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おっさんとJKの自殺旅   作者: マカロニ
4/4

おっさんとJKの自殺旅 4話 「結」

 リュウタが消え、夏休みが終わったある日の学校。

 

「ねぇ、なんでシズカがここにいんの? マジで臭いんだけど。うぇぇぇぇ」

 

「やめてあげなよォー、可哀想だよー?」

 

 シズカが教室入った時に聞こえた、聞き覚えのある声。

 その方向へ視線を向けると、そこには、毎日の様に自分を虐めてくる女子達がいた。

 

「オイ、なんだよその目はよォ?」

 

「ヒッ、やめ——」

 

 1人の女がそう言って、シズカの方へ歩み寄る。

 

 その女はこのイジメの主犯格にあたる人物であり、かつてのシズカの友達のサクラだ。

 

 サクラは彼女の髪を強く掴み、グラグラと頭を揺らす。

 

「やっやめて」

 

「アァ? 何言ってんのオマエ。アンタがね私の好きな人を奪ったからでしょ!? それでアンタ被害者ヅラとかマジ有り得ねぇ!」

 

「それは違う! 彼が私に告白——ッ!」

 

 弁明しようと口を開くが、髪の毛を引っ張られる痛みに、言葉を詰まらせる。

 

 神崎さん助けて……。

 

 いつからこうなったのだろう、前までは仲が良かった彼女達。

 

 そう全てが順調に進んでいた筈なのに、あの日が全てを狂わせた。

 

 ※

 

 シズカがまだ中学3年生の頃だ。

 

 その日は、雲ひとつない晴れ渡った日、サクラと2人で運動場近くで弁当を食べていた時だった。

 

「ねぇ、シズカ私の好きな人知ってる?」

 

 突然、サクラは彼女にそう聞いてきた。

 

「え?! 好きな人いんの?! 誰なん誰なん!?」

 

「誰にも言わないでよね!? それはねぇ? ——あッ」

 

 サクラが言おうとした時、彼女はある方向を見て、頬を赤くして固まった。

 

 つい、それをみたシズカは、サクラの目線の方向へ顔を向ける。

 

「もしかして、あの人!?」

 

 その言葉を聞いたサクラは、コクリと首を縦に振ると、私の背中の後ろに隠れた。

 

 そんなサクラを無視し、彼女の好きな人であろう男子を見つけ、目を凝らし、容姿を確認する。

 

 サクラが好きだという男は、芸能界にでもいそうなイケメンで、かつ、構内の誰もが知ってる人気者の遠山カズマ。

 

 しかもこのカズマという男は、いくつもの逸話を残しており、芸能界のスカウト回数が2桁以上、そして、どこぞの暴走族を1人で潰したというものだ。

 

「サクラ……あんなのが好きなの!?」

 

「はぁ?! なにそれ! シズカの目ふしあな?!」

 

 シズカの言葉にムッとした顔で、背中から出てくるサクラ。

 

「まぁ、私はサクラの甘酸っぱい恋、手伝うよ!」

 

「ありがとう!」

 

 それが彼女と仲良く話した最後の時間だった。

 

 ※

 

「俺と付き合ってください!!」

 

「は?」

 

 ある日の放課後の体育館裏。

 

 シズカはサクラの好きな人であるカズマに、体育館裏に呼び出される。

 

 そして、この瞬間、彼は私に頭を下げ、告白をした。

 

「い、いや! わ、私に!? どうして?」

 

 カズマは下げていた頭を上げる。

 

 そして、彼は重そうな口を開いた。

 

「だってシズカさんは僕よりも行動力があったり……正直な所は一目惚れなんです。でも、シズカさんの事を色々と見ていると元気づけられたんです! だから——」

 

 彼が次に言う言葉それは「俺と付き合ってください」だろう、私はそんなことを予想し、彼がそれを口にする前に、ある一言を冷たく放った。

 

「ごめんなさい。私の家貧乏だし、付き合っても面白くもないと思うので結構です」

 

