に引き戻された。














