2:プロローグ~ヒロイン・リリアン~
なんだか額が痛い。
痛みで目覚めるなんて最悪。
痛い上に、なんだか頭の中もモヤモヤする。
それにしても。
なんだ、この天井。
あたし、テントの中にでもいるの……?
そう思い、ゆっくり体を起こそうとして。
いろいろなことに気づく。
見知らぬ部屋にいることに。自分の体の変化に。
でも、すぐにあたしは悟る。
こーゆう展開に思い当たることがあった。
あたしは中学生の頃から表向きはリア充、でも家に帰ればオタクという二重生活を送ってきた。で、乙女ゲームが大好きで、悪役令嬢もののラノベも読み漁っていた。だからこそ分かる。間違いない。
あたし、きっと、乙女ゲームの世界に転生していると思う!
だって乙女ゲームの中に転生した主人公の冒頭って、たいがたいこんな感じだから。目覚めたら知らない部屋にいる。パソコンやスマホが見当たらない。でもって、髪の色や肌の色が西洋風って。
実際見てみると、はい、間違いありません。
天井にシャンデリア、壁には絵画、暖炉もあり、いろいろと金ピカ。
そして日本人とは思えない肌の白さと金髪!
これって瞳も碧眼よね。きっと。
元いた世界の姿ではないということは。
一回死んでいるのだろう、あたし。
でも……どうやって死んだかはよく思い出せない。
額が痛いのと、どうやら包帯が巻かれているのは……前世で死んだ証拠?
転生したら前世の怪我とか治るとか思ったけど、そうではないのか。
でも頭でも打って死んだのかなぁ。
なんとなく……ガッコからの帰りだったとは思う。
それで……なんか事故?
まあ、いいっか、それは。
それよりもー。気になるのは。
どのポジションで転生したかよね。
これは鏡を見ないと分からない。
ということでベッドから降りる。
天蓋付きベッド、初めてだけど、床から結構高さがあるのね。
なんて思いながら。
バスルームを探す。
こーゆう転生は7割が悪役令嬢、2割がモブ、で稀にヒロイン。
乙女ゲームなんだからヒロインに転生させてくれればいいけど、世の主流は悪役令嬢だから~。あたしも悪役令嬢なのかなぁ。できれば攻略対象と恋愛を楽しみたいのだけどなぁ。
あ、あった。
多分、これ、バスルームね。
ということで純金っぽい取っ手をつかみ、扉を開けると。
わお!
思いの外広い。
しかもホーロー製のバスタブに、金色の猫足。
乙女ゲームっぽいなぁ!
でもって鏡発見。
鏡を見て、一瞬固まる。
「え、マジ……」
それからは「ひゃっほ~い」と小躍りする。
だって、あたし、ヒロインだよ! ヒ・ロ・イ・ン!
激レア転生じゃない? めっちゃツイている。フラグ折る必要ないんじゃん!
しかもこの顔は……あ、えっ、嘘。
『夢見るドールは恋を知る』、そう通称『夢見ドール』のリリアン・サマーズ……。
一気にテンションが落ちる。
だってこの乙女ゲーム。攻略対象を選べないんだもん。
まずは王道の皇太子を攻略すると、別の登場人物の攻略が可能になるの。攻略対象は多分、5人だったかな?いるのだけど、推しからプレイできないのが面倒で、途中で止めた気がする。
ただ、悪役令嬢は皇太子攻略にしか絡んでこないから、王道ルートの攻略さえ済ませれば、解放された攻略対象とは、比較的楽勝でラブラブモードになれたはずだけど……。
ってかさぁ……。
なんで、『夢見ドール』? もっと他のにしてくれればいいのに。
でもまあ、リリアンは金髪碧眼で、体の凹凸は劇的ではないけど、程よい感じで。小顔で、手足は長く、まあ可愛らしい。前世の私はちょっとギャル入っていたからね、表向きは。このイメチェンはまあ、いいんじゃない。
しかし、この下着姿はいただけない。
ドレスは?