 彼女がそう言うと、カズマは固まっていた。

 笑いも泣くも怒りもせずただ状況が、理解出来ていないような顔だ。

 

 この場の空気に耐えきれなくなったシズカは、何かを堪えるようにして、その場から立ち去った。

 

 ※

 

「良かったね……告白されたんだぁー」

 

 シズカが教室で帰る支度をしていると、聞きなれた声に近いようで、どこか冷たい声が聞こえた。

 

 そして、その声がした方向へ視線を送ると、そこには今まで見たことの無いような怒った表情で、彼女を睨んでいるサクラがいた。

 

「……サクラ。——違うの!」

 

「何が違うの!? 告白されてたじゃんかよォ! オマエ、人の好きな人をネコババとか少し調子乗りすぎじゃない?!」

 

「サクラ! 話を聞いて!」

 

「話? 今更何を話すとでも? さようなら」

 

「サクラ!」

 

 彼女はそう言い残して、教室から立ち去った。

 

 こうして、次の日から私の学校生活で、かつての友人達からの「復讐」という名の「イジメ」が起きた。

 

 ※

 

「ねぇどうしたの? そんな惨めな顔しちゃって」

 

 サクラは掴んでいた髪の毛を離すと、彼女はシズカを馬鹿にするような目で、顔を覗かせる。

 

「……」

 

「てかさ、アンタの親借金あるんだって? 可哀想〜。そうだ! 私がアンタの家に押しかけてやるよ」

 

「やめて」

 

 ダメだ怒ったら……落ち着け……怒るな。

 

 彼女達の言葉を聞く度に心の奥底から湧いてくる、黒い何か。

 

 それは、自分の心を真っ黒に染めると、私の奥底に溜まったストレスが爆発する。

 

「シズカの家いっぱいに落書きでもしてやるよ! アハハハハハ! ちょう笑えんだけど!」

 

「クズ野郎!」

 

 シズカはそう叫ぶと、彼女の顔面へ拳をぶつけた。

 

 そして、すぐさまに私は彼女が抵抗できないよう跨る。

 

「この! この! クズ野郎!」

 

「ちょっとこれヤバくない?」

 

「私ちょっと先生呼んでくる!!」

 

 周りにいた観衆は、さすがにマズいと思ったのか、ざわつき始めた。

 

 しかし、そんな中、誰もシズカを止める者は居なかった。

 

 ただひたすらに彼女は、サクラへ1発また1発と殴り続ける。

 

 サクラの顔面を殴り付ける度に、自分の手が赤く滲んで行く事に、シズカは笑っていた。

 

 頭の狂っていた自分は、すでに白目を向いて血まみれになった彼女に向けて、拳を上げた。

 

「コレが未来だよ?」

 

「——ッ!?」

 

 シズカの動きを制する様に聞こえた声。

 

 すると、学校であったはずの周りの光景が崩れていく。

 

「へ? なに……これ」

 

 何がなんだか理解が追いついてないシズカの前に、1人の女の子が現れた。

 

「わ、私?」

 

 そうそこに立っていたのは、もう1人の彼女だった。

 

「正確に言うなら夢の中の貴方かな」

 

「夢? じゃあアレも……」

 

「そうだよ、アレは私が作り出した夢……いや、予知夢だよ」

 

「ということは……アレは私の未来」

 

 数分前の自分の姿を思い出し、全身に寒気がした。

 

「神崎さんがいなくなって、貴方の自殺旅は失敗した」

 

「嘘……嘘だよ! そんなの! 私は死にたいんだよ!? ありえない!」

 

「そうかな? どうみても今の貴方には死をほっしてる様には見えないけどね」

 

「どいうこと?」

 

「自覚なしか……そろそろバイバイだよ。もうあなたの身体が目覚めちゃうから」

 

「待っ!! ——」

 

 ※

 

「やられた! 畜生」

 

「父さん……」

 

 遠くで自分の事を心配して見るハルタを置いて、自身の管理の惨めさに落胆する。

 

