14:超真面目。でもって不器用~リリアン~
用意されたドレスは、なんというか、体のメリハリが協調されるような、チェリーレッド色のドレスだった。
こーゆう体にフィットするドレス、かつ、この色。
なんか悪役令嬢が好んで着そう。
そもそもとして、なぜドレスが用意されているのだろう?
この部屋で目覚めた時。
あたしは下着姿だった。
だからその後着たドレスは勿論、あたしが元々着ていたもの。
ではこのドレスは……?
あたしは……推理力が鋭いと自分では思わない。
でもさ、なんか分かってしまった。
多分、スコット皇太子は、この卒業舞踏会であたしといい感じになることを想定していたのだと思う。そのために用意されていたのがこの部屋。休憩室にしては広すぎるし、ベッドのサイドテーブルに真紅の薔薇が飾られているのも、なんだかそんなことを想起させる。
でもって卒業記念で一夜を共に過ごした後の着替えとして、スコット皇太子がこのドレスを用意していた……と考えた訳なのだけど。
どうなのかしら?
そこまで準備万端だったなら。額の怪我があったとしても。
ほとばしる情熱と若さと勢いで、そのまま最後まで駆け抜けてもおかしくないのに。自身の記憶が一部吹き飛び、何が起きたかよく分からない状態だったからかもしれない。でも我慢したのだ。彼は。
そこは……前世の周りにいた男子達とは一線を画すと思う。アイツらみんな、その気になったら見境なしだから。それに比べるとスコット皇太子は……超真面目。でもって不器用。
そんなことを思いながら着替えを終えると、スコット皇太子は絶妙なタイミングで部屋に来て、あたしをエスコートしてくれる。
エントランスにはちゃんと馬車が横付けされていた。御者も扉を開け、待っている。
「ではリリアン、気を付けて」
「ちょっと待ってください」
その手を掴むと、スコット皇太子は驚き、でもなんだか嬉しそうにしている。この反応。初心だなぁ。
「屋敷まで送ってください」
「? 無論、この馬車で屋敷まで送るつもりだが……」
「一緒に来てください」
「え……」
「この馬車に乗り、お屋敷まで。スコット皇太子さまに送っていただきたいのです」
そう言った瞬間。分かりやすくスコット皇太子の顔が輝き、そして瞬時に頬が赤くなる。なんて分かりやすいのだろう。ちなみに何か期待しているかもしれないが、そーゆうわけではないんだけどなぁ。
「リリアン、そうだね。君を屋敷まで送ると言ったんだ。うん。わたしも同乗し、君のことをちゃんと送ろう」
こうして二人で馬車に乗り込み、ゆっくりと動き出すと。
スコット皇太子は、この密室に二人だけという空間を最大限に活用すると決めたようだ。まずはあたしの手を握ろうとしたのだが……。
気付いたが、気付いていないふりをして、髪を整えるフリをした。手を握り損ねたスコット皇太子は、これまた分かりやすく残念そうな顔をした。そこで次の行動をとられる前に、あたしから口を開く。
「実は、スコット皇太子さまに重要なお話があります」
「!! な、なんだろう、リリアン」
スコット皇太子の顔は、緊張半分、何かへの期待半分と、嬉しいけれど困る、みたいな絶妙な表情になっている。
「マリーさまのことです」
この一言に、スコット皇太子の表情は硬くなった。「何だろうか」と問うことなく、無言で私を見ている。ではと話を続けることにした。
「結論から申し上げますと、マリーさまは無実です」
「え」
カッコいいはずのスコット皇太子は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になっている。
「庭園で私は額から血を流して倒れていたわけですが、あれはマリーさまに殴られたわけではありません」
そう切り出した後は、あたしが思い出したことを話して聞かせた。そもそも庭園に呼び出したのはあたしであり、急に具合が悪くなり、あたしは勝手に倒れたこと。マリーはあたしを助けようとしたが、多分マリーも気分がすぐれなかったようで、しゃがみこんだ。運悪く地面には石が落ちていて、それにあたしは額をぶつけた――というのが真相だと。
「そ……そうなのか、リリアン!?」
衝撃を受けたスコット皇太子は、すぐに顔が青ざめる。自分が無実の罪の人間を幽閉したことに気づいたのだろう。
そこに追い打ちをかけるのは……可哀そうな気もするが、でもこれも事実なのだ。伝えないといけない。
「加えてですね、私がマリーさまに嫌がらせを受けている件ですが、これも認識の違いです」
突き飛ばした、紅茶をかけた、スープをひっくり返された……それらは勘違いであると。マリーが意図的にしたことではなく、不慮の事故でそうなっただけで、嫌がらせは一切受けていないと告げた。
「そんな……認識の……違い……」
スコット皇太子は絶句し、頭を抱えてしまった。
「そもそもですね、スコット皇太子さま。私は一度もマリーさまのこと、お話したことがないのに、どうして嫌がらせを受けていると信じてしまったのですか? その現場をご覧になっていたのですか?」
「それは……」
困り切ったスコット皇太子は、今度は黙り込んでしまう。
「いずれにせよ、マリーさまは無実です。一刻も早く、あの塔から解放すべきと思います」
「そう簡単にはいかない」
ポツリとスコット皇太子が呟く。
「なぜですか?」
「それは……」
そこでもまた黙り込んだので。
前世のあたしが出てしまった。
「うじうじしていないで、とっとマリーのこと、塔から出してあげなさいよ! あんたの勘違いで閉じ込めているの。もし自分が勘違いで塔に幽閉されたら、どんな気持ちよ? そんなことも考えられない人間が人の上に立ってさ、国を治めることなんてできると思う? 無理っしょ!」
あっ、しまった!
そう思うが遅い。スコット皇太子はバッチリ今の発言を聞き、フリーズしている。
もしかしてあたしもノートル塔行きなんじゃない……?
そう考え、青ざめていたが……。
「……それはその通りだ。リリアンの言う通り。わたしの勘違いで幽閉したのなら……。確かに、解放……すべきだろう。だが……」
だが、何なのよ!と言いたいところだが、我慢する。
「だが、マリーは弁明しない。もし無実なら弁明したはずだ。それはつまり罪を認めたも同然」
それは……。
そう言われるとそうだ。
確かに断罪のあの場で、マリーは無言を貫きとおした。
なぜ……?























































