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おっさんとJKの自殺旅   作者: マカロニ
3/4

おっさんとJKの自殺旅 3話 「転」

 外は徐々に暗闇に包まれていき、気づけば公園にはシズカ達しかいなかった。

 

「どうして、シズカはここに居るの?」

 

 シズカの母親と思われる女は、心配した様子で言った。

 

 そこで、リュウタの脳裏に幼かったシズカとその家族が、日々一緒に暮らしていた記憶が過ぎる。

 

 すると、記憶の中にいた母親と思わしき人物と、目の前にいる女が、同一人物であると気づいた。

 

 しかし、そんな事を思っている間にも、まるで目の前にある宝物に翻弄ほんろうされた様に、母親はシズカの元へ手を伸ばし、歩み寄っていく。

 

 その時だった。

 

「近寄らないで!!」

 

「「ッ!?」」

 

 シズカは大声で、母親を威嚇する様に叫んだ。

 娘の叫びを聞いた彼女は、歩み寄る足を止め、どこかひきつった顔をする。

 

「ど、どうしてそんな事言うの?」

 

 女は困惑した表情をし、止めていた足を再び動かし始めた。

 

 その動きを見たシズカは、鋭い眼光で再び、

 

「近寄んないでって言ってるでしょ!!!」

 

 彼女は歯をむき出して言った。

 

 それによって生み出される、あまりの気迫に、リュウタは鳥肌が立った。

 

 その様子を見て驚いたのは彼だけでなく、シズカの母自身もそうだった様に思える。

 

 彼女は不安げな表情を浮かべつつも、娘の近くまで来ると、歩むことをやめる。

 

「あ、貴方! 母親に向かって! なんて口のき方なの!!」

 

「はぁ? アンタみたいな親なんて知んない! てか、今頃になって親ヅラとかマジうける! そもそも、子供見捨てて夜逃げするくらいなら子供なんか作んなし! 馬鹿なの? ねぇ?」

 

「おいシズカその辺に! ——ッ!」

 

 母親に対して、今まで溜め込んできた怒りを爆発させる彼女に、リュウタが止めに入ろうとした瞬間、母親の平手が娘の右頬へ、パシンと風船が割れる様な音で打つ。

 

 母親の予想外の行動に、シズカはその数秒間、理解が追い付いていない様子だ。

 

 彼は咄嗟に霊で透明ながらも、母親に突っかかってしまう。

 

 その時、彼女はリュウタの動きを制止させる様に、赤くなった頬を押え、口を開いた。

 

「……神崎さん、止めなくて良いよ。コレはお母さんと私の親子喧嘩だから」

 

 彼女の目に迷いはなかった。

 ただその瞳の中には、硬く固まった意志だけが存在していた。

 

 一方、シズカの母は、娘の何らかの意志が伝わったのか、とても、怯えている様子だ。

 

「貴方、さっきから誰と喋ってるのよ!?」

 

「ねぇ、お母さん……酷いよ。どうして、あの時、私をひとりぼっちにしたの?」

 

 シズカは異様にも冷静なおもむきで、母親に問いかける。

 それを受け彼女の母は、さも当然の事をしたかのような顔をした。

 

「それは貴方の為だって、手紙にも書いてたでしょ!?」

 

 すると、彼女は「過去」なぜシズカの元を去ることになったのかを、凍った空気の中で語り出した。

 

 ※

 

 これはまだシズカの母と父が、愛くるしい娘の元を去る1週間前の出来事。

 

「それじゃ、お母さん! 行ってくるね!」

 

 娘は母に元気な笑顔でそう告げると、自宅の玄関で靴を履き、錆びきったドアを開けた。

 

 すると、開いたドアから入ってくる、太陽の眩い光が薄暗い家を明るくする。

 

「ちゃんと教科書は持った? 忘れ物はない?」

 

「持った持った。あれ? お父さんは?」

 

「寝てるわ、あそこでグッスリ。……気をつけなさいよ」

 

 居間でグッスリと鼾をかいて寝ている父を指し、その姿を母とシズカでクスッと笑った。

 

 しかし、母は学校のクラスメイトが娘にする扱いに、とても不安な気持ちを抱いていた。

 

 そんな気持ちを紛らわすかのように、娘の綺麗な黒髪に、流す様に触れる。

 

「行ってらっしゃい」

 

「行ってきます!」

 

 シズカとの何気ない会話が終わると、シズカの母は娘の後ろ姿が見えなくなるまで、アパートの2階から見送った。

 

「シズカは行ったのか? アレ? 視界がボヤけて……」

 

 横からシズカの父の声が聞こえ、隣を見る。

 そこには、髪の整っていない、穏やかな目を細める父が立っていた。

 

「あなたメガネつけ忘れてるよ」

 

「あ……」

 

「戻りましょうか」

 

 ※

 

 あれから時間が経ち、時計の針が午後3時を指し示した時。

 