 少しでもシズカの痕跡がないか超能力を使って確認していると、リュウタの前髪に何かが掠めた。

 

 それはどこかで感じた事のある感触であり、今にでも吸い込まれそうな風。

 そして、もう1つある誰かの記憶が過ぎる。

 

 コレは……。

 

 ハルタが気にかけた様子で近寄ってくる度に強くなっていく風、それはまるでリュウタが初めてシズカの中に入る時に味わった風のようだ。

 

「ハルタ……俺は人の中に入ってその人をコントロールできる力があるんだ——だから」

 

 彼はそう言って、息子に微かなる希望を抱きながら、焦った様子で駆け寄った。

 

「父さん、いきなりどうしたの?」

 

 少しの希望を見ている自分に、ハルタは困惑顔で後退りをする。

 

「ハルタ……お前の体、貸してくれないか!?」

 

「はい?!」

 

 リュウタは自分がシズカの体に入って操ることが出来る事を詳しく説明した。


「だいたいの話は多少わかったけど……でもそれってシズカさんだけ、ていう可能性があるんじゃないのかな?」

 

「モノは試しだ。たしかにハルタの言い分も分かる——それでも、今は少しの可能性でも掴みたい時なんだ、一刻も早くシズカ《あいつ》を助けたいんだ! 父親としての不甲斐なさはあるが、この通りだ! 頼む試させてくれないか!」

 

 リュウタはハルタに向けて頭を下げた。 

 すると、息子は優しい声で「顔を上げてよ」と言った。

 

 彼が顔を上げると、そこには温かい笑顔を浮かべたハルタが居た。

 

「父さん僕は子供の頃いつも父さんの背中を追って来たんだ。そんな憧れの人のお願いなんて断れないよ」

 

「……ありがとう」

 

 天界送還まで残り5時間。

 

 ※

 

「はー!? シズカちゃんが拐われた!?」

 

 マユミは驚きが隠せない表情で言った。

 

「誰に拐われたのか分かるのか?!」

 

 シゲも同様に彼女と同じような反応をする。

 

 そんな慌てた姿と裏腹に、ハルタは落ち着いた様子でシゲの問に答えた。

 

「闇金の人達に拐われた」

 

「場所は!? 分かるの?」

 

 マユミの質問にリュウタは答えた。

 

「高町事務所だ、そこにシズカは囚われている。当たり前だが俺はアイツを助けに行く」

 

「でもアナタ、どうやってその透け透けの体でシズカちゃんを助けに行くつもり?」

 

「……それはだな」

 

 リュウタは自身がハルタの体を借りて助けに行くという提案を話した。

 

「は? アナタそれ本気で言ってるの? ダメに決まってるじゃない。アナタ自分の子供を犠牲にする気?」

 

 マユミは冷徹な目で却下する。

 

「じゃあどうしろと」

 

 リュウタは鋭い目付きで、彼女を見つめながら言った。

 

 すると、マユミは刑事服に着替えながら、

 

「警察に任せなさい、すぐには助けられないだろうけど必ず助けてみせるわ、だからハルタとアナタは家でゆっくりしていなさい」

 

 ダメなんだ……ダメなんだよ、すぐに助けねぇとアイツはアイツは!

 

「神崎さん……大丈夫ですよ! 必ず助け出しますから」

 

 暗い顔をするリュウタにシゲは、励ますように説得してくる。

 

 しかし、もうこれ以上に何を言っても聞かないであろうマユミ。

 

 リュウタは、

 

「分かった、ハルタと一緒に家に残る」

 

「父さん……」

 

「その代わりだ!」


「?」

 

 リュウタが突然そう言った時、彼は不思議そうにしているマユミに歩み寄ると、彼女の頭に手をかざす。

 

「今から、俺が得た闇金《奴ら》の可能な限りの情報全てをお前に託す。少し頭痛がするかもしれないが一瞬だ、その一瞬で俺が持ちうる全ての情報がそっちに行く」

 

