34:いきなりクライマックス~リリアン~
ビックリした。
だって。
マリーの部屋は鉄の扉が全開になっていて、そこに騎士がズラリと詰め掛けているのだから。
「一体全体、どうしたのですか?」
ノートル塔の管理責任者に尋ねるが、彼も首を傾げるばかり。すると騎士達から少し離れた場所にいたノートル塔の職員が、駆け寄ってきた。
「どうやら中にスコット皇太子様の護衛騎士のジェフさまがいるようなのですが、何かの罪の告白をされているそうです。しかも中にはマリー様以外にもう一人、謎の男がいて、その三人で緊迫した状況が続いています」
謎の男?
謎の男と聞いてあたしが思い浮かべるのは……デレクだ。
マリー、デレク、ジェフの三人が、中で話をしているということかな……?
この三人で話すとしたら、例の庭園の件だと思う。
……。
気になる。
まだ足首は痛い。
でも飲み薬も服用し、包帯も巻いてもらい、一応は歩けるようになってここにきたわけだけど。それでも「頑張って歩いてきた」なのだ。ここまで来て、何も様子が分からないのは……。まさに無駄足!
それに。
あたしって多分、間違いなく当事者の一人だと思う。だからちょっと中の様子を伺わせて欲しいと思った。
こーゆう時はさ。完全に自分の立場をフル活用。
そう、ノートル塔の管理責任者を見て、お願いする。
「もう少し、中の様子が分かる場所に移動したいのですが」
「……ですよね。……ちょっと声をかけてみます」
おずおずとした様子でノートル塔の管理責任者はそばにいた騎士に声をかける。彼が声をかけた騎士は……間違いなくゴリマッチョ。ジロリと管理責任者を見たが、彼が誰であるか、ゴリマッチョ騎士はすぐ理解したようだ。
その屈強な体をどかしてくれた。
すると。
そこには三人分のスペースができた。
ということで私と管理責任者でその空いた空間に向かうと。
あれ? この後ろ姿は……。
ダークシルバーのサラサラの髪。
すらっとした長身。
えっと……デレクだ。
なぜ? 部屋の中にデレクがいるのではないの?
そう思った瞬間。
「いや、貴様は嘘つきで、残酷な男だ!」
いきなり、ジェフの叫ぶような声が聞こえた。
同時に。
デレクが最前列の騎士を突き飛ばすようにして前へ出た。
な、どうしたの!?
デレクの後に続き、最前列に行くことができた私はそこで目を見張ることになる。
それはまるでいきなり映画のクライマックスシーンを見せられた気分だ。
ジェフはマリーの首に自身の腕を回し、その動きを封じていた。
その上で右手で持っていた剣で、マリーのお腹を刺そうとしていたのだ。
デレクは前に出ながら腰に帯びた剣を抜くと、なめらかな無駄のない動きで、ジェフの右手首の内側を切りつけた。最初は手首を切り落としたのかと思い、悲鳴を上げそうになったが、手はちゃんと腕につながっている。
多分、手首の腱を切ったんだ。それで剣は手から落ちた。
というか、驚いた。
ジェフはマリーを愛しているのではなかったの?
それなのに剣で刺そうとするなんて。
突然、クライマックスシーンに現れてしまったから、なぜそうなったのか、詳しいことは分からない。でも愛している女性を男性が手にかけるということは……。
道連れじゃない?
ジェフは私を地下の迷宮につながる通路に閉じ込めた。それがバレたわけでしょ。あたしは皇太子の婚約者なわけで、それなのに殺そうとしたわけだから。でもあたしは生きていると伝わり、進退窮まったということでは……?
ともかくだ。
マリーが怪我をしないで良かった。
ということで部屋の中に駆け込むと。
もうビックリ!
だって。
そこにいるはずのない人物がいるのだから。
皇太子が! そう、スコット皇太子!
部屋の中にいた三人、それはまさかのスコット皇太子、マリー、ジェフだったのだ。
私は驚いているが、スコット皇太子も、倒れそうになるマリーを支えるデレクも、そしてマリーもあたしを見て驚いている。
え、なんで?
あ、地下の迷宮で死んだと思ったら生きているから驚いた?
あれ、でもその情報、デレクから伝わっていない?
そう思ったら……。
「リリアン! その腕は!? その包帯は!? 手も腫れあがっている……!」
スコット皇太子のこの一言で理解する。
あ、そっち。
まあ、そうだよね。
この腕も手もボロボロ……。
いや、違う。
怪我もそうだけど、多分、このド派手なドレスのせいだ。
そう思いつつ、大した怪我ではないとスコット皇太子に伝えたのだけど……。
彼は……相当怒っていた。
そして驚いたが、ジェフに平手打ちをしたのだ。
でもその直後に涙をこぼし、どれだけ彼を信頼していたのか、尊敬していたのかと語り……。あたしやマリーを手にかけようとしたことにとても怒っていた。それでも最後に手首を切られたジェフを気遣い、医師を派遣するよう命じるスコット皇太子は……優しい。冷徹になることはできない、やっぱり真面目で不器用な人。
そのスコット皇太子にとんでもなく優しく抱きしめられ、あたしはどうしたものかと困りながら、デレクとマリーを見ると。二人は「邪魔をしません」とばかりに、視線を逸らし、あたしはそのまましばらくスコット皇太子からの、優しいけれど熱のこもった抱擁を受けることになった。























