 洗い物をしている途中、玄関の方からノックが聞こえた。

 

「貴方代わりに出て」

 

「ハイハイ……どちら様ですか——ッ!」

 

 玄関の扉を開けた彼は、突然、言葉を詰まらせた。

 

「誰だったのぉ? ——ッ!」

 

 シズカの母が心配になり、旦那の様子を見に行くと、そこには、胸ぐらを掴まれ、吊るされているシズカの父の姿だった。

 

「お? 今日はいらっしゃったんですね? 奥さん。安心してください、別に借金を取りに来た訳では無いんですよ。

 少しお話しがありまして……」

 

 聞き覚えのある声、毎日毎日、アパートに来ては怒号を浴びせに来る男の声だ。

 

 そこには、2人の屈強な男達が立っており、1人は大柄の男、もう1人の方は、眼鏡をかけ、日本刀の様な物を鞘に入れ、異常な殺気を纏っていた。

 

 ※

 

 身の危険を感じたシズカの両親は、2人を自宅にあげ、ダイニングルームに置かれたテーブルに、父と母、男2人、対面になるように座った。

 

「話ってなんでしょうか?」

 

 母がそう問いかけると、大柄の男は不気味な笑みを浮かべる。

 

「アンタら3ヶ月ほど借金を滞納してるだろ? 俺らも仕事なんで払ってもらわないとめんどくさい。

 そこでだ、上からの提案でな。

 アンタらの嬢ちゃんを使って、夜の街のおっさん共を喜ばせて金儲けする、ていう提案だ。嬢ちゃん、中学3年にしには顔立ちも整ってるしなァ!」

 

「馬鹿な事を言わないでください! そんな事はさせない! 絶対に! もし娘に指でも触れたら、どうなるか分かるでしょうね?!」

 

 声を荒らげるシズカの母の言葉に、父も首を縦に振った。

 

 すると、大柄の男は二人の反応に苛立ったのか、まるで鈍器で殴りつけた様な音で、机に拳を叩きつけた。

 

「それしか方法はねぇんだよ! するしかねぇんだよテメェらにはよ! アンタら夫婦はなぁ、俺らに返しても返しきれない程の借金があんだよ!」

 

「おい、野嶋のじまうるさいぞ」

 

 野嶋の隣に座っていたメガネ男は、彼を怒鳴りつけ、静止させた。

 

 その様子を見たシズカの母はメガネ男に、今にも爆発しそうな怒りを封じ、質問を投げかけた。

 

「あの他に方法はないんでしょうか?」

 

 そう質問すると、彼は「あるにはある」と言い、それついて話した。

 

「1つ目は、アンタら両親と娘さんを引き離させ、保護者だけで借金を払ってもらう。その代わり、娘と俺ら組織は一切関わらない」

 

「ど、どうして親が子供の元を離れなければならないのでしょうか? 他に——」

 

「それが出来ないなら、借金が返済できるまで、自分の知らない場所で土木として家族全員働くかだ。

 ちなみに、俺はそこから出てきたヤツは見た事ない。どうする?

 娘を使って金儲け、家族共々土木として働く、それか、親子離れて借金返済か……」

 

「分かりました、決めました」

 

「おい、何勝手に! まだシズカと話し合ってない! せめてシズカと——」

 

「貴方はどっち?」

 

「え?」

 

「シズカにとって何の支障もない道か、自分たちの安全か。私は娘の安全を選択する! アナタはどっち?」

 

 父はシズカの母の問いに、深く頭を抱えた。

 

 そして、数分後、シズカの父は何かを決心した様な顔つきになり、考え抜いた答えを口に出した。

 

「シズカには絶対に関わらないんだな? それが本当なら俺と妻は娘から離れる。お前もそれが良いんだよな?」

 

「えぇ、そうよ」

 

 こうして、お互いの利害が一致した母と父は、シズカの元から去り、遠く離れた場所で借金返済という選択をした。


「決まったのなら、明日あすまたこの時間に書類を持って伺います」

 

 メガネ男はそう言い残すと、席から立ち上がり、野嶋とその場から立ち去っていった。

 

 ※

 

 彼女が話し終えた頃、母親は涙を浮かべていた。

 シズカの親が作り出した気まづい空気。

 

 そう、決して「娘を嫌って」の行動じゃなく「シズカのため」と思うと、余計母親を責めづらい。

 

 もうリュウタは、すでに母親が作り出した空気に、呑まれているかもしれない。

 

 しかし、1人を除いて。

 

「ズルい……ズルいよ……そんなのただのズルい言い訳だよ! 私はそんなの望んでない」


 娘の悲痛な訴えに彼女は、酷く困惑した様子だ。

 

 それはそうなるだろう、シズカの母親の気持ちも分からなくはない……なんせ、自分の娘の将来の為にとった選択が、今この瞬間、間違いだと断定されたんだ。

 人の為に行動したのに、それがかえって人を傷つけた時ほど、ショックは大きいもの。

 こうした、ショックによって生まれた強く急激な刺激は、ストレスへと変わり、その行き先のない物は心に蓄積され、いづれ爆発する。

 