「アナタ何言って——痛ッ!」

 

 彼女が頭を押えそう言った時、マユミの頭にリュウタが持っていたであろう情報が流れ込んでくる。

 

「これは……」

 

 彼女は自分が得た情報に驚いていると、リュウタは突然崩れるように膝を着く。

 

「アナタ……」

 

「その情報量さえあれば遅くとも明日、早くとも今日の夜までにはシズカを助け出せるだろう。だから頼む、アイツを助けてやってくれ」

 

 彼女は今まで見た事もなかったリュウタの懇願する顔を見て、氷のように冷たくなっていた目が溶けた。

 

「分かった、すぐに助け出す。だから安心して待ってて」

 

 マユミは彼を安心させるために笑って言うと、リュウタの体から少し謎の光が出ている事に気づくも、何かを察した彼女はそのままシゲと共に家を出て行った。

 

「良かったね! 父さん! これでシズカさんも助かるよ!」

 

「いいやそれだけじゃ、アイツは助からない」

 

 顔を一切見せないリュウタはそう言うと、ハルタの方へ振り向く。

 

「俺が何か言ってやらないとダメなんだ、そうじゃないとアイツはまた同じような運命を辿る……いや、それ以上に最悪な末路を送る」

 

「……分かったよ父さん、僕の体を貸すよ」

 

 リュウタの思っていることを察したのかハルタは、覚悟を決め、笑った顔つきで言った。

 

「ありがとう」

 

 彼がそう言うと、今にも吸い込まれそうな風がリュウタを呼ぶ。

 

 シズカを必ず助ける助けないとダメなんだと決心した彼は、風に身を任せ、ハルタの体の中に入った。

 

 ※

 

「ここは……」

 

 シズカがそう言って目覚めると、そこはどこかの物置部屋のような場所だった。

 

「お? ようやく目覚めやがったか」

 

 野太い声が聞こえ、声の方向へ視線を送ると、そこにはガタイのいい男がいた。

 

「ここはお前と俺みたいな借金を返しきれなかった奴らが入れられる場所だ」

 

「ということはアンタも闇金に?」

 

「あぁ、多分俺らは知らねえ所の山奥で土木作業をするだろうな」

 

「……」

 

 あの時の夢……多分予知夢なんかじゃないよね、ただの夢だよね……だって私は誰にも会わずに地獄に行くんだもの。

 

 ※

 

 天界送還まで残り3時間。

 

「さぁて結構手こずったが、場所は分かってる位置も分かる座標も全て確認済みだ」

 

 家を出た時、時間帯は昼頃だった。

 ハルタは超能力で空を飛ぶと、目的の方向へ視線を送ると、自分の目的の場所に狙い定め、指パッチンをする。

 

 その瞬間、ハルタの姿は一瞬にして消えた。

 

 ※

 

「そろそろ、あの女を起こしに行くか」

 

「あまり乱暴にするなよ? 良いな?」

 

「分かってるよ、少し様子を見に行くだけだって」

 

 闇金組織の2人はそんな会話をして、ある1人の組員がシズカの様子を見に行こうとする。

 

「おいてめぇ、シズカという女の子の居場所を教えろ」

 

 突如、様子を見に行こうとする男の背後に、見覚えのないある少年が現れる。

 

「おい……てめぇ……どこから入ってきやがった?」

 

「教えるか馬鹿か?」

 

「——ッ! テメェ!」

 

 男の癇に障ったのか組員は、人の顔よりでかい拳を目の前に現れた謎の少年にぶつけようとする。

 

「俺は暴力をしに来た訳じゃねぇ、俺はシズカに会いに来たんだ」

 

「テメェ! 何言って——」

 

 少年は男の動きを謎の力で止める。

 

「一応自己紹介……俺は交通事故で無惨に死んだ神崎リュウタだ」

 

 ハルタの体を借りたリュウタはそう言うと、男の体を指1本も触れずに、事務所の壁に叩きつける。

 

