16:めっちゃ疑われている~リリアン~
結局。
なぜマリーが無言を貫いたのか。
その理由をマリー自身が明かさないと、解放はできないとスコット皇太子は最後まで譲らなかった。
確かに何か訳があって黙っているのなら。
その謎を解きたいと思うのは……理解できないわけではない。
それでも現在進行形で、マリーはノートル塔に幽閉されているのだ。無実の罪で。それを思えば、その理由なんて解放してから聞けばいいじゃん!とあたしは思ってしまうのだが……。
スコット皇太子は、スコット皇太子で。
何やら譲れないものがあるようだ。
というわけで。
あたしはマリーがいるノートル塔を尋ねることにした。スコット皇太子が、マリーの無言の理由を知りたいと言うのなら。直接あたしが尋ねてみようと思ったからだ!
あの場で黙っているということは。
多分、言いたくないのだろう、沈黙の理由を。それを聞き出すためのカードをあたしは持っている。
そう、あたしがマリーに切れるカード、それは無実の証明だ。
あたしが、マリーは無実であると証言する。だから代わりになぜあの時、無言でいたのか、それを教えてと問うわけだ。
我ながらいいアイデアだと思う。
というわけで朝食を終えると、早速ノートル塔へ向かうことにした。
ノートル塔はあたしの屋敷からだと馬車で1時間もかかった。
遠い。
窓から見えている景色も草、木、牛、馬、山、空……。
なんか一応ちゃんとしたドレス……パールピンクでフリルがついているやつ……なんか着てきたけど。正直、こんな何もない場所なら、動きやすいワンピースにすればよかったかもしれない。そんなことを思っているうちにノートル塔に到着した。
塔の入口でマリーに面会しに来たと告げると、あっさり断られた。
1時間かけ、ここまで来たのに、「ノー」とか、あり得ない!
不本意だが、身分を明かした。
皇太子との関係性も。
まだ、正式な婚約者ではない。だからダメかな……と思ったが。
しばらく待たされた後。
いきなりノートル塔の管理責任者が登場し、丁重に案内された。マリーの部屋の前まで。そしてその鉄の扉の前に立っているのは……。
あ、なんか知っている。
多分、攻略対象になる人だ。
じゃなくて、スコット皇太子の信頼厚い近衛騎士だけど、マリーの護衛を非公式に命じられていたジェフ・リースね。
えっと。マリーは幽閉されたわけよね?
でも護衛を続けているわけ?
律儀だなぁ。
そう思いながらジェフに挨拶をすると。
ジェフの表情は硬い。
「……リリアンさま。事前連絡なしの訪問、大変驚きました。自分がいたのでここまで来ることはできましたが。何用でしょうか?」
あ、なるほど。
ジェフはあたしが来ていると聞いて、許可を出してくれたのね。
イイ奴じゃん!
「えーと、差し入れを持ってきました。マリーさまに」
すると。
ジェフだけではなく、背後にいる管理責任者とそれ以外の騎士達に緊張感が走った。
え、何?
「その籠の中身を拝見してもよろしいですか?」
ジェフに尋ねられ、あたしは従者に持たせていた籠を彼に渡す。ジェフは籠にかけられていた白い布を持ち上げる。なんてことはない。焼き立てのパン(……といってもここがクソ遠いからもう焼き立てではない)、ぶどう、ジャム、干し肉が入っているだけだ。
だが……。
「これは確認してからではないと、マリーさまにお渡しすることはできません」
え、そんなことしていたらパン、硬くなっちゃうじゃん!
そう思ったのだけど。
「リリアンさまは、スコット皇太子さまの大切な方であることは重々承知しています。ですからリリアンさまがそんなことはなさらないと思うのです。でももしかすると、リリアンさまの目が届かないところで何者かが暗躍し、その食べ物に対し、よからぬことをしている可能性もあります。何しろ、マリーさまがここに幽閉されている理由。それは……リリアンさまへの殺人未遂ですから」
それってつまり……。
この差し入れに毒を盛っているということ?
まさか、そんなことするわけないじゃん!
って思うけど。
そうか。
命を狙われたことになっているのか、あたしは。
その復讐であたしが毒を盛ってもおかしくないと。でもあたしは間もなくスコット皇太子の婚約者になるから、例え毒が盛られていたとしても……。
あたしは後ろに控える、気のよさそうな顔の従者を見る。
例えばこの従者が毒を盛った……そんな風に疑われるのだろう。それこそ濡れ衣だし、もし毒を盛るなんてあたしがしたら……それこそヒロインではなく、あたしが悪役令嬢になっちゃうじゃん!
でもまあ、毒なんて盛っていないから、調べてくださいって感じだ。ということで毒見なりなんなりしてくださいということで、籠はそのままジェフに預ける。すると今度は女性の騎士がやってきた。念のための身体検査だという。つまり、剣とか隠し持っていませんよね、ということだ。
服の上からさっと確認する感じは、空港で行われる保安検査と変わらない。
その確認が終わると、いよいよ部屋に入れることになった。