32:行動はその後~リリアン~
ノートル塔の管理責任者は、私の姿を見て、仰天した。
それは……そうだろう。
だって散々脱出を試みたから。
ドレスのフリルやレースはボロボロ、髪だって乱れている。
でもって体のあちこちが赤くなっているのだから。
管理責任者はすぐにメイドと医師を呼び、あたしの治療に当たってくれる。部下にも指示を出し、職員が慌ただしく部屋を出て行った。
デレクはノートル塔の管理責任者に、自身が見たことを話して聞かせた。
つまり、私は地下の迷宮につながる通路の中に閉じ込められていた。そしてそこに閉じ込めた犯人がジェフであることを話した。
管理責任者と話すデレクは実に堂々としていて、どう見ても騎士の一人にしか見えない。しかも下っ端とかではなく、この若さで上官ですか、というレベル。本当はマリーの従者なのに。管理責任者はデレクの報告にしきりと頷き、完全にデレクが宮殿から派遣された騎士だと思っている。
それにしても。
あの通路が地下の迷宮につながっている件は、ここまで連れ来てくれる間にデレクから聞いたが、本当にビックリだった。
もしもあの時。
このままここにいたらヤバイと暗闇の中、通路を進んだら……。
その先に待つのは――死だ。
二度と地上に出ることはできず、光を見ることは敵かなわず、やがてそこで息絶え朽ちていく……。
想像してしまうと。
思わずブルっと震えてしまう。
「寒気がするのですか!?」
医師が心配そうにあたしの顔をのぞきこむ。
「いえ、寒気はないです、大丈夫です」
あたしの返事に医師はホッとしながら、治療を続けてくれる。
その一方で。
あたしは体のあちこちに湿布薬のようなものを塗ってもらった。さらに骨が折れていないかなど、医師が確認してくれている間にも、デレクと管理責任者は話を終えていた。
これからあたしはドレスを着替えることになり、デレクは部屋を出ることになった。
「ジェフはマリーさまの部屋に向かったらしいです。僕はマリーさまの部屋に向かうので、リリアンさまは無理せずにここで休んでいてください。また迎えに行きますから」
本当はマリーの部屋まで行きたい。でもこの状態では無理だよね。まずは着替え、怪我を治療してもらい、行動はその後って感じ。だから「分かりました」とすぐに返事をする。
チラリとノートル塔の管理責任者を見たデレクは、あたしに耳打ちした。
「リリアンさまがスコット皇太子さまの婚約者であることは、彼も知っています。ですから丁重に扱ってくれますし、問題はないはずです。念のため、リリアンさまの従者をこの部屋に呼んでくるよう頼んでありますので、ご無理なさらないください」
素晴らしい配慮だ。あたしが「了解です」と返事をすると、デレクはノートル塔の警備職員を連れ、部屋を出て行った。
ということであたしは着替えることになったのだけど。
用意されたドレスは、真紅に黒のフリルと、まるで悪役令嬢が着るようなドレス。思わず「ゲッ」と声を出してしまうと、管理責任者は平謝りだ。
「そ、その、皇太子さまの婚約者であるリリアンさまが着るドレスともなりますと、きちんとした上質なシルクのものをと思ったのですが……。いかんせん、こちらは罪人を収監する施設でして。ろくなドレスがなく。これはその、個人的に私が用意していたもので、その……」
管理責任者はしどろもどろなんだけど。
話を聞いてあたしは理解した。
どうやらこれは彼の懇ろな女性のために用意していたドレスっぽい。それを急遽あたしにあてがうことにしたようだ。これ以外はきっとろくなドレスがないのだろう。
ド派手だけど、仕方ない。
今、着ているボロボロドレスでは、誰に襲われたのか!?と思われてしまうもんね。
メイドに手伝ってもらい、着替えをして、乱れた髪を整えた。そしてメイクもちゃんとしてもらうと。ようやく落ち着けた。つまり、ソファに腰を下ろしたところ。
紅茶が用意された。
ストロベリーのいい香りがした。
フレーバーティーって。本来は邪道なんだって聞いたことがある。でもさ、ファミレスのフリードリンクでは、フレーバーティーって当たり前でしょ。だからあたしはこのストロベリーティーでも文句なし。ガッコからの帰りで、友達と行くファミレスでよく飲んでいて知っている味だから。
「その~、リリアンさま、この度はこのノートル塔におきまして、その、いろいろとありました件、我々共の警備に問題があったのかもしれませんが、その、ジェフ殿は、私と同等の権限を与えられている方でありまして、その、阻止するのは難しかったかと。ですから、スコット皇太子さまにはどうかよしなに……」
すんごくまどろっこしい言い方。
要するにジェフによって地下に閉じ込められたけど、それはノートルの塔の警備の不手際だと、スコット皇太子には言わないでほしい……ということだと理解した。
そこへ私の従者がやってきた。
すぐにジェフは捕えられたと思うけど、こうして着替えをしたりしていても報告はこないし、デレクも戻って来ない。
それならば。
着替え、治療も終わり、水分補給もできた。
私もマリーの部屋へ行ってみよう。
そのことを伝えると、管理責任者は警備の職員を2名、私につけてくれた。さらに自身も同行するという。ということで4人で、マリーの部屋に向かった。























