「おい! どうした? ——どうしてガキが!? おい! 誰かこっちに来てくれ!」

 

 もう1人の男がそう叫ぶと、2階から数人の増援が降りてくる。

 

「あぁもう、これ以上来られるとこっちも困るぜ」

 

「どうしたんだ? そんなに叫んで——って! 矢島やじま! なんで壁に埋め込まれてんだ?」

 

 1人の組員がそう言うと、最初にいた男はハルタを指して、

 

「分からねぇが、いやなんかの間違いだろうがよ、アイツがやったんじゃねぇか!?」

 

 焦って言う彼に向けて、ハルタは二ヒヒと笑う。

 

「おいガキ! 調子乗ってんじゃねぇぞ!」

 

 その場にいた男達はそう怒鳴ると、ハルタに殴り掛かる。

 

「おいおい、いい歳したおっさん共がこうもたかって来ると呆れるぜ?」

 

 余裕気味な彼はそう言うと、事務所に並べられたいくつものの作業テーブルを超能力で宙に浮かせ、それらを操作しながら男達に投げる。

 

 まずはここらを一掃して助けに行くしかねぇか。

 

「調子に乗ってんじゃねぇぞ! ガキ!」


 ハルタの背後を取った1人の組員は、金属バットを持ち、それを振り下ろす、はずだった。

 

「そんな攻撃見え見えだぜ?」

 

 ハルタはそう言うと、振り下ろされるバットを宙へ固定し、バットを持った男ごと壁の方へ吹き飛ばす。

 

「なんちゅう野郎だ、おいテメェら! 武器をもて! コイツを殺せ!」

 

「かかってこいよ、遊んでやる」

 

 鉈や拳銃、木刀、刀やらを持った男達は俊敏な動きで襲いかかってくる。

 

 まず先に攻撃を仕掛けてきた男2人を宙に浮かせると、ハルタは彼らを窓ガラスの方へ吹き飛ばす。そして、次に飛んできたのは銃弾だった。

 

 彼はバリアを展開すると、無数に飛んでくる銃弾を受け止め、それらを組員達に死なないように返した。

 

「どういう小細工をしてやがるんだ!」

 

「狼狽えるな! 俺らで行けばアイツは殺せる!」

 

 刀と木刀を持った男達は、相手に向かって突き進む。

 

「無駄だ」

 

 ハルタはそう言うと、地に手を当て、その地面を自由自在に操り、大地から植物の根っこのようなものを生やし、男達を拘束すると、その2人を外の方へ投げ飛ばす。

 

「もういい、遊んでても切りがねぇ、これで終わらせる」

 

 ハルタはそう言って、何かを溜めるような仕草をする。

 

 男達はそれを隙と見計らい、彼に一斉に攻撃しようとする。

 

「吹き飛べ!」

 

 その瞬間、その場にいた男達の体は豪風に煽られる砂のように、そこら中に吹き飛んだ。

 

「ふぅ、これで一件落ちゃ——」

 

 ハルタがそう言おうとして、ふと、天界送還時間を見た時だった。

 

 天界送還まで残り30分。

 

「は? マジかよ……」

 

 驚きすぎて固まった彼の目の前に、謎の表記が現れる。そこにはこう書かれていた。

 

『能力を使いすぎのため、存在を維持のために天界送還時間を大幅に縮めました』

 

「んなもん聞いてねぇよ! ……やべぇ、早く奪還しねぇと!」

 

 ハルタが急いでシズカのいる居場所の方へ行こうとした時だった。

 

 むず痒い風がなびくと、鋭い眼光と殺気を放つ者達の存在を感じ取る。

 

「すげぇやられようだな」

 

「オマエ、よくも俺の部下たちをこうもボコボコにしてくれたな」

 

「おいおい、勘弁してくれよ」

 

 そこに現れた者は、シズカと暮らしてきた中で現れた、野島という男と眼鏡をかけた男が立っていた。

 

「テメェがやったのか? いいじゃねぇかワクワクしてきた! おい、五十嵐いがらし! 最初は俺からな!」

 

「何を言ってる、そんなふざけた事はさせんぞ。

 2人で攻めるぞ相手は強敵だ」

 

「たくっ、しゃあねぇな」

 

 五十嵐と野島は攻撃態勢に入る。

 

「おいおい2対1はちとばかり卑怯じゃねぇか?」

 

 ヤバいな……あのどっからどう見ても手練な奴2人を1人で捌き切れるか?