「どうして……私は! シズカのことを思って! 幸せになって欲しいから! してあげた事なのに!! どうして!? どうしてなのよ!?」

 

 シズカの母は、狂ったように声を荒らげ、娘の肩を強く揺らす。

 

「私はお母さんとお父さんが居ない幸せなんて要らない!! 私の事思ってたんなら! なんで相談しなかったの?! まだ話し合ってないじゃん! 私たち家族でしょ?! ……私はもう幸せだったの、わたしはお母さんとお父さんと一緒に居ただけで幸せだった。

 でも、お母さんとお父さんが居なくなった後から、前よりも怖い人達が沢山来るようになった。

 学校も! 前よりも辛くなった!」

 

 肩を大きく振りほどいたシズカは、大粒の涙を流し、自分の思いを母へ訴えた。

 

「お、おかしい……だって、あの人達は娘には関わらない、て……え? おかしい、おかしいおかしい!!」


 追いつめられた彼女は、その場に座り込み、ブツブツと呟き始めた、その様子はまるで壊れた制御の効かないロボット。

 

 そんな姿をする母にシズカは、流れ落ちる涙を拭い、彼女の元へ歩み寄る。

 

 すると、母に覆い被さるように抱きしめた。

 

「そう言えば私……わがままなんて言った事なかった。だから、最初で最後のわがままを言うよ」

 

 しゃくり上げる母親を強く抱きしめるシズカは、今にも溢れ出しそうな涙を堪え、震える声で言った。

 

「わ、ワタシ……またお母さんとお父さんの3人で一緒に暮らしたい」

 

「……う……うん。そうしよう、また一緒にお父さんとお母さんと一緒に」

 

 自分が生まれ、いつも貧乏で満足のいく生活が出来なかったシズカ。

 

 当然の事ながら、ジリ貧の生活の中、彼女は幼い時から、1つのわがまま何て言えなかったのだろう。

 

 しかし、そんな彼女が今まで我慢してきた「欲望」は、最初で最後のわがままで終わった。

 

 この選択が「正解」なのか「不正解」なのかはまだ分からない。多分、その答えは「運命」が教えてくれる筈だ。

 

 だが、俺はその結果を知れる事はない……決して。

 

 ※

 

 ある程度、2人は落ち着きを取り戻し、公園のベンチにて、寄り添うように座る。

 

「ねぇ、お母さん」

 

「なに? シズカ」

 

「ちょっと2人で思い出話でもしない?」

 

「あ、それ良いね——て1つ質問なんだけど……なんでアンタ金髪なの?」

 

「……染めちゃった!」

 

 お茶目な様子で告白すると、母親は「馬鹿ね」と言い、予想外にも笑っていた。

 

 すると、予想外に笑う母を見て、シズカは笑った。

 

「もぉ、お母さんコレおしまいね? 早く思い出話しようよ」

 

「はいはい、もうわがままさんになってるのね……そうねー……あ! ならお父さんが取ってきた雑草で、家族全員食中毒になった話は?」

 

「あぁ! アレね! 絶対お父さん茹でるの甘かったよね!」

 

 こんな光景を見た俺は、2人の談笑を邪魔してはならないと思い、その場から離れた。

 

 そして、会話の邪魔にならない様な場所に行き、キラキラと宝石のように輝く夜空を見上げた。

 

 ※

 

 シズカと母が笑い、楽しみながら話していると、ふと、お母さんは「あっ」と何かを思い出した様な顔をした。

 

「そういえば……たしか、アンタ車に轢かれそうになった事あるよね」

 

「え?! いつ? わたし覚えてないんだけど」

 

 母の突然の発言に、一瞬、驚いてしまう。

 すると、母はシズカがいきなり驚愕した姿を見るや否や、その事について語り出した。

 

「たしかシズカがまだ幼い頃で、冬の時」

 

 ※

 

 いつもとは違う公園に、行ったある日の帰り道。

 

「わたし帰ったらチョウチョ捕まえる! ……お母さん! 見て! 色んなイロのオウマさんが道路を走ってるよ!」

 

 幼かった娘が指した方向には、たしかに色んな色をした車が行き交っていた。

 

「そうね、早いお馬さんね」

 

 娘と話しながら帰っていると、ふと、目の前に横断歩道が現れ、シズカの小さな手を握った。

 

「あれは横断歩道ていうの。あのマークが赤い時は止まるのよシズカ」

「うん! わかった!」

 

 横断歩道が青になるまで待っていると、周りから人が続々と集まって来る。

 

 すると、シズカの母の隣に、黄色の風船を持った幼い男の子と、父親の親子が立った。

 ただ、呆然と信号を待っていると、突然、頭が割れる様な鋭い頭痛が起きた。

 