そんなことを思いバスルームを出ると、扉をノックされ、心底ビビる。
自分が『夢見ドール』のリリアンなんだとは分かったけど。
今の状況が良く分からない。
でもノックしているのは……多分、メイドよね?
そう思って扉を開けようとしたら、扉が外側から開けられ……。
「リリアン! 目覚めたのだね、良かった!」
いきなり熱烈大歓迎の抱擁を受ける。
だ、誰?
声は男性だと分かるが。
「! リリアン、ドレスを着ていないのか!」
顔を赤くして私を見下ろすのは……。
「きゃーっ」
いろんな意味で悲鳴が出た。
だってまず下着姿を男性に見られたのだから。
しかも見ているのは王道ルートのスコット皇太子だし!
でもって、ゲームで見た時より数億倍カッコいいし!
これはもう悲鳴あげるっしょ!
「す、すまない」
と叫んだスコット皇太子は扉を閉めながら、メイドを呼び、警備の騎士に「近づくな!」と怒鳴っている。
こうして。
ピンク色のふわふわお姫様ドレスに着替えた。
着替えを終え、改めてスコット皇太子に会うと。
彼はシルバーグレイのテールコートを着ている。
髪がシルバーブロンドだからその装いはよくあっていた。
ってかマジ、実写化えげつないぐらいカッコいい。
「リリアン、君がマリーにより殺されかけたことは分かっている。あの場から立ち去るマリーを見たと目撃者もいる。可哀そうに、わたしのリリアン。あの性悪女は何気ない顔で卒業舞踏会の会場にいる。これからわたしと共にその場に乗り込み、彼女を断罪しよう」
「え」
いきなり展開が急すぎて頭が追いつかない。
というか、肝心のリリアンの記憶が。
あたしが覚醒直後のせいか、全然頭に入って来ていない。
なので、全く覚えがないのだけど、え、あたし、マリー……って悪役令嬢に、殺されかけたわけ? え、『夢見ドール』の悪役令嬢って、殺人未遂までヒロインに対してしていた?
『夢見ドール』は全年齢版だったと思うのだ。
だからそんな殺人展開なんてなかった気がする。
しかも昨今のいじめへの配慮から、嫌がらせもなんだかそこまでヒドイものではなかったと思うのだ。
でも卒業舞踏会の会場であるホールへスコット皇太子にエスコートされながら歩いている間に聞いた話では。
悪役令嬢マリーは、庭園の一画に私を呼び出し、石で殴りつけたというのだ。
もう、マジ!?って感じで怖すぎる。
現場には血がついた石も残っていて、あたしの額には傷があると。
そう、この額の包帯、前世とは無関係で、こっちの世界でつけられた傷だったのだ。
だが~、その殴られた記憶、まったくないのですが。
いや、思い出せていない?
石で頭殴られたから、記憶が飛んだ? 分からないっ!
でもどうやらマリーがあたしに対して何かするのはこれが初めてではないらしく、突き飛ばされたり、紅茶をかけられたり、スープをひっくり返されたり、いろいろされていた……らしい。あたしは思い出せない。けれどスコット皇太子がそう言っている。そしてその現場を目撃したことがあるし、証言を何度も聞いたことがあると。
悪役令嬢であるマリーに意地悪されるリリアン……つまりあたしを見かねて守るためにそばにいるうちに、スコット皇太子とあたしは恋仲になっていたらしい。
えー、どうやらカンストした後っぽい。なんで乙女ゲームの世界に転生したのに。攻略なしで好感度MAX状態なんかい!
それは嬉しいような、寂しいような……。
攻略する楽しみがないやん……。
そして今、マリーの行動に限界になったスコット皇太子は、婚約者でもある彼女を断罪し、婚約破棄をするつもりだと言う。
お読みいただき、ありがとうございます!
こういった二人視点の形式の連載は初めてなので、かなりドキドキしています。
ブックマーク、いいね!、評価、感想などで、読者様が楽しめているかどうか、教えていただけると本当に助かります。
2話で一つみたいな感じで短期集中で更新するつもりです。いつものような後書きはありませんが、その分、2話分をサクサクお読みいただけるかと思います。