 

 そんな事を思っていた時だった。

 

 あの2人は、さっきまで戦っていた奴らとは桁違いの戦闘技術で攻めてくる。

 

 五十嵐は俊敏な動きで、ハルタの次の動きを見極め、超能力を使う暇すら与えてくれない。

 

 一方、野島は無差別的に物を破壊しながら接近してくる。

 

 彼が2人の戦闘スタイルに苦戦していた時だった。

 

「おい! 警察だ! 今すぐその刀を捨てろ!」

 

 その声が聞こえた時、ハルタの中にいたリュウタは一瞬の希望を見いだした。

 

 希望を見いだした彼が、割れた窓ガラスを通して見えた光景は、外に5台ものの警察車両が止まっている光景だった。

 

「警察よ、野島、五十嵐! あなた達を逮捕する」

 

 警察車両から出てきたマユミは、警察手帳を見せ言った

 

「ここで終わりか」

 

「マジかよ」

 

 2人は諦め顔で武器などを捨てると、すぐさま警察に捕らえられた。

 

 彼女が辺りを確認していた時だった。

 

「——ッ!? ハルタ?! ——まさか! アナタ!?」

 

 ハルタの中にリュウタが居ることに気づいたマユミは、驚いた表情で立ち尽くす。

 

 そんな彼女を見たハルタは笑うと、

 

「俺ちょっと行ってくるわ」

 

「ちょ! ハルタ!」

 

 マユミがそう言って、彼に駆け寄ろうとする。が、そのとき何故か彼女の足は動くことは無かった。

 

 それがリュウタの力で止められているのか、自分で止めているのか、彼女自身も分からなかった。

 

 ※

 

 銃声が下の階から聞こえてくる物置部屋で、シズカは迫り来る謎の恐怖に怯えていた。

 

 そんな中聞こえた聞き覚えのある声。

 

 それはハルタの母、マユミの声だった。

 

「マユミさんの声だ」

 

 シズカは自分に助かる道があると気づいたのか、そう言って立ち上がった。

 

「どうした? いきなり立ち上がったりして?」

 

 男は少し困惑気に聞くと、彼女は希望に満ちた目で言った。

 

「警察が来たんだよ! 私たち助かるよ!」

 

 シズカは鍵の閉められたドアに近づく。

 

 その時だった。

 

「誰か来る」

 

 ※

 

 ハルタが上に続く階段を登っていた時、突如、上の階から鼓膜が破れそうなほどの爆発音が聞こえた。

 

「まずい!」

 

 俺の得てる情報じゃ、シズカは3階に居る! 最悪だあの爆発音も3階から聞こえた! まさか!

 

 急いで階段を登り、2階へ上がるとそこは黒い煙が充満していた。

 

 ハルタがハンカチを鼻や口に抑えながら突き進んでいると、3階に続く階段から囚われていたであろう人々が降りてくる光景が見えた。

 

 クソ、こうなったらこの火を消し——ッ!?

 

 超能力を使おうとした瞬間、ハルタの視界にある表記が現れる。

 

『これ以上超能力を使用すると存在は維持できなくなり強制的に天界へ送還します。

(残り1回)』

 

「畜生が! こうなったら火事場の馬鹿力だぁぁ!」

 

 3階から降りてくる人々を、かき分けながら階段を登っていく。

 

 ※

 

 ハルタが3階に着いた時、そこの光景は地獄だった。足の踏み場もないほどの獄炎が広がっていたのだから。

 

 クソ! こうなったら!