「いった」

 

 そして、その頭痛に合わせるかのように、後方から強い風が吹いた。

 

 その時、娘と繋いでいた手を離してまう。

 

 強風で隣の男の子が持っていたであろう風船が、道路の方へ飛んでいってしまった。

 

「あれ、なんだろう! プカプカ飛んでる! まてぇ!」

 

 シズカはそう言うと、風船に操られた様に、車が行き交っている道路に飛び出した。

 

「シズカ! 危ない!」

 

 悲鳴に近い声で私は、娘の名前を呼び、赤信号を無視し、走って駆け寄ろうとした時、右方向から、ちょうどシズカがいる場所に、赤の車が迫っていた。

 

 すると、シズカの母の足が止まりそうになった。

 

 しかし、娘を助ける為、止まりそうな足を動かそうとした瞬間、前方から凄まじい速さで、娘を助けようとする男性が視界に入った。

 

 そして、娘と車の距離が数メートル程に差し掛かった時、ブレーキ音とクラクションが同時に鳴った。

 

 車より数秒早かった、茶色のコートを着た男が、シズカの元へ先に辿り着く。

 

 すると、戸惑っている娘を、母の方へ突き飛ばした。

 

「危ない!!」

 

 シズカの母は咄嗟に娘を突き飛ばした男性へ、大きな声で叫んだ。

 

 その瞬間だった。

 

 男は最初からこの様な結果になると分かっていた様子で、車に追突されてしまった。

 

「そんな……」

 

 目の前で初めて人が、轢かれる光景を見たシズカの母は、思わずその場に座り込んだ。

 

 朦朧とする意識の中、自分の視界には、体から多量の出血をし動かない男と、近くで気絶している娘の姿があった。

 

 ※

 

「その後、男の人は亡くなったわ」

 

 話を終えた母は、悲しみの表情を浮かべ、深いため息をついた。

 

 まさか……いや偶然かな?

 

 シズカは母の話の中の人物について疑問を持つがが、気のせいだと思った。

 

「お母さん、もうちょっと話さない?」

 

「そうね」

 

 それからというもの、シズカと母は思い出せる限りの話をした。

 

 また、あの時と同じ様に私達は、笑って談笑を楽しんだ。

 

 ※

 

 星は相変わらずと言って良いほど綺麗だ、ずっと見てられる……さて、様子を見に行くとするか。

 

 そう思い、リュウタがシズカ達の様子見に行くと、そこには話を終えた様子の2人がいた。

 

「シズカ、この後お母さんとお父さんの家に来る? もう夜遅いし」

 

 彼女はシズカにそう言うと、ベンチから立ち上がった。

 

 一方、シズカは数秒間の沈黙をすると、首を横に振った。


「あら? どうして?」

 

「いや、もうわたしホテル予約しちゃってるからさ。今日はいいかな」

 

「そう……なら、明日は家に来る?」

 

「ごめん、明日にはもうここを出るんだ。私まだやりたい事があって……明後日なら多分行けると思う。まだ分からないけど」

 

 シズカは申し訳なさそうな顔をした。それを見たシズカの母親は、軽く微笑み、彼女の頭を撫でた。

 

「アンタ、身長伸びた? ……成長したねシズカ。私よりすっかり大人びちゃって、頼もしくなったよアンタは……ちょっと危なっかしいけど」

 

 シズカの母親は未だに暗い顔をする彼女の胸に、拳を当てた。

 

「そんな暗い顔しても時間は過ぎていくだけだよ。シズカはまだ若いから私よりいっぱい生きて! 最後に! 誰かに何と言われても気にするな! 胸張って生きろ! それがシズカらしい!」

 

「うん!」

 

 その後、シズカの母親と別れたリュウタたちは、泊まれる場所を必死に探し、見つけたネカフェで泊まることにした。

 

 ※

 

 8月29日 (自殺旅終了までのこり2日)

 

 翌日の朝、リュウタが先に起床し、頭上を見ると『残り2日』と記されていた。

 

 まぁ、そうなるか……東京を満喫できる日数が増えたと考えれば良いのか。

 

「おい起きろ——ッ!? お前!」

 

「神崎さん、自殺旅を満喫する女子高生の時間は有限なんだよ。早く準備!」

 

 そこにはさっきまで隣でいびきをかいて寝ていたシズカが、準備万端の状態で立っていた。

 

「早すぎんだろ……」

 

 そして、リュウタ達はこの旅の最終地点である「東京」に向けて、進み始めた。

 

 ※

 

「とととととと! 東京来たぁ!」

 

「うるせぇな!」

 

 シズカが東京でここまで喜ぶ理由、おそらく今この場所が「渋谷」だからであろう。

 

 彼女にとっていつもは見ない光景で、見るもの全てが新鮮味を帯びている筈だ。

 

 そんな事を考えていると、彼女はリュウタに向けて、ボロボロになっている手帳の中の一部を見せてきた。

 

 古く書かれた様な字で、保存状態が悪かったのか、字はかすれており、俺は目を凝らし、ようやく書いあることを読み取った。

 

「お前……これって……」

 

「そう! コレは私が幼少期に書き留めていた「やりたい事」リスト! 神崎さんの任期があと2日らしいから、このリストをその2日間、できるだけ全部やる!

