27:私が言葉にするしかない~マリー~
「とても残念です」のジェフの一言に、心臓が嫌な鼓動を響かせている。
捜索を行っている最中ではないのか?
なぜそんな諦めるような言葉を口にするの?
いや、違う。
私の無実を証明できる人間がいなくなって、残念だと言っているのだ……。
それは、確かにそうなのかもしれない。
でも今、それどころではないのではないか。
だって、リリアンが行方不明なのだ。
彼女の安否確認が先決だ。
私の無実うんぬんより、彼女が無事かどうかが重要なのに。
そう思い、ジェフの瞳を見た瞬間。
先程の言葉の意味を深く理解する。
ジェフは私の無実を証明する人間を仕立て、そして自分と婚約して欲しいと持ち掛けていた。対して私は断っているが、考えを変えるかもしれないと思っている。それにもし重い刑を宣告された場合、再度この交渉を私に持ちかけるつもりだったのかもしれない。
ところが無実を証明する人間を仕立てなくても、証明できる人間が現れた。そう、リリアンだ。
リリアンが無罪を証明してくれれば、ジェフは何もする必要はない。彼のプロポーズだって無視できた。でもリリアンが行方不明の今……。
私がこの塔から出るためには、自分が必要だろうとジェフは言いたいのだろう。
リリアンと私の話を聞いているのだ。
もう誰か証人をでっちあげる必要はない。ジェフが証人になればいいのだ。リリアンから聞いた話を、スコット皇太子にも話し、皆の前で話せば、私の無実の容疑は晴れる。そしてその証言と共に、私にプロポーズを受けるよう、迫るつもりなのか……。
どうしてだろう。
スコット皇太子もジェフも。
私が断りにくい相手ばかりが求婚してくる。それは……私が悪役令嬢だからだろうか? でも、もう断罪は終わったのだ。解放して欲しい。それとも幸せになるチャンスさえ、与えてもらえないのだろうか?
金平糖を求める気持ちが高まったが。
今、重要なのはリリアンだ。
そこでふと、何か違和感を覚えた。
そして……底知れぬ恐怖が足元から這い上がるのを感じている。それを口にするには勇気がいるのだが。
チラッと横を見ると、スコット皇太子の顔が青ざめている。既に彼は気づいているのかもしれない。私と同じことを。そうでなければ、今の一報を聞いてすぐに「もたもたするな、リリアンを探し出せ!」と怒鳴ったはずだ。
そうしないということは、私と同じ結論に辿り着き、でもそれを信じることができない……そういう状態なのではないかと思われた。
それならば。
この場で私が言葉にするしかない。
「ジェフ様。……その、私は違和感を覚えてしまいました。リリアン様をご案内したのは、ノートル皇帝の塔ですよね。その塔に向かうのに、地下は関係ないのではないでしょうか? 塔へ上るのです。階段を上っても、下りることはない。もしリリアン様がジェフ様とはぐれたとしても。階段を下るなんて考えられないのですが。それともリリアン様を誰か狙ったと? 今の状況ですと、リリアン様を憎く思う人物は私。もしくはコネリー男爵家の人間。私にさらに罪を被せるおつもりですか?」
ジェフはハッとした顔になり、そしてヘーゼル色の瞳に動揺の色が浮かんでいた。
「マリーさま、そんなこと、決してありません! あなたに罪を被せるなど、そんなことするはずがありません。リリアンさまは……その……」
そこで唇を噛みしめ、ジェフは苦しい弁明をした。
「リリアンさまのお姿が見えない。それに気づき、ノートル塔で行方不明になるということは、それは地下に迷い込んだに違いないと……その、連想ゲームのように思い浮かんでしまっただけです。確かにマリーさまの言う通り、ノートル皇帝の塔へ向かっていたのですから。地下に……いるわけがありません。……いないと思います。ええ、地下には。ですから、地下以外を重点的に捜索するつもりです」
なぜか最後は自信に満ちた顔になっているが。それすなわち、地下以外でリリアンを探すことが正解で、地下を探すことは間違いと言いたいように思える。つまり、リリアンは地下にいるのでは? そしてリリアンは自分から地下に行ったわけではない。連れて行かれたのだ。誰に? 間違いない。ジェフに。
どうしてもジェフは私の無罪を証明する人間になりたくて。何よりプロポーズに応じさせたくて。だからリリアンを地下に連れ込んだの?
でも、そうなると、そもそもの部分が分からない。
嘘の報告をスコット皇太子にして。スコット皇太子の指示に反した部屋に私を幽閉した。プロポーズを受け入れて欲しいと願う相手に、そんなことをするだろうか?
その答えは分からないが、今すべきことは一つ。
「ジェフ様。地下以外を重点的に探しても、リリアン様は見つからない気がします。リリアン様は地下にいると私は思うのですが。よって地下を捜索する必要があると思います」
後はもう、正直に私の考えを伝えた。
疑問はあったがその答えは分からない。
なぜ嘘の報告をしたのか。なぜこの部屋とみすぼらしい服と食事を与えたのか。その理由は本当に想像もできないが、ジェフは無実を証明する人間になりたくて、私にプロポーズを受け入れさせたくて、邪魔なリリアンを地下へ連れて行ったのではないかと、そう彼に告げた。