 

 何かを覚悟したリュウタはハルタの体から離脱すると、前世の息子にこう言った。

 

「すまんな、こんな父親で……幸せになれ! お前は早くここから逃げろ! まだ2階はそこまで火は回っていない! 早く!」

 

「父さんはどうするの!?」

 

「俺はシズカを助ける!」

 

 霊体となった神崎リュウタはそう言って、3階を必死に走り回っていると、聞き覚えのある声がした。

 

「誰か! 助けて!」

 

 その声の方向に視線を送るとそこには、謎の男に連れ去られているシズカが居た。

 

「あの野郎!」

 

 全速力でシズカの元まで走る。

 

 ※

 

 謎の男を追って来て辿り着いた場所は、5階建ての事務所の屋上だった。

 

「あぁ! 俺も人生が終わった! おい女今からこの5階から一緒に死ぬぞ!」

 

 闇金組織のリーダーと思われる男はそう言って、シズカの肩を強く掴む。

 

「そんなのお断りだ!」

 

 シズカは人が変わったように言うと、肩に掛かった手を退け、男の顎に強烈なアッパーを入れる。

 

 うまくアッパーが決まったのか、男は白目を向いて倒れる。

 

「ふう何とか間に合ったぜ、さて」

 

 シズカがそう言うと、彼女の体からリュウタが出る。

 

「ありがとう神崎さん。私こんな死に方ヤダだったから。助けてくれてありがとう」

 

「なに言ってんだ、俺はお前の守護霊だろ?」

 

「……うん、そうだね」

 

「?」

 

 明るかった筈の外は気づけば夜になっていた事に、リュウタは気づいた。

 

「それにしても綺麗だね、東京、て」

 

「そ、そうだな。それより早くここから逃げるぞ! さ、行くぞ! まだ間に合う!」

 

「行かないよ、私は……ここで私は死ぬ」

 

 一切顔を見せないシズカはそう言うと、こちらへ振り向く。

 

 彼女は笑っていた、今まで以上に可愛いくらいの笑顔で。

 

「な、何言ってんだ? よく分からないな」

 

 シズカの発言に困惑していると、彼女は言った。

 

「だって、このままだと私の自殺旅は失敗するんだもん」

 

「……そうだな、でもそれでいいんじゃないか? 人生楽しい事いっぱいあ——」

 

 リュウタがその言葉の続きを言おうとした時、彼の脳裏にホテルで見た記憶がよぎる。

 

 それはシズカが自殺旅に失敗して、イジメの続きを受ける記憶だった。

 

「神崎さん、知ってる? 私さ、このまま自殺旅に失敗したらまたイジメられる生活が続くらしいんだ。私そんなの嫌なの……いいと思わない? こんな大都会で自殺できて、みんなに見守られながら死ねる、私のすごく大事な人の前でも死ねる……こんなの幸せだよ……神崎さんもそう思うよね?」

 

 何も言えなかった、あの時と同じように。

 

 彼女の自殺を手伝うことにした自分が、今更バカバカしく思えてきた。

 

「そうだな、それもアリかもな」

 

 言ってしまった……また言えなかった、もうこれ以上彼女に何を言っても無駄だと思ってしまった、これは彼女の人生だから。

 

「私、逝ってくる。幽霊になった時はよろしくね!」

 

 彼女はそう言うと、鉄の柵を乗り越える。

 

 言えば止まる、止まる、だけど口が動かない。

 

「ばいばい……自殺旅楽しかったよ」

 

 風でなびかれる金の髪。

 

 次の瞬間、リュウタの視界から彼女の姿が消えようとするその時、

 

「間に合えぇぇぇ!」

 

 突然、リュウタの隣から風のように早く走る男が現れる。

 

「ハルタ」

 

 ハルタは飛び降りるシズカの手を寸前の所で掴む。

 

「父さん! 何やってんだよ! 早く! 僕に力を貸してよ! 父さん!」

 