 まずその1つの「オシャレな服を買う」を遂行する!」

 

 シズカはそう言うと、近場にある服屋を探しに、獲物を探すハイエナの様に、颯爽と向かって行った。

 

 ※

 

 そして、リュウタとシズカが最終的に行き着いた場所は、東京屈指のファッションビルの1つである「渋谷110」だった。

 

「わわわわわ! しゅごすぎりゅ! 神崎さん! ここ天国だよ!」

 

 中に入った彼女が驚くのも無理はない。

 

 そりゃ若い層に人気のある場所なのもあって、中の店舗は若者をターゲットとした洒落しゃれた飲食店、そして、一際目立つ数々の若い層に人気な服屋が揃っていた。

 

「若い女性に人気な場所なだけあって賑わってるな……あれ? シズカ?」

 

「ねぇ! あそこに行こ!」

 

 リュウタが内装の凄さに浸っていると、隣にいた筈の彼女は、既に服屋の店の前に立っていた。

 

 あいつホントに忍者かよ……。

 

 そして、渋々彼女の行きたい服屋に入った瞬間、彼とシズカはその凄さに圧巻してしまった。

 

 それは1つの小規模な店舗でありながらも、大規模な服屋と比べて見劣りしない程の、多種多様な服たちが、こだわりを入れられた陳列で並んでいた。

 

「神崎さん、私場違いかも」

 

「そうだな、帰るか」

 

「それはしないよ!? あ、あの服可愛い!」

 

 彼女はそう吐き捨てると、商品棚に並べられている服を、手に取り始めた。

 

「無駄使いだけはするなよ」

 

「うん! これにしよ!」

 

「人の話を聞け!」

 

「聞いてるよ、沢山服を見ろ、て事でしょ?」

 

「……もういいや」

 

 ※

 

 シズカの服選びを店の外の椅子で、浮いて待っていると、リュウタを呼ぶ声が聞こえた。

 

「ねぇ、神崎さん! ちょっと見せたい物があるから! 控え室に行こ!」

 

 そこには両手が塞がる程の服を持ったシズカが、ニコニコと満足気に立っていた。

 

 ※

 

 すると、リュウタは楽しそうな表情の彼女に、控え室の前まで誘導された。

 

「神崎さん、それじゃ今から私に似合うオシャレな服装をこの3セットから見つけてもらうから!」

 

「……ソウデスカ」

 

 正直、今の俺は結構疲れており、既に彼女の服選びの待ち時間に1時間以上を費やしている……正直もう精神的に疲れた。

 

 そして、突如として始まった「ファッションショー」的なものに、リュウタは彼女が控え室から出てくるの待つ。

 

「じゃじゃーん!! どうだい?」

 

 シズカが更衣室に入って5分が経過した頃、彼女はそう言って、カーテンを開けた。

 そこにいたシズカの格好は、雪のような白いデニムを着用し、その白に溶け込む黒のブラウス、それらを完璧に彼女は着こなしていた。

 

「どう? いい感じでしょ? カッコイイ感じっしょ?」

 

「まぁ、似合ってると思うぞ」

 

「……可愛いと思うなら素直に言えばいいのに。自分に素直になれない男はモテないよ?」

 

 シズカはリュウタの素直になれないような所を見抜くと、少し不満そうな顔を浮かべた。

 

「うるせ! あぁ、もう可愛いよ!」

 

「……ありがと」

 

 率直な感想をシズカに伝えると、彼女の頬っぺが桃のように紅くなった。

 

「次いくよ! つぎつぎ!」

 

「お、おう」

 

 彼女は慌てふためき、再び更衣室に戻った。

 

 それから、彼とシズカのファションショーは続き、2回目では、白と青の縞柄のボーダーTシャツと、下には藍色のデニムを着用していた。

 

 そして、残り最後のファッションとなり、次にシズカが俺の前に姿を現した時、彼女のしていた格好は、鮮やかな水色を基調としたスカート、その上には大人の雰囲気を漂わせる様な黒色のTシャツ、1回目2回目に劣ることのない、彼女の存在を引き出させる様な格好だ。

 

「もう、全部似合ってたから全部買えよ」

 

「マジで? じゃあそうする」

 

 ※

 

 なんやかんやありながらも、買い物を終わらせたリュウタ達が外に出た頃には、空はもう薄紅の空になり始めていた。

 

 すると、シズカと彼は休憩も兼ねて、木々が生い茂った、自然豊かな公園で休む事にした。

 