 ハルタの声が鎖に縛られていたリュウタの身体を振り解く。

 

「……もう限界だ! 力が」

 

「お願い、ハルッチその手を離して、お願いだから」

 

「いやだ! 絶対に離すもんか! 何があったか知らないけど! 人生なんて辛いことの塊だけど! それと同じくらい幸せの塊でもあるんだ! そんな人生を簡単に手放しちゃダメだ!」

 

「もういいの、早く手を離して! もう嫌なの! これ以上苦しむのは!」

 

「絶対に離すものか!」

 

 どんどんと引き離れていく手。

 

 その瞬間だった。

 

「ありがとうハルタ、俺はお前に助けられてばかりだ」

 

 リュウタはそう言うと、ハルタの体の中に入った。

 

「シズカ……お前に言いたいことがあるんだ」

 

 真剣な眼差しをする彼に、シズカは口を閉ざす。

 

 そして、ハルタとシズカの体は柵を飛び越え、空に身を投げ出した。

 

 落ちていくハルタとシズカ。

 

 彼は彼女の両手を取ると、希望に満ちた顔で言った。

 

「……死んだら「安らぎ」なんて存在しないぜ? あるのは俺みたいにお前みたいなめんどくさい奴の面倒だぜ? 誰にも気づかれないし、一生孤独。

 挙句の果てに俺はお前の自殺旅に付き合わされ、東京では沢山の服の閲覧会にも付き合わされ……でも俺好きだったぜお前との旅、前世の頃よりも圧倒的にさ! ……安心しろよ俺が着いてる、もう1回生きてみようと思わないか?」

 

「……うん……」

 

 瞳から大粒の涙を流すシズカ。

 

 そんな彼女にリュウタは言った。

 

「さぁ、しっかり掴んでろよ!」

 

 地面が目の前にまで迫ってきた時、リュウタは自身の最後の超能力を使い、ゆっくりと地面に着地する。

 

「どうだ? 楽しかっただろ?」

 

「う……うん!」

 

「泣くなよ、こっちまで目が潤んでくるだろ?」

 

 リュウタはそう言って、ハルタの体の中から出る。

 

「父さん……良かったよ! シズカさんを助けられたから!」

 

「ハルッチもありがとう、助けてくれて」

 

 シズカは笑顔でそう言うと、ハルタは頬を赤くする。

 

「神崎さん! 早く家に帰ろ!」

 

 シズカがリュウタの方へ振り向いた時、そこにいた彼は光に包まれていた。

 

「神崎……さん?」

 

「父さん……」

 

「すまねぇな、もう時間みたいだ」

 

「嘘……なんでこんな時に嘘つくの?」

 

「お前との旅楽しかったぜ……じゃあな」

 

 リュウタがそう言うと、彼は光となり消えていく。

 

「まってよ、待ってよ! 神崎さん! 私まだお礼言ってない!」

 

「……お前は若いから俺より長生きしろよ、早くこっちに来んじゃねぇぞ? て言っても来ることはねぇか……じゃあな」

 

「神崎さん!」

 

 リュウタの体は光となり、彼は天界へ送還された。

 

 ※

 

 10年後。

 

「シズカさん、手を貸しますよ」

 

「ありがとう」

 

 階段を登るシズカに手を貸すハルタ。

 2人は手を取りあって階段を登り終えると、リュウタの墓がある墓地に辿り着いた。

 

 ハルタとシズカは彼の墓の前に立つと、両手を合わせた。

 

「色々あったけど楽しかったよ神崎さん」

 

 彼女がそう呟くと、

 

「んじゃ、行きましょうか」

 

 ハルタがそう言って、シズカが帰ろうとした時だった。

 

 後ろから微かな風を感じた。

 

「神崎さん?」

 

 その風が吹く方向へ視線を向けた時、そこには、こちらへ小さく手を振っている神崎リュウタが居た。

 

 シズカは彼に小さく手を振り返す。

 

「ありがとう、神崎さん。楽しかったよ自殺旅」


 

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