「今日はどこに泊まろうかな〜、ネカフェも飽きたし……まぁ、最後の場所だからネカフェにしよ。ちょっとネカフェ見つけて、予約してくる」

 

「気をつけろよ」

 

 ある程度休憩した彼女は、立ち上がり、そのまま泊まれる場所を探しに行った。

 

 ※

 

 そして、あれから時間が経ち、とっくに空は闇に包まれ、その暗闇からは、綺麗な星々の光が見える。

 

 彼はその空をただ呆然と立って、見ていた。

 

「父さん?」

 

 その時、背後から聞こえた声、その声はどこか懐かしく、愛おしく、そして、どこか昔より大人びた声だ。

 

 リュウタは半信半疑な気持ちで、その声の方向へ、ゆっくりと体を向けた。

 

「ハルタ……お前、俺が見えるのか?」

 

 そこに居たのは、見間違えるわけがない、前世に置いてきた息子のハルタだった。

 

「見えるどころじゃないよ、てか父さん「死んだ」て母さんが……え? え?」

 

「……スマン、お前を残して死んじまって。……それよりデカくなったな! ハルタ!」

 

 彼は前世に居た頃のハルタが急成長した事に、我ながら誇らしく思いながらも、息子の成長していく光景が見れなかったことに、心の中で後悔した。

 

 しかし、見ていて分かったことが、目は昔よりくっきりとした綺麗な二重になり、そして、その目は何処となく自分の様なつり目と、整えられていない髪型、しかし、その雰囲気はどことなく前世の妻に似ていた。

 

「死んだ? でも父さんはここに——ッ!」

 

 息子は不信感を抱いた様な顔で、リュウタに触れようとした。

 が、当然のごとく、彼は既にこの世に実体としていない状態。

 もちろん、ハルタの触れようとする手は、リュウタの体をすり抜けた。

 

「そんな……でも! 僕はこうして父さんが見えるのに。もしかして、幽霊になったの?!」

 

「まぁ幽霊と言われれば幽霊になったが、何で春田が俺を視認できるのかはさっぱり分からん。これで2人目だ、俺が見えるヤツは……」

 

「2人目?」

 

「あぁ、もうすぐしたらその「もう1人」も来るさ。……そんな事より、最近の近況とか聞かせてくれ。母さんは元気か?」

 

「あ、それはその……」

 

「ん?」

 

 ハルタはどこか気まづそうな表情を浮かべた。まるで、何か俺に隠し事をしているようだ。

 

 しかし、息子は何を思ったのか口を、開き話した。

 

 ハルタから語られる、リュウタが死んでからの出来事。

 

 ※

 

「再婚!? ……まぁ、仕方ないか……」

 

 ベンチに2人で座って、息子の話を聞いた彼は、悲しさと虚しさに襲われた。

 

「へぇ、再婚か……どんま!」

 

「「……——ッ!?」」

 

 リュウタとハルタの気まづい雰囲気の中、突然、ハルタの隣にシズカが座っていた。

 もう本当にコイツ忍者かよ。

 

「父さんこの人は?」

 

 息子は困惑した顔を浮かべるも、少々赤面していた。

 彼はそんなハルタの姿を無視し「川瀬かわせシズカ」という女の子を紹介し、シズカにはハルタのことを教えた。

 

「春田……ハルッチ! よろしく〜!」

「ハ、ハルッチ? ……よ、よろしくお願いします!! 川瀬さん」

 

 2人はそう言い合うと、お互いの手を取り合い固く握手した。

 

「敬語使わなくていいよ! 全然シズカでいいよ!」

 

 そんな事よりだ、確認せねばいけない事がある。

 

 その時、彼は心の中で何かを決心すると、ハルタに真剣な顔で、口を開いた。

 

「なぁハルタ」

 

「うん?」

 

「お前の家に行ってもいいか?」

 

 リュウタの顔を見た息子は焦りも困惑もしない。

 

 ただ、何かを覚悟したような様子だった。

 

「分かった」

 

「ありがとう」

 

「へ? どいうこと?」

 

「母さんにちょっと電話してくる」

 

 ハルタはそう言い残すと、リュウタとシズカの元から離れ、遠くの茂みで電話をしに行った。

 

 一方、ハルタの電話が終わるまで何をしようか迷っていると、シズカの格好がさっきと違うことに気づいた。

 

「お前……渋谷で買った服は?」

 

「あぁアレ? ネカフェのコインロッカーに入れてきた」

 

「父さん! 家に来て大丈夫だって! シズカさんも来なよ!」

 

「やったァ!」

 

「マジかよ……」

 

 ※

 

「ここだよ」

 

 ハルタに連れられ、辿り着いたのは高級でも貧相でもなく、ごく一般的な一軒家だった。

 

 しかし、前世に住んでいた家ではなかったことに、すこし寂しさを覚えた。

 

「入ってよ! 歓迎するよ! ……ただいま」

 

 息子はそう言うと、自宅の玄関の扉を開けた。

 

 ※

 

「お! おかえりハルタ!」

 

 どこかで聞き覚えのある声が、リュウタたちを出迎えると、そこには、かつて自分が刑事だった時の愛すべき人がそこに立っていた。

 

「……あれ? ハルタ、彼女いたっけ? こんな美人な子。できたんなら母さんに教えなさいよ」

 

「マユミ! 俺が見えるか?!」

 

 咄嗟に妻へ声を掛けた。

 

 が、マユミは俺の存在に、気づいてない様子だ。

 

 だろうな……俺は既に死んじまってる……普通見える方がおかしいのに何を期待してたんだ俺は。

 

 この時、脳裏には、シズカに存在を知られる以前の出来事が過っていた。

 

 誰にも自分の存在を気づいてもらえない孤独感、妻と息子を残して死んでしまった罪悪感、彼は神様を恨んだ。

 

 せめて前世の記憶さえ消してくれれば自分は、こんなにも辛い思いはしない筈だった。

 

 なんせ、大事な人に自分の存在が気づかれなくても、記憶が無いのなら辛い思いはしないからだ。

 

「神崎さん……大丈夫? 暗い表情だけど」

 

 すると、リュウタの深刻そうな心情が顔にまで出ていたのか、シズカは小声で気にかけていた。

 

「さ、はやく上がって上がって!」

 

 マユミはそう言うと、シズカとハルタの2人を家に上げた。

 

 一方、彼はその妻の横顔をただ呆然と見ていた。

 

 すると、頭の中にマユミとの前世の思い出が流れた。

 

 昔も今も変わらず妻は美しい、ゆういつ変わったという所は髪型だろうか、ポニーテールにしていた筈が、今のマユミは髪を全て下ろしていた。

 

 つくづく思う、俺は自分の理想とする女性と結婚出来た運の良さに。

 

「ところでアナタ、いつまで突っ立てんの? ……あぁ、私がアナタが見えなかったとでも?」

 

 突然、妻は彼のしょぼくれた姿が見えるのか、多少呆れ顔になり、声をかけてきた。

 

「見えてんのかよ! たく、気づいてんなら言ってくれよ! ……マユミ、すまなかった1人にさせてしまって」

 

「そんなこと気にしてないわ。事情は上がってから死ぬほど聞くわ……そうだ久しぶりにポニーテールにしよ!」

 

 妻はそう言うと、ポッケから2つのヘアゴムを取り出し、長くなった茶髪を1つの束にまとめ、それをゴムで結んだ。

 

 そして、マユミは彼のそばに近寄ると、いつもの氷の様な雰囲気が、穏やかになったのを感じた。

 

「おかえりなさい貴方」

 

「ただいま」

 

 ※

 

 リュウタとシズカが家に上がると、リビングルームと思われる場所に出た。

 そして、その奥にあるダイニングルームに、見覚えのある男がいた。

 

「おぉ! ハルタが彼女を連れてきた! 可愛いな——ブフォ! え?! ちょっ!? 神崎さん!?」

 

「なぁ再婚したってハルタから聞いたんだけど……まさかコイツ? しかもコイツも俺の事見えんのかよ」

 

「そうよ……」

 

 リュウタは呆れた表情で、その再婚相手へ指を指し言うと、マユミはすこし困った顔になった。

 

 そうその妻の再婚相手とは、かつて、彼が刑事として仕事をしていた時、そのバディとして一緒に活動していた高原たかはらシゲだった。

 

「な、なんで?! 死んだんじゃないのか!? わっけ分かんね!」

 

「事情はマユミに話すから、その後にマユミから聞いてくれ」

 

「は、はぁ。オイラは夕食の準備でもしておきますね」

 

 ※

 

 シゲが作った料理をハルタとシズカが食べている隙に、リュウタとマユミはベランダで星空を眺めていた。

 

「あの女の子……大きく成長したようね、時が経つのは早いわ」

 

「? どいう……」

 

 彼女がポツリと呟いた発言に彼は、疑問に思い聞こうとした。が、それは彼女によって遮られた。

 

「ところで何で、あの事故で死んだ筈の貴方が生きてるの?」

 

 早速、妻は鋭い目付きで問い始めた。

 

 すると、リュウタはその質問含め、これまで自分が死んで辿ってきた道や、シズカの人生や旅について全てを話した。

 

「……アナタ本当に死んでるのね。透けてる」

 

「おい」

 

 マユミは何気ない表情で、彼の透ける体に手を突っ込んだ。

 

「……うーん自殺ね。まずは闇金をどうにかしたら? 闇金は警察である程度は対応出来る。

 でも、その後の事は生活保護系に頼るしかなさそう……て言っても、自殺するかどうかは彼女が決めること。

 シズカちゃんにとって私達は赤の他人と同じ、彼女にとっての特別な存在でない限り、止める事は出来ない。私の勘だけど、あの子はそういう感じの子よ」

 

 妻の発言に自分は、黙り込んでしまった。

 その姿を見た彼女は深い溜息をついた。


「結局あなたはどうしたいの? 私に彼女の心境を相談したって事は、貴方は彼女に何かしようとしてるからでしょ?」

 

「それは……」

 

 マユミの言葉に彼の心は、大きく揺れた。

 

 そうだ結局俺は何がしたいんだ? 自殺を止めたいのか? クソッ、どっちなんだよ。

 

 こんがらがった頭を整理していると、突然、シズカとの旅の思い出が過ぎっていく。

 

「……すまない自分でも何をしたいのか分からない。ただ明日、どうしたいのかシズカと話し合ってみる」

 

 リュウタはそれだけ言い残し、その場から立ち去ろうとする。

 

 しかし、彼のその格好を見た妻は、呆れた様子で言った。

 

「呆れた……貴方はこの2週間以上の間、シズカちゃんと旅をしてたんでしょ? いったい貴方は彼女のどこを見てきたの? ……今の彼女、とても幸せそうよ? 自殺をしようとする人とは思えない程にね」

 

 マユミはそう言って、窓ごしにシズカ達の方へ視線を送った。すると、リュウタも自然とそこに目線を向けた。

 

 そこには、幸せそうに笑って食事を、楽しんでいる彼女の姿がそこにあった。

 

 その瞬間、

 

『わ、ワタシ……またお母さんとお父さんの3人で一緒に暮らしたい』

 

 とあの時、震えながらシズカが、母親に言った言葉を思い出した。

 

 そして、それと同時に、彼の中のこんがらがったざわつきが、消え去った気がした。

 

「アイツに「死」は要らなそうだな。……闇金は本当にどうにかなるのか?」

 

 妻はリュウタの顔を見るなり、呆れ顔をやめ、ニコリと表情を緩めた。

 

「私は刑事よ? どうてことないわ」

「えっ!? 刑事なの!? まじかよ」

 

 こうしてリュウタと妻の話し合いが終わり、シズカの元へ戻ろうとした時。

 

 マユミは彼にある事を伝えた。

 

「ッ!?」

 

 それを聞いた時、周りの音が消えた様に感じた。

 

 ただ、それを知った事実に彼の表情は、緩んでしまい、つい微笑んでしまった。

 

「貴方、もうちょっと自分に正直になってみたら?」

 

「そうだな」

 

 ※

 

 食事を終わらせたシズカは、ハルタの両親にお礼を言って、玄関で靴を履いた。

 

「本当に泊まってかないの? シズカちゃん。もう外は暗いのに」

 

「俺がいるだろ!」

 

 ハルタの父親が心配気味に、シズカに尋ねてきた。

 

 しかし、彼女は人に迷惑をかけてはいけないと思い、それを断った。

 

「神崎さんは今日は泊まっていきなよ。もうすぐでアレだからさ」

 

 シズカは軽く笑った表情で、彼に提案してみた。

 すると、彼は「いいのか?」と聞いてきた。

 だから彼女は「いいよ」と言ってあげた。

 

「は? ……しょうがないわね。でも、貴方はシズカちゃんの『守護霊』なんだから! 見送りぐらい行きなさい」

 

「ええぇぇえええ!! 神崎さん、家で泊まるのぉぉ!?」

 

「やったァ!」

 

 ハルタのパパは残念そうに、逆にハルタの嬉しそうな声が、それぞれ響いた。

 

 家族の人たちは、色々な顔をしながらも、どこか嬉しそうにしていた。

 

 そして、シズカはリュウタに、自分の泊まるネカフェの名前を教え、玄関の扉を開けた。

 

 ※

 

 その後、リュウタはシズカを見送り、前世にいた妻と息子たちと過ごした。

 

 翌日の朝、彼が家を出ようとした時、ハルタは見送りに来てくれた。

 

「シズカさんの所まで見送るよ」

 

「ありがとうな」

 

 そして、リュウタ達は彼女が泊まっているであろうネカフェへと、向かって行った。

 

 ※

 

「ここか……」

 

 受付の人に、シズカの泊まっている場所をハルタに聞いてもらい、息子が部屋の鍵を受け取ると、リュウタたちは彼女の部屋の前に立った。

 

「開けますよ?」

 

 ハルタは扉をノックして、部屋の鍵を開けた。

 

 その瞬間、何故か俺は悪い予感がした。

 

 これを犯罪の予感とでも言うのだろうか、彼は恐る恐る部屋に入った。

 

 そして、その瞬間、リュウタの目は大きく見開いた。

 

「ッ!? シズカ!?」

 

 思っていた通り、彼の予感は的中していた。

 

 そこに、彼女はいなく、ただ部屋には何者かが争った様な形跡と、微量の血痕が残っていた。

 

 その瞬間、リュウタはシズカの母親が言っていた、闇金達のことを思い出した。

 

「嘘だろ……」